異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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亡国古都アルカドア、黒き守護者の動乱編

5.思わぬもの

 
 
「ホントにあっと言う間に四家を呼んじゃった……」
「な。言っただろう。俺は対等な対価さえ有れば、ある程度ま……いや【デイェル】の自由が利く。むぐ。んががは、ほへは」
「だー、食べながら喋らないでください!!」

 俺に「対価」とやらを要求し、謁見の間を颯爽と去った数分後。
 まるで手洗いにでも行ってきましたと言わんばかりの速さで、うさんくさいチャラ牛王こと海征神牛王陛下は帰って来た。

 そのあまりの速さに俺達は「そんなばかな」と目を剥いたのだが、全員を集めたと言われて広間へ行くと、確かにそこには微妙に見た事が有る獣人達が四人、呆気にとられたような顔で立ち竦んでいて……ともかくマジで願いを叶えてくれたらしい。

 ……だもんで、ひとまずメシを寄越せと言われたので、作り置きをしていたはちみつアイスクリームを献上させて頂いたのだが……マジでどうやって連れて来たのコレ。

 聞こうにもチャラ牛王はアイスに夢中だし、四家のみなさんは事情を知ってお仕事モードでさっさと会議に行ってしまったし、全然質問する暇がない。
 ただ、広間に取り残されてアイスを喰うオッサンどもを見ているだけだ。

 これで俺達も本当にすぐ第二の試練に迎えるのだろうか……と思っていたら、横でアイスをついばんでいるブラックが不意に俺の疑問に答えて来た。

「多分、あのクソ眼鏡と同じような能力なんじゃないかな」
「え……眼鏡って……アドニス?」

 神様のキュウマも眼鏡だからややこしい。
 瞬間移動的なモンだから多分アドニスの方だよな、と思っていると、ブラックは頭を縦に動かして続けた。

「確か【異空間結合エリア・コネクト】だっけ? そういう術なんじゃないかな。どんな原理なのかまでは分からないけど、恐らくはあのクソ妖精と同じくらいの練度なんじゃないかな」

 数百年は軽く生きてるだろうアドニスと同じくらいの練度って……あのチャラ牛王、最も古い神獣とか何とか言われてたけど、もしかしてアドニス以上に年を喰ってるのでは……。い、いやまあ、今更だよな……でも、それほど生きていれば獣人でも妖精みたいな術が使えちゃうモンなんだろうか。

 確かアドニスの術って、木の曜術以外は妖精しか使えない特殊な術だよな?
 氷とかを操るのも普通の人族には出来ないって話だったはず。

 まあ俺はチート能力者なんで? 氷の術を使えちゃうんですけどぉ?
 ふふふ……なんたって俺は【黒曜の使者】だからな!
 ふふん。

 ま、そんな自慢はともかく。
 それならポンポン場所を移動できるのも納得だけど……。

「んぐ。……なんだ、お前ら神に連なる妖精族と知り合いか」
「え……魔族じゃない方の妖精族のこと、ご存じなんですか」

 アイスを全部食べたらしいチャラ牛王が会話に入って来たので、振り返る。
 すると、相手はスプーンをくるくると振り回しながら続けた。

「古い話だが、俺も一度交流したのでな。まあ、俺の術もあいつらのものと似たようなモノだ。こっちは燃費が悪いから、滅多に使えんがな」
「それも対価ってヤツか」

 もう敬う気持ちがゼロなのか、普通に敬語も無く話し掛けてしまうブラックだったが、相手は気にせずに「そうだ」と答えた。

「だが、そのぶん契約には誠実だぞ? そうさな……お前のツカサを一度抱かせて貰えるなら、護国武令軍ごこくぶれいぐんの一個大隊を今すぐここに呼んでやっても良い。それほどの対価なら、一瞬でなんでも呼べる」
「誰がッ!!」
「クククッ、残念だ。……だがまあ、選択肢には入れておけ」

 銀の器をスプーンで叩き、鈴の音を響かせると――牛王は、ニヤリと笑った。

「取り引きできるモノは、森羅万象が本来有限だ。ゆえに、それを覆す存在は、特に“大事に使うこと”を考えておいた方が良い。利器と武力が揃っていて使わぬのは、ただの馬鹿のすることだからな」
「……?」

