異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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亡国古都アルカドア、黒き守護者の動乱編

36.遠い日の残影1

 
 
   ◆



「え……あれ……?」

 厨房に入って食糧庫を確認した瞬間、変な声が漏れてしまう。
 無意識すぎて気付くのにワンテンポ遅れてしまったが、俺の様子に気が付いたのか、ブラックが「どうしたの」と近付いて来る。

 振り返って目を瞬かせる俺に、不思議そうな顔をしたものの、俺と同じように食料庫を覗きこみ――――やはり、不可解そうに顔を歪めた。

「これは……どういうことだ……? ツカサ君、今までこんなのあった?」

 問われて、首を横に振る。
 俺の記憶が確かだとはハッキリ言えないけど、でもこれは明らかに変だと分かる。
 だって、ほぼ食料が無かったはずの部屋の中には――――

 何故か、先程までは見つからなかった果実や小麦粉などが無造作に置かれていたのだから。

 …………こ、こんなのあったと言われても、無かったに決まってるんだが……。

「さっき見た時は無かったのに、なんで……」

 呆けている俺を入口の前に押さえつけるように軽く肩を押してから、ブラックは中に入って増えた食糧を確認する。

「……この果物、獣人大陸に流通してる独自のものじゃないね。僕達の大陸で流通しているものだ。小麦粉や調味料なんかも、見た事が有る包装だね」

 確かに、ブラックの言う通り置かれている食糧には見覚えがある。
 というか見慣れたものだと言っても良い。

 だけど、この獣人の大陸じゃ滅多にお目にかかれないはずなんだけどな。
 獣人は基本的に肉や酒ばかりだし、果物は【武神獣王国・アルクーダ】の限られた街でしか見かけない。人族の食料品となると、王都か居留区くらいなものだ。

 もしアルクーダの人族居留区で買って来たとしても、急に出てくるのは変だよな。

「これ……どっから出てきたんだろう……?」
「恐らく、冒険者たちの装備と同じであらかじめ用意されていたものだろうけど……今出してくるってのが解せないね」

 そうそう、この大陸じゃ曜気がほとんどないから、冒険者たちは曜気を充填させた【宝珠水晶】ってのをつけた杖や武器を使って曜術を出してるんだよな。
 ソレも、相当な在庫を持ってるから、バカスカ打って陽動出来てるんじゃないかって話はしてたけど……そうか、考えてみれば食料もありえるよな。

 けど、船から降りてかなりの日数が経過してるのに、腐ってないのはおかしい。
 ……果物とかって、居留区に売ってたかな……?

「えっと……罠とか、毒が有るとか……」
「……そういう感じはなさそうだね。本当に普通の食糧だ。もしかすると、さっきの犬が持って来たのかも知れないけど……それにしても、妙だな……」

 毒は無いのか。
 まあ、この状況で毒を入れてどうするんだって話ではあるし、ブラックもロクも毒には耐性があるし、俺は時間経過で回復するからたぶん平気ではあるけど。
 それに、精神異常系じゃなきゃ、たぶん俺の血を飲ませたらなんとかなるだろうし。

 ――――色々考えては見たが、結局考えていても始まらなかったので、とりあえずこの食材で料理を作る事にした。

 ロクが「毒がないかみる!」とせがんだので、使う食材をちょこっとだけ味見させたけど、まったく普通の食材だったしな。

 ……というわけでお料理第二弾は……フルーツクレープだ。
 牛乳もタマゴもないので、生地は砂糖と水と粉のみの「なんちゃって」だが……ま、まあ、出来ない事はないだろう。

 で、何故にクレープかというと、材料的に考えて簡単に作れて量産できそうなのがソレしかなかったのだ。生クリームが無いのが悔やまれるが、ソースでなんとかするしかない。というわけで、俺達はせっせと遅いおやつを作る事にした。

 夕食後の食事なのだから夜食かデザートなんだが、夜に甘いものってなんか、親にコッソリ隠れてお菓子を食べるようなドキドキ感があるよな。

 一番体力が要るクレープは、火加減の達人ブラックに任せて、俺はフルーツなどを切ったり煮込んだりして具を作る作業に没頭する。

 ロクも小さな体でヘラを持ち、パタパタ飛びながら鍋を掻き回すのを手伝ってくれたので、比較的早く用意をする事が出来た。いやあ、ロクが手伝ってくれたおかげだなこれは。ありがとうのナデナデをいっぱいせねばなるまい。……背後から「僕は?」という痛い視線がビシバシ当たってる気がするが、気付かないふりをしておこう。

「ふー……。それじゃ、まずはロクに食べさせてやらないとな」

 とは言いつつ、ロクのぶんとブラックの分の皿を用意して、俺は二人がそれぞれに選んだ果物を選んでクレープ生地の上に置いてやる。
 視線は無視したが、ブラックもたくさん頑張ってくれたしな。

