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古代要塞アルカドビア、古からの慟哭編
4.ハイテク機器は突然に1
◆
今日は何故だかスッキリ目覚めたような気がする。
……いや、別にいつも寝起きが悪いってワケじゃないんだけど……今朝目覚めた感覚が、まるで久々にスッキリした感じだったというか……。
うーむ、俺も実は色々と心労が積み重なっていたのだろうか。
俺は謎鉱石のぬるぬるジェルに触っただけだが、もしかするとアレを長時間触っていたおかげで、俺も多少癒されたのかも知れないな。
なんにせよ、敵が押し迫るこの王都に戻って来たからには、いつ本格的な戦争が起こるか分からないんだ。ここで気合を入れ直さないとな。
――――しかしまあ、そんな状況でも朝俺達が行う事は変わりがない。
隣で寝ていたブラックと、その反対側で寝ているクロウを起こして、寝ぼけ眼の中年どもの髪を梳いて、朝の支度を一緒にやらせるのだ。
俺の可愛いロクショウはおりこうさんなので、自分でお支度が出来るのだが、こいつらオッサンどもは、いつまで経っても俺に甘えるので仕方がない。
ま、まあ……俺も……正直イヤってわけじゃないし……。
だから、今日も支度を手伝ってやっているのである。
緊迫した状況ではあるのに、日常になってしまったことを焦りもせずにやっていると言うのが何だか不思議だが、こういう時間も大事なのかも知れない。
誰だって、緊急事態になったら対処はしづらいもんな。来るかも知れないって覚悟を決めるだけの静かな時間ってのは大事なものだろう。
俺も戦に参加できるのかどうかは謎だが、大きな規模の曜術なら【黒曜の使者】の力で何とかなるし、いざって時は手助けできるかもしれない。
その代わり、普通の曜術みたいな細かい制御なんて覚えてないので、俺のチートは対人戦――しかも集団戦だとかなり使い勝手が悪そうな気はするんだが……。
…………うーん……薬師としての木の曜術を使いこなせるようになったら、あの力の制御もちゃんと考えなきゃな……。
今まで大規模な窮地に陥ったって場面ばっかだったから、とにかくでっかい曜術をイメージして発動すればなんとかなってたけど……人を巻き込まないようにする術は良く考えたらちゃんと使ったこと無かったし……これは今回は難しいかも知れない。
まあ、ドービエル爺ちゃんは俺の術の事を知っているし、今まで限られた人数での戦闘ばかりだった事は知ってるだろうから、不安定な俺の力を頼ることは無いだろうけども。……我ながらちょっと情けないが。
ともかく、俺も自分に出来る事を考えないとな。
そういえば昨日の夜クロウは出かけてたし、もしかしたらカウルノスと一緒に、外の様子を見に行ったんじゃなかろうか。ちょっと聞いてみようかな。
「クロウ、昨日王都の外を見に行ったりした?」
円形のデカくて豪華なカーペットの上、何度見たかも忘れた大量のクッションに背を預けつつ朝食をとる最中に、ちょっと尋ねてみる。
すると、クロウはちょっと目を丸くして「いや?」と首を傾げた。
どうやら思っても見ない問いだったみたい。となると、別の事をしてたのか。
目を瞬かせる俺に、クロウは朝の肉厚焼肉をムシャムシャしながら答えた。
「昨晩は、兄上と一緒に父上の所にいたぞ。話をしていたのだ」
「はなし……?」
何だろうかと思ったけど、内容については特に言及はない。
ってことは、俺には関係ない話っぽいな。クロウなら、俺に話すべき事はキチンと話をしてくれるだろうし。
そんな事を思っていると、ブラックが会話に割り込んで来た。
「外が気になるなら、今から見に行ってみる?」
「ム、わざわざ塀の上に登る必要はないぞ。外の様子なら王宮で見られる」
「王宮で?」
王都を囲んでいる巨大で分厚い防壁の上に登らずとも、ここで外の様子を見られるというのは解せない話だ。
どういうことだとブラックと顔を見合わせてからクロウを見やると、相手はどこか誇らしげにフンスと鼻息を漏らした。
「父上は、こういう時のために色々と対策している。人族と交流しているのは、オレ達では扱う事の出来ない技術や知識を得るためだ」
「交易の基本を今更なに偉そうに言ってんだ浅知恵クソ熊」
「防衛のために導入した人族の知恵は、かなりのシロモノだぞ。メシを喰い終えたら、行ってみようではないか」
こらこら落ち着けブラック。
何故か不機嫌なオッサンを宥めつつ、エッヘンと得意げな雰囲気をダダモレさせるクロウを見やる。こっちも無表情なオッサンなんだけど、胸を張ってフンスしてる姿に熊耳がピコピコ動いててちょっと堪えきれない。
ぐ、ぐうう……なんでオッサンにケモ耳が付いただけで「ちょっと可愛いかも……?」なんて思っちゃうんだろうか。世も末だ。
いや、それをすんなり許せてしまう暗いケモミミが正義だという事なのか。
ともかく、クロウの話では「王宮に居ながら、塀の外を確認できる“人族の知恵”」とやらを彼らは導入しているらしい。
もしかして【曜具】だろうか?
