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邂逅都市メイガナーダ、月華御寮の遺しもの編
貴方を心配しているから2
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またもや会議室にお呼ばれした俺達は、今度は海征神牛王、ナルラトさん、シーバさんやアンノーネさんと共に円で座り、国王陛下代理であるドービエル爺ちゃんの方を向いていた。
前回前々回の会議とは違って知り合いばかりだから少し気が楽だけど、チャラ牛王が爺ちゃんの隣に座っているので、まだまだ気が抜けない。
それはブラックを覗く他の全員が考えている事みたいで、みんなチャラ牛王のことをチラッと見ながら萎縮しているみたいだった。
まあそりゃそうだよな……この人、ドービエル爺ちゃんをして「大陸一強い」と言わしめるような相手なんだもの。しかもかなりの年月を生きているってんだから、そりゃあ普通の獣人からすれば神様みたいな扱いにもなろう。
……俺からすると、それでもセクハラチャラ牛王でしかないんだけども。
しかしこれは異世界人の感覚だな。自戒して真面目に取り組まねば。
改めて気合を入れつつ背筋を伸ばしていると、ドービエル爺ちゃんがチャラ牛王と顔を見合わせて軽く頷くと、ゆっくり口を開いた。
「みな、何も言わず待機させていてすまなかったな。特にナルラト、シーバ、お前達はそもそもわしの部下ではないのに、言う事を聞いて貰って礼を言う」
「い、いえ滅相も無い……! わ、私は元々“根無し草”ですし……」
「私の主はクロウクルワッハ殿下です。ならば、ドービエル前国王陛下に従うのもまた当然の事かと。主君の信じる存在を信じるのは、従僕として当然の事ですから」
いつもならぶっきらぼうな口調のナルラトさんと、ザマス口調で昔のス○オみたいな声のシーバさんは、普通の大人のような真面目な口調で頭を深く下げる。
こう言う所で「仕えていた人」なんだなぁと感じるが、ナルラトさんは基本的に公の場には出てこない職業のせいなのか、だいぶ慌てたように返していた。
ここは兵士と間諜の違いなんだろうか。
いや、そもそもナルラトさんは、暗殺やスパイをやるってことで、獣人からは下賤な職業だと見下されていたんだっけ……そういうのもあるんだろうか。
毎度のことながら、重要な役目なのに酷く扱われる鼠人族の人達に悲しくなったが、今はそんな場合ではないと思い直して話の続きを聞いた。
「うむ……お前達の厚い忠義、ありがたく思うぞ。……特にシーバ、お前にはわしの息子の事で色々と悔しい思いをさせたのに、それでも誇りを持って頭を垂れてくれるのをわしは感謝しておるぞ」
「いえ……私は、クロウクルワッハ様のために単身人族の国に乗り込んで下さった、その尊き御心を知った時点で最早何の憂いも有りませんでした。陛下には、我が主クロウクルワッハ様へ捧げる忠誠と同じ心を捧げる覚悟です」
「……狼族は義に厚い。だが、お主達は本来なら自由の身だ。わしに礼儀を尽くしてくれるのは嬉しいが、あまり心を抑える出ないぞ」
「はっ……」
そっか、シーバさんは元々クロウの下で働いてた部下だったっけ。
クロウが追放されてからは、他の部下達と一緒に人族の大陸に移って、そのせいで色々とあったんだったっけか。で、王位を譲ってクロウを探しに来たドービエル爺ちゃんも悪い人族や……ギアルギンという偽名を使っていたエルフ神族のクロッコに利用されて、ボロボロになって……そんで、俺達と出会ったんだよな。
もう遠い昔の話みたいに思えるけど、その話を聞いて、クロウに心の底から忠誠を誓っているシーバさんは感激したんだろう。
なにより、クロウが大好きなお父さんだしな。立派で優しい人だし、だから爺ちゃんには何の恨みも無く素直に頭を下げたのかも。
いくらクロウを王族に戻したがっていたとは言っても、シーバさんも王族皆殺しまでは考えてなかったみたいだしな。
…………うーむ……何か一歩間違ったら、シーバさんも【黒い犬のクラウディア】と同じように、王族を憎む復讐者になってしまったんだろうか。
大事な人を失う辛さも、大事な人が傷付いて地に落とされる辛さも、きっとそれぞれ別の耐え難い苦痛だろうしな……。
そう思うと、シーバさんは寸でのところで留まれて本当に良かったと思う。
……だから、たぶん……裏切り者が居たとして、恐らくはシーバさんじゃない……はず……。ナルラトさんもたぶん違うだろう。
“根無し草”の鼠人族は暗い歴史を持っているけど、どうやら今までドービエル爺ちゃんに頼まれて動いていた部分もあるみたいだし、恨んではいない……よな?
