異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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亡国古都アルカドア、黒き守護者の動乱編

  傍若*

 
 
「うーん……なーんかしっくり来ないんだよなぁ……」

 頭を掻きながら、ブラックはブツブツとぼやく。
 外は既に日が落ちているようで、鎧戸のない開け放たれた窓からは王都の明かりと豪華な星空が見える。昼間はガチャガチャと色彩が煩い砂漠の街だったが、今の時間帯は暖色の明かりが暗闇に灯るだけの穏やかな姿を見せている。

 そんな風景にふと目をやると、今まで脳内を支配していた面倒な事柄が失せた。
 だがそれは、決して幻想的な街に見惚れたからではない。
 ブラックの思考は基本的に冷めていて、それでいて限界までひねくれていた。

(……獣人どもってのは色が恋しいのか、バカみたいに鮮やかな服や掛け布ばかりぶら下げて目に痛いったらなかったけど……こういう夜の風景は、好ましいな)

 好意の欠片も無い感想だが、それでも現在の風景には素直に感心する。
 異国情緒、とでも言うのだろうか。
 建築様式はハーモニック連合国のものと似ているが、しかしこちらは独特な灯りを用いているおかげか素朴な感じを覚えた。

(まあでも、ツカサ君はどっちだろうと喜ぶんだろうけどね)

 例え下品に思える色彩だろうが、とことん相手に見下されようが、ツカサにとってはこの世界の全てが興味深いものなのだ。
 十七歳と言うくせに、その言動は世界を認識したばかりの子供のような無邪気さで、思い返すだけで笑ってしまう。だが、そうして目に見える物を楽しみながら、ブラックにキラキラした目を向けて来る姿は、愛おしい。

 八方美人なせいであちこちに意識が飛んで、やることなすことが飛び飛びになってしまいがちだが、ブラックとしてはツカサのそんな子供らしい所も好ましかった。
 それだけ、自分の隣に居て自由で居てくれているということなのだから。

(…………この大陸に来てからは、そうでもないけどね……)

 そう思うと急に見ていた風景も面白味が無くなり、ブラックは再び歩き出す。
 向かうのは、無論自分達が通された客間だ。そこにツカサが寝ている以上、他に行く用事のあるところなど無い。ブラックにとっては、ツカサがいる場所へと向かうことが最優先事項だった。

「はぁ……それにしても、ツカサ君たら大丈夫かなぁ。……まあ、そもそも体が“元の状態に戻る”っていう能力じゃ、そりゃ今日みたいに一日で戦いだの会議だのやってたらどう頑張っても寝落ちするけど……まだ寝てたりしないよな……?」

 一人ごちて、客間へ向かう廊下を迷わず曲がる。
 誰ともすれ違わない薄暗い王宮の廊下は、装飾の豪華さも相まって冷たい怖さを感じさせる。ツカサなら間違いなくガタガタ震えるだろうなと思い少し苦笑しながらも、ブラックはツカサの弱さを今一度振り返って腕を組んだ。

「さすがに寝落ちはナイなぁとは思ったけど……ツカサ君は、そもそも戦いとは無縁の世界の普通の子……っていうか凄く弱いんだし……それを考えたら、今日一日で久し振りの曜気譲渡に戦闘にってことで、限界になるのも仕方ない事なんだけど」

 そうはいえど、この程度の振り回され具合なら前にもあった事だし、日数が空いたとはいえ、ここまで我慢出来ずに倒れてしまうほどだろうか。
 いや、第一の試練でも振り回されていたから、仕方のない事なのかも知れないが、今日のツカサの唐突な寝落ちは少々不思議に思えたのである。

(まさか、アッチの世界に戻りまくってるから、体がなまって力が下がったとか……? でもそんな異世界人全てがツカサ君みたいにクソザコとは思えないけど……)

