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邂逅都市メイガナーダ、月華御寮の遺しもの編
1.偉い人のそういう姿は見たくない
しおりを挟む夜も更けて、地平線と接している空の際がゆるゆると明るくなってきた頃。
俺達が向かっている方向に、未だ灯りを煌めかせる眩い都市が見えてきた。
「おお……やっぱりロクは凄いなぁ~! あんだけの距離をこんな短時間で往復しちゃったよ~! いやあもう本当可愛いし凄いし強いし賢いし、ロクってば褒め所が多過ぎて俺困っちゃうよ~」
「グォオオオン!」
「ツカサ君もロクショウ君も褒め殺しって概念知ってる? ねえ知ってる?」
俺を抱えて背後で何か言ってるオッサンが煩いが、褒める部分がいっぱいあるのは真実なのだから仕方がない。俺のロクと守護獣ちゃん達は、見れば見るほど無限に可愛くなってしまう魅力の持ち主なワケだしな。
まったく、そういうところを全然分かってくれないんだからなぁこのオッサンは。
「だからツカサ君のモンスターを異常なほど可愛がる所の方がおかしいんだって」
「また心を読む!!」
だあもうどうしてブラックは俺の考えている事を読もうとするんだ。
もう何で読めてるのかは考えないにしても、ちょいちょいツッコミを入れて来るのが心臓に悪いんだってば。
つーかそんなに読めるんなら、俺が驚くのも毎回解かってるはずだろうに。
頼むからやめろと顔で示してみたが、ブラックは俺を見るなりほっぺにキスをし……ぐわーっやめろ! 空中でなにサカッてんだ!
「ちょっ、し、下にマハさん達がっ」
「んもう良いじゃないか誰も見てないんだし……僕がツカサ君を支えてるんだから、ちょっとくらいご褒美が有ってもいいでしょ?」
「ぐ……そ、そう言われると……」
なんとも言えないんだが……とか思ってると、不意打ちでまたもや頬にキスされてしまった。く、くそう、落ちないように抱えて貰っている手前拒否する事も出来ん。
「ん~、ツカサくぅんちゅっちゅ」
「声に出すな恥ずかしいっ!」
こいつ明らかに俺が恥ずかしがってるのを楽しんでやがる。
くそう、こっちは好き勝手にキスされて顔が勝手に暑くなるわ逃げたくなるわで大変な思いをしてるってのに……。
「グオォオン」
「ッ、ろ、ロク……あっ、もう降りるんだな!?」
「チッ……」
チッじゃない。チッじゃ。
でもまあこのキス地獄から抜け出せたので良しとする。ホッとしつつ周囲を見ると、街から少し離れた所にロクは降下していた。
これがまた降りるのもすごく上手で、羽ばたきは強いけどなるべく音を立てないようにして滑空してるんだよなあ。
しかも下には獣人さん一行のカゴがあるので、そのかごが砂漠に軟着陸するように賢く計算している。それを自分一人で考えて行っているのだから、やっぱりロクショウはこの世界最高に可愛くて賢いザッハークちゃんだな!
何故か俺が誇らしくなってしまったが、その間にロクは衝撃も何も無い完璧な着陸を披露すると、すぐさま降りた獣人達に平伏されていた。
うーん凄い光景。
……ロクを敬ってくれるのは嬉しいけど、水戸黄門を目の前にした町民達みたいに揃って砂漠に座って首を垂れる様はかなり異様だ。
「…………薄ら寒いからさっさとやめさせて移動しよう」
良い方は悪いが、正直ちょっとブラックに同意してしまった。
あと、まだ夜明け前で普通に寒いし、風邪を引いちゃうから早く王都に行こう。
――ってなワケで、小さな可愛いヘビトカゲモードに戻ったロクと俺達は、マハさんご一行と共に王都へ向かう事にした。
あの恐ろしいビジ族がいる“風葬の荒野”は既に抜けた地帯に降りたから、強襲の心配は無いんだけど、それにしても大人数は目立つ。
このまま王都の門をくぐっても良かったんだけど、そうすると都の人達が『この国に何かあったのか』と動揺するのでは……とマハさんが心配したので、今回は最初に王都・アーカディアへと入った時のように秘密の通路を使う事にした。
今回はクロウも水先案内人のシーバさんもいなかったけど、マハさんのおかげで楽に通路の入口を発見して開く事が出来た。
考えてみれば、マハさんは第一王妃だから国の事は何でも知ってるよな。
そもそもメスなのにオスを圧倒するほど強い女傑だし、美しい上にナイスバディだし腹筋が眩しい肉体美だし、そのうえ領主も出来ちゃう才女だもの。
いざって時は戦にも一緒に出るんだろうし、そう言う時のために秘密の通路や何かも一通り把握してるんだろうな。
……でも、それだったらどうして【古都・アルカドア】の地下通路のことは初めて見たような感じだったんだろう。
ブラックと一緒に助け出した時、マハさんは少し悔しがりつつ「城にこんな隠し通路が有ったなんて知らなかった」と言ってたんだよな。