 食べやすいように巻いて渡すと、二人は嬉しそうにクレープに噛り付いた。

「ん~、果実だけのクレープっていいねえ! えへへ、生地に弾力があるし、とっても美味しいよツカサ君~」
「キュ~!」

 はぐはぐと音が出そうなくらい嬉しそうにパクつきつつ、ブラックとロクちゃんは満面の笑みを浮かべる。特にブラックは、果実の甘さに満足げな表情だった。砂糖とかのガッツリした甘さより、こういうのが好きなんだもんな、ブラックって。

 今回は砂糖も少なくて、牛乳やらタマゴやらのないクレープモドキだが……簡単な料理でもこうして喜んでくれるから、なんだかんだ甘くなっちゃうんだよなぁ……。
 ……ま、まあ、面と向かっては言えないけど……それはともかく。

 ホントは、二人の為にもう少しこだわった物を食べさせてあげたかったんだが、今はこれが精一杯なので申し訳なくもある。
 早く諸々を解決させて、ブラックやロクだけじゃなくクロウも休ませてあげたいな。

 そのためにも、何とかここでサクッと重要な情報を持ち出さねば。

「食べ終わったら、あっちのクラウディアを呼んで来よう。ロクは、飛んで貰う時が来るまで部屋で休んでて良いからな」

 今まで頑張ってくれてたんだから、今日くらいはしっかり休んでほしい。
 ケシスさんが味方だったとはいえ知らない人の所では緊張しただろうしな。

 そう言って頭を撫でつつ、俺とブラックはひとまずロクを部屋へと戻すと、その足で黒い犬のクラウディアを探すことにした。
 同じ階でぶらぶらしていると言ったけど、どこに居るんだろうか。

 廊下を歩きつつ、今は誰も居ない兵士達の部屋に人の気配が無いかと見渡す。
 すると、ちょうど階段のところでこちらに上がってくるクラウディアの姿が見えた。

「あの、どこに行ってたんです?」

 問いかけながら近づくと、クラウディアはこちらに歩いてきつつ僅かに苦笑したように眉と口だけを歪める。

「すまんな、少し……下を確認したくなって。夜食が出来たのか」
「あ、はい……」
「では、手間をかけるが俺の部屋まで持って来てくれ。ああ、それと……そこの赤い髪のきみ、申し訳ないが【教導】の所へも少し持って行ってやってくれないか」
「……!」

 俺達を離れ離れにするつもりか――と内心緊張したが、しかし相手は何かの意図が有って故意に俺達を離れ離れにしようとしている感じではない。
 ただ本当に、おすそ分けをしてくれと言っているようだった。

 相手の態度に聡いブラックも同じように感じたらしく、俺が振り返ってもただ頷くだけで、何とか回避しようという雰囲気ではない。
 とりあえず行ってみろ、ってことか。

 俺としては、例の【教導様】に単独で会うブラックの方が心配なのだが……大将に「お願い」されてしまっては、傭兵の俺達が断る余地など無い。
 待たせてないように手早くクレープ一式をまとめると、クラウディアと一緒に上階へとあがり二手に分かれた。

「アイツにやり終わったら、こちらに来ると良い」

 クラウディアの言葉に、ブラックは頭を下げて背を向ける。
 ……ブラックを遠ざけないってことは、やっぱり変な事は考えてないのかな?

 いや、でも、油断は禁物だよな……。
 気を緩めずに相手をしなくては。あとコケないようにしなくては。

 ああ、こんな事になるならロクを懐に入れておけばよかった……戦わせる気なんて微塵も無いけど、ロクがそばに居てくれたら安心するじゃん! 可愛いじゃん!!
 ワンチャンは居るけど敵だしデカいしいいいい……。

 なんて思っていると、不意に視界に手が伸びて来た。

「……やはり重いか? どれ、持ってやる」
「えっ、え!? あ、い、いえ、あの」

 突然の腕に驚いてしまいテンパるが、そんな俺を気にすることなくクラウディアは俺が持っていたクレープと果物が入った箱を軽々抱えてしまった。
 た、大将がそんなフランクでいいの。

「気にするな。俺がやりたいからやっただけで、お前が臆する事は何も無い」
「で、ですが……俺は雇われた身で、貴方は大将ですし……」

 さすがにこれはマズいだろうとつい顔を歪めてしまうが、相手はそんな俺を見て――――何故か、表情を緩めて微笑んだ。

 まるで、何か懐かしい物でも見るかのように。

「……気にするな。今は、身分など気にしなくても良い」

 その表情は……なんだか、知っているヤツにとても似ていて。
 どうしてそんな事を思うのか解らなかったけど、でも、悪い感じはしない。

 相手はマハさん達を捕えている悪い奴なのに、どうしてか……尾井川みたいな、昔からの友人のような感じがして、倒すべき敵のように思えなかった。










※やらなければいけない作業をしてたら
 風邪がぶりかえしました…
 完全に自業自得なんですが……
 すみませぬ…('、3)_ヽ)_
 
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