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豪華商船サービニア、暁光を望んだ落魄者編
18.素直なものは愛らしい
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急な人員削減により、ちょっとした人事異動が船内で巻き起こった。
……ってまあ、人員削減っていうか食堂の給仕係が八割ダウンしただけだし、人事異動も貴族専用の食堂が一時閉鎖になって無事だった給仕係が、貴族達に食事を運ぶ「客室係」へ一時鞍替えさせられただけなんだが……。
まあそれはともかくとして。
あまりにも急な異動だったので、てっきり貴族や上層部から色々言われるのではと思ったのだが、貴族達が「変な事が起こった食堂なんてもう使いたくない」と青ざめていたので、お客様第一の船としては異動も特に問題は怒らなかったらしい。
貴族達も、抗議などの類は全く起こさなかったようだ。まあ、そりゃあ、原因不明のパニックが起これば、食堂自体が危険なんじゃないかって思うしな……。
貴族達も給仕係も、あの時何が起こったか分かっていないみたいだし、そうなると食堂に原因を求めるのも無理はないだろう。
そもそも、ブラックの【幻術】は月の曜術師でないと把握出来ないのだ。
よほどデカい術なら、他属性の曜術と同じように“曜気の光”が発動して、他の人達にも見えただろうけど……今回はそうじゃ無かったみたいだしな。
そもそも、俺やブラックみたいに二つ以上の属性を持つ曜術師なんてそう見つからないものなのだ。そのうえ、月の曜術師と言っても幻覚の類の術を使える者はもっと少ない。だから、みんな「突然発狂した」とか「呪いでもかかったんじゃないか」なんて言って食堂を怖がっても仕方がない。が……なんか申し訳ないな……。
起こってしまった物は仕方ないし、もう俺も真実を言い出す気はないが、しかし色々迷惑を掛けたのは事実だし……ど、どうか倒れた人達を介抱するだけで許して。
いや倒れた人達は俺に介抱されても嫌だろうけど……ああもう難しい。
でもとにかく運搬だ。俺は自分のカルマを浄化するのだ。
給仕係の数人と一緒に倒れた人達を医務室に運んだ後、俺はとにかく彼らのためにテキパキ動いた。そりゃもう、船医さんの手伝いかってほどに。
額に水気を絞った冷たいタオルを乗せたり、気付け薬のリモナの実(レモンみたいな酸っぱい果実)を飲みやすく絞ったり味付けたり、気が付いた人の状態を見て安静にして居て貰うように説明したり……とにかく俺は良く働いたのだ。
そんな俺を、目が覚めた貴族や給仕係達は訝しげに見ていたが、俺だって能天気に看病してるワケじゃないのは分かって欲しいと思う。
まあそりゃ、誰が好き好んで敵を看病したりされたりしたいかって話だけど、でも俺は禍根を残すのがイヤなのだ。売れる恩は売っておきたいのだ。
今回は色々あったし俺には解決できない事だからひたすら耐えてたけど、本来の俺は基本的に他人に恨まれ続けるのはゴメンな人間なわけでしてね。
だから、今ちょっとでも恩を売っておいて、後々また給仕係を命じられた時に少しは風当たりが弱まるようにしておきたいんです。はい。
……こういうのをマッチポンプと言うんだが、今の俺はズルい男モードなので、何も言わないぞ。こうなったら保身に走るんだからな俺は。
閑話休題。
そんなワケで、一通り恩を売って俺を煙たがっていた奴らに恩を売ると、俺は他の生き残った給仕係達と一緒に再び「客室係」に復帰したのだった。
「ナルラトさん!」
人が少なくなった厨房に再び入って、皿を洗っているナルラトさんに声を掛ける。
すると、相手は少し驚いたように細い目を見開き、早足で近付いて来た。
「ツカサ、お前大丈夫とやっ! 食堂でおとろしか事ん起こったとやろ!」
「お、おとろ……? え、え、えと、お、お、俺は大丈夫ですうううう」
ガクガクと肩を揺らされて声を震わせながら答えると、ナルラトさんは自分がまたも方言口調になっていた事に気付き、顔を赤くしながら俺から手を離す。
興奮するとついつい地が出ちゃうみたいだが、ネズ耳も出ないか心配だ。
いや、ロクショウやペコリアやクロウの熊耳不足な俺としては、ネズ耳が恋しいんだが……でも獣人とバレるのはナルラトさんも困るみたいだしな。
つい関係ない事を考えつつナルラトさんを見上げると、相手は頬を掻きながら咳をゴホンとこぼして、再び俺を見た。
「あー……まー……なんだ。その……無事なら良か……いや、いい。だが、お前……ニオイからして医務室で働いて来たんだろう? そのまま客室に行くのか?」
「まあ俺元気だし……それに、なんというか働いてないと申し訳ないと言うかカルマが溜まって行きそうで怖いといいますか」
「なんば言いよっとか分からんが、お前もちょっと休憩しろよ。倒れちまうぞ」
いや、今すぐにでも働きたいんです……と言いたかったが、そう言うとナルラトさんから怒られそうだったので、俺は粛々と従って休憩室兼更衣室の椅子に座った。
と、またもやスープが俺の前に出される。
今度は薄紫の透明なスープだ。またもや謎な……と思って飲んでみると、ほんのりサツマイモのような甘さが口に広がった。ムラサキイモのスープ的なものかな。
見た目はともかく、ほのかな甘さと温かさが今の俺には嬉しい。
