異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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邂逅都市メイガナーダ、月華御寮の遺しもの編

15.心からの信頼を示す言葉

 
 
   ◆



 ――で、恥をかいた俺は早速ブラックとクロウを地下室に連れて来たのだが。

「チッ」
「…………」
「ツカサくぅ~んっ。んもうずっと呼んでくれないから心配してたんだからね!? もしかしたら、そんな服で出歩いたせいでクソオスどもに襲われて数時間たっぷりぐちょぐちょに犯されて動けなくなってるんじゃないかと思っちゃったんだからっ。もうっ!」

 ブラックが、またもや変な事を言いながら俺を抱き上げようとする。
 「もうっ!」じゃねえ。「もうっ!」じゃ。

 どんなヤバい想像してたんだお前は、っていうかその言い方心配してるってよりは俺がそうなってるの想像して興奮してたように思えるんだが。
 実際にそんなことになったら怒ってくれる……ゴホゴホ、お、怒るくせに、なんでそうエロオヤジみたいな妄想するんだよアンタは。

 必死でオッサンの間の手から逃れ、俺はバタバタ走って【緑化曜気充填装置】の裏へ回って恐る恐るオッサン三人の方へ顔をのぞかせた。

「いいから早くっ! 王都に敵がいつ来るかも分からないんだから!」

 クロウとブラックを連れて来た事に舌打ちをしてるオッサンも、伯父さんの前では気まずくて黙っちゃうクロウも、そんなこと完全無視してるブラックも正気になれ。
 今はとにかく、この機械を直してデハイアさんに一定の理解をして貰い、早いところスーリアさんが“遺物”を保管している部屋に連れて行って貰うのが最優先だろ。

 そのためには、この装置を早く真面目に調査して修理せねばなるまい。
 俺の簡単な説明でも、頭のいいアンタらならば充分に分かっているだろうに。

 ……だってのに、なんで三人とも何かほのぼのした目で俺を見てるんだよ。

「お、おい。なんだその目……」
「いやぁ、こっちをチラ見するツカサ君もいいなと思って……」
「ウム……」
「立派な妹仕草だな」

 最後!! 最後なにそれ!!

 妹仕草ってなに、考えるとゲッソリしそうだからそういうこと言うのやめて!

「い、良いから早くコレ調べてみてよ……!」
「あっ、じゃあツカサ君そこで僕のこと見つめててね」
「お前もか……いやもうそれくらい良いですけども」

 真顔で「うむ、いい妹だ」とか言わない分、まだブラックの方がマシかもしれない。
 ……まあ、過激な妄想でヒトを犯して興奮するオッサンと妹認定試験を勝手に開催してるオッサンじゃあ、どっこいどっこいなのかもしれんが。

 そんな中年のせいで途切れまくる緊張の糸を必死に繋いでいると、ブラックが俺のすぐ近くに跪いて、ようやく【緑化曜気充填装置】に触れた。

「ど、どう?」
「…………うん……ツカサ君が言ってた通り、確かにこれは【曜具】だね。……だけどモノとしては【空白の国】の遺跡にある未知の装置に近いかも知れない」
「え……そんなに古い感じなのか……っていうか、人族のと似てるのか?」

 調べ始めると真面目な顔になって装置を注意深く観察するブラック。
 ただ闇雲に触れているわけじゃなくて、スイッチになっている部分を見たりタイルの装飾を見て考え込んだりしている。

 俺はスイッチ以外のタイルは飾りだと思ってたんだけど、どうやらブラックは何らかの意味を見い出しているらしい。
 数分外装を確かめたブラックは、再び装置に手を触れてブツブツと呟き始めた。
 ……これは、詠唱だ。きっと金属性の曜術で、曜具の構造を把握するのだろう。

 邪魔をしてはいけない、と装置から手を離して隣に移動すると、俺はしゃがんでジッとブラックの横顔を見る。白くて綺麗な金の曜気がブラックの体を薄く包んでいるのが分かる。きっと、この光はクロウ達には見えていないだろう。
 ブラックも、この根を張り天井に枝を突き刺す橙色の曜気は見えていないはずだ。

