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亡国古都アルカドア、黒き守護者の動乱編
想定外からの奇襲2
ロクが翼を軽く一打ちすると、その格好いい巨体が簡単に地面から離れる。
まるで水中の砂のように柔く舞い上がる砂を間近にみたのも一瞬で、五秒もせずに地上よりもさらに冷たい空に到達していた。
「う゛う゛う゛」
「ツカサ、もっとオレの懐に入れ」
ぐう、かたじけない。
背後から抱え込まれるのは恥ずかしいのだが、砂漠の夜の空は寒いのでそんな事も言ってられない。これが人族大陸の空ならまだ耐えられたんだろうが、砂漠の地域の夜は真冬並みだからな……半袖の俺にはつらすぎる。
いやクロウは袖なしなんだけどさ、でも獣人の肌は獣の体毛と地肌が一緒に人の肌に変化したものだそうなので、暑さにも寒さにも強いらしいからな。
そのお蔭で、火山地帯でも砂漠の夜でもクロウはケロっとしているのだ。
まあでも汗は普通に掻くみたいだし、他の獣人でも暑がってる人はいたから、もしかするとクロウ達の種族か神獣系の獣人だけが強い体勢が有るだけなのかもだが。
「うう……思い付いたは良いけど、上手くやれるかなぁ……」
クロウの体温のおかげで幾分か温かくなった体を感じつつ、俺は準備に入るために橙色の光を手に纏わせる。
その光景を見てか、俺の頭に顎を乗せたクロウがウムと唸った。
「正直、荒唐無稽ではあるが、一気に決着をつけるならそういう意表を突いた攻撃の方が良い。オレは良い案だと思うぞ」
「ほんと?」
自分で提案した癖に今更不安になって来て顔を見上げた俺に、クロウは薄く笑う。
「ああ。現実には不可能だが効果的な作戦は、実現さえすればこれ以上ないほどの作戦になる。相手も、不可能な作戦など考えもしないだろう。だからこそ、そこに付け入る隙が生まれるのだ。これほど意表を突く事態もあるまい?」
橙色光を宿した俺の手を上から覆うように握って、褐色の肌に伝わせる。
光――いや、土の曜気を吸い上げるクロウは、俺の奇抜な作戦を笑わず真面目に実行するつもりなのだろう。
ちょっとむず痒いけど、信じてくれるのは嬉しい。
みんな「やろう」と言ってくれて、今まさに実行してくれているのに、言いだしっぺの俺が不安がってちゃいけないよな。
まず俺が出来るって思わなくちゃ。
「……ム……見えてきたな。ツカサ、準備は良いか」
「お、おう……ロクも大丈夫か?」
「グォオン!」
下界の目標に聞こえないように、ロクのお返事は控えめだ。
でも凛々しい準飛竜の顔になっても可愛いので、思わずキュンとしてしまう……。
よし、ロクのおかげで緊張が解けたぞ。俺も精一杯頑張らないとな。
気を取り直して前方戸を見やると、薄暗い地上から天に向かって聳え立つ二つの山が徐々に近付いて来ている。だが、あれは元々一つの山だ。
その間に、敵が潜む“骨食みの谷”がある。
かつては危険な谷であった、今では平和なはずの谷。そこに再び集結した賊を“おさえる”ために、そして殿下の“第二の試練”を手伝うために気合を入れねば。
「クロウ、イケそう?!」
「いつでもいける!」
遠かったはずの谷間が、あと数百メートルに迫っている。
強く返したクロウを確認し、俺はロクショウにお願いした。
「ロク、敵がいないギリギリの所まで降りて谷に入って!」
「グオォォン!」
急激に高度を下げたロクの背中に、強風と衝撃が襲う。飛ばされそうなほどの風の勢いに思わず顎を曝しそうになったが、クロウが背後から俺をしっかりと受け止め、橙色の綺麗な光を纏ったまま俺の体を抱くように片腕を回した。
うう、面目ない。しかし、そんな自分の気持ちに構っている暇など無い。
ゴォッと風が強い音で耳を舐め、内臓が浮き上がる。
その不快感を必死に抑え込み、体を肌を後ろに引っ張ろうとする向かい風に歯を食いしばりながら前を見据えたと同時、滑り込むように、ロクショウの大きな体が山の間に突入した。
下は真っ暗で、底が無いような恐怖を覚える深さがあるように錯覚する。
完全に月と星の光を遮っている谷は、人の気配が有るのに沈黙していた。
寝ているのか、それとも油断しているのか。
それは定かではないが、やるなら今しかない。
彼らもバカではない。獣人の鋭い耳は、すぐに巨獣であるロクショウの羽ばたきを聞き取るだろう。ギリギリの位置とは言え、数秒の差に違いない。
やがて、獣人達の攻撃が届かないだろう限界までロクショウが到達し、まっくらな谷を通るように進む。谷の中ほどまでに来ると、ロクショウは首を軽く上げ、今まで平行に寝せていた翼を一気に立たせて風を孕ませた。
急激にブレーキがかかる。
「――――ッ……!」
体が一気に後ろへ持って行かれそうになるのを、クロウが体を抱え込んで阻止してくれた。空気の冷たさ以上に肝が冷えたが、そんなこと気にしてられない。
じきに獣人達が気付くその前にやってしまわねば……!
