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飽食王宮ペリディェーザ、愚かな獣と王の試練編
9.アイスと象と好事魔と
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服を元の冒険者服に着替えて一安心し、それから。
アンノーネさんに「調理場を貸してください」と頼むと、なにやら怪訝な顔をされたが意外とすんなり案内して貰う事が出来た。
だけど調理場は一般的な場所じゃなく、何故かハーレムへと通されて、こじんまりとした所で。どういうことかと俺は目を瞬かせるばかりだった。
……まあ、こじんまりとは言え、俺の家の台所より二倍くらい広いんだけども。
この世界でも良く見かける、ちょっとしたお金持ちの家の広い厨房っぽいな。
王宮と言うからにはでっかい調理場が有ると思ったんだが、どうやらそこは普通の人が常に働いているため、部外者の俺は入れなかったらしい。
「ハレムの厨房であれば、限られたしか使えません。それに、ここなら他の賄い方に迷惑をかけることも無いでしょう。私が見張っていてもね」
「…………」
なるほど、俺を見張るためにわざわざハレムの門を開いて連れて来たんですね。
でも、王の家族を守るための場所なのに、そんな理由で部外者をホイホイ連れて来ても良いんですかそれ。俺の場合毒とかそう言う心配しかないって事?
つまり、俺は簡単に押さえつけられる程度の存在だとアンノーネさんに……いや、悲しむな。悲しむんじゃない俺。獣人は力が強いんだ。
そもそも普通の人間は敵わないんだ。そういうことにしておこう。
「それで……何を作るんですか?」
「あっ、えーと……アイスクリームです」
「あ……あい……すくりむ? なんですかそれは……」
怪訝そうな顔をするアンノーネさんに、俺はどう説明するか……というか、俺の術を見せるかどうか迷ったけど、ここで隠していても怪しまれると思い正直に打ち明ける事にした。まずこっちに敵意が無い事を知って貰わないとな。
それに……俺が氷を出せる【リオート】って口伝曜術(作り出した人しか使えない、オリジナル魔法みたいなモノ)は、どうも普通の人じゃ出来ないみたいだし……まあそこらへんは大丈夫だろう。
……フフ。それにしても、俺にしか出来ない氷の曜術って、か、カッコイイよな!
なんかこう、俺ってばやっぱりチートな感じがして……!
「なにをフンフンしてるか知りませんが、早く教えて下さい。そのスグリナントカは危険な物ではないでしょうね」
「スグリじゃなくてアイスクリームです! アイスが氷でクリームは……えーと……牛の乳なんかを加工して作る食べ物というか……」
「メスの母乳を!? 人族は頭がおかしいんですか!?」
「アンタらが血を啜るのと何が違うんスか!!」
そりゃ考えてみれば他の動物のおっぱいを常飲してるって変態みたいだけど、それだって結局動物が相手の血や肉を食べるのと変わんないじゃんか。
なんでオッパイになったら途端に変態になるんだよ!
いや、まあ、ハッキリ言われると変だとは思うけど栄養あるから仕方ないし!
これも異文化ってヤツでしょうがと言うと、アンノーネさんは微妙そうな顔をしながらデカい象耳をぱたんと動かした。
「まあ……確かに、そう言われるとそうですが……一応確認しておきますけど、それは獣人の乳ではないですよね?」
「人族も同族の乳は使いませんよ!? いや好きで吸う人もいるでしょうけども」
「ああ、そういうのは夫婦ならよくある事ですね。人族のオスもそうでしたか」
あっ、やだっ、聞きたくない事を聞いてしまった。
よくあるじゃねーよそっちの方が変態だよ。なに大人がおっぱい啜ってんだ。
「と、ともかく、モンスターのモノなので! 素材や食材扱いはよくあるでしょう!?」
「そう言われるとそうですね。けれど、こちらでは乳のような物が採れるモンスターは見つかっていませんからね……そうか、そういうのも有るんですね」
「因みに……氷は分かります?」
「人族に関する文献の読破は文官としての当たり前の教養ですので、話だけは」
ホッ……そっちは変な方向に話が転がらなくて良かった。
俺は咳払いをすると、改めてアイスクリームの作り方を説明した。
とはいえ、特別凝った作り方ではない。俺の世界のレシピと同じ、生クリームと無塩バターとバロ乳と玉子、それに蜂蜜などの甘味を使った単純なものだ。
バニラエッセンスが無いのが悔やまれるが、今回は仕方がない。
弱火で溶かした無塩バターに、その溶けたものを少し加え「馴染ませた」バロ乳を入れて混ぜる。沸騰させず湯気が出たソレを丹念に混ぜ続けたら、生クリームって奴の完成だ。それを使って、アイスクリームを作る。
クリームさえ作ればあとは混ぜて冷やすだけ。簡単なものである。
……とはいえ、ミキサーがないこの世界じゃかき混ぜるのに苦労するし、前にこのアイスを作った時も、頼りになる【家事妖精】のアイツにやってもらったしな……。
最近は忙しそうだし、ここに召喚したらややこしい事になるので呼べないので、今回は俺が独力でやるしかない。
一通り説明を聞いたアンノーネさんは、不思議そうに片眉を寄せると首を傾げた。
「……人族は本当に不可解な存在ですね。そんな苦労をして食事するんですか?
