異世界日帰り漫遊記!

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亡国古都アルカドア、黒き守護者の動乱編

  五候が集う2

 
 
 ――殿下の話を俺の頭で噛み砕いて大まかに説明すると、こうだ。

 古都・アルカドアに正体不明の敵が現れた。でも、その敵の群れは怒りんぼ殿下が到着するまで数日の猶予があったにも関わらず、周囲で壁を攻撃するだけだった。
 これは何かがおかしいってんで、それを俺達が帰ってきてすぐに伝えた。

 ――便宜上、その報告を“第一報”とする。

 で、その後に俺達は“第二の試練”を受ける為にチャラ牛王に瞬間移動させて貰い、最も古く強大な力を持つという【三王】の一人である、金獅子のゼルこと【磊命神獅王】のバーゼル・ダルストラの棲家に飛び、試練を言い渡された。

 それが、謎の集団パートツー……アルカドアに向かうために必ず通らなければいけない【骨食みの谷】に潜む“謎の集団”を「おさえてみせろ」という試練だったのだ。

 当然、俺達はアルカドアの集団と関係が有ると考えた。
 だってブラックの【索敵】の術では、人族が混じってるって話だったからな。

 なので、俺達は【海鳴りの街】に潜む根無し草――獣人達の間では、暗殺や諜報を行う獣人をこう呼ぶ――の鼠人族を訪ね、情報を得ようとした。
 で、なんやかんやあってナルラトさんとシーバさんに話をつけて、この状況……谷を既に“謎の集団”が占拠している……という情報を、王急に届けて貰った。
 その“謎の集団”が谷を作る山の海側に謎の「アジト」を作っている事も含めて。

 これが、第二報。

 …………ちなみに、シーバさんの謀反の計画は話してない。
 ブラックとロクショウだけにはこっそり教えたけど、殿下は知らないのだ。……まあ、今の殿下なら許してくれそうだけど、今は些細な事でもショックを受けそうだしな。
 話すにしてもすべて終わってからだって事で、内緒にしていた。

 閑話休題。

 そんなこんなで敵の情報を王宮【ペリディェーザ】に届けて来た俺達だが、ココからは、第三報……言ってみれば、戦果報告だ。

 怒りんぼ殿下は、試練に合格した戦いを事細かに説明した。
 例えば敵の数、戦い方、種族の種類に気になった戦闘方法などを。

 ……これの何が重要なんだ、と一瞬思ってしまったが、しかしそんな考えも【五候】の人達が真剣に話を聞いているのを見て消し飛んだ。
 そうだ。俺は力を譲渡しただけだからピンと来てないけど、これは一種の戦争とも言える状況なのだ。未知の敵と戦っているんだから、当然敵の戦法や種類だけでも凄く重要な情報になる。【五候】の人達は、それを知っているのだ。

 それゆえ、殿下の話を真剣に聞いてるんだな。
 ――――と思っていたら、クロウやブラック、俺にも質問が飛んできた。

 人族にも問いかけるくらい重要ってことか……獣人族はタイマン勝負が大好きってイメージだったんだけど、やっぱ日常的に他の“群れ”に国盗りを仕掛けられてる国の王族なだけあって、戦争的な事にはやっぱ聡いんだなぁ……。

 俺、ゲームでも歴史の授業でもそういう部分はチンプンカンプンだったから、なんか肩身が狭いや……ブラックがさらさら答えてくれてるから、嫌な顔はされてないけども、これが俺だけだったら絶対に睨まれてただろうな。ぐぬぬ……。

「――――なるほど……正体不明の黒犬に、不可解な人族……これは、当初我々が考えていた通常の戦とは異なるようですね」

 優しげなおばさまのトエティさんが、顔を上げて言う。
 その意見に、真面目な顔でルード……ルードルドーナが頷いた。

「そもそも、人族が加わっている事が不可解ですね。我らが人族と関わり始めたのは数十年前……定住しないことを条件に商人や傭兵、冒険者を受け入れたとはいえ、それらが徒党を組むような動きを見せた事は無いはずです」

 王宮には“そういう報告”が行っているのか、勤め人であるトエティさんはルードルドーナの言葉を肯定するように続けた。

「そうですね。我々は人族の増殖性と小賢しさを危険視し、我々だけでなく各部族の伝統を守る観点から、人族の移住は原則禁止としていました。現在までの報告で、彼らが集会を行うことなどはありませんでしたが……」
「しかし、そいつらは獣人族と手を組み“あじと”とやらを作ったではないか。お前達の監視が甘かったのではないか?」

 苛立つようにデハイア・メイガナーダが言う。
 少しクロウに似ている彼は不機嫌そうだったが、それをルードルドーナが嗤う。

「おや、警備巡廻は王都勤めかどうかに関わらず、守備隊の仕事なのでは? 我々【五候】の中でも“守ることがお得意”なメイガナーダは、大多数がその守備隊に多く配備されていたと記憶していますが……監視、とは、誰の仕事でしたかねえ」
「……ッ!」