チャラ牛王だって、別に王族に対しては何も思っていないだろう。
っていうか、他人を恨むとかそういうのもう超越してそうだよなこの人。
強すぎるワケだから、本気を出せば一人で爺ちゃん達王族と戦えそうだし。
それに、この人も獣人としての誇りを持ってるんだ。
裏でネチネチ何かを画策するってのは、それこそ反吐が出るだろう。
そうなると……ここに居る人は、少なくとも『三つの強い力に板ばさみになっている裏切り者』ではないってことなんだよな。
まあこれは俺の希望的観測も入ってるけど、少なくとも牛王は完全に白だろう。
この人が何らかの力に雁字搦めになってるハズもなかろうし。
ああでも【裏切り者】が居るなんて聞いたら、つい気になっちゃうよ。
疑いたくはないけど、でも人には秘密の事情ってもんがあるしなぁ……。
「それで……結果はどうなった?」
敬う気持ちは最初から持っていないらしいブラックは、いつもの口調でドービエル爺ちゃんに問う。その言葉にアンノーネさんがギッと睨んだが、爺ちゃんは「よいよい」と手で制してブラックに向き直った。
「うむ……まあ、簡単に言うと……話し合った結果、ちょっと揉めた」
「陛下、言葉に威厳が……」
「アンノーネ許せ……わしはもう、ここ最近威厳出し過ぎで疲れたのだ……。それでなくとも、代理だというのにここぞとばかりに働かされておったんだ、わしの可愛い妻達が居なければもう限界だったんだぞ」
そう言って肩を落とす爺ちゃんに、チャラ牛王が横でハッハと笑う。
アンノーネさんは呆れたような困ったような苦々しい顔をしていたが、今までの苦労は横で見て来たからか、何も言えないようだった。
まあそうだよなあ、怒りんぼ殿下が復帰するまでっていう約束で代理として体力も不完全なまま王座に戻ったと思ったら、色んな問題が出てくるんだもの。
そりゃどんな強い人だって疲れるだろう。
……だからって、あのイチャイチャラブラブモードを堂々とやるのはちょっと勘弁して欲しいが……そしてそれは横のオッサンにも言えることだが……。
「ツカサ君なに、どうかした?」
「い、いやぁなんでも……それで、その、揉めたって言うのは?」
「それがのう……わしのエチュ……ゴホン、エスレーンの【占術】と共に、ツカサ達が城で探ってくれた情報を話したのだが、そうするとまあ『ウチの一族は裏切り者などいない』とか『我ら血族に誇りを忘れた者はいないのでは』とか、そういう話ばっかりになってのう……」
「……つまり、あの【五候】連中に『裏切り者なんて居ない』一辺倒でゴリ押しされて、まともな調査も進められそうになく終ったって事か」
ブラックの身も蓋もない言葉に「ぬぅ」と爺ちゃんは熊耳を伏せる。
耳飾りがリンと鳴るほどに熊耳を伏せたので、アンノーネさんが慌てて「はしたないですよ!」と注意したが、爺ちゃんはもうそれに答える気力もなさそうだ。
俺達が仮眠している間、あの人達はよっぽど紛糾したんだろうなあ。
爺ちゃんのゲッソリ具合を見ていると、それは想像に難くない。
……まあ、爺ちゃん達“二角神熊族”は、誇り高い獣人族の中でも“武人”という事をかなり重要視している種族っぽいもんな。
暗殺計画を練ってた怒りんぼ殿下だって、結局はクロウとタイマンバトルするくらい卑怯な事をするってのに慣れてないみたいだったし……。
彼らは根っこの所がそもそも正直者なんだろう。
そんで、仲間意識も強いから、それを疑うような事を言われて怒ったに違いない。
けど……だからって、そこで「絶対に違う」と断言するのはちょっと早すぎるよな。
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つい顔を歪めてしまったが、ブラックのみならず他の人達も同じ顔をしていたのか、爺ちゃんとアンノーネさんは疲れた顔でハァと溜息を吐いて肩を下げた。