「クロウ!」
「腕にしっかり掴まっていろ!」
片腕で俺を拘束したままのクロウは、もう片方の腕をロクの背中から離して、真っ暗な谷底へと向ける。曜気の綺麗な光を纏ったその褐色の腕は、クロウが息を吸った瞬間にその橙色の光を迸らせた。
「枯れし大地よ、我が力に縁り来てその開け放たれし門戸を閉ざせ……――然らば、我が血に応えよ――――【エデュケイト】!!」
クロウが、強く詠唱し吼える。
周囲一帯を橙色の光が一気に照らし、赤い砂漠への出口になる前方から凄まじい音が聞こえてきた。まるで、大地を揺るがすような音。それと同時に、俺達のすぐ下からも轟音が鳴り響き辺り一帯が震え始めた。
いや、これはただ揺れているんじゃない。
これは――――
砂漠への出口に巨大な岩壁が出現し、俺達のすぐ下に“鼠返し”のようにぐるりと先を巻き込んだ屋根のような崖のでっぱりが突き出したんだ。
「っ……い、いつもながらホントに凄い……」
軽く2キロは有るだろう谷の天井全てを登れないように塞ぎ、逃げ道を【海鳴りの街】方面しか選択できないように塞いだ。
こんなの、本当に魔法じゃないと出来ない。本当に「デタラメ」だ。
……提案したのは俺だけど、さすがにこの光景は規格外過ぎて恐ろしくなる。
相手にクロウみたいな高レベルの曜術師がいなくてよかった。
「ツカサ、今度はお前の番だ」
「あっ、そ、そうだった!」
クロウのデタラメ曜術に息を飲んでいたが、そんな場合じゃ無かったな。
俺にも役割が有る。というか、俺がやらないとこの作戦は完成しない。出来るだけ相手に気付かれないように、クロウが作った天井に降ろして貰って、その中央の隙間へと両手を向けた。
息を吸い、呼吸を整えて――唱える。
「閉ざされし暗闇の谷に、永く煌々たる光を落としたまえ――【ライト】……!」
大地の気が少ない場所で、体内の気を吸い上げて消費する。
ぐっと体の中から何かが抜けたような感覚があった瞬間、俺の目の前には巨大な白い光の玉が浮かび上がったかと思うと、それは俺の意思に従うように天井の隙間から谷へと落ちて行った。
「っ……ふ……こ、これで……いい、かな……」
「ツカサッ」
「グオォッ!」
急に膝から力が抜けてそのまま地面に座り込む。
体が弛緩して動けない俺をクロウとロクが心配して近寄ってくるが、気を失うまでは行っていないのでなんとか大丈夫だ。
しかし、ほぼ自然から“気”を貰えない状態でデカい術を使うのが、こんなに体力を消費するなんて思わなかった。まるで【黒曜の使者】でブラック達に限界まで曜術を受け渡したり、自分でデカい曜術を使った時みたいだ。
……いや、大地の気は生命の源みたいなモンだから、精神力が枯渇する曜術とはまた別の疲れ方なのかもしれない。
ともかく、もう動けない……ブラック達に付いて行かなくて本当に良かった。
こうなるかも知れないって思ったから、地上から付いて行かなかったんだよな。
それに、俺が術を使ったら的にされてブラック達が動きづらくなるだろうし。
「はは……後は、ぶ、ブラックと……殿下に頼むか……」
「ヌゥ……なんだかいつもより疲れてるみたいだぞツカサ、本当に大丈夫か」
そのまま寝そべる俺に、さほど疲れていない……というか、むしろさっきより元気になったっぽいクロウが心配して覗きこんでくる。
正直めっちゃ疲れてるが、しかしそんな事は言っていられない。
俺はクロウに感謝の気持ちでへにゃりと笑って見せた。
「俺は大丈夫だし、ロクがついてるから……下に行って、加勢してやって……」
「だが……」
「クロウだって、せっかく手の甲に“しるし”を貰ったんだろ? もったいないよ」
王としての素質があると認められた証である、しるし。
クロウは王になることなんて望んでないけど。でも、俺は……強くて優しいクロウの力を、みんなに認めて欲しかった。
せっかく仲直り出来た兄――怒りんぼ殿下とも兄弟として一緒に戦って欲しかったし、なにより……戦う事が嫌いではないクロウを、俺のおもり役に何てしたくない。
活躍できる場があるなら、送り出してやりたかった。
だって俺は、三人が負けるなんてことはありえないと思ってたから。
「ツカサ……」
「行って来て。アンタも、ブラックや殿下みたいに……格好良く戦って来てよ。王様になれるくらい強いけど、でも旅をします……なんてヤツ、タダモノじゃないって誰もが思ちゃうだろ?」
アンタは、そうなれる。
俺は間違いなくそう信じてるよ。
そんな俺の言外の言葉を読み取ったのか、クロウは驚くように橙色の瞳を持つ目を見開いて。そして。
「……ツカサ、大好きだぞ」
滅多に見せない笑顔でふわりと笑うと、倒れ込んだ俺の頬にキスをした。
「グォオン」
「ウム。ツカサのことを頼む」
ロクが「行ってらっしゃい」と小さなお手手を振るのに、クロウは力強く頷く。
そうして、左右からせり出した“鼠返しの天井”の中央の隙間から、俺の【ライト】の玉が煌々と照らす谷へと飛び降りて行った。
「……ほ、ほんと……ブラックもクロウもこういう時ばっか直球なんだから……」
「グォングォン?」
「な、なんでもない……」
恨み言を呟いた俺にロクが首を向けて来るが、俺は勝手にカッカして来る顔を隠すように両手で抑え込んで、そのまま突っ伏したのだった。
→
※気温は下がったけど暑さ疲れかなにかで
めっちゃ寝ちゃって遅れました…(; ˘ω˘ )ほんま申し訳ない…
睡眠時間がめちゃくちゃだ!
もうすぐお盆休みなので治すぞ…次の回はまともなはず!
頑張ります!!
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