 ツカサが持っていた「教科書」というモノで見た限りだが、文明の確立度に関しては“こちらの世界”よりも洗練されているように思える。戦闘を元にした文化が存在している所からしても、恐らく異世界人全てが脆弱と言うワケではないだろう。

 しかし、運動音痴で筋肉量も子供特有のぷにぷに感に負けているツカサが危険な事に遭わず平穏に暮らしている世界なので、精神を甘やかすような生温い生活ではあるのかもしれない。

「うーん……精神力は僕とセックスすれば回復するからイイだろうけど、体力がなあ。前より鈍ってるなら、流石に作戦も少し変更しなきゃいけないかも」

 ツカサを見送った後も、獣人達と数時間“会議”で話し合った。
 国の一大事となれば相手が見下す対象である人族でも構わないのか、それとも場の全員がブラックを“ただものではない”と認識したのか、特に因縁を付けられる事もなく、話し合いは滞りなく進み、結果が導き出されたのだが……――。

(今から二人で行動……ってのは嬉しいんだけど、ツカサ君が弱ってるのなら今後の行動も難しくなってくるからな……無事潜入できたとして、その後もずっと一緒に行動出来るワケじゃないだろうし……)

 作戦、と言っても別に頭を捻って絞り出したような妙案ではない。
 どちらかといえば、破れかぶれの特攻に近い気がする。

 それを全員が理解していても出した結論は、やはり人族である自分達が敵地へと潜入し、先頭で昂ぶっている彼らを欺き情報を入手すると言う作戦だった。
 なので、文官が人族の名簿を写し次第、即座に磊命神獅王(胡散臭いデカ獅子男)の所へ戻って人選を行い敵地へ潜入しなければならない。“骨食みの谷”の制圧が知られていたとしたら危ういが、たかだか数時間では敵も周囲に散らばった人族を確認する暇はないだろう。

 特殊な能力を持っていたとしても、適当にかき集めた数百以上の雑兵全ての名と姿形を覚えるのは難しい。それが可能なのは、自分のように「ばけもの」とでも呼ばれるような、頭のどこかしらの弁が壊れた人間だけだ。

(相手が【幹部】という役職を作って、各所に配置して居れば別だったろうが、あの谷を襲撃しても【幹部】が存在しなかった時点で、組織としては未熟なものだと推測が立った。……普通、大規模な雑兵を使うなら首領より下の重要な役職を作る。それを怠っているというのは、相手が今まで組織立った動きをしたことがないということだ。ならば、僕達にも潜入する機会はある……とは思うんだけど……)

 にしても、不可解だ。
 人族を取り込み暗躍する能力はあるというのに、その組織図はあまりにもお粗末でスカスカだ。幹部を各地に配置できていない時点で、戦争の作法を全く知らないのだと分かる。今日日盗賊ですら大規模になると「副官」を置くと言うのに、谷に居た者達を捕えた時に全くそういう話が出なかったというのも、かなり妙だった。

 もしや、一見雑に見える組織を作って敵を攪乱しようとしているのか。
 それとも、本当に人をかき集めただけの無知な暴徒集団なのか。

(どちらにせよ、もう既にヤツらの計画の一部だろう『古都・アルカドアの征服』は完了してしまっている。稚拙だろうが何だろうが、一つ成功してしまえば小さな失策なんて目に入らないで進んでしまうだろう。……もしも相手が暴徒なら、尚更)

 だからこそ、付け入る隙があると踏んだ。
 ……実際は、あちらに戻って見なければ何とも言えないのだが、ともかく本来外様の自分達が出来ることはそれくらいしかない。

(とはいえ、本命は別の作戦だしな。僕達はいわゆる捨て駒みたいなモンだし、なら付け入る隙が無かったとしても別に良い。駄熊どもには遠い所で働いて貰って、僕とツカサ君はゆっくり骨休めでもさせてもらおう)

