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豪華商船サービニア、暁光を望んだ落魄者編
29.逃げるつもりも毛頭ない*
しおりを挟む「クソッ、間に合わなかった……!!」
「これはどういう事だ、ブラック」
真っ暗な中でブラックとクロウの声が聞こえる。
まだ頭がぼんやりしていて状況が把握出来なかったが、真っ暗な中でやけに自分の近くで声が聞こえているので、おそらく……三人とも、閉じ込められたのだろう。
「アイツが金属を術で操って閉じ込めやがったんだ。船の全ての金属を掌握しているとすれば、このくらいワケないさ。そんなことより……ぐずぐずしていると、空気が無くなって三人とも死ぬぞこれは」
ブラックの思わぬ言葉に、すぐ近くで驚いたような布擦れの音がする。
この世界に酸素……があるのかどうかは知らないが、金属の中に密閉された状態では、どのみち曜気を体に取り込めなくてこの世界の人は死ぬのだろう。
無論、体質が変化している俺とてそれは例外ではないはずだ。
「なにっ、喋っている暇はないのではないか」
「だから黙れってんだよクソ熊殺すぞ!! ただでさえ狭いってのに、役に立たないデカい図体で場所をとりやがって……」
「ブラックの方がたくさん喋っているのでは」
「だあうるさいっ!! ともかく、ツカサ君もこの状態だし早くここから出ないと……」
暗闇の中で焦る声が聞こえたと思ったら、体が浮いて温かい物に包まれる。
たぶん、これはブラックに抱え上げられたんだろう。体の側面にブラックの服の感触がある。さっきは金属に接触していて冷たかったけど、今は尻に固い足を感じた。
でも、今の俺は曜気をブラックに大盤振る舞いしたせいで、体の具合が恥ずかしい方向でおかしくなっていて。
ブラックの体温と体の厚みを感じて、尻や足にブラックの太くてがっちりした大人の足の感触が伝わって来ると、どうしても体が動いて耐え切れず……乙女みたいに、両足を閉じるしかなかった。
は、はやくこの感覚を落ち着かせないと……。
だけど深呼吸なんてしたら、間違いなく二人に負担が掛かってしまう。なんとか息を殺して出来るだけ呼吸をしないようにして落ち着こうとしていると、ポッと小さな炎の明かりが灯った。ブラックの【フレイム】だろうか。小さな火の玉が宙に浮いていた。
「チッ……風が通る隙間も無いのか……。完全に密閉された球体の中だな。……炎の曜気は自前ので何とかなるけど、大地の気は望めない。僕がこの球体の曜気を掌握出来たとしても、その間に窒息しかねん」
「窒息……短い時間なら耐えられそうだが、その時オレ達が弱っていたら、ツカサを【皓珠のアルスノートリア】に盗られかねんぞ。他に方法は無いのか」
球体は狭いらしく、俺を挟んでデカい図体のブラックとクロウが、膝を突き合わせて睨み合っている。お互い相手に触れたくないのだろうが、この空間ではどこにも逃げようがなくこうしているしかないのだろう。
しかしそんなことより、ロクがいない事の方が重要だ。
ここに居ないってことは外にいるのだろうが、リメインに何かされてないだろうか。音が全然聞こえないから、向こう側で何が起こっているのか解らない。俺達に構わず、どこかへ逃げて隠れてくれていたらいいんだけど……。
とにかく心配だ。早く、早く落ち着いてここから出なくちゃ。
俺は深呼吸をしたがる体をなんとか抑えながら、肩をひくつかせて体を縮める。
どのみち、今の俺は足手まといだ。なんとかこの衝動を散らさなければ。
そう思っていると、ふと視線を感じて上を向いた。するとそこには、俺の方をジッと見つめているブラックとクロウの姿が有って。
……な、なに。なんですかその目。
明かりがボンヤリしているせいか、真剣だけど何か含んだような陰が濃い二つの顔に目をキョロキョロと動かしていると……ブラックが、ポツリと呟いた。
「……掌握するにしても、さらに曜気が必要になるかも知れない。相手は正当な【金の属性の支配者】だ。介入しても力で押し負ける可能性がある。だけど、この球体を解くくらいなら……ツカサ君から曜気を引き出す事で、何とかなるかも知れん」
「その間、オレはどうする。解除できる時間が分からんと息も止められんぞ」
「……どっちにしろ、土の曜気も大地の気も無いここじゃ、お前が真っ先に死ぬな」
それはダメだろ!?