【曜具】はこの世界で言う魔道具で、曜気や曜術を籠めた様々な道具が存在する。例えばランプだとか湯沸かし器だとか、金の属性の曜術師が作成したそれらの道具は、人族の世界では当たり前に使用されているのだ。
だから、人族と交流しているこの王都にも在っておかしくはない。
この大陸にほとんど曜気が無くたって、その【曜具】に曜気が充填されていれば、何の問題も無く使えるはずだしな。
けど……外を見通せる【曜具】だなんて、そんな便利なものがあるのかな。
不思議に思いつつも、俺達は朝食を済ませてクロウに案内して貰う事にした。
どうやらその「外を見ることができるもの」については、クロウも昔から使用を許されていたらしい。まあクロウは元々王子様で大隊の隊長だし、隊長権限ってのはキチンと発揮されていたのだろう。
しかし、それならそれで部外者の俺達が見てもいいものだろうか。
……いやまあ、どっぷり関わっておいて今更な話ではあるんだけども。
「謁見室の近くに、この前のとは別の会議室がある。こちらは軍議や防衛対策を立てる際に利用するから、少し趣が違うぞ」
大理石に似た石材で作られている、何度通ってもキラキラしていて豪奢な廊下を、どこか誇らしげに解説しながらクロウは歩く。
王宮に帰って来た当初は引き籠っていたのに、今は堂々と胸を張っている。
その姿を見た王宮の人達は、ただただ頭を下げてすれ違うのみだ。
――――最初は「弱いから」だとか「追放されたから」だとかで、明らかに文官の人達も良い顔をしていなかったのだけど、ここ最近のクロウの活躍を聞いているのか、それともカウルノスに認められるほど強くなったことが知れ渡ったのか、いつの間にかクロウに対して蔑むような顔をする人は居なくなっていた。
実際にそれを目の当たりにすると、なんか凄く感動する……。
クロウが強い男だというのを、やっとみんなが理解してくれたなんて……俺も鼻が高いってもんよ。俺は別に何もしてないけど、俺こそなんだか誇らしい。
獣人は、相手が弱かったり「武人」として“なっていない”と、徹底的に見下す種族だけど、そのぶんちゃんと強い部分を見せれば殆どの人がすぐに認めてくれる。
種族としての特徴が悪さをする時も有るけど、それでもおためごかしじゃなくて本心から認めてくれるのが獣人だ。こう言う所は何だか羨ましかった。
……まあ、俺達人族みたいに表面上は認めて、裏で舌を出しているルードルドーナみたいな困ったちゃんも居るのは確かなんだけどな。
あの人はどうすりゃ憎しみを捨ててくれるのか。
――そんなことを考えつつ、クロウの背中を追いかけていると。
「ム。着いたぞ、ここだ」
「あ……ここもやっぱり扉があるんだな」
クロウが指し示したところには、やっぱり重厚な扉が嵌めこまれている。
獣人族の建物は基本的にドアがない開け放たれた構造をしているんだけど、誰かに盗み聞きされないように、こうした場所には扉が設けられているのだ。
まあ、それ以外でも倉庫とかの重要な場所には扉が在るんだけどね。
あと水気を逃さないようにお風呂とかも扉があるが、それはともかく。
「昨晩、父上には多少の権限を許して貰った。遠慮なく入ると良いぞ」
「チッ……にわかに王族ぶりやがって……」
ああ、また貴族とか王族が嫌いなブラックが不機嫌に。
でも相手はクロウなんだから、お手柔らかにしてやってくれよう。
ロクショウと一緒に「まあまあ」とオッサンを宥めつつ中に入る。すると。
「わっ……ここって……」
「キュ~」
「……なんだここ、まるで人族の会議室みたいじゃないか」
そう。
クロウが案内してくれた「軍議を行う部屋」は、この世界の人族が扱う洋風の建築をそのまま移植したような造りになっていたのだ。