 もとより、潜入作戦は望み薄な作戦でもある。
 なので、ちゃんと相手に対抗するための本命の作戦も作られていた。

 それが駄熊とバカ王子を使った作戦なのだが……。

(あからさまに殺意を向けてた自分の血族の領地に行って、駄熊も大丈夫なモンかねえ。メイガナーダの本家には、先代当主の娘が保管してたっていう古代の遺物や資料が有るらしいけど、それがアルカドアへの侵入経路を見つけられるかどうかは謎だし、そもそも現当主に恨まれてる感じの駄熊が行って良いのか? 国王に提案された時にゃ、あのバカ王子ですら微妙そうな顔をしてたのにな)

 他人の家の事情に首を突っ込む気はないし、駄熊がそれによって死ぬかどうかも正直知ったことではないのだが、こんな所で劇的に死なれるとツカサの心に永遠に残ってしまうので色々と困る。

 ただでさえあのナルラトとか言う鼠人族のせいで、ツカサを庇って死んだ鼠人族の事をツカサが忘れられないでいるのに、これ以上“特別”など増やされたくはない。

 なので、死んでほしくは無いのだが――。

「何考えてるのか知らないけど、あの駄熊が自分で行くって言ったんだし……ま、僕が心配しても仕方ないか。散々巻き込まれてるってのに、これ以上駄熊どものお家騒動に関わってたら、セックスする時間もなくなっちゃうよ」

 ただでさえ、最近は移動やら何やらでツカサとセックスする時間が無いというのに、これ以上面倒事を背負いこんだら、もうこの大陸では何も出来なくなる気がする。
 そのことが一番憂鬱で、溜息を吐いて立ち止まると――――何やら、進行方向の先から微かな声が聞こえてきた。

(これは……)

 この先を右に曲がれば、中庭を囲む外回廊に出て、客間へと戻る事が出来る。
 ブラックは気配を殺しながら進み、中庭が良く見えるようにと柱が立ち並ぶ回廊の柱の陰に隠れながら、その声に近付いた。すると。

「あ゛っ、ぁ、あぁあ゛あ゛、も゛っ、ゃ゛あ゛っ、ひぐっ、ぅ、うあぁあ゛っ! く、ろ……ひぐっ、う゛っ、くろ、ぉっ……や゛らっも、イ゛ぎだぐなぃい……っ!」

 濁音混じりだが甲高い、オスの欲望に直接響くような鳴き声。
 涙混じりの子供っぽい懇願を聞いて、つい反射的に股間が動いてしまったが、己の愚息を叱咤しつつ更に声へと近付く。

 中庭の、ちょうど中央部。周囲からは植物で隠れた場所で、その淫猥な行為は繰り広げられていた。……恐らく、一刻以上前から。

「ん゛ぅ……ッふ……フーッ、ふぅうっ……んグッ、グゥウッ……」

 大人のオスのみっともない興奮した吐息に混じる、決して人族ではありえない獣の唸るような声。素直な悲鳴とは対照的に抑え込まれたその反応は、現場を見れば「ああ」と呆れて納得してしまうものだった。

 大の大人が庭の長椅子の前で座り、ペニスだけを出して扱きながら目の前の少年の股間にむしゃぶりついている。
 少年は涙と鼻水とよだれで顔をどろどろにしながらも、強烈な快楽に汗ばんだ体をビクビクと痙攣させ、必死に「もうゆるして」と懇願していた。だが、たぶんもう正気は失っているだろう。でなければ、恥ずかしがり屋の彼がこうも蠱惑的な嬌声で素直に叫ぶはずも無い。

 きっと、何度も何度も未熟な子供おちんちんを舐めしゃぶられて、快楽に頭が焼き切れてしまい、子供そのままに懇願するしかなくなったのだろう。
 片足が、彼のズボンによって椅子の肘置きに固定されているところからして、逃げる事も出来ずにただ足を開いて吸われるしかなかったに違いない。

