異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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飽食王宮ペリディェーザ、愚かな獣と王の試練編

16.思わせぶりな台詞を言うな

 
 
 ど……どういうつもりだろうか。

 この“海征神牛王”とか言うチャラついたオラってる系の男は、なんだって自信満々の笑みで俺に「こっちゃこい」と言っているのだろうか。

 俺の姿を見て何とも思わないのかな。
 それとも……やっぱ、変なこと考えてたり……するのか……?

 …………だ、だったらどうしよう……。

 いや、でも、違うはず。
 ジロジロ見て来るのは、やっぱ俺の格好がおかしいからだよな。

 他の獣人達は、男の俺がカーラさんと同じ格好してるのが珍しいのか、それとも俺がメスの格好をしているのがよっぽど似合わないのか、出てきた途端に一斉にジロジロと見て来て、なんかその……か、下半身にばっかり視線が行っていたような気がするし、俺が歩く度になんか忍び笑いするし……それって、やっぱり俺がこのスケベな格好をしてるのがヘンだから笑われてるんだよな?

 そんなのを近寄らせるとか、何を考えてるんだ。ビンタでもする気なのか。
 まさか、メスなら何でもいいってヤツなのか。

 いやでもこの大ヅノ黒髪チャラ男の周囲には美女ばっかりだし、何でも良いってなワケじゃないはず。だとしたらやっぱり笑う為に近付かせるのか。
 ……まあ、わ、笑うだけならいい……ってかそっちの方が良いかも……。

 だって、なんかココに来るまでに向けられた視線がゾワゾワするモノばっかりだったんだもの。考えたくないけど、その、下半身に向けられる目って……俺がメスだって分かるヤツなら、そういう目線になるヤツだって当然いるんだろ?

 なら、笑われた方がまだダチとの“いつもの悪ふざけ”みたいで流せる。
 失敗して笑われる方がいいか、それとも本気でメスとして扱われるかどっちの方がいいかと言われれば、俺は前者しか選べない。
 っていうか、その……こ、こう言う格好で、そんな風にスケベな目で見られるのが、俺には耐えられないんだよ。

 だって俺は男なんだぞ。いくらメスっつったって俺は立派な日本男児だ。
 正直こんな格好もゴメンだし、自分でも変だとしか思えないんだって。
 ブラック達ならいいけど、他人からのメス扱いなんてまっぴらごめんだ。

 決して自分を高く見積もってるワケではない。でもブラックやクロウみたいな物好きが居るんだって知ってるから、そう思うのは仕方ないだろ。
 だから、今から何をされるかと思うと気が気じゃ無かった。

 ……そりゃまあ、俺だって男だし……女子のおっぱいについ目が行っちゃう気持ちは分かるから、そういうスケベ心は理解出来るけど。

 でもさ、俺に向けてやらなくたっていーじゃん!?
 目の前にいっぱい可愛かったり美人なお姉さん達がいるのにさあ!!

 なんだってこうこの世界には物好きが多いんだ……ぐうう……。
 ……いや、そんな事を嘆いているヒマなんてなかったな。

 ともかく、スケベ心で視線を向けられるのなんてゴメンだが、この感じはそうでないはず……っていうか、そういう意味ではないと信じたい。

 つーか、さっきこの人「昔嗅いだニオイに似てる」みたいな事を言ってたよな。
 近付いて来いと言ったのは、その記憶を思い出したいからかもしれない。どの道、アンノーネさんが「はよ行け」と隣でこっそり目力を送って来るので、行かない訳にはいくまい。俺は覚悟を決めると、ゆっくり立ち上がって段差を上った。

 …………うう……ナントカ神牛王より一段低いところに、爺ちゃんやクロウの兄弟が座っている。彼らまで俺の事を見ているのだと知ると、居た堪れなさが余計に強くなってしまったが、もう後には引けない。
 お姉さん達を侍らせる上座の神牛王の所まで辿り着くと、俺は横から傅いて盆の上に乗っていた“俺の料理”を差し出した。

「ふむ……なんだこれは?」
「あ、アイスクリームです。人族が食べる、冷たくて甘いお菓子です」

 偉い人となると、どう話せばいいのか迷ってしまって口調がカチンコチンになる。
 ですですとばかり言ってしまったが、神牛王は大角や耳の飾りを遠慮なくチャリッと鳴らしながら、銀の平たい杯に盛られた黄乳色のアイスに鼻を動かした。

「なるほど、確かに冷気を感じるな」

 そう言うと、神牛王は躊躇わずに杯を取ってスプーンでアイスを掬う。
 って、ちょっと待って毒見とか良いんですか王様。

 今更な事に焦って「お待ちください」と言おうとしたのだが、相手は既に俺のアイスを口に含んでしまっていた。……いやいやいや誰か止めて下さいよ!
 なんでアンノーネさんも止めないんだと焦ったが、周囲は神牛王の様子に不安がる様子すら見せない。ただじっと、相手の反応を待っているだけのようだった。

 ……え? これ、どういうこと?
 毒見しなくてもホントに良かったの?

