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古代要塞アルカドビア、古からの慟哭編
30.門を叩く者には道が開かれる
【アルスノートリア】達は、俺が【黒曜の使者】であることも、ブラックが【グリモア】であることも知っている。
その認識は、七人の【アルスノートリア】全てが持っているはずだ。
……だが、だからといってアイツらが俺達の“すべて”を知っているわけじゃない。
俺達がどういう旅をして、どういう人達と出会って、どんな仲間が出来たのかなんてアイツらは知らないんだ。
だからこそ、俺達は今まで安全に事を運ぶことが出来た。
あいつらの観測外に大事な仲間がいてくれたからこそ、俺達は今まで難なくコトを乗り越えることが出来ていたんだよな。
……それも多分、数日前にはもう知られてしまったかもしれないけど。
でも、今は出し惜しみしている場合じゃない。
攻撃がこちらに来るのは怖いけど……それなら、当たる前に俺達が弾き飛ばせばいいだけの話だ。
今まで俺達を助けてくれたロクショウには、指一本触れさせやしない。
だから、今回はロクにも明るいうちの空を飛んでもらう!
「ロク、行くよ!」
「キューッ!」
俺の肩からロクが飛び立って、一際大きな声で鳴く。
その刹那、白い煙がロクの体を包み込んで一気に膨張し――――
雲のない空に、白煙を散らして巨大な黒の準飛竜が姿を現した。
「グォオォオオオオン!!」
その嘶きは、大気だけでなく地面や防壁すらもビリビリと震わせる。
だけど、俺達にはその竜の一吠えも恐ろしいものではない。防壁の通路を壊さないようにゆっくりと着陸するロクの優しさは、既に知っているのだ。
「尊竜様……さすがの雄々しさ……!!」
「おおっ、これが聞きしに勝る準飛竜様の出で立ち……しかも漆黒の尊いお姿とは、さすが素晴らしい……!!」
「みろっ、尊竜様だぞ! 必勝の兆しだ、目に焼き付けておけ!」
……ま、まあ、カウルノス以下獣人兵士達の心酔っぷりは置いておくとしても、竜に次ぐ武力をもった姿に戻っているロクを見ての反応は真っ当だ。
ロクは可愛いだけでなく、強い。
モンスターに対して基本的に人族と同じ見下す態度を取る獣人だけど、その反面竜に近しい実力を持つものに対しては、崇拝に近い感情をあらわにして来る。
それは、彼らがモンスターが至る最強の存在を尊敬しているからだ。
“竜”は、この世界では強いモンスターの最終形態。
神の使徒である“龍”とは違う、実力をつけ力の頂点に立った存在なのだ。
それを知っているからこそ、獣人達はその力に敬意を払う。
準飛竜であるロクに対しても、それは変わらないのだ。
……とはいえ、ここまで急に沸かれると驚いてしまうのだが。
「ツカサ君早く乗ろう、ほらっ」
「びゃっ」
せっかくロクへの賛美について考えていたのに、ブラックに脇から手を差し入れられムリヤリ浮かされる。そのまま、体を低く屈めてくれているロクに乗せられた。
むむ……当然のようにブラックが俺の腰を掴んでいるが、まあ俺も鞍が無い状態で乗ったら落ちかねないし、これは仕方がないだろう。
それに今は四の五の言っていられないんだ。
クロウが一緒に乗り込んだのを見て、俺はロクに合図を送る。
すると、ロクが頷いて、大きな羽ばたきの音と共に体が浮き上がった。
――――この大陸に来て、かなりの頻度でロクに乗って移動しただろうか。
空を飛ぶ獣人がいないこの大陸では、ロクの圧倒的な機動力は俺達を何度も助けてくれた。今思えば、ロクの機動力があったことで、さまざまなピンチを乗り越える事が出来たのかも知れない。
マハさん達を難なく助けることが出来たのも、メイガナーダ領を襲いに来た“ビジ族”達を撃退することが出来たのも、それらの情報をすべて即座に伝えられたのも――――ロクが、空をひとっ飛びしてくれたからだ。
…………逆に言うと、ロクが居なければ……間に合わなかったかもしれない。
ゾッとする話だけど、これは事実だろう。
それくらい、あいつらのやることは不可解でメチャクチャだった。
今だって何を考えているのか一つも理解できない。