「彼らの気持ちは分かる……。まあ、エスレーンの【占術】も、大局を見る事については確かだが、彼女の気持ちが優し過ぎるせいで細かい人物については曖昧になる事も有る。それゆえ、彼らが反発するのも分からないでもない。しかし……今現在、我々が攻撃を受けていて、何者かが襲ってくる可能性が有るのだ」
「……しかも、相手は国が治める土地や人物に対して、確実に何らかの情報を得ています。それを考えれば、民を脅かされないためにも自分達の身辺を一度確かめてみるというのは、必要な事であるはずなのですがね」
二人が言うことも尤もだ。
信じたい気持ちは解かるし、怒るのも当然だとは思うけど、大事な人を守るためにも改めて自分の身辺は確かめておくべきだよな。
特に、今は緊急事態なんだ。
国を預かる立場の人間として、出来る事はしておかないといけない。
これが個人ってんなら……いや、でも、普通に誰も脅されてないよなって探るくらいはするよなぁ……悪い奴に利用されてる人が居るなら、助けたいし……。
うーん……あの【五候】の人達って、実は結構プライドが高いんだろうか。
プライドがあるのは悪い事じゃないし、自分の仲間を信用しているのは良いことだけども、ちょっと頑固っちゃあ頑固だよな。
武人であることを大事にするがゆえなんだろうか。
理解は出来るけど……なんとも難しい話だ。
「仲間思いなのは素晴らしいことですけど……もし【裏切り者】がいるとしたら、早めに手を打っておかないともっとその人が苦しむ事になりかねませんよね」
「うむ……あの【占術】の結果は、どうも力が強いものに抑え込まれているような印象を受けた。だから、目星だけでもつけたいのだがな……そこで、頼みがあるのだ」
ドービエル爺ちゃんの目が、シーバさんの方を向く。
思っても見ないタイミングだったらしく、シーバさんは驚いているみたいだった。
「シーバ、申し訳ないがアンノーネと共に再び故郷の【タバヤ】へ向かい、天眼魔狼王の【呪術】で我らの一族のことを聞いて来て欲しいのだ。……そしてナルラト、お前には、ツカサ達が聞いた“嵐天角狼族”の群れの動向を探って欲しい。我らの一族ではなくとも、何物かが接触してくる可能性が有る。……無ければ一番いいのだが、それを確信するためにも監視を頼みたい」
なるほど、あの城には“嵐天角狼族”の息子がまだ居るんだもんな。そこに数日後に帰ってくるって話だったんだから、その間に誰かが接触してくる可能性が有る。
実質、クラウディアの配下で今動いているのは彼らしかいないんだ。
もし何かしでかすとすれば、彼らが動く可能性が一番高い。
だから、ナルラトさんに監視を頼んだんだろう。
それに天眼魔狼王は【呪術】の使い手だし、それが何かの手掛かりになりそうだ。
目に見えない曖昧な結果だからこそ、同じように神秘的な能力を持つ存在を頼ろうとしているのかも知れない。
とはいえ、それも「かもしれない」って可能性だけだけど……。
「承知しました。何か動きがありましたら、俺……私の仲間を走らせます」
「私も、すぐにタバヤに向かいます」
同時に頭を下げる二人に頷き、それから爺ちゃんはこちらを見た。
「……ツカサ達にも、一つ頼みたい。我が息子達が向かった【メイガナーダ】領へお前達にも向かって貰いたいのだ。……今回の話し合いの中で唯一、メイガナーダの領主だけが欠席した。今回の話をあやつにも説明して来てほしいのだ」
「それだけか?」
ブラックの言葉に、ドービエル爺ちゃんは数秒黙ると、改めて俺達に向き直る。
その姿は、王様と言うよりも……父親のような雰囲気だった。
「……本音を言うと、息子達に害が及ばないか心配している。あの場所には、色々とあるからな……」
何が有るのだろう。
そう思ったが、その事は聞けなかった。
俺達の視線を集めるドービエル爺ちゃんは、少し寂しそうに続ける。
「本来なら、親としてわしが行きたいところだが、今の地位では王宮を離れられない。それにもし仮に、あのメイガナーダに裏切り者が居た場合……クロウクルワッハにも危害を加えられるかも知れん。……あの子は強いが、心が優し過ぎる。……きっと、抵抗は出来まい」