 どうしたもんかと冷や汗を垂らしながらキョロキョロと視線を動かすが、間近にいる綺麗なお姉さん軍団は、俺の様子を微笑ましげに笑って見ているだけだ。
 うっ、美しい。ああもう男の王様じゃ無くこっちをずっと見ていたい。

 現実逃避しかけて我に返ろうとする――より先に、大きな声がぶつかってきた。

「ほう! これは美味いな!! ひんやりとしていて甘く、いやな味がない。それに……これはマルムーサだな。どうやったかは知らんが……うむ、かなり美味い!」

 そう言いながらパクパク食べ続ける牛王に、俺は内心ほっと胸をなでおろす。

 これで「マズい」とか言われて処刑沙汰になったらと不安だったんだが、どうやら俺の料理に関しては気に入って貰えたようだ。
 けれど不思議なのが……この場から見下ろす獣人達の反応で。

 さっきは驚きもしなかったくせに、今更になってザワついてるなんて、一体どういう事なんだろうか。毒味ナシは気にしてないのに、なんで俺の料理を美味い美味いと食べている時にざわざわするんだ。

 そういうのやめて下さいっ、そんな反応されると、まるで俺の特製アイスクリームがまずそうに見えてたみたいじゃないか。失敬な。

「うーん、だが量が少ないな。もう食ってしまった……もっとないのか?」
「えっ、あ、えと、ざ、材料の入手が難しくて、あまり量は作れないんです……」

 申し訳ありません、と頭を下げた俺を、牛王は「ふーむ」と顎に手を当ててジロジロと見回す。な、なんスか。見ても面白い物は何も無いですよ。
 っていうか恥ずかしいんであんまり見ないで下さい。つーかちょっと怖い。

 獣人とは言え馴染のある黒髪の長髪チャラ男なんて、なんだか俺の世界のヤカラを思い出してしまって怖いんだよ。
  王様ってのもあって、なんかその感じにプラスして偉そうに振る舞っているのも、何をされるか分からない感じに思えて緊張してしまう。いや、王様なんだから偉いのは当然なんだけど、だからこそ余計にヒィッてなっちゃうんだよ。

 早く見終わってくれないだろうかと目を泳がせていると、牛王は人差し指をくいくいと自分の方へ動かして見せて「こっちへ来い」とジェスチャーをする。

 これは「近こうよれ」ってヤツか。
 なんだろう、いきなりビンタとかされないよな?

 怖がりつつも、逆らう事は出来ないので傅いたまま距離を詰める。
 すると――――

「えっ」

 腕を引っ張られて、牛王の方へ体が大きく傾ぐ。
 体勢を崩して相手の間近に倒れ込み、咄嗟に顔を上げると……そこには、牛王の勝気に笑った表情が間近にあって。

「料理も美味い器量よしとは、人族にも魅惑的なメスがいたものだ。アイスとやらの褒美に、オレの“情け”をくれてやろう」
「え、ぇ?」

 あまりに突然の事で、何を言っているのか把握出来ない。
 だが、把握出来たとしても、この場から逃げる事など不可能だった。

 不可能だったから、俺は――――そのまま目の前が肌の色で塗りつぶされ、口を何かで塞がれた事にも、対応が出来なくて。

「ッ……ん゛っ……んん……!?」

 なっ……えっ……なに、これ……えっ、こ、これまさか、キッ……。

 うわうわうわキス!!
 なんでキスされてんのうわーっ何しやがんだこのチャラ牛王!!

 キスとかうわ嫌だブラックとクロウが見てるのにみんな見てるのに!
 離せ離せ離せ今すぐはなっ、はっ……はぁああ離れないいぃいい!!

「ん゛ぅう゛っ! んんん……!!」

 一瞬パニックになって相手から離れようと体を退くが、いつの間にか背後から腕で体を固定されていて動く事が出来ない。
 焦れば焦るほど、相手は面白がっているのか離してくれず、それどころか閉じてる口にベロッと舌をおおおおああああバカバカバカ何してんだ変態いいいい!!

「ッ、ぶあっ!!」

 もう限界で、相手が王様であるにも関わらず必死にもがいて、奇跡的に俺は相手の顔から離れて距離を取る事が出来た。
 だけど驚きと混乱のせいで体が上手く動かなくて、その場にへたりこんでしまう。

 そんな俺を、拒絶されたにも関わらず牛王は愉しげに見ていた。

「なんだ、初心な生娘でもなかろうに口吸いはイヤなのか? それだけメスの匂いをさせておいて不思議なもんだ」
「だっ、だってっ、こんな……っ」

 いや、敬語だ。敬語を使わないと。
 でも人前で……ぶ、ブラックとクロウの前でこんな事されて、敬語をどうやって使うのかすら思い出せない。衝撃の後には、怒りと恥ずかしさが込み上げて来て、顔に熱が上がってしまう。そうなるともう、難しいことなんて考えられなくて。

 言葉が出ないのが、また恥ずかしい。
 情けなく感情の興奮で震える俺に、牛王は口の笑みを深めた。

「ほう、そういうことか? てっきり、お前はメスと気取られぬように色気を抑え込んでいるとばかり思っていたが……ただ単に、蕾が硬かっただけか」
「な、なにを……」
「ふーむ……そういう所も、そうだ。そうだった。やはりお前は“あの一族”なんだな」
「…………え……?」

 急に納得して、どうしたんだ。
 っていうか“あの一族”って何ですか。

 疑問符が頭の中に一杯になって、恥ずかしがるのも忘れてしまう。
 だが牛王は俺に面白そうなものを見る表情を崩さず目を細めた。

「つまらん試練の催促で退屈すると思っていたが……なるほど、今回は退屈せずに済みそうだ。よろしく頼むぞ? 人族のメスよ」

 ああもう、何が何だか分からない。
 この人はなんなんだ。俺に何が言いたいやりたいんだっ。

 だーっもう!
 やっぱりイケメンチャラ男なんて嫌いだーっ!!










 
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