でも、俺はクラウディアちゃんを“アクティー”に合わせると約束した。
それに……どのみち、あいつらとは対峙しなければならないんだ。
【アルスノートリア】が関わっていると分かった以上、逃げるわけにはいかない。
アイツらは、どうしても【グリモア】を斃そうと接触してくる。そうでなくとも……アイツらの仲間には【菫望】という人を人とも思わないヤツがいるんだ。
そんなヤツが仲間に居る組織が噛んでいるなら、もしかしたらまた……【菫望】の力に操られた人達がいるのかも知れない。
【礪國】が敵かも知れないからって、他には誰もいないなんてことはないだろう。
それをハッキリさせるためにも……城に、乗り込まなければ。
本当はきっと不可能なことなんだろうけど、ロクならそれが可能だ。
あの巨大なヤドカリの脚なんて無茶な部分から登らずに、空から強襲できるのだ。
「ロク、頼むな……!」
「グオォオン!」
ブラックにがっしりと体を掴まれつつ、大きな首根っこからロクの顔をみやると、ロクは風などものともせずに顔を動かし頷いてくれた。
高く、高く上昇し、地上の音がどんどん遠くなっていく。
太鼓のように響く音は変わらないけど、でも、上空に吹く強い風の音と太鼓のような音、それに耳慣れたロクの雄々しい羽ばたきの音だけになると、頭が徐々にスッキリしてくる感じがした。
何故だろう。
ふとそう思ったけど、すぐに理解できて納得がいった。
あの焦るような気持ちは、きっとクラウディアちゃんの感情が俺に伝わってきていたからなんだろう。今は俺の中に居るから、何かがシンクロしているのかもしれない。
不思議な感じだけど……クラウディアちゃんを自分の中で休ませていたのは、俺の意志だ。今更そんなことにぐらつくことはない。
俺は強風の中で前方をしっかりと見据え、物凄いスピードで近付いてくる無生物の城を睨む。どこから入ればいいのだろうか。
やはり、上空から飛び降りる方が良いのか。
そう考えていると、すぐ上からとんでもない声が飛んできた。
「よーしロクショウ君、面倒くさいから一気に炎のブレスでぶち壊しちゃえー」
「グォオオン!」
「え゛え゛っ!?」
ちょっ、な、何言って……いやロクも何で臨戦態勢!?
吸い込む空気が喉を伝わって、根元が膨らんでいる。なんだか乗っている部分が妙な熱を帯びているような気がしてきた。
ちょっ、ろ、ロク、まさか本当に……――――
「グォォオオオ――――ッ!!」
ロクが、ワニのように大きく口を開けて牙を剥き出しにする。
その刹那。ロクの口から細かく青い炎の鎖が何重にも飛び出しうねって周囲を回り出し、徐々に口腔が青く光っていく。
明らかに、ヤバい。
そう思ったと同時、ロクの口から青い炎が一気に放たれた。
「わ゛ーっ!!」
こ、これは怪獣が吐くやつ……っ。
青いビームじゃないか!
ロクは確かに青い炎を吐き出せたけど、こんなのケタ違いだ。
っていうかこんな巨大なビーム出してロクの喉は大丈夫なのか。そもそもこれ、城に直撃したらヤバいことになるんじゃ――――
「――――~~~ッ!!」
巨大な岩が、崩れ落ちるような音。
大きな雷が間近で鳴ったような衝撃と共にその鼓膜を爆破するような音が響いて、俺は思わず両手で耳を塞ぐ。
だが、ロクの動きは止まらない。
そのまま少し体を起こすと、羽ばたきを使って前方の砂煙を吹き飛ばす。
そこには、崩れた防壁と……城の前に不自然に立ち上がった、土の壁があった。
城を守る城壁が崩れたと思ったのに、茶色の板が並んでいる。だけどそれらもロクの炎に破壊されて、奥の方まで全部崩れてしまっていた。
隙間から見える壁にも、確かに大きな亀裂が入っている。
ってことは……防ぎきれなかったってことか。
「どうやら【礪國】も咄嗟に土の壁を作ったようだね。でも、精神をうまく練ってなかったせいでブレスに耐え切れず崩れてる。ロクショウ君、あそこに直進だ!」
「グオォ!」
ななな何、何が起こってるのかわからない。
でもちょっと待て、直進ってまさか、あの崩れた何重もの土の壁にロクをダイレクトアタックさせる気じゃないだろうな!?
こらブラックっ、お前可愛いロクになんてことを!!
そんなの俺は許しませ……っ、わーっ激突するううう!!