激しく非効率的です」
「うーん……でも、特別に美味しい物を食べる方が嬉しいし力も湧きません? 果物だけお肉だけってのも味気ないと思いますが……」
「それは貴方がた人族が、本当に美味い肉や果物を食べた事が無いからでしょう。素材が既に美味であるのなら、それを越える必要などないはずです。そもそも、料理などはメスの中でも変わり者がやる部類です。小細工でオスの食事を遅らせるなど、メスの風上にも置けません。肉を美味く焼くメスより尊いメスはいませんよ」
おおう……なんという種族ギャップ……。
ベーマスの獣人は、基本的に戦闘種族だもんな。それに、モンスターと人族の力を併せ持っているから味覚や身体機能はモンスターに近くて、獣人だろうが人族だろうが生肉や血も美味しく感じるみたいだし……そりゃ、料理しなくてもってなるか。
戦う方が大事だから、メシには無頓着ってのもあるみたいだし。
だけど、それこそ種族ギャップなんだから「自分達の食べ方こそ至高」みたいな上から目線はやめてほしいよな。
別に好きじゃなくて良いけど、こっちがやることくらい放っておいてくれよ。
アンタらには迷惑かけてないワケだし……まあ、いまのところは。
ともかく、俺達は俺達で美味いと思った物を喰うからいいんだよっ。
ナルラトさんだって、そう思ったから料理人をやってたんだろうし……って、そういやあの人オスだよな。この場合、オスの料理人ってどういう立場なんだろう。
アンノーネさんの獣人至上主義には少しムカッとしたけど、恐る恐る聞いてみる。
「あのー……だったら、オスの料理人は?」
問いかけると、相手はジロリと俺を見て眼鏡を直しながら答える。
「そんな物好きいませんよ。……居たとしても、この【ペリディェーザ】の賄い方くらいなものですかね。……この王宮では、賄い方もそれを取り仕切る賄い番も全員オスが行うと決まっていますから」
「何故オスなんです?」
「……王族に侍るためのメスは、出来るだけ仕事のない物が好ましいですから」
そう言ってハァ……と深い溜息を吐くアンノーネさん。
えーとそれってつまり……王族はすぐメスに手を出しちゃうから、出来るだけ仕事はオスに割り振ってるってこと……かな?
…………そういえば、ドービエル爺ちゃんはメス……ていうか女好きって言ってたような……。まさか、そのせいでオスが料理人までしなきゃいけなくなったのか。
色々察して見上げると、アンノーネさんは老けた顔をして肩を竦めた。
ご、ご苦労様です。
「あの……じゃあ、アイスクリーム作りますね」
話しているとなんだかドツボにハマりそうだったので、ともかくアイスを作ろう。
アンノーネさんにかまどの火を弱火に調節して貰い、今回はバロ乳に無塩バターの代わりの果実……あの【サフォヤグ】という果実を使う。マジでバターなんじゃないのかと思って試してみたが、案の定無塩バターの代わりを果たしてくれた。
……この世界って本当にわけわかんない植物生えてるよな……。
便利だから何も言うまいが……。
ともかく、手早く生クリームを作って今度は本命に取り掛かる。
そこで取り出したのが……この丸バナナことマルムーサだ。
「また果物を使うんですか。乳に果物なんて合うんですか?」
横から口を出してくるアンノーネさんに、俺はフフンと得意げに答えてやる。
「そこはこの甘味……蜂蜜の出番ですよ! 今回はマルムーサ自体が甘いからそれほど使いませんけど、乳臭さも卵の味や甘さと混ざれば気にならなくなるんです」
まあ慣れは必要かもしれませんが、と弱気な一言を置いて、俺はアイスクリームの素体を作る。立ってるものは親でも使えというので、アンノーネさんにはマルムーサと生クリームと蜂蜜を入れたものをひたすら潰す作業をして貰うことにした。
「俺は卵白を泡立ててから、砂糖と卵黄を混ぜたのと……あっ、いいっすね。混ぜて下さってありがとうございます。そんで、これを加えて混ぜる……」