 その事を思えば、目の奥で激しい怒りが湧いたが――――同時に、目の前でオスに嬲られてドロドロに理性を溶かしたツカサに対して、興奮してしまっていた。

(あぁ……ツカサ君、そんな顔しちゃって……こりゃもう五回以上は絞られてるなぁ。イッてもイッてもクソ駄熊に舐められ続けるから、つらくなってヤダヤダしてるんだ? ふ、ふふ……本当、ツカサ君のそういう快楽に弱い所って可愛いよなぁ)

 痛みには強いくせに、ツカサは快楽にとても弱い。
 快楽に負けるのはもちろんだが、その「負ける自分」に対して酷く羞恥を感じ、痛みよりも簡単に心を折られてしまうのだ。

 その心を折られた時の、今みたいな「もう許して。いきたくない」と子供のような懇願をする可愛らしい様が、オスの嗜虐心を煽る。
 普段は意地っ張りで「俺は大人だ」と豪語する癖に、それが崩れると泣きじゃくって、幼く無垢な本性を曝け出す。だから、たまらない。

(今ツカサ君を犯したら、どんな顔してくれるかなぁ……。慣らしてないし、久しぶりの挿入だから意識飛んじゃうかな? ふっ、ふはっ……た、試したいなぁあ……)

 ついよこしまな考えがよぎる。
 だが、愛しい者が快楽に犯されてよがり狂っている姿を見れば、誰だってそう思うだろう。……思わないかも知れないが、他人の感覚など知った事ではない。
 なにより、今までずっと我慢していた分、ブラックの性欲はお世辞にも理性的な抑止が働いているとは言い難かった。

 ツカサと愛し合いたい。犯したい。
 その欲情を、駄熊どもの問題がこじれてこれ以上面倒にならないようにと我慢して来たブラックの理性は、そろそろ決壊しそうだった。

「らぇっ、ぇ、ひぐっ、ぅ、うぇえぇっ……も、ぉっ、れな゛ぃっ、せぇ、えきっ、ひっ……でなっ、ぃ……っ、ぅ゛、ぅあぁあっ! ぇ゛らいっ、ぃ、あ゛、あぁああ……!」

 ――――その悲鳴と、吸い上げる音を聞いて、ブラックはハッと我を取り戻し、いやいやと首を振る。ここで理性を失うのも良いが、そうなると駄熊と変わらない。
 “二人きり”という最大の機会をせっかく勝ち取ったのだから、ここは大人的な打算を働かせて、理性的で居るべきだろう。

 正気に戻った時に罪悪感に駆られる可愛い恋人を、それとなく追い詰めて円満にセックスしてもらえるように譲歩させるのだ。
 これほど打ってつけな状況も有るまい。

(今の温い快楽より、明日の凄まじい絶頂だよね……!)

 そう思い自分を奮い立たせて……いや股間は理性で鎮めながら、ブラックは二人が淫猥な行為を繰り広げている場所にゆっくりと近付いた。

 ……相変わらず、駄熊は「じゅる、ぢゅぶっ」と、いやらしい音を立てながら、ツカサの稚茎に吸い付き啜っている。その上、興奮のあまり自慰まで行っているのを見るとそのむさくるしい頭を蹴り飛ばしたくなるが、そうするとツカサにまで被害が及ぶのでぐっと堪えて近付く。

 と、勢い余ったのか何度目かも分からないツカサの絶頂に合わせて、浅ましい駄熊が勢いよく白濁を飛び散らせた。

「うえっ、汚なっ」

 つい正直な感想を漏らしてしまうと、あと数歩ぐらいにまで迫っていた駄熊がビクッと分かり易く体を震わせて、ツカサの稚茎から口を離した。
 だが射精は自力で止められるものでも無いのか、駄熊の精液は凄まじい量を地面に吐き出す。……獣人は、メスを確実に孕ませるために半日ほど閨に籠り、その間に凄まじい量の精液を注ぐと言う話だが、そんなことはどうでもいい。

