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飽食王宮ペリディェーザ、愚かな獣と王の試練編
24.月明かりの寝室1
誰かに認められれば……みたいな話はよく聞くけど、それもやっぱり状況と事情によるよなとつくづく思う。
「強さ」や「昔と変わった」という評価なんかはその最たる例だ。
いくら命を預けるくらいの大事な仲間であっても、俺達はクロウのことを正当に評価してあげられない。――いや、仲間だからこそ、今まで見て来た相手の良い所を過分に評価してしまって、甘っちょろいことを言ってしまうんだ。
それに、俺らはクロウの過去の事も知らないしな……。
そんな状態で「認めた」って、クロウの心の傷には届くはずもない。
だから、俺達がクロウを励ましてもどうにもならなかったんだ。
そもそも、俺が何を「認めた」としても対外的な評価は変わらないし……俺は中年二人に対して甘すぎるから、厳しい事は言えないしな。
まあ強さとかも、ザコの俺が何か言える立場じゃないですし……はは……。
ご、ゴホン。それはともかく。
「仲間」の言葉だけじゃ、どうにもならない事があるのだ。
……それに、仲間だと思っているからこそ、その相手に励まされると余計に悔しいんだよな。自分の中の卑屈な部分が「励ましてくれているだけでは?」とか思っちゃうし、俺は強いはずだと思えば思うほど期待に応えきれない自分が恥ずかしくて、情けなくて、余計にドツボにはまっちまうんだ。
「自分は出来るはずの男だ」って自尊心があるから余計に。
だからこそ、仲間ではなく他人に認めて貰う事こそが必要な時もあるんだ。
他人の……しかも、自分をかつて遠くから見ていたような人に。
――その点、チャラ牛王こと海征神牛王陛下は適任だった。
現在の王宮において最も一目置かれる人物で、その威光は父親であるドービエル爺ちゃんよりも強い。しかも、クロウの兄のカウルノス殿下も頭があがらないのだ。
それに……牛王は、誰にも忖度なんてしない。
だからこそ、クロウにとってはあの一言がかなりの衝撃だったんだろう。
口ぶりからして、かつては「卑屈の塊」とクロウを見下していたっぽいのに……今は「お前すごいじゃないか」って認めてくれたんだもんな。
かつて自分を見下していた強者が、ちゃんと見て判断してくれたんだ。
そんなの、ホントに信じられないくらいの衝撃だよな。
しかも牛王は、依然としてクロウを見下しているカウルノス殿下への、ちょっとした毒舌もセットにして発言したんだ。少々性格が悪いとは俺も思うが、あの殿下の目の前で牛王がクロウを褒めてくれたのは正直爽快だったぜ。ふふふ。
やっぱり、不遇の人が認められるのってハタからみても嬉しいモンだよな。
まあ、他人から認められて……ってのはちょっと消極的かも知れないけど、クロウの場合はトラウマで力を発揮できなかったんだから仕方ない。
ともかく、夕食後のクロウは少し元気が出てきたみたいで喜ばしい限りだった。
やっぱりクロウは無表情でフンスフンスしてる方が良いよ。
オッサンだろうが何だろうが、ともかく元気なのが一番だ。
……とは、思うんだが……。
「ツカサ、寝るぞ」
先にベッドへと上がり、ココに来いと言わんばかりに手でベッドをポンポンする熊耳中年に、どうしたもんかと俺は眉間に皺を寄せる。
うん。いや、元気になったのは喜ばしい事ですよ。無表情ながらも、周囲の空気が完全に嬉しそうになってふわふわしてるのも良いと思いますよ。
でもね、なんかこう……コレは違うと思うんですよ俺は。
元気になったのは良いけど、元気が無い時の約束を引き継いで一緒に寝ようってのは、なんだか色々違う気がしないかいクロウさんや。
お前さん今元気じゃないのよ。
フンスフンスしながらベッドをポンポンして俺を呼んでるじゃないのよ。
「あのー……クロウ、もう俺が慰めなくてもよくない……?」
ブラックに「王宮から出たら覚悟してね」と恐ろしい事を言われながらも、やっとの事で許可を貰ったが、これなら一人寝でも大丈夫なのでは。
そう思って辞退を申し出たが、クロウは口だけをへの字に歪めて鼻息を噴く。
「本当にそう見えるか」
「えっ……」
嬉しそうな雰囲気が一瞬にして消えた相手に、俺は息を呑む
――――まさか、これは空元気だとでもいうのか?
