異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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聖獣王国ベーマス、暗雲を食む巨獣の王編

20.知らぬは己ばかりなり

 
 
 どんな国だろうが、平等に朝はやってくる。

 もちろん、俺達が滞在している武神獣王国アルクーダも例外ではなく、冷えた空気が厳しいものの温かい陽光がさんさんと差し込んで来ていた。
 ……うん、普通の朝だな。

 朝起きたら寝ていた部屋がちょっと乱れていたり、いつも以上にブラックが俺のケツを揉んできたりしたが、それ以外はなんら特筆すべき物も無い。
 朝食だって、昨日の残りを守備隊のみんなと和気あいあいで食べて、普通の朝を迎えるつもり……だったんだが。

「…………んん……?」

 なんでこう……みんな、今日はビクビクして黙りこくっているんだろうか。
 昨日は食堂に料理を運ぶ時も「ツカサくんって言うの~? 仲良くしようぜ~」とか「人族ってホントにリョウリするんだな~」とか、結構好意的に話し掛けてくれていたのに、何故今日は青ざめた顔をしながら無言で集合して来ているのか。

 挨拶は返してくれるけど、何故かすぐビクッてなって遠ざかるんだよなぁ……。
 …………目線的に、ブラックに怯えているような気もするけど……でも、昨日は俺と一緒に寝てたんだから何か出来るはずもないよな。何でなんだろう。

 もしかして、昨日に限ってすげーイビキとか掻いてたのかな。
 ブラックも酒が入ってたし疲れてたんだもんな……イビキって疲れた時に出やすいらしいし。うーん……やっぱもうちょっと労わった方が良かったんだろうか。

「ブラック、もしかしてまだ疲れてる……?」

 隣でニコニコしながらアフリカ風バナナ……いや、マルムーサスープを啜るオッサンを見上げると、ブラックは菫色の目を笑ませて小首を傾げる。

「ん、疲れ? えへへぇ、そんなのツカサ君とずぅ~っと一緒に居たら吹っ飛んじゃうよぉ! 今日の朝もい~っぱいイチャイチャしたし、元気いっぱいだよっ」
「ぎゃあッ、やめろばか抱き着くな!」

 めちゃくちゃ人がいるのに何を抱き付こうとしてきやがるんだお前はっ。
 やめろ離せと一生懸命腕から逃れようとするが、毎度おなじみの腕力に敵うはずもない。片腕だけで引き寄せられると言うのに、なんでこう逃れられないんだ。

 しかし人前でイチャつくのは、どうしてもその、が、我慢ならないというか……!

 つーかこんなの守備隊の兵士さん達だって見たくないだろ、綺麗でもないムサい男二人のイチャイチャだぞ、絶対見たくないに決まってる。
 本当にもう勘弁してくれ、と、ふと兵士さん達の方を見やると。

「…………ううん……?」

 何故か彼らは、みんな同じように耳を伏せたり後ろ向きにしたりして、青ざめながらガクブルしていた。しかも目線はブラックにロックオンだ。
 ……えーと……これはどういうことだ。

 ブラックがあまりにも変態おじさんなので、みんなドンビキしてしまったんだろうか。
 その気持ちは痛いほど良く分かるが、獣人ってあんまりケモミミを動かしちゃダメなんだよな……耳を動かすほどドンビキするもんだろうか。

 そりゃまあマナーが悪いし変態だとは思うけど、ブラックはヒゲを整えれば文句なしの美形だし、背も高いしガタイもいいし、見た目に変なとこなんてないのにな。
 やっぱ昨日の夜、デカすぎるイビキを掻いちゃったのか……。

「ツカサ君かわいいねえ」
「人前でそういうコト言うなよぉ……頼むから真面目にしてくれぇ……」
「ふふっ……まあまあ良いじゃない。これも立派な“匂いづけ”の一貫なんだからさ。むしろ、こうして見せつけることでツカサ君がより安全になるんだよ?」
「だっ、だったら今朝はずっと一緒だった……から……その……」

 ああああ何で俺は人前でこんな事を言ってんだよおおおおお!
 朝までずっと一緒に居ましたとかそんな情報いらねーわ聞いてる方は絶対に誤解するしウンザリするわうわー! 俺の馬鹿野郎ただでさえみんなバカップルみたいな事してる俺らに青ざめてるってのにぃいいい!