 とりあえずイラついたので、ブラックは殺意を籠めて相手の顔を殴った。

「…………死ねッ」
「グゥッ」

 間抜けな会話だが、わりと本気で強めに殴ったので駄熊は床に倒れる。
 つい反射的に行動してしまったので、怒られやしないかと慌ててツカサを見やったが、彼は何度も射精させられた事で意識がほぼ飛んでいたのか、最後の射精と共に気絶してしまったようだ。

 念のため軽く頬を叩いてみたが、ツカサはぴくりとも反応しなかった。
 その液体塗れの寝顔は、凌辱の限りを尽くされたかのようにも見えて再びブラックの股間が膨らみそうだったが、なんとか抑え込んで片足の拘束を解く。
 すると、ツカサは力なく椅子に体を横たえたのだった。

「ふぅー……後でお風呂で綺麗にしてあげるねツカサ君」
「ぐ……ぐぅう……ブラック、戻ってきたのか……」

 ツカサに話し掛けている横で、しぶとく駄熊が起き上がり話し掛けて来る。
 そのまま精液塗れの肉棒丸出しで気絶でもしていればいいものをと思ったが、今は相手を貶めている場合ではない事を思い出し、ブラックは舌打ちをして答えた。

「ああ帰って来たが? おかげでこっそり人の恋人を喰おうとしている不届きな駄熊を見つけられた」
「ヌ……す、すまん……二回だけのつもりだったが、ツカサの精液が美味過ぎて五回も貪り食ってしまった」
「なに勝手に人の恋人食い荒らしてんだ……っていうか、回数が二倍どころの話じゃねえじゃねえかぶっ殺すぞ」
「返す言葉も無い」

 そう言って反省しているようなそぶりを見せるが、この男がツカサを喰うことで反省した事など一度も無い。むしろ、現在では正当な行為だと考えており、ツカサの稚茎を好き勝手に弄ることに対しては全然悪びれていなかった。

 それはブラックとツカサが「特別だ」と“食事”を許したのが悪いのではあるが、こうも堂々と盗み食い宣言をされると殺意が湧いてくる。
 やっぱり今すぐ殺そうかと思ったが、拳を握る前に相手が口を挟んできた。

「……それに、オレは……明日から、お前達とは別行動になる。だから、今のうちに思う存分ツカサを味わっておきたかったんだ」

 その言葉通り、わりと強めに殴った相手の頬は腫れてもいない。
 獣人は、人族と同じように曜気を「食って」治癒能力を高めるが、大食漢であるが故か、それともモンスターの血が作用しているのか、直接的に食ったりセックスをしたりすることで傷をも簡単に修復させるという。

 駄熊もこの例にもれず、元々頑丈なのがツカサを喰って強化されたという所か。
 ともかく、ピンピンしているのはそれはそれで殺意が湧いてしまった。ツカサが見ていない今のうちに始末しようかと思ったくらいだ。

 …………けれども、今の言葉には同情しないでも無かった。

「……下手すると、メイガナーダの代表に殺されるんじゃないのかお前」

 あの男の目は、憎悪どころか殺意を含んでいた。
 人族であれば実行するのも勇気が要って躊躇う所だろうが、相手は直情的な獣人だ。己の縄張りに敵が入って来るとなれば、嬉々として襲って来るだろう。
 ブラックにすらそう思わせるくらいの、あからさまな憎しみの表情だった。

 そんな男の領地に行くのだから、殺意を向けられた熊公がどうなるかを叶えると、殺されるという可能性は充分に在り得た。
 相手も予想はしているのか、ペニスを丸出しのまま神妙な顔で頷く。