そっか……それも、ありえなくもない……のか……。
クロウは普段あまり表情を変えないけど、気を使わないタイプってワケでもないし、寧ろブラックよりも大人として周囲に気を配れるタイプだもんな
それを考えると、今のクロウは少し元気が出て来たっていうのを大げさに表現して、周囲を安心させようとしているだけなのかも知れない。
そう考えると、確かにちょっと心配だけど……。
「ツカサ……オレが元気だと、一緒に寝てくれないのか?」
「う、え……ええと……」
「……ダメか? ツカサ……」
「ぐ……うう……ああもうっ、わーったよ! アンタがそう言うんなら寝るよっ」
くそう、クロウに「ダメか?」と言われると弱い自分が憎らしい。
でもしょうがないじゃん、クロウが委縮してたのは確かだし、兄貴と相対して失神もしちゃったし、元気になったとはいえ過去の事はそのままだろうし……。
だったら、望まれるなら一緒に寝るしかないじゃないか。
オッサンを安心させるために添い寝するとか、明らかに普通じゃないってのは俺も解ってるんだけど……今更過ぎて問答のしようも無い。
なにより、クロウが“こういうこと”をマジで喜んでるってもう分かっちゃってるから、俺もやらざるをえないのだ。……こう言う所はブラックと似てるんだよなぁ。はあ。
「ツカサ、早く寝よう」
「はいはい……。ちょっと待ってろ、着替えて来るから」
ついさっきまで殿下達と一緒の部屋にいたので、実は俺の服は今でもメス侍従のままなのだ。こんな格好で寝たら、マジであられもない姿になってしまう。
せめて寝る時くらいは普通にパンツを穿きたい……と思ったのだが。
「そのままでいい」
ぎし、と、ベッドから降りる音がして、間も無く腕を掴まれる。
いつの間にかすぐ傍にクロウが立っていて、顔を見上げるとすぐ腕を引かれた。
「わっ、ちょっ、く、クロウっ」
あまりにも強引に引っ張られたもんだから、宙に浮くように跳んでそのままベッドへと放り出される。スプリングもないのにポンと体が浮き上がってしまうが、そんな俺の姿を見ながらクロウは平然とベッドに上がって来た。
「子熊のように甘やかしてくれる、と約束しただろう」
そう言いながら、クロウは俺の肩を掴んでしっかりベッドに押し付けると、俺の体に覆い被さって来る。客室と同じようにドアのない部屋の中、外からの月明かりだけで相手を見ると、なんだか妙に心臓の鼓動が早くなるみたいで居た堪れなかった。
な、なんか変だ。
何度も同じようなコトをされてるんだから、こういうのには慣れてるはずなのに……天蓋付きの「ハレムの部屋」だと思うと、変な気持ちになって来る。
考えてみればクロウって王子様も同然なんだし、こ、これって逆千夜一夜では……いや、お互い男だしなにが千夜一夜なんだ。
つーかこれ別にえっちするワケじゃないからな、添い寝だけだからな!?
な、なにドキドキしてんだ俺っ、いやでも、外からの月明かりでクロウの褐色の肌や橙色の瞳が照らされるのって、な、なんか、部屋の雰囲気も相まって、その。
「ツカサ……オレにもっと、自信を付けさせてくれ……」
そう言いながら、クロウは徐々に体を近付けて来る。
俺に覆い被さっておいて何が「自信を付けさせてくれ」だと思ったが……。
「…………えっちなことすんなよ」
近くの部屋には、アンタと同じで耳の良い兄貴が寝てるんだからな。
――そう言いたくて相手の目を見返すと、クロウは表情を和らげて薄く笑った。
「子熊がそんなことすると思うか」
問われたが、俺は素直に「ハイ」とは言えなかった。
だって、相手はブラックに負けず劣らずのスケベなオッサンだからな!!
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