「……そんなモンスターの汁みたいな物が本当に美味しいんですか?」
「まあ見てて下さいよ」
ホントはこのまま冷やしたり、もいっかい混ぜて冷蔵庫に……なんてことをしなきゃいけないんだけど、ここは俺のチートを使わせて貰う。
アンノーネさんに全てを混ぜたものをかき混ぜて貰いながら――――俺は、急速にアイスが冷えて出来上がる光景を思い浮かべながら詠唱した。
「我が手によりその形を望むものに変えよ――【リオート】……!」
最早手慣れたと言っても良い、イメージの反復と詠唱。
俺が掌を向けた器の中の材料は急激に冷やされていき……ついに、市販のアイスのようにしっかりと固まって来た。
ここまでくれば、もう完成だろう。
淡い黄色が柔らかそうな感じを覚えるマルムーサのアイスは、蜂蜜の色も相まって、なんだか和風な感じもしなくもない。
「これは……! 人族は、氷を出せるというのか……」
「まあまあ……とりあえず、味見してみましょう」
しっかりと固まった俺お手製のアイスクリームは、前回と違って……なんだか、固いのに滑らかだ。どういう味だろうか、と、アンノーネさんと一緒に一口食べてみると。
「……!」
「んんっ、ウマい! バナ……いや、マルムーサの甘さと蜂蜜のコクがなんか大人な感じ……! 砂糖のアイスだともっと甘い感じだったのかなー」
でも、ブラックはあんまり分かりやすい甘さとか嫌いだし……自然な甘さって感じのコッチの方が好きかな。クロウは蜂蜜大好きだしたぶん大丈夫だよな。
ロクだってきっと喜んでくれるぞこれは~!
自分で思っていたより結構美味く出来たので、素直に嬉しい。
器に盛ったら、さっそく【リオート・リング】に入れて持って行こう。そう思い顔を上げると、何故か二口目をすくっているアンノーネさんの姿が。
……あ、あの……それ、俺のツレ達のものなんですけど……。
「あ、アンノーネさん?」
「むっ! あっ、わ、私としたことがっ!!」
いや、私としたことがも何も嬉しそうに象耳をぱったんぱったんさせててアナタ。
何だかんだで美味しいと思ってくれてるんじゃないですか。さっきは料理なんて、とか言ってたくせして……。まあ、美味しいと思ってくれるなら嬉しいけどさ。
たくさん作ったし……少しくらいはおすそ分けしてもいいかな。
「……よかったら、少し食べますか?」
そう言うと、アンノーネさんの眼鏡の奥の目がキラッと光り、大きな象の耳がぶおっと風を孕ませて大きく動き俺の前髪を浮かせた。
「そんなっ、良いんですか……いや、わ、私はこのような変質的なものなどっ!」
「だから直にメスのおっぱい飲むよりマシですってば……」
「…………そうですかね。これくらいワケが分からないモノなら、料理と言うか果実でも誤魔化せるかもしれませんね……」
「……恥ずかしがるくらいなら食べるのやめます?」
なんかブツブツ言ってるのが不憫になって来て辞退しようとすると、相手はバッと顔を上げて必死に顔を横に振る。
色々と心配になってしまったが、それだけ欲しいと思ってくれるのならまあいいか。
料理が美味しいって事を少し解ってくれたと考えれば、ちょっと嬉しいし。
「じゃあ、四人分の器を……――――」
「さっきから煩いぞ。何をしてるんだアンノーネ」
えっ。
あれ、何かこの声、さっき聞いたような。
そう思って振り返った、厨房の入口には…………
怒りんぼ殿下ことカウルノス殿下が、顔を顰めて立っていた。
「わっあっ、で、殿下……! よくぞこのような所に……!」
「…………」
……俺、ただ元気のないクロウと、今日は頑張ったブラックやロクに美味しいアイスクリームを食べさせたかっただけなんだけどな。
なのにどうして、今日はこんなトラブルにばっかり遭遇するんだろうな……。
→
※思ったより時間かかって遅れました(;´Д`)スミマセン
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