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古代要塞アルカドビア、古からの慟哭編
敵を信じるか己を信じるか2
しおりを挟む――――我ながら、どうしてあの人にそこまで肩入れしているのか不思議だ。
やっていることは、そもそも悪い事だ。他人を巻き込まないようにしていると言っても、実際に街を攻撃しているし、マハさん達王族を襲ったり捕えたりした。
人族を見下しているという認識は同様なのか、冒険者や傭兵を暗示か何かで支配してコマのように使ったし、もしかすると……ジャルバさんとルードルドーナを何らかの方法で心酔させて操っているのかもしれない。
それに、現にいま王都を襲撃しようとしているじゃないか。
どう考えたって、肩入れするような相手じゃない。
直接会った時にちょっと優しくされたからって、そんな人ではないはずだとすんなり思える自分の思考が異常だ。それは自分でも理解していた。
だけど……何故か、あの【黒い犬のクラウディア】を信じる気持ちが消えない。
もしかして、この気持ちはクラウディアちゃんが俺の中で眠っているから湧き起っているんだろうか。いや、でも、その前からこんな感じだよな。
…………街の人達を殺すことは無い、と、俺が信じたいだけなんだろうか。
妙に甘過ぎる自分の気持ちが謎だった。
うーん……あんなに背も高いし、服から丸出しの腹筋もバキバキなのに、なんだかこう……男らしいのにドキッとするっていうか、守りたくなるというか……。
顔が中性的だからそう思うんだろうか。でも流石に女性でもないのにそう思うのはおかしい。ううむ、俺には男色のケはないんだが。
「ツカサ君なにボーッとしてるの! 気を付けてないと舌を噛むよ!」
「んん!?」
途端、衝撃が来て俺は思わず歯を食いしばる。
何事かと思ったら、ブラックが【ラピッド】を掛けて更にデタラメな脚力になった脚で、石畳を蹴って獣人達の家の上に飛び上がったのだ。
こ、これは確かにうっかりしてると舌を噛みそうだ。
ブラックにボストンバッグのごとく小脇に抱えられた俺は、注意されたことを素直に守ろうと口をギュッと締めた。
何故大通りを歩くのをやめたのかと思って下の方を見やると――――大きな道には、いくつかの場所に“不自然にぶちまけられた土”が散乱しており、そこからはボコボコと小さな土の泡が浮き上がっている。
確かにアレを一々相手にしていては、いつまでたっても門にたどり着けない。
どうやら人が近づかないとゴーレムは襲ってこないみたいだけど、それにしたって――――土がぶちまけられている場所が、多すぎる。
……これって、今さっき広げられたのか?
それとも、非難が始まっているときには既に在ったものなんだろうか。
だとしたら、もしかすると俺への襲撃が失敗したことで……いや、そうではなく、土を持ってくる時点で故意に溢されたものなのかもしれない。
けど、それなら近所の人が掃除しそうなものだけどな。
……うーん……どういうことなのか分からない……。
そんなことを考えている間にも、ブラックとクロウは難なく四角い独特な家々の屋上を駆け抜け、どんどん門へ近づいて行った。
「一番近い監視塔の入口はこっちだ!」
クロウが斜め前を指さし、巨大な柱にも見える監視塔の小さな入口を示す。
壁同士を繋ぐ“くびき”のように聳えたつ塔は、間近で見ると体を思い切り逸らさなければ天辺が見えないほど大きい。
こんな巨大な防壁は、人族の大陸でも滅多に見ないぞ。
普通ならこんな巨大さだと、出来る影に辟易する人も多いんだろうけど……ここは幸い砂漠で、影は人が涼むのにちょうどいい。
街の中も植物と水路のおかげで涼しいけど、城壁の周辺は影が掛かる時間が多いせいなのか、更に涼しいしよく見ると植物もなんだかシダっぽいものが多かった。
……って、そんなところを観察している場合じゃない。
ブラック達は塔が近くなると地面に着地し、素早く入口へと走る。
俺はと言うと、体を揺してブラックに負担がかからないよう、強張るくらいしかやる事が無いけど……ともかく、やっと監視塔に到着した。
入口の前には屈強な守備隊の兵士が常駐していて、クロウが一声かけるとすぐに避けて通してくれる。もともとクロウは兵士には敬意を払われていたけど、色んな噂が兵士にも届いているのか、横目で見た彼らの目は輝いているように見えた。
「なんかクロウの地位がめちゃめちゃ上がってるのを実感するな……!」
段差が少し高く、熊モードのクロウでも駆け上れそうな螺旋階段をひたすら上へと登りつつ、俺はついさっきの光景を思い出し嬉しくなってクロウを見やる。
すると、並走していたクロウは少し照れた雰囲気で頬を掻いた。
「ム……そ、そうか……?」
「照れてんじゃねえよ気持ち悪いな」
あっ。このおっさんはまたそんな事を言う……。
でも、気持ちはちょっとわかるぞ。ライバルとも思ってるヤツが周囲に褒められてたら、そらちょっとジェラシー感じちゃうよな。
しかし……普段なら、他人が褒められたってどうでもいいような感じなのに、クロウに関しては一々チクチク言うんだから、ブラックってばなんだかんだ言ってクロウの事を大事な仲間でありライバルだと思ってるんだよなぁ。
「ツカサ君、なんか今おぞましいこと考えてたでしょ……」