アルカドアのことを調べていただろうマハさんも知らなかったってことは……通路の情報がどこかから漏れたってワケじゃなくて、あの【黒い犬のクラウディア】達が最初から通路の事を知ってたってことになるんだけど……。
「キュ?」
「あ、ううん。何でもないよ~」
いけね、まだ通路を歩いてる途中なのについ考え込んでしまった。
肩に乗ったロクに「どうしたの?」と顔を覗きこまれて、俺はニコニコしながら小さな頭を撫でる。ふふふ、目を細めて気持ちよさそうだ。
「そろそろ到着ね。私が先に出るから、みんな後からついて来て」
「はっ」
先頭を歩いていたマハさんが、俺達に振り返る。
地下通路の先は【王宮ペリディェーザ】の中だから、俺達が警戒されないようにしてくれるんだろう。ありがたいと思いつつ進んでいくと、そろそろ通路の終わりが見えてきた。その階段を見て、マハさんは俺達を留めると先に進む。
その、扉の向こう側で――――「きゃっ」という、マハさんの可愛い声がした。
「えっ可愛いっ……」
「ツカサ君なに言ってんの」
「ま、マハ様!?」
どよどよと周囲の人達が騒ぐが、ややあってマハさんが顔を見せた。
あれ、なんかちょっとソワソワしたような照れた顔をしているけど、どうしたんだろ。
「だ、大丈夫だ、問題ない。さ、話は通してあるから進んでくれ」
男勝りな口調だけど、でもなんか、なんというか……乙女が滲んでいる。
なんかこう、可愛さがあってついキュンとしちゃったんだが、どういうことだ。
気になりつつも、お城の人達と一緒に王宮へ入ると――――
「マハぁあああ……良かったっ、わ、わしっ、わしはお前に何か有ったらどうしようかと、どうしようかとぉおおおお!!」
「ちょっ、も、もうっ、ドビィやめなってば! 匂いづけしたいんなら後でやらせてあげるから、今はツカサ君たちの話を……」
「んおぉおおおマハぁあああああ!! みんな心配しとったんだぞおおおお!!」
………………。
……えーと…………。
王宮へ入ると……目の前には、奥さんの胸に顔を埋めながら抱きついて頭を拘束で左右に振り胸の谷間へ潜り込もうとしているドービエル爺ちゃんと、顔を真っ赤にしつつ、実はちょっとまんざらでもないのか強く拒否出来てないマハさんが……。
「……これは……何を見せられてるんだ……?」
唖然としているブラックの横で、俺もなんとか言葉を捻り出す。
「そりゃ、その……仲良し夫婦の邂逅っていいますか……」
「…………ねえちょっと剣抜いていい……?」
「えーと……やめような?」
正直俺もちょっとイラッとしたが、二人は夫婦なのだから仕方がない。
あとドービエル爺ちゃんがめっちゃスケベな事してるのに、ちょっとショックを受けている。……いや、そもそも爺ちゃんは女……メス好きって話を聞いているから、ホントはいつもこんな感じで、俺達が知らなかっただけかも知れないんだが。
だが、しかし……絶対コレは臣下に見せる光景じゃないだろ。
っていうか、なんか、ブラックに抱き着かれてる時の自分を見ているようで居た堪れない……う、うわぁあ……なんかもう俺が恥ずかしくなってきた……。
「もぉ、ドビィ!! 話が進まないだろ!?」
「ぬっ、あ、す、すまん……つい嬉しくて……」
やっと謁見の間まで帰って来たってのに、とんでもない所を見せられてしまった。
もう正直おいとましたい気持ちでいっぱいだったが、そんな俺達に聞かせるように「ゴホン」と咳を一つ漏らすと、やっと人間サイズまで大きさを戻せたらしい人型のドービエル爺ちゃんは俺達を見た。
「いや、その……皆のもの、本当にご苦労であった。……まず、お前達は牢での疲れが有るだろう。ゆっくりと休むがいい。……ツカサ達は申し訳ないが、我が妻と一緒に諸々のことを報告しておくれ」
「は、はい」
「ったくもう……ごめんね、この人会うたびにコレなんだけど、今回は酷くて……」
いやまあ、愛する人が急に捕らわれてしまったワケだから、気持ちは理解出来るんですけども。しかしその、やっぱインパクトがね、強すぎてね。
だって、ドービエル爺ちゃんは前国王で、今も代理とは言え国のトップだし。
そんな人が自分の奥さんの胸に顔をグリグリって……い、いかん、遠くなるな。気をしっかり持つんだ俺。
ともかく、今は報告だ。
何かもう色々気が抜けてしまったが、気を取り直して真面目にやろう。
そう思ったのに、隣のオッサンはというと。
「くそ……僕だって終わったらすぐツカサ君とイチャイチャしてやる……」
何故か変な対抗心を燃やしていた。
……いや、なんでだよ。
→
※新章です!
ま、まだ20分前なのでギリセーフということで……
今章からはクロウのことが色々…
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