何を言うんだとブラックを見上げると、相手は何故か非常に苦々しい顔をして……俺が思っても見ない、とんでもないことを言い出した。
「今回だけだからな。二度目は無いぞ」
なんの話だろうかとクロウを見ると、俺とは違い「全て心得た」と言わんばかりに顔を引き締めて大きく頷いている。
二人だけで何を理解しあったというのか。
困惑しながらブラックとクロウの顔を見ていると……ブラックは自分のすぐ横の壁に手を当てて、白い光を手に纏わせ始めた。これが「掌握」という行為なのだろう。それを始めたと同時に、俺の体も白く光り始めた。
ブラックが、俺の体から曜気を吸い取っているのだ。
「っ……く……!」
また、体が疼く。白い光がブラックの方へと流れて、球体にあてたブラックの手の光が強くなるたびに熱が上がって苦しくなってきた。
体を丸めて耐えようとするが――そんな俺をの足を、クロウが無理矢理伸ばした。
「くっ、クロウ!? や……っ、い、いやだっダメ……っ!」
「すまんツカサ、空気が無くなっても大丈夫なようにオレに力くれ……!」
大きな手でぐっと太腿を掴まれて体が跳ねる。だがブラックは俺を自分の体に固定するかのように片腕で抱え込み、俺は上半身を動かせなくなってしまった。
その間に、クロウがズボンの留め具を外して下着を無理矢理ずらしてくる。
「ツカサ……っ!」
「いっ、いやだっ、それだめぇっ!!」
ブラックの舌打ちが聞こえる。
だがもう俺は顔を上げる事も出来ず……クロウの指によって、半勃ちしているモノを外に抜き出されてしまった。
ブラックに曜気を引き摺り出されているせいで、触られているところ全部が熱くて、我慢しようとしても体がビクビクと反応してしまう。
なにより、こんな状況なのに情けなく半勃起した自分のモノを見られているんだと思ったら、恥ずかしさで涙が出てきそうだった。
なのに、クロウは興奮したように橙色の瞳をギラギラとさせて、俺のモノを、じぃっと凝視して荒い息を漏らしていて。
「ハァッ……はっ……ひ、久しぶりのツカサのおちんちん……っ」
「あっ、あぁあ……! つ、抓むのも、だめっ、だってぇ……っ!」
「ふっ、フゥウ……ッ、グゥウッ!」
「ぅああぁっ!!」
大きな声を出したら窒息するのが早まるのに、クロウに飛び掛かられて、口の中に含まれてしまうと我慢出来ずに叫んでしまう。
だが俺のことなど構わず、クロウは準備すら出来ていない俺のモノに舌をぐるりと絡ませると、吸い付きながらじゅるじゅると扱き立てて来る。
「ふぐっ、ん゛ん゛ん……っ!」
「っあぁああ! ひあぁっ、あ゛ッ、ぅ、やっあぁあっ、ああああ!」
太腿に指が食い込むぐらいに押さえつけられて、上半身もブラックの腕に固定されてぎゅうぎゅう体に押し付けられていて、それだけでも辛いのに、こ……こんなっ……こんなに激しくされたら、もう……っ――――
「――――――ッ!!」
自分でも驚くほど速く、快楽が体中を駆け抜けて頭が真っ白になる。
こん、なの、知らない。こんな早く、頭がバカになるのなんて、こんなの。
どうして。なんで。
何が起こったのか解らないまま、俺は……気が遠くなって……――
「――――――よし、掌握した!! クソ熊、下の方を一時的に開けるから、そこからこじ開けて球体を破壊しろ!」
「おう!!」
――――あれ。ブラックとクロウの声がする。
そのことに気が付いた瞬間、下から体が浮き上がるような風が入って来て、俺は体が楽になっている事に気が付いた。が、それを確認する前に足が宙ぶらりんになる。
「ぅええ!?」
「あっ。ツカサ君、気が付いた!? 球体から出るよ!」
「んんん!?」
今が一体どうなっているのか分からず混乱するが、髪の毛が一気に逆立つような風に巻き上げられて内臓が一気に浮き上がる感覚に呻く。
だが俺の体はそのまま落ちることなく、しっかりとブラックに抱えられていた。
薄暗い空間だったはずなのに、気が付いたら――――俺達は、上も下も青い空間に放り出されていた。空と、海が見える。強い風が吹いて、思いきり俺とブラックの体を打ち叩いていた。……だがおかしい、俺は機関部にいたはずなのに――
「海に落ちる! 曜術で大地を作るぞ!」
「う、うみっ、えっ、船は!?」
「向こう側! どうも僕達は危険だからって放り投げられたみたいだねえ!」