飴色に光る木製の壁を模したような、特殊な石材の壁。
様々な地図や本棚がその壁にぴたりと貼りついており、壁の一面には議題を即座に書き残すための大きなボードが取り付けられている。
中央には大きな楕円形のテーブルと椅子が置いてあり、クロウが案内してくれなければ、ここが人族の大陸だと錯覚するほどだ。
それくらい、見事に模倣されていた。
「この前の会議室の方が伝統にのっとった正式なものだが、軍を動かす場合は悠長に座っては居られないからな。こちらのほうが都合が良いと、父上が造ったのだ」
「まあ確かに、胡坐をかいて座りながらってのは、獣人の喧嘩っ早さと考えると少々動きにくいもんなぁ……」
「それはどうでもいいが、どこに外の様子を確認できる曜具があるんだよ」
あ、やっぱりブラックも【曜具】なんだろうと思ってたのか。
でも本当にそうなのかな。
答えを求めるようにクロウを見つめると、相手はコクンと頷いて、本だけではなく様々な道具が置かれている棚から地球儀のようなモノを取り出した。
「それは……」
……地球儀、に見えるけど……なんだか違う感じだな。
金属で球体を作って、地球儀のような形にしているオブジェというか……回す事も出来なさそうなシロモノだ。でも、球体の中心には、かすかに光る宝石のような物が取り付けられている。
「これが、外の状況を見通せる道具だ。まあ、まずは見てくれ」
そう言いながら、クロウが地球儀の支えになる部分をなにやら弄る。
何をしているのだろうかと思った刹那、球体の中の宝石が急に輝きを増して、その光を一定の方向に注ぎ始めた。
あのボードが置いてある壁の方だ。
誘われるようにそちらを向いた俺は、思わず「あっ」と声を漏らしてしまった。
「なるほど……これ、映写機みたいな感じか……!」
「キュー?」
俺の肩に乗っているロクショウは、見たことが無いだろうな。
というか、この世界だと似たような物が在ったとしても珍しいに違いない。
遠くの様子を見やる【曜具】なんて、俺が知る限りでは一度か二度くらいしかお目に掛かった事が無い。その次がまさか獣人の国とは思いもよらなかった。
「なるほど、防壁の上にこの【曜具】の子機を置いてるのか。写し取ってる絵は荒いがよく出来た【曜具】じゃないか」
さっきまで怒っていたブラックは、謎の納得した様子を見せている。
ブラックは【月の曜術師】で炎と金の属性を持っているから、興味があるのかな。
「まあそんなものだ。しかし、これだけではないぞ。子機はいくつか設置してあって、別の場所の映像も一度にここで見る事が出来る。これが、王都の防衛に一役買っているのだ。凄いだろう」
ほう、映像を切り替える機能も付いているのか……!
もしかしたら、これと同じ親機が別の場所にもあるのかな。
俺の世界みたいに、二十四時間監視体制って感じで、部屋に詰めて映像を見守る役目の人が居るかも知れない。
「ともかく、外の様子だ。これどこを映してんだよ。荒野しか見えないぞ」
「ムッ、これは王宮側の防壁だな。オレ達が帰って来たところだ。……フム……こちらには、敵が一匹も見当たらんな……? ちょっと待ってくれ」
そう言いながら、クロウが装置を弄る。
不思議そうな声を漏らしたクロウだったが、俺もブラックも、今の映像になんとなく妙な違和感を覚えていた。何か、しっくりこないような違和感を。
その感覚がハッキリするのは、王都の門側の映像に切り替わった時だった。
→
※ツイ…エックスで言っていた通り遅くなりました…:(;゙゚'ω゚'):
しっかり寝落ちしましたね……ご飯が遅くなってしまったからや!!
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