「オォオオオオオ!!」
ロクの叫びに、体が大きく震える。
あれだけ遠くにあると思っていた城壁がもう過ぎ去り、俺達の前に崩れた土の山が迫っていた。このままでは、ぶつかる。
思わずロクの大きな首にしがみついたが、そんな俺を更に何かが覆う。
ブラックが、姿勢を低くして俺に覆い被さったんだ。
そう理解した刹那、大量の土が頭や体にバシバシと当たる感触がした。土の山の中に突撃したらしい。思わず口も目も閉じるが、ロクのスピードのお蔭か石つぶてのようになって、かなり痛くて声が出なくなる。
何度も、何度も、びしびしと土の塊が当たるような衝撃が襲う。
だがそれも数秒の事で――――また、瓦礫が大きく崩れるような音がした。
「グオォオッ!! グギューーーッ!!」
「ッ!?」
ドンッ、という衝撃と共に、体を浮遊感が襲う。
何が起こったのかと目を開けると――目の前一杯に白い煙が広がった。
ま、まさか、ロクちゃんてば壁にぶつかったのが痛くて、思わず【変化の術】が発動しちゃったのか!?
待て待て待て、ここがもし城の外だと俺達は放り出されちゃうぞ!
ていうか俺がロクを尻で敷いちゃう可能性がある。それは絶対に避けたい。
ロクはどこだと手を伸ばすと、体を後ろに引かれて押し付けられた。
――これはブラックの体……か……?
そう感じたと同時、ブラックが何かに着地して、そのまま前方に飛んだ。
白い煙が、唐突に薄れてくる。
するとそのうすい靄の向こうに、何かの人影が見えた。
「――――……?!」
整列した支柱の奥にある、大きな椅子。
玉座のようなその椅子の横には、人が一人立っていた。
……あれは、誰だろう。
そう考える前に、俺を抱えているブラックの体が動き、靄から脱出する。
ゆっくりと動いたことで見えて来たその人影の姿に、俺は息を呑んだ。
――――玉座の横に立つ、黒い立て耳を持った犬の獣人。
筋骨たくましい精悍な体つきをしているが、整った中性的な顔の相手。
「…………随分と、強引なおでましだな」
静かにそう呟く相手は、俺達が乗り込んできたことに何の感情も見せない。初めて出会った時と変わらず、こちらを冷静な顔で見つめていた。
そんな相手に、ブラックは小さく息を吐く。
だが反して、クロウがハッと何かに気付いたように息を呑んだ。
「お前……。まさか、お前が……お前が、ゴーレムを動かしているのか……!?」
驚いたようなその言葉に、俺とブラックも目を見開いて相手を見返す。
だが、相手は……【黒い犬のクラウディア】は、何にも感情を動かさず、ただ、視線を少し下へと向けて緩慢な瞬きを見せた。
「……ああ。そうだ。……そういえば、お前達熊族には【土の曜気】を視る力がある者が居たのだったな。…………そういうことすら、計算づく、か」
意味の解らない独り言を吐き、相手は再びこちらを見る。
その表情には、もう陰りは無かった。
「それで、お前達はどうする。俺を人族の戦いのように殺すか。それとも獣人の礼儀として、一対一で戦うのか? どちらにせよ……まだ、俺は死ねんぞ」
静かに言い、朱を濃く混ぜたような橙色の瞳を光らせる。
その意志は固いとでもいうように、俺達に黒く鋭い爪を見せつけた。
でも、俺達はそんなことをしに来たんじゃない。
……いや、いずれそうなるのかもしれないが、今は戦いなんか問題じゃない。
「俺達は……クラウディアちゃんの願いを叶えに来たんだよ」
だから、アンタには話を聞いてもらう。
そう返した俺に、【黒い犬のクラウディア】は瞠目した。
「な……ん、だと……」
思ってもみなかった、とでも言うような声。
今まであまり感情を見せなかった相手が驚き硬直したのを見て、俺達も思わず身を強張らせる。だが、もう変化は始まっていた。
「っ……!」
胸の所が、熱い。
咄嗟に下を見ると、俺の胸の所が確かに金色の光に包まれていた。
――――クラウディアちゃんが、願いを叶えようとしている。
ならば、俺は全力で彼女をサポートするだけだ。
ブラックとクロウの顔を見て頷き合うと、俺達は【黒い犬のクラウディア】へと静かに近づいて行った。
→
※ツイッ……エックスで言っていた通り遅くなりました(;´Д`)
新年度のはじめでちょっと疲れ気味ですね…
みなさまもどうかご自愛ください…!
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