 確かに術を使っているのに、この場では俺しか二つの光を見る事が出来ない。
 それが何だか不思議な感じがした。

 ――――ブラックがこうして金の曜術を使ってる所、すごく絵になるのにな。

 ……悔しいけど、その……真面目にしてると、やっぱり……格好いい、って言うか、年相応の大人でちょっとドキドキするっていうか……。
 …………と、ともかく、頑張っているブラックは素直に応援したい。

 【緑化曜気充填装置】に己の金の曜気を伝わせて、内部構造を探っている相手を見続けていると……数分経っただろうか。やっとブラックが目を開いた。
 菫色の瞳に白い光が移って、いつもより明るい色に見える。

 その色に不覚にもドキッとすると、ブラックが俺を振り返った。

 わっ、わあっ、急に振り返るな!

「な、ななななにブラックっ、どうしたっ」
「ツカサ君、結論から言うと……この装置は、別に壊れてないし不具合は無いみたいだよ。獣人達が不安がってたように、ただ曜気が不足してるみたいだね」
「やっぱりそうなのか……だったら、クロウにお願いすればいいよな。……でも、何でそんな風に難しい顔を?」

 やはり問題が有るのかと見返すと、ブラックは片眉を小難しげに歪めて「うん……」と気落ちしたような声を漏らして頬を掻いた。

「それが……構造に妙な点があって、完全に理解したと葉言い難いんだよね。人族の装置にはない、曜気とは別のなんらかのモノを蓄える部分が有るんだ。実際は、そっちの方が枯渇しかけてるっぽいんだけど……正体がサッパリ分からなくてね」
「曜気とは別……?」
「うん……何らかの非物質を蓄える場所だと思うんだけどね」

 ひぶっしつ。つまり、曜気みたいに「目に見えないけど存在するエネルギー」的な物という事だろうか。未知の物ならそりゃブラックが困惑しても仕方がない。
 けど、それって一体何なんだろう。そっちの方が枯渇してるって事は、ただ単に土の曜気を充填しただけじゃだめってことなのかな。

「それって……正体とか分からないのか?」
「お手上げだね。古代遺跡の資料が有れば、何とかなるかも知れないけど……」

 そう言ってチラリとデハイアさんを流し見てから、ブラックは肩を竦めてみせる。

「この曜具……いやキカイを理解していた者が書いた記録が有れば、どうにかなるかも知れないけど、でも見つけるのは難しいかも知れないね」

 ブラックは残念そうに眉をハの字に垂れて俺に「おてあげ」とでも言いたげなジェスチャーを披露した。色んな事を知っている相手がこう言うんだから、人族のものとは全く違ってるんだろうな……。

 しかし、ウチのパーティーで一番物知りなブラックがこうなると、もうどうすればいいのか分からない。土の曜気だけ充填させても、あと少しはもつだろうけど……それは恐らく根本的な解決にはならないんだろうな。
 “未知の機関”に“謎のエネルギー”を充填させなければ、このキカイは近いうちに完全に止まってしまうのだ。それじゃ助けた事にはならない。

 延命措置だけしても、デハイアさんは納得しないだろうしなぁ……。
 でも、だからといって前借りするみたいに「キカイを直したいから、遺物が保管されている部屋を見せて」と言う事も出来ないだろうし……一体どうすればいいんだ。

 頭を抱えてしまいそうな難題に、思わず渋い顔になっていると。

「……母上は、確か“砂狐族の御業”と言っていた」
「え……く、クロウ、知ってるのか?」

 顔を見るより先に声で判断して振り向いた俺に、クロウは頷き近づいてきた。

「子供の頃、オレをここに連れて来て教えてくれた。母上は、この装置を修理する時に、人族のオスにそう解析して貰ったらしい。それをアルカドアから持って来た書物と照らし合わせた結果、内部にある謎の構造は“砂狐族”の力を充填させ、その特異な力によって、このキカイで土の曜気を包み固定させ、この地に留まらせていると」

 つまり……砂狐族の謎パワーで、土の曜気が逃げて行かないようにコーティングを施しているということだろうか。
 謎パワーによって、曜気が留まっているとすると、それは確かに重要な機関だ。