 それは、どういう意味なんだろう。
 ちょっと言い回しが独特過ぎて理解が出来ない、と、思っていたら、急に横からガッと引き寄せられて、俺は強引にブラックの腕の中に収まってしまっていた。
 ちょっ……な、なにしてんのアンタっ。

 だけど、それに何か言う前にブラックが吼えて、俺は言葉が引っ込んでしまった。

「ふざけるな!! ツカサ君を利器扱いするつもりか……!」

 あ、ああ、ブラックが怒ってる。
 今度は本当にイラついているのか、クロウに普段向けているような「すぐ収まるイライラ」じゃない、明確な憤りが籠っている。
 そんなに酷い事を俺は言われたのだろうか、と驚いてしまったが、いまいち状況が分からない俺を余所にチャラ牛王は「ハハハ」と笑って肩を竦めた。

「兵士を盤上の駒と見立てるのは為政者の役目だぞ?」
「僕は為政者じゃない……!」
「ほう。そんな邪悪な力を持っておいて民草とのたまうのか。“悪魔”も随分と安く見られる世の中になったらしい」
「……!!」

 いっ……痛い。俺の肩を掴んでいる手に、急に強い力が加わった。
 なに、なんだ。何がブラックをそんなに怒らせてるんだ。
 ただの他愛ない会話の筈だったのに、急にどうして……いや、そんな事を考えてる場合じゃない。なんかブラックがヤバそうだ。早く落ち着かせないと。

「ぶ、ブラック、落ち着いて……! ほら、あの……アイス……アイス食べよ。な?」

 そう言いながら、ブラックが横に置いていた食べかけのアイスを持って、スプーンで掬って見せてやる。そんな俺に、ブラックはちらりと目を向けて複雑な表情でモゴモゴと口を動かしていたが――俺はダメ押しで、スプーンをブラックの顔に近付けた。

「ほら、あ……あーん……」
「……!」

 頼むから冷たい物を食べて頭を冷やしてくれよ、と願う俺の気持ちは汲んでくれたのか、ブラックは不機嫌そうな怒っているような顔を徐々に緩めると、嬉しそうな表情になってスプーンに食い付いた。

「んふふ~、ツカサ君もっと『あ~ん』して~」
「ムゥ……ずるいぞブラック」
「良いトシした中年がやることか」
「うるさいクソ駄熊兄弟!! 僕はツカサ君の恋人で婚約者だからいーんだよ!」

 クロウと怒りんぼ殿下をギッと睨みつつも、すぐにデレデレな顔になってまたアイスを「あーん」して貰おうとするブラック。情緒の切り替えが相変わらず激し過ぎるが、さっきのマジで怒ってる雰囲気は無くなったからヨシ。
 人前でこんな事をするのは恥ずかしいが、ヤバい相手とこんな場所でやりあうのは危ないからな……これで収まるなら、何度でも「あーん」してやるさ。

「ふむ……やはり人族か。人族は扱いが難しいな」

 またチャラ牛王が何か言ってる。
 つーか大体、元はと言えばアンタのせいなんだからな!?

 アンタが変なことを言わなけりゃブラックだって怒らなかったのに、なんでこうチャラついたヤツってのは人を煽りたがるんだ。特性か。特性がそうさせるのか。
 ともかく迷惑なので、ここは意を決して俺も注意する事にした。

 相手が大人だろうと何だろうと、失礼は失礼だからな!

「あの、あんまりブラックのこと刺激しないで貰えますか……」

 オッサンにアイスを喰わせながら真面目な声を出しても、いまいち締まらんな。
 これで伝わるかなとちょっと心配になっていると、何故かチャラ牛王は俺を見て少し目を丸くしたみたいだった。

「……自分の事より、この男の事を心配するのかお前は」
「え? 俺なんか悪口言われてたんですか? ……まあでも、分かんなかったし……ブラックの方が嫌な気分になってたんだから、心配するのは当然では……」
「ふ、ふへへ、ツカサくぅん~」

 だぁーっ、懐くなオッサン!!
 いくら涼しい王宮とはいえ暑苦しいだろと引き剥がそうとするが、ブラックはナニが嬉しいのかぎゅうぎゅう抱き着いて来る。

 だ、だから他のオッサンがいるってのにお前って奴はもう……!