「坊ちゃ……ゴホン、ツカサさん落ち着くザンス! みんなが青ざめているのは他の事だから気にせず乳繰り合ってて構わないんザンスよ!」
「シーバ、そういうとツカサは更に赤面するからやめてやれ」
「あら~……じゃあまあ、えーと……食事は終わったザンス! ホレホレみんな仕事に行くザンスよ! チンタラするんじゃない!」

 ううう……ありがとうクロウ、ありがとうシーバさん……。
 俺一人じゃブラックに対して何も出来なかったよ。みんなを余計にウンザリさせる事になっていたよ絶対に。でもみんなを追いたてたようで申し訳ない……。

 ブラックに引き寄せられた情けない格好のままで猛省とは滑稽が過ぎるが、しかし腕から逃げられないんだから仕方ない。
 本当にバカップルは周囲に迷惑をかけるな……と自分の不甲斐なさを申し訳なく思いつつスープをモシャついていると――人が入って来た。

 あれっ、黒い馬耳で白い肌のクルサティさんじゃないか。
 遅れて起きて来たのかな、なんて暢気な事を思ってしまったが、相手の表情を見るとそうではないとすぐに分かった。というのも、何故か叱られた犬みたいな顔をしてて元気がないからだ。

 でも、遅れて起きて来たんじゃないのなら、どうしてそんな顔をしているのか。
 不思議に思っていると、クルサティさんは俺達のテーブルにやって来て。何をするのかと思ったら、唐突に頭を下げたではないか。

 どうしたのかと混乱している俺を余所に、クルサティさんは話し始めた。

「昨晩は、本当に申し訳ありませんでした……! まさか既に“例の方々”から命令が下されているとは思いもせず、放置をしてしまい……っ」

 えっ、なに。どういうこと。
 クルサティさんは何かを見逃してたってことなのか?

 話が見えなくて混乱してしまうが、ブラック達は何かを理解しているみたいで、俺の混乱を余所にどんどん話を進めて行く。

「どうせそんな事だろうと思った。でもザツ過ぎんだよ。その“例の方々”ってのは本当に称号に見合う奴らなのか?」
「ムゥ……。そう言われると少々納得いかん所があるが、この場合は人族と言うよく知らん相手を俗説通りだと思って油断したのだと思うぞ」

 ブラックの貶すような言葉に、クロウが少々不満げな声を漏らす。
 そんな二人の間に、雰囲気を中和するかのようにシーバさんが割って入った。

「御二方の言いたい事はよーく分かります。ですが今は、結論の出ない推測をしても仕方がないザンス。……とにかく、確かな事は……歓迎されていないってことだけ。恐らく今回の事も失敗して構わないからやらせたんだと思いますよ」

 旧式ス○オボイスながらも、真剣に話すシーバさんの姿を見ていると最早不思議と声まで格好良いように思えてくる。いや、そもそもあの声は元は普通に格好良くて、俺がホンワカパッパなBGMと一緒に覚えていたから、変に思えて頂けなのではないのか? 実は普通に格好良い声だったのでは……ってそんな場合ではない。

 全然話が見えないけど、とにかく何か仕掛けられてたってことだよな。

 で、それを知らない内にブラkックたちが退けてたらしいけど……そんな場面なんて有ったかな……俺が夕飯を作っている間になにかあったんだろうか?

 ブラックもクロウも特に何も言わなかったから、取るに足らないちょっかいってレベルだったのかな……つーか誰がそんな事したのかも分からんのだが。

 ああでもオッサン二人は理解してるみたいで、話がどんどん進んでいく。

「で、どうすんの。僕達はこのまま牽制されつつ待てばいいの? それも限界ってモンが有るんだけどね」

 ブラックの声が、低く沈み始める。これは不機嫌になっている合図だ。
 ちょっかいを掛けられて、相当鬱陶しかったらしい。もしや、その“ちょっかい”とやらに対抗したせいで兵士さん達に怖がられているのかな。
 この状況だとそうとしか思えないよな……うーん、何をされたんだか気になる。