 けどそんな難しい事を子供に教えるなんて、スーリアさんも中々ちょっと変わってる人だったんだな。いやまあ、クロウが理解出来ると思ったから教えたんだろうけど。

 なんにせよ、謎パワーの正体がすぐに分かったのは嬉しい事だ。
 でも……。

「その砂狐族って……たしか、王族が権力争いで殺し合って、最後は滅んでしまったとか書いてなかったっけ……」
「僕の記憶に間違いなければ、そうだね」
「あああああ無理ゲーじゃん! もう絶対充填できないじゃんかああああ!!」

 頭を抱えて叫ぶが、ブラックは何故か驚きも呆れもしない。
 というか、全然余裕ぶっている感じだ。なんでそんなに余裕なのか。
 これじゃデハイアさんに恩を売れないのに……と汚い事を考えつつ、ブラックが何も動揺していない事に疑いの目を向けると、相手は俺を見返してきた。

 な、なんだよ。いきなりそんな見つめて来て……。

「ム……どうしたブラック」

 クロウの言葉を手で押し留めて、ブラックは俺の方を掴んで座らせてきた。
 ぺたんと座ると、相手は菫色の瞳をヤケに真剣に光らせて俺を凝視する。何故にそんな真面目な顔をするのかと目を瞬かせると――――ブラックは、少し言い難そうに、俺に告げた。

「……枯渇したその“力”を充填するアテが、ないわけでもないんだ」
「えっ……ほんと!? アルカドアで何か掴んでたのか!?」

 そういえば、敵地に潜入した時もブラックは色々調べてたんだよな。
 だとするとソコで何か手がかりを掴んでいたのかも知れない。思わず顔を明るくしてブラックに期待の眼差しを寄せたが……何故か、相手は浮かない顔をしていた。

 どうしてそんな顔をするんだろう。
 不思議に思ったが、次の言葉で何故そんな顔をするのか理解した。

「…………だけど……その“力”のアテは……ツカサ君を、一度【支配】しないと……呼び出せそうにないんだ」

 呼び、出す。
 何を呼ぶと言うのだろうか。

 何だかよく理解出来なかったけど、それでもブラックが「本来ならやりたくない事」を行わなければならないのだから、絶対に【支配】しなければいけないんだろうなってのだけは、俺にも強く分かった。

 ……だって、ブラックって普段はちゃらんぽらんだけど、本当は優しいんだ。

 俺の事も真面目に大事に想ってくれているし、俺を自由にさせてくれている。本来ならグリモアが自由に行使できる【支配】の能力だって、俺をそんな風に扱いたくないと拒否してくれるくらいなんだ。

 だから俺は、グリモアに支配される存在なのに……今も、旅を続けていられる。
 ブラックは俺の事を考えてくれるからこそ、支配する事を嫌悪しているんだ。

 でも、だからこそ……。

「……いいよ」
「ツカサ君……」
「アンタは、俺の……恋人、だもん。それに……アンタのことは、分かってるから。何も、心配いらないって。だから、それが必要ならやってくれよ」

 そりゃ、絶対に優しく扱ってくれるってワケじゃない。
 ブラックは情緒がちょっと特殊なヤツだし、スケベなことが好きだから。でも、思いが通じてからは、そんな部分だけじゃないアンタをたくさん知ったんだ。

 ……知ったからには、信用出来ないなんて言えないだろう。

 だって、俺はアンタのヤな部分も怖い部分も全部ひっくるめて、この大事な指輪を貰ったんだから。

「ツカサ君、きみって子は……」

 あ、あっ、そのふにゃっとした泣きそうな顔やめてくれよ。そんな顔されたら、俺の方が恥ずかしくなって来るだろ。せっかくちゃんと、す、素直に恋人って言えたのに。
 アンタのこと信用してるからってサラッと言えたのに、そんなっ。

「う、うう……」
「すぐ終わらせるから! すぐに終わらせるからね!!」
「ブラック、その台詞じゃなんだかメスを襲ういやらしいオスみたいだぞ」
「じゃかしいクソ熊!! せっかくの良い雰囲気に水差すな殺すぞ!!」

 …………ああもう、しまんねえなぁ。










※ちょっと遅れました(;´Д`)モウシワケナイ…
 
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