「ふふー、何でもない何でもない! アンタも凄く強いんだから安心しろって!」
心配する必要はないんだから安心なさい、とブラックのお腹をポンポン叩くと、相手は微妙な顔をしながらも満更じゃなかったのかゴホンと咳払いを一つした。
「まあ、それはそれとして……監視塔の中に居ても、外の声が聞こえるね。この感じは、やはり戦闘が始まっているらしい」
「えっ……」
「そうだな。……だが、あまり血の臭いはしないぞ。土臭さは充満しているのに」
ブラックの発言にびっくりして、クロウの発言に二度驚く。
戦闘が既に始まってるっていうのは覚悟してたけど、でもやっぱり心臓に悪い。
それに、土臭さってことは……もしかしなくても、向こうの【礪國】が土の曜術を発動しているんだろう。やっぱりあいつらは、攻撃を始めてしまってたんだ。
だけど……血の臭いがあまりしないってのはどういうことだろう。
まだ衝突は始まったばかりってことなんだろうか。
それとも、相手が大規模な攻撃を撃ってきていないってこと……?
……もしかしたら、兵士を殺さないよう配慮してくれてるのでは……という甘い考えが脳内を過ぎったが、王都に対して攻撃してきた以上、そんなことはあるまい。
もしそうだとすれば……【黒い犬のクラウディア】が何をしたいのか、いよいよもって分からなくなる。
武力を行使したくない。だけど結局行使している。
人を傷つけたくないのに傷つけている。それがどういうことなのか。
どうしてそんな正反対のことをするのか、理解が出来なかった。
……やっぱり、俺が変に肩入れしちゃってるだけだったんだろうか。
暗澹たる気持ちを抱えつつ、ついに監視塔の最上階へたどり着く。重苦しい金属の扉を開くと、そこは半円形の見張り台になっていた。
そして、左右に壁の頂上に作られた通路が伸びている。
ガラスのない窓からは、高所ゆえの強風が砂交じりでこちらに吹き付けていた。
「うっ……」
「ツカサ君、大丈夫? 歩ける?」
「だ、大丈夫……早く確認しに行こう」
ブラックに降ろして貰い、手で細かに降ってくる砂を避けながら、ハッキリと聞こえて来た壁の向こうの喧騒に顔を向ける。
……ここまでくれば、俺でも判ってしまう。ブラックの言うように、壁の外から様々な声や……重苦しい何かを打ち付けるような妙な音などが、聞こえてくる。
普通の戦とは違い、金属がこすれ合うような音は殆ど無いが、それでも大勢の人が動くときの地鳴りのような音は確かで、雄叫びのような多くの声も現実だった。
見るのが、怖い。
だけど確かめなければと思い、俺はロクをベストの内側に避難させて外へ出た。
兵士たちが敬礼するのを横目に見て、通路から外を確かめる。そこには。
「…………っ……」
「なるほどね、ついに人族のコマすら捨てたか」
「……なんという、卑劣な戦いだ……!」
ブラックの嘲るような吐き捨てるような声に、クロウの憤る唸りが混ざる。
強風に舞い上がった砂に頬を撃たれ顔を歪めつつも見た光景は、俺が想像もしていなかったような、異常な光景だった。
――――さっき、俺達に襲い掛かってきたゴーレム。
その、まったくの土色をした人形が、黄土の砂漠で浮き上がっている。
だけど一体じゃない。
何体も何体も何体も、彼らはそこに居た。
陽光に光る砂漠の砂の上でゆらゆらと動きながら前進し、兵士達の爪や拳で体を打ち抜かれ土塊に戻っている。
だが、その後ろからどんどんゴーレムは現れて、兵士達の中にはその異常な光景に恐れを抱き混乱しているものも少なくなかった。
混乱する場と、冷静に戦う場と、半狂乱になってゴーレムをとにかく潰している場が、それぞれ交じり合っている。
得体の知れないバケモノが、向こうに撒かれた土から次々に生まれて進行してくる姿は、生きた存在しか知らなかった獣人達にとっては恐怖そのものに違いない。
そんな感情も相まってか、戦場は混乱し混沌としていた。
「お前らやっと来たのか!」
こちらを揶揄する声に振り向くと、クロウの兄であるカウルノスが駆け寄ってきた。
兵士と違っていつもの服ではあるが、その表情は険しい。きっと今まで、王子として指揮を執っていたのだろう。薄汚れてしまった服からそれが感じられた。
「兄上、これは……っ」
怒り交じりで牙を見せながら、クロウが兄と眼下の光景を交互に見る。
その感情はもっともだと思ったのか、カウルノスは難しい顔で頷いた。
「ウム……見ての通りだ。奴ら、曜術……らしき不可解な術を使って、あの人形を遠距離から次々に射出してきてな。倒しても倒しても土から復活して、話にならん」
「復活するのか」
ブラックの問いに、カウルノスは溜息のような吐息を漏らす。
「する。……戦は始まったばかりだが、長期戦になると危うい。対人やモンスターに対しての訓練は積んできたが、生き返るバケモノとの戦いなぞ想定外だ。これで、奴らに与しているという“嵐天角狼族”か“ビジ族”が来たら、どうなるか分からん」
既に先を読んで危惧を口にする相手に、ブラックもクロウも何も言わない。
その肯定のような沈黙が、背筋をぞわりと冷たくさせた。
もしここで敵の増援が来たら、あの人達もただでは済まない。
彼らには、きっと家族がいる。恋人や妻がいる人もいるだろう。その「待つ人々」が、悲しむような出来事が万が一にも起これば――――
……そんなの…………俺には、耐えられない……!