「フッ……まあ良い。それだけ飼い慣らしているなら、滅多な事にはならんだろう。――――では、そろそろ向かうか。第二の“三王の試練”に」
「……!」

 その言葉に、クロウと怒りんぼ殿下が反応する。
 俺とブラックが変にイチャイチャしている間にもしっかりとアイスを食べていたのか、もう器は空になってしまっているが……アンタらも中々に食いしん坊だなおい。

「海征神牛王陛下、準備などの必要な事はありませんか」
「いや、要らん。すぐに向かおう。ちょうど時間も頃合だろうしな……ヤツは動き回るから、夕方でなければどこにいるか掴めんのだ。……まあ、こちらのことはひとまず任せておけ。お前達は王に戻ることを第一に考えろ」
「はっ……」

 目上の人にはひたすら礼儀正しい殿下は、深々と腰を折る。
 クロウも礼儀はバッチリだ。こういうところは二人とも王子様なんだよな……完全にオッサンの見た目なんだけども。

 って、そんなこと言ってる場合じゃないか。
 そそくさとブラックにアイスを食わせ終わると、俺達もクロウの傍に並んだ。

 チャラ牛王はそれを待っていたのか、ニッと口だけを笑ませる。

「よし、では獅子のヤツのところに送ってやろう」

 そう言いながら、チャラ牛王は片手を前にだし俺達に掌を向ける。
 と――――牛王の手から青紫に黒の混じった不思議な光がゆらゆら現れ、それが徐々に周囲に広がって行くのが見えた。

「……!?」

 慌ててブラック達の顔を見るが、誰も驚いていない。どうやら見えているのは俺だけみたいだ。それに気が付くと、チャラ牛王は俺を見て面白そうに目を細めた。

「知らずに感じ取るのは、珍しいな」
「え……」

 それって、どういう意味だ。
 不思議に思って問いかけようとしたが、次の言葉にムリヤリ押し込まれた。

「さあ、行って来い! だが……くれぐれも油断するなよ。奴は獰猛だからな!」

 チャラ牛王がそう言った瞬間。
 周囲を漂っていた独特な色の光が、急に円陣を形作り――――

「――――ッ!?」

 一瞬の浮遊感の後、俺達は急に絨毯の上に叩きつけられた。

「ぶべっ」

 …………いや、叩きつけられたのは俺だけで、ブラックとクロウ達は何故か綺麗に降り立っていたのだが……今はそんな事どうでもいい。
 ともかく、一瞬のうちに景色が変わった。俺達がいたのは王宮の広間だったのに、今俺がめり込んでいるのは少し古い感じの絨毯の上だ。

 しかも、王宮の涼しさが急に消えて熱がすぐさま包み込んできた。
 風が運んできたのか、絨毯に少し砂が入り込んでいるような感触がする。
 ここは外だ。しかも王宮の中じゃないし王都でも無い。都を離れた、どこかの集落の家の中なんだ。でも、それってどこだ。

 次の神獣の王様がいる場所って、一体……。

 そう思って状況を把握しようと顔を上げると――――
 目の前に、影が覆い被さって来た。

「あ゛ぁ? なんだァ……? 急に目の前に現れやがって」
「…………え」

 視界を塞ぐような、逆行を浴びた影。
 一瞬壁かと思ったけど違う。相手は、ヒトだ。2メートルどころじゃない大きさの人間が、目の前に居て日差しを遮ってるんだよ。

 も、もしかしてこの人が次の試練を与えて来る王なのか。
 だけど、この声……なんか聞き覚えがあるような……。

「……お前は……」

 ブラックは相手の正体に気付いたのか、少し驚いたような声を漏らす。
 俺も目を細めて必死に影の中の容貌を見ると、じんわり目が慣れてきた。大きな影の中に、輪郭や表情……そして、その獣の耳が見えてくる。

 その耳と、容姿を見て――――俺も、ようやく相手が誰なのかを知った。

「あ……あんた……【海鳴りの街】の……!」

 ……そう。
 二人目の神獣の王は、俺達が予想もしていなかった“知っている人物”だった。









※この世界には、神が創造した妖精族(元素妖精、自然妖精と呼ぶ)と
 後から生まれてきた魔族の妖精族の二種類がいます
 前者は伝説上の存在になってしまったのに加え
 その伝説もほぼ知られていないため、
 人族が指す妖精はほぼ魔族の事を言います。
 
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