どういうことだと慌てて周囲を見渡すと、海と空だけが広がっていると思った地平に、一か所だけぽつんと陸地のような物が見えた。
いや、あれは島だ。そして――――俺達が乗っていた【サービニア号】がある。
だけどその形は豆粒みたいで、俺達が乗っていた球体も今まさに落下しようとしていた。まさか、こんな遠距離まで球体を放り投げられてたっていうのか。
……っていうか……。
「ぶ、ブラックだめ! あの球体回収して! 船が動けなくなっちゃうぅ!!」
「……アッ、そういえばそうだったね……」
「あっ、じゃない! あっ、じゃあああ!」
先に落下していたクロウが、土の曜気の象徴である橙色の勇ましい光を放ち、一足先に俺達の落下地点に巨大な大地を作った。
だが、その大地は運悪く金属の球体はその大地に引っかかりもしないようだ。
これじゃあサービニア号の金属が一部無くなってしまう。それどころか、海水に少しでも浸かったら航行不能だ。技師の人達があんなに大事にしていた装置が、こんな事で動かなくなってしまったら俺は顔向けが出来ない。
どうしようと焦った俺に、ブラックが叫んだ。
「ツカサ君【グロウ・レイン】でアレ掴みとって!」
「無茶ぶりすんなよなもぉおおおお!」
だけど、今はそれしかない。
さっき……その……と、とにかくスッキリしたから、頭はスッキリしてる。体は何故か凄くだるい感じがしたけど、今はとにかくやるしかない。
俺はありったけの力で木の曜気を緑色の光にして掌に纏わせると、俺達の上から落下してくる球体に向けて叫んだ。
「蔓の籠で包み、何物も遮るゆりかごになれ!! 【グロウ・レイン】――!!」
――――瞬間。
綺麗な緑光に光る曜気を集めた俺の手から、蔓が飛び出す。
だが、それは普通の蔓ではない。
俺の手から出現したとは思えないほどの巨大な蔓が伸び、途中から花が開くように何十本もの蔓に分かれて球体に襲いかかった。
「ッ、ぐ……!!」
「ツカサ君、歯を食いしばって! 降りるよ!」
ブラックが脚力強化の付加術【ラピッド】を唱える。
地上が近い。だが俺も球体を包み込む蔓の重い衝撃に腕が痛み、それどころでは無かった。ただ、ブラックに言われた通りに歯をくいしばって耐える。
そして。
「――――ッ……!」
どん、と、体を揺さぶるような強い衝撃に内臓まで揺れたと同時。
俺達の目の前で、巨大な蔓に何重も覆われた球体が、海を打ち高く伸びる飛沫を上げて着水した。
「ッ、は……ハァッ、は……ははっ、な……なんとか……」
なんとか、濡れずに済んだようだ。
だけど問題はそれだけでは終わらない。外で何が起こっていたのか分からないが、俺達と共に「船の一部」が排出されたということは……リメインはあの船を壊すこともいとわないということだろう。そして、彼は未だに船に残っているはずだ。
それに、俺達をどうやって外に排出したのかわからない。
ロクショウの事も心配だし、ナルラトさんや従業員の人達やリーブ君達、それに俺らを助けてくれると約束した気の良い冒険者達や、乗客の安否も気になる。
ギーノスコーが持っていた疑惑が真実になった今、彼らの命も危ない。
それに……島の人達にだって、なにかあったら。
「ツカサ君、大丈夫?」
俺を抱えたまま平然としているブラックに問われて、俺は肩を動かしつつ頷く。
今は、疲れたなんて言っている暇はない。
リメインが何をしているのかも分からないんだ、早く船に戻らないと。
戻って…………リメインを、止めなければ。
「は、早く……戻ろう……っ。蔓は、このまま伸ばして島に縛り付けるから……」
「ム……わかった、島まで飛び地を作る。ツカサはオレに乗れ。俺が熊の姿で、蔓を咥えて持って行く。その方が早く球体を動かせるだろう」
そう言って、クロウは咆哮を上げると、白い霧と共にその姿を巨大な熊へ変える。
久しぶりに見た、クロウの獣の時の姿だ。
けれど今はその事に喜んでいる場合ではない。俺はブラックに手伝って貰いクロウの背中に乗ると、掌から伸びる太い蔓をクロウに咥えて貰った。
「は、早く……帰らなきゃ……」
俺の焦る声を、クロウの雄々しい咆哮が掻き消す。
その号令のような鳴声に、次々に小島が海から浮かび上がってきたが、俺はその先にある島を見据えて口を噤む事しか出来なかった。
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