 でも今更問いかける事も出来ず、俺はブラックの言葉に弱り顔になるクルサティさんを見ているしかなかった。だ、だから、一体何が起こって……いや、もういいや。話の流れは後で教えて貰うことにして、俺はこのまま黙って静観していよう……。

 諦めた俺の前で、クルサティさんは再び馬耳をピンと立てて顔を引き締めた。

「そこはご安心ください。昨晩の事を重く見て、私が朝一番で使いに行って参りました。このままでは、副隊長殿が恐れている事態も有り得ましたから」
「うむ……それで、陛下はなんと仰られた?」

 兵士に対しては時々普通の口調で話すシーバさんに、クルサティさんは真面目な顔をして頷く。

「はい、予定を早めて今日謁見をする、と」
「えっ……きょ、今日ですか!?」

 静観すると決めていたのに思いっきり声を出してしまったが、クルサティさんは俺の声に肯定の意味で頭を動かしながら続ける。

「ええ、今日です。王宮内には例のお二人がいらっしゃいますが、こうなってしまっては待っていても王宮に上がる機会が遠のくだけです。ならば、可能な限り押し留めて【例のもの】を素早く渡し帰還する方がいいと」
「……まあ、そうしてくれるんなら僕らも助かるけど」
「…………謁見するに当たって、なにか注意する事は?」

 気楽そうなブラックに続くクロウの声は、何故か少し沈んでいる。
 何を緊張しているのだろうかと不思議だったが、やっぱりクロウも自分の種族の王に謁見するのは緊張するものなのかもしれない。クロウだって、シーバさんみたいな獣人達の上に居る立場だったのに……やっぱ王様って格が違うんだろうな。

 でも、クロウが緊張する相手ってことは、凄く強て偉いって事だよな。
 そんな人に直接会うなんて、大丈夫だろうか。

 俺も注意事項をしっかり聞いておいた方がいいよな。
 クルサティさんを見ると、相手は少し首を竦めた。

「普通の格好で、ということ意外は何も。……これは個人的な意見ですが、もしもの時のために、窓からでも逃げられる用意はしておいた方が良いと思います」
「謁見の途中で乱入して来るほどのバカなのか? そのナントカ殿下どもは」
「……武を尊ぶがゆえに、全てを戦いで決めるのはよくあることなので……」

 ブラックがとても失礼な事を言ったと言うのに、クルサティさんは否定しない。
 ということは、普通に俺達を疎ましく思っているその二人の殿下が、謁見中に乱入して来る可能性は充分にあるってことだよな……。

 そんな状態なのに、謁見して本当に大丈夫なんだろうか。
 でもこのままだと何か面倒な事になるみたいだし、どのみち行くしかないよな。

「あの、クルサティさん。地下通路から王宮に行くんですよね?」
「そうです。その通路の一つは……この詰め所にあります。今から準備してきますので、少々お待ちください」

 えっ。こ、この詰め所に通路が有ったの!?
 てっきり勘付かれない場所に作られているもんだと思ってたけど、まさかこんな近くに存在していたとは……ここって兵士が沢山いるのに、大丈夫なのかなぁ。
 でも、詰め所の方が警備しやすいのかもしれないし、隠し通路の事を知っている人が少ないならむしろこういう場所の方がいいのかもな。

 準備をして来ると言って食堂から出て行ったクルサティさんを待ちつつ、そんなことをぼんやりと思っていると、俺の肩を抱いているブラックが溜息を吐いた。

「はぁー……やっと折り返し地点なのはいいけど……ロクなことにならなそうだなぁ」
「キュー?」

 ブラックの言葉に、自分の名前が呼ばれたと思ったロクが懐から出てくる。
 そんな可愛いロクを見て、ブラックは微妙な顔で笑いながらロクを指で撫でた。

「ロクショウ君ぐらいの可愛さなら、なんだって面倒じゃないんだけどねえ」
「キュ~」

 照れるロクショウが可愛すぎる……!
 ついつい俺も和んでしまったが、これからは気を引き締めて行かないとな。

 さて、鬼が出るか蛇が出るか……とにかく、ついに王宮に突入だ。
 殿下二人の事も気になるけど、まずは武神獣王と呼ばれる王様にビビらないように気合を入れて挑まないとな!








 
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