「ツカサ君……?」
「…………カウルノス、俺があいつらを止める。俺なら、出来るかもしれない」
「ちょっ……つ、ツカサ君っ」
「なにっ、本当か!?」
大股で近付いてきて俺の両肩を掴むカウルノスに、俺は頷く。
だが、宣言をする前にブラックが俺を引きはがしてしまった。
「ツカサ君、ダメだって! いくらなんでもあの大量のゴーレムを拘束したら、ツカサ君また倒れちゃうよ! それに、今いるのを倒したって【礪國】なら何度でもゴーレムを生み出せるんだよ!? こっちの手の内を明かすのはダメだよ!」
そう言いながらも、ブラックは心配そうな顔をして俺を見つめている。
理性的な理由を口にしているくせに、その本音は俺を心配してくれてるんだ。
「でも、だったら……どうすれば……っ」
土の曜術で作られたゴーレムは、通常の攻撃では排除しきれない。
そのうえ、相手はどんどん増産させてくるだろう。
あの巨大なヤドカリ要塞は、いま丁度“風葬の荒野”に入るところにいる。
今は停止しているようだが、歩き出せば数時間もしないで王都に辿り着く。そんな距離に敵がいるのを見て、何もしないで居ろというのか。
このままだと疲弊した兵士たちがどうなるか分からない。
だったら、俺が死に物狂いで術を発動させるべきではないのか。
それが一番いい方法だとブラックだって分かってるはずなのに……――――
……でも…………ブラックが、心配している気持ちを、無下には出来ない。
何の対案も出せない状態で、相手の気持ちを突っぱねたくは無かった。
だけど、何も浮かんでこない。どうすればいいんだ。
焦りながら、思わず首から下げている指輪を握る。と――――
「っ!? お、おいなんだツカサ、お前の胸のところが何か光ってるぞ!?」
「う……えっ……え、これ……」
握った指輪の下……俺の心臓のあたりが、何故か光っている。
う、うわっ、皮膚の下から光っててなんか怖い!! なんだこれは!!
「えっな、なに、ツカサ君なにか変なものでも食べた!?」
「食べてねーよ!! なんだこれ、なっ、なななっ……」
ロクショウが慌てて飛び出てきて、俺の周りを心配そうに回る。
しかし俺もどうしたらいいのか分からない。
もう、色々な事が起こりすぎてどうしようも……。
『……て……』
「…………え……」
「な、なんだ? 今の声は」
カウルノスが不思議そうにキョロキョロと首を動かしている。
あれ、これって俺の幻聴じゃないの。じゃあ、これ、もしかして……。
『待って……。待って、おにいちゃんたち……』
鈴を転がしたような、幼く愛らしい透き通った少女の声。
この戦場に似つかわしくないその声に全員が息を呑むと――俺の胸のあたりが、一際強く光って……光が、空へと分離した。
その分離した光はゆっくりと形を変えて、小さな人の形に変わる。
ゴーレムの異質な体型とは比べ物にならないほど、人間らしい人の形に。
そうして現れたのは……やはり、クラウディアちゃんだった。
「クラウディアちゃん……!」
「し、知り合いか!?」
一々驚くカウルノスを横目にクラウディアちゃんを見ると、彼女は悲しそうな顔をしながら、俺の服の裾を引っ張って訴えてきた。
『助けて……助けてあげて……みんなを、助けて……!』
→
※ちょと遅れてしまいました…_| ̄|○すみません
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