「だから、万が一を考えて俺達を……?」
「それもある。だが……一番は、お前達が“何かを掴んでいる”と思うからだ」
「え……」
それはどういう意味なんだろう。
目を丸くする俺達に、ドービエル爺ちゃんは力強く微笑んだ。
「まだ確信が持てぬか、それか“特別な力”ゆえに話せんのだろう。だが、お前達の顔をみれば、わしにも分かる。……恐らく、ツカサ達が今一番、真実に近い所にいるはずだ。その推測を形にして貰うためにも、向かって貰いたい。なにせ、あの場所には……わしのもう一人の妻、愛するスーリアと、彼女が遺した成果が眠っているのだ。もしあの【アルカドア】の城に秘密が有るとすれば、きっとそれが必要になる」
スーリア。
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……クロウのお母さんは、やっぱりスーリアさんって名前だったのか……。
今はもう居ない、名前を呼ぶ事すら躊躇われるほど悔やまれているのだろう女性。
その人が住んでいたのが、クロウが向かった故郷なんだ。
――――それは頭では理解していたはずなのに、爺ちゃんからスーリアさんの名を聞いて、何故かやっとそれに気付いたような感覚になった。
そうだ。……そうだよな。
メイガナーダ領は、クロウの故郷なんだ。
でも、そんな場所に行くのに、クロウは不安がって俺に元気を求めるくらいだった。あんなにお母さんの事を大事に思っていたクロウなのに、それでも最後に見たクロウは辛そうだったんだよな……。
自分の故郷なのに。お母さんとの思い出が有るだろう、思い出の土地なのに。
「…………」
「尊竜様と共に、すぐにメイガナーダに向かってくれ。……願わくば、そのような事態になっていないと良いのだが……」
爺ちゃんの言葉は、沈んでいる。
何故爺ちゃんが「優し過ぎて抵抗できない」と言うのかは、分からない。……いや、俺が分かりたくないのかも知れないが……とにかく、そんなクロウに危険が迫っているというのなら、答えなんて一つしかない。
「はい。……俺達が、クロウを守ります。どんなことがあっても」
そう言ってブラックの顔を見上げると、相手は渋々肩を竦めて頷いた。
いかにも「仕方なく」という感じだが、それでも俺はブラックがクロウのことを友人と思えるくらいに大事に考えている事は知っている。
だから、大丈夫だと再びドービエル爺ちゃんを見返すと、相手は泣きそうなような顔で少し微笑んだ。
「……あの子を、よろしく頼む……」
深く頭を下げる爺ちゃんに、俺達も誓うように頭を下げる。
ゆっくりと姿勢を戻すと、アンノーネさんが少し深刻そうに付け加えた。
「…………今、ここに居るのは……皆さんお察しだと思いますが、私と陛下、そして王妃様が【裏切り者】ではないと確信が持てた方々です。ですのでどうか、他の者にはこの事は他言無用お願いします。……今後、誰と会っても……彼らの言葉を信用しないようにしてください。……どこから情報が漏れるか、わかりませんから」
【五候】が機能せず、メイガナーダ領も不穏な状態になっている。
そんな状態で、素直に信じられる存在がこれだけしかいない。
分かっていたはずの事を改めて突き付けられて、俺は少し怖気が走った。
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なのに、今はそのほとんどの人が信じられないなんて。
――疑おうとするから信用出来なくなるのか、それとも信じたくても彼らが何も話を聞いてくれないから信じられなくなるのか。
考えれば考えるほどドツボに嵌りそうな状態に、俺は気が重くなったのだった。
→
※また遅れてしまった_| ̄|○ スミマセン…
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