喜んでスープを啜っていると、ナルラトさんはやっと微笑んでくれた。
「ったく……食堂にいる時はどうなるかと不安だったが……やっと、いつもの笑顔になったな」
「え……」
「気が付いてなかったみたいだが、相当キツそうな顔してたんだぞ、お前は。笑顔も、いつものお前らしくなかったしな」
そんなに追い詰められた顔をしてたんだろうか、俺……恥ずかしいな……。
耐えているつもりだったのにそんな表情してたら、そりゃ俺を突きまわしたい人達には不快極まりないよな……当てつけてるみたいな感じにもなるし。
っていうか、丸出しになってるのがなんか情けない。お、男としていいのかこれは。
「俺、そんなにヤバい顔をしてたんスか……」
「ああいや、俺はお前のいつものツラ見てるからな……」
何故かちょっと照れるように頬を掻いて目を逸らすナルラトさん。
じゃあ、他の人は気付いてなかったって事だろうか。そうだといいな。そうでないと、俺また恥ずかしくて別の意味で死んじゃう。
「ナルラトさんだけが気付いてたってことですか?」
「う……ま……まぁ……うん……」
「……気にかけてくれて、ありがとうございます」
ホッとして、気に掛けてくれていたナルラトさんに素直にお礼を言うと、相手は感謝されるのに慣れていないのか、顔をユデダコみたいに真っ赤にして目をギョロギョロと泳がせ始めた。……メッチャ分かりやすい。ナルラトさん、細目なのとやぶ睨みな感じなせいでちょっと顔が怖いから、褒められ慣れてないんだろうか……。
まあでも面と向かってハッキリ感謝されるとむず痒いもんだよな。
思わぬ相手の可愛い部分にちょっとキュンとしてしまったが、男にキュンとするなと自分で自分にツッコミを入れて冷静を保ちつつ、俺はスープを飲みほした。
「の、飲んだか」
「はいっ。ハラも膨れましたんで、もう大丈夫です!」
「そ……そうか……」
少し小さな声になって言うナルラトさん。しかし、次に何か言おうと口を開いた。
だがその瞬間、厨房から誰かの怒鳴るような声が聞こえて声が掻き消える。
誰が入って来たのかと思ったら……それは、まさかの厨房支配人だった。
えっ、この人ダウンしてなかったの。
「ちゅ、厨房支配人!? 今までどこに!?」
思わず問いかけてしまった俺に、相手はちょっと顎を引いて答える。
「ど、どこにって……な、なんでもいいだろうがっ!! ともかく戻って来たならお前も早く客室係を手伝え! 本当に使えん奴だな!」
「はぁあ?」
「わーっ、ナルラトさん落ち着いて! わ、解りました。注文が来てるんですね?」
またメンチを切り始めたナルラトさんを慌てて宥めつつ、厨房支配人に問う。
すると相手は俺を忌々しげに見てメモを渡してきた。
「お前をよこせとご命令だ。今からその紙の注文通りに運んで来い」
「お、俺を……?」
誰だろうかと紙に書かれた部屋番号を見て、目が自然と開く。
そこに書かれていたのは、リメインの部屋とブラック達の部屋の番号だった。
ブラックはわかるけど……でも、リメインもだなんてちょっと驚いたな。気安い会話が出来るようになったとは言っても、俺はただの従業員の一人だ。船で一番いい部屋を使っている相手からすれば、俺も係の一人でしかないだろうと思ってたのにな。
でも、指名してくれると言うのは素直に嬉しい。
メモも、いつもの通りのアコール卿国産ワインに味の濃いおつまみだ。相変わらずの不健康な注文だけど、相手が変わりない事に少しホッとする。
「……いいかっ、しっかり相手を喜ばすんだぞ!! ……チッ、なんで黒髪のコイツを一々呼ぶんだ……ゲテモノ食いじゃねえのか……」
厨房支配人がブツブツ言っているが、まあいつもの通りなので放っておいて。
改めてブラック達の注文とリメインの注文を見て、俺はクスリと笑った。
「なんか……ホントあべこべだよなあ」
ブラック達は「がっつり肉を食べます」と言わんばかりの注文なのに、リメインはお酒が有れば良いやって感じだ。俺の世界なら逆でもおかしくないよなあコレ。
そう思うと、ヤケに元気なブラック達が微笑ましくなるし、リメインのいつものやる気が無い食事にも不思議と笑みがこぼれてくる。
……でも、あの人疲れてるだろうから……食べて貰えるかは分かんないけど、一応それっぽい食事を持って行ってやった方が良いよな。
まだ目の下の隈が取れてないんなら、疲れが蓄積したままってことだろうし……。
お節介かも知れないけど、まあダメモトでも持って行ってみよう。
「どうした、ツカサ」
「あ、あのさナルラトさん。頼みたい料理が有るんだけど……」
こういう料理って作れるかな。
そう説明すると、ナルラトさんは腕を組んで顎を撫でつつ少し考え込んでいたが――納得のいく答えが出たのか、すぐに俺をみてニッと笑った。
「ま、お前の味見次第だな。材料は俺が選んでやるよ」
「ありがとナルラトさん! 俺も手伝うよ!」
お礼を言うと、ナルラトさんは再び照れて視線を上に向かせながら頬を赤らめる。分かりやす過ぎるその様子に和んでしまったが、言うとたぶん怒るだろうから黙っておこう。……俺を分かりやすいって言うけど、ナルラトさんも相当だよな。
そんな相手を見て自然と浮かぶ笑みを堪えつつ、俺は厨房に入ったのだった。
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