 ち、チクチクしてるぅ……。
 何もそんな嫌味たっぷりに言わなくて良いじゃないかと思うが、お互いに自分の家が行っている仕事にケチを付けられると黙っていられないのだろうか。
 
 ……まあ、獣人族ってプライドがエベレストな武人種族だからなぁ……そういう所があるぶん、他人の失敗に対しても凄く厳しいんだろう。たぶん。

 でも、もう少し失敗とかも認めてくれても良いだろうに。そう思っていると、見かねたドービエル爺ちゃんが仲裁に入ってくれた。

「まあまあ、落ち着け二人とも。……私は誰かが失態を犯したとは思っておらん。お前達は良くやっている。それは、誰の目から見ても明らかだからな。今回の件は不測の事態というものだ。ルードルドーナ、デハイア、お互いを責めるでない」
「へ、陛下……っ、ありがたきお言葉……!」
「…………はい……」

 デハイアさんもドービエル爺ちゃんに心酔しているのか、すぐに頭を下げる。
 だけど、殿下と同じく父親を尊敬しているはずのルードルドーナは、なんだか微妙に不服そうだった。いつも不敵な笑みを浮かべてる感じだったのに意外だ。
 爺ちゃんに窘められたのが不満だったのかな?

「ともかく……今回は不可解な事が多い。人族がいつの間にか移動していた事や、異様な用意の速さ……お前達が最初に谷を通った時には気配を感じなかったと言うのも、何か引っかかる。まるで、今この時を見計らっていたかのようだ」
「……!」

 その言葉に【五候】と殿下がどよめく。
 確かに、爺ちゃんが言う通りだ。今回は色々不思議な事が多過ぎる。
 しかしトエティさんはどよめきの中でも冷静で、爺ちゃんの言葉の後に続いた。

「今回サービニア号に乗っていた人族が敵の人族の全てだとして、その照会を行う必要がありますね。磊命神獅王様のお宮に、人員を派遣します。……それと……」
「黒い犬と、謎の人族」

 ぽつり、と呟いたのは、美青年であるアシル・ナーランディカだ。
 その言葉に全員が顔を向けるが、彼は無表情なまま長い睫毛を伏せる。

「そもそも、動機と行動が合わない。アルカドアの異変もそうだけど、もしそういう術を人族が使えたとしても、ソレを使うなら王都に直接やる方が効果的だ。戦力の中心を不意打ちで叩ける術があるのに、それを無駄遣いする意図が分からない」
「アルカドアがそれだけ魅力的だったのではないか。我が美しい姉であり第一王妃が治めているのだからな」

 ナラハ・カンバカランが、すかさずマハさんを讃えつつ口を挟む。
 その人物評に異論はないが、相当な姉大好きお兄さんだな……カンバカラン家のオスはこういう感じの性格の人ばかりなんだろうか……。

「……メスが美しいだのどうだのという戯言はどうでもいいが、魅力的というのならば、そいつらにとってアルカドアは……何か、手の内を明かして奪取する必要があるほどに重要な都市だったとも考えられる」

 ああほら適当にあしらわれたじゃないの。
 でも、アシルさんの言う通りだ。

 あれだけトンデモな術を使えるのに、アルカドアに使ったって事は……あの場所か、もしくはマハさんを「ああでもして乗っ取る」必要があったって事だよな。

「つまり……アルカドアから、奴らの本当の目的が掴めるかもしれない、と?」

 怒りんぼ殿下の言葉に、アシルさんはゆっくり視線を上げ、ふむと小さく息を吐く。

「予想でしかないよ。あくまでも、相手の目的を探った妄想だ。……この状況を戦術の一つとすれば、我々は圧倒的に不利だ。人族は得体のしれない術を使い、狡猾な手を考えて来る。敵の陽動だとすれば、私達がアルカドアに興味を持った時点で、敵の術中にはまってしまったとも言える……断言できる自信は無い」
「だけどアシル、彼らの拠点や行動が全て西の果てに集中しているのを考えれば、その予想は考えるに値するのではないかしら。私も、同じように気になるわ」
「トエティおばさん……」

 アシルさんはトエティおばさまと仲がいいのか、彼女にだけ気を緩める。
 自分の言葉一つで失態を招くかもしれないと思っていたのだろうか。それを、同意すると言って責任を分担してくれたんだから、まあそりゃそうなるよな。
 けど、すぐに賛同して責任を分けてくれるなんて、トエティさんは本当に優しいな。