「ありえなくはないな。……だから、最後になるかもしれないツカサを思う存分味わいたかったんだ」
「嘘つけ。お前があんなクソオヤジに黙って殺されるタマかよ」

 殊勝な態度が胡散臭いと睨むと、駄熊はフッと笑った。

「……まあ、タダでは死なん。それもあって、最後の晩餐になるかもしれないツカサを思う存分味わいたかったんだ。半殺しになる覚悟でな」

 さあ来いと言わんばかりに背筋を正す相手に、嫌悪感が湧く。
 この男は反省しているのではない。それだけ「美味しいこと」をしたのだから、もう何も怖い事は無いと開き直っているのだ。

 そういうナメた態度がブラックの神経を逆なでするのだが、今相手を殴ってもツカサの精液で気力充填したせいで、大したダメージは与えられない。
 さっきわりと本気で殴ったのに、傷一つついていないのだ。それを考えれば、制裁もバカらしくなってしまい、ブラックは大きな溜息を吐いた。

「馬鹿馬鹿しい……不毛な戦いをするほど僕は今元気じゃないんだよ。余計に疲れさせるな。さっさとその負け熊ペニスしまえクソが」
「ムゥ……半殺しはナシか……」
「残念そうに言ってんじゃねえよ八つ裂きにすんぞ」

 心の底から純粋な気持ちで「死ね」と思ったが、もう阿呆な会話にも疲れた。
 ツカサと一緒に風呂に入って癒されようと汁だらけの彼を抱えると、駄熊もゆっくりと立ち上がった。

「……真面目な話、メイガナーダ領に帰るのは気が進まない。殺されるか否かという話以前に……オレにとって、あそこは故郷と言うより忘却の地だ。……だから、余計にツカサに縋りたかったのかもしれない」
「…………」

 また、あの気配がする。
 感じたくも無い、あの己と似たような雰囲気が。

 けれど感情を逆立てる気分にもなれず、ブラックは眉間に皺を寄せた。

「まあ、タダでやられてやる気はないが……無事で帰れる保証も無い。だから、オレ自身を奮い立たせるために、ツカサに甘えたんだ。……甘え過ぎて、少々やり過ぎてしまったが」
「少々どころの話じゃねえだろクソ熊」
「ムゥ……まあ、なんだ。今の話は、ツカサには内緒で頼む」

 言われなくても話す気など無い。
 これから二人きりで潜入すると言うのに、余計な心配をさせてツカサの意識を奪うような真似などされてたまるか。
 そう思いぶっきらぼうな返事をして歩き出したブラックに、背後の相手は何も言わず同じように歩き出した。そういえば同室だったので、これは仕方が無い。

 が、まさか風呂場にまで付いて来るんじゃなかろうなと思い、ブラックはツカサを横抱きにしたまま軽く後ろを振り返って釘を刺した。

「僕とツカサ君の入浴時間に割り込んでくんなよ」
「言われなくてもしないから安心しろ。オレも満腹で気分が良いからな」

 何故上から目線で譲歩した感じを出して来るのか謎で、ブラックの中で殺意が急激に上昇するが、しかし何とか抑えて客間に入った。

(あ~でもイライラするなぁ……。こんなやらしいツカサ君も見ちゃったし、こうなったらもう、洗ってる間にちょっとくらい好きにしても良いよね? ツカサ君だって、僕に体を洗われるのに嬉し恥ずかし申し訳なしって感じだったし、ご褒美くらい貰わないとね)

 そのイライラは勿論下半身のイライラとも直結しているので、妙に居丈高な駄熊に対しての怒りよりも、ツカサの痴態に対しての興奮の方が強いかも知れない。
 むしろ、その興奮のせいでイライラしているのだろう。そうに違いない。

 そう考えながら、ブラックは気絶したツカサを抱えて風呂場へ向かい――――その後、たっぷり時間をかけてツカサの体を洗い、散々に欲望を発散したのだった。


 ……その間ツカサは全く起きず、ずっと眠ったままで良いようにされていたが、まあ本人も知らない方が幸せだろう。









※ツイ…いやXで遅れるかもとか言ってましたが
 だいぶ遅れてしまいました…_| ̄|○スミマセン

 
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