 ますますシアンさんを思い出してしまい、ちょっと里心が湧いてしまったが、そんな俺のことなど知らず、ドービエル爺ちゃんは「うむ」と頷いて手を叩いた。

「現状、アルカドアに目が向いてしまうのは仕方が無いことだ。……恐らく、我々では潜入も難しかろうし、手も出せんだろう。私とて、我が愛しの妻や臣下の者が心配だ。早急に対処すべきだが……」
「今は、黒い犬の正体と人族の照会が必要ですね」

 トエティさんの言葉に、ドービエル爺ちゃんは顎を擦りながら数分悩んでいたようだったが――――唐突にポンと膝を打って、何故か俺達の方を向いた。

「種族に関しては、ルードルドーナが詳しかったな。調べてくれるか」
「はっ……」
「……だが、それだけでは足らんな。……潜入させて、どうにか妻が無事かどうかだけでも知りたいものだが……」

 そう言葉を切った爺ちゃんに、ルードルドーナが意外な事を言い出した。

「では陛下、思い切って……そこの人族二人を潜入させてみてはどうですか」
「ッ!?」

 えっ……な、何。俺とブラックを、潜入……!?
 何を言ってるんだ、いくらなんでもそれは無茶ってもんだろ。何なんだ、やっぱり俺らを始末したいのかこの人は。なんて三男なんだ!

 こんな状況で潜入したら、ヘタするとマハさん達にまで危険が及ぶだろう。
 それなのにそんな事を考えるなんて、何を考えてるんだろう本当に。
 何の準備も無しに潜入だなんて、いくら何でも……とか思っていたら、俺達が思っていることを読み取ったのか、相手は薄く微笑みながら提案を畳み掛ける。

「人族の人員であれば、獣人は基本的に誰が加わっても気にしないでしょう。我々は、人族の顔を見慣れていない。遠目であれば黒い犬にも気付かれないはずです。それに……戦場のオスは、何かと興奮して気が立っている。メスがいれば、簡単に内部で情報を手に入れられるのでは?」

 …………。
 ええと、それって……つまり俺に色仕掛けして情報とってこーい……ってコト?

 …………俺が、色仕掛けで……?

 ……あの。あのあのあの、冗談キツいんですが。
 どう考えても俺には荷が重すぎる提案なんですが!?

「ふむ……ブラック殿、貴殿は様々な知識に精通しているが、仮に黒い犬や謎の男を確認したとして、どれほど相手の事が分かるものかの?」

 ああ、爺ちゃんがノリ気だ。早速俺達に出来る事を聞いて来ている。
 まあそりゃ、マハさんが心配だろうけども。焦っているんだろうけども!
 しかしこんな状況じゃ、いくら何でもブラックだって……。

「種族を特定できるとはいかないが、とりあえず僕より強いか否か、曜術を使うような相手かどうかくらいは見分けられる。……ツカサ君が居れば、確かにアホな兵士達は靡くだろうね。だけど、約束はできないよ。アルカドアに注視する間に、他の領地や王都を襲おうとするかもしれないし」

 あ、あれ。なんかブラックも妙にやる気なんだけど。
 これじゃ行く事前提で「コレは出来ないよ」って言ってるみたいじゃないか。

 なんでそんな事を……。

「うむ……そこは、不安ではある……。だが、幸い兵の準備は出来ている。我が息子達も、滅多な事では負けぬだろう。調査をトエティやアシルに頼むとしても、敵情視察は叶うまい。ならば……お前達に頼むほかなかろう」

 うわあ、ど、ドービエル爺ちゃんまで乗り気になっちゃった。
 まさか行くのか。本当に行くのか?!

 マハさん達やロクショウの事は気になるけど、そんな危ない橋を俺達が任されても困る。情報収集が成功するかどうかすら怪しいってのに。
 しかも俺がい、い、色仕掛けなんて……。

「では、潜入するにあたっての段取りを作りましょう。急いだ方が良い。マハが危険な目に遭っていたら、それこそこの国の大きな損失ですからね」

 あああトエティさんも賛成派になっちゃった。
 本当にいいのか。そんな重要な事を俺達がやっていいのか。つーか、国の問題に関わりたくないって感じだったのに、なんで乗り気なんだよブラックこの野郎。

 なんか理由があるのか?
 俺達自身が潜入しなきゃいけない必要があるってこと……?

 ああもう、今の感じじゃ全然分かんないよ。
 悩んでる間にも大人達が勝手に話を進めてるし……大丈夫なのかなコレ。

 クロウの事だって心配だし、怒りんぼ殿下は最後の試練を受けてないし……
 ううう、考えることが山積みで頭が追いつかない。

 だが、そんな哀れな俺を余所に、どんどん話は進んで行ってしまう。
 最早拒否する事も出来ない段階になってしまっていて、俺にはもう、どうすることも出来なかった……。









※だいぶ遅れてしまいました…(;´Д`)スミマセン
 そんなわけで潜入です クロウと離れ離れ…
 
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