異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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古代要塞アルカドビア、古からの慟哭編

  最後の仕掛けと三日の宴2

 
 
   ◆



 ――――翌日、俺は全回復し、ようやく宴に参加することになった。

 ……いや、正直個人的には全然嬉しくないんだけどね。
 だってさ、昨晩から酒浸りの大人達に囲まれるってことは、まず間違いなく変な絡み方をされるってことで……。

「ガハハハハ!! おい誰かメスもってこい! またぐらがいきり立ってたまらん!」
「ふえぇぇ~ん、びじじょくわぁっ、こりぇかりゃがんびゃりわすううう」
「ヒャーッ、こいつら泣き上戸でやんの!! ヒャッヒャーッ」

 最後のは引き笑いだ。なんちゅう笑い方だ。
 大人どもの乱痴気らんちき騒ぎに思わずゲンナリしてしまうが、これは俺の近く……つまりは、今回の騒動の中心にいた人達だけが座っている特別席の広間であり、この外にまで広がっている宴会場の喧騒はコレの比ではない。らしい。

 らしいって伝聞なのは、覗くのをアンノーネさんに止められたからだ。

 静かな中庭を囲む客間に居た時は全然わからなかったけど、街まで続く巨大な宴の会場は夜通し火をいて煌々と空を照らし、酒や食料はここぞとばかりに大盤振る舞いの食べ放題で、昨日からずっと賑やかなのだそうだ。
 ……うん、まあ、賑やかって控えめに言っちゃったけど、外はこの大人達のるにえない状態より酷いらしいので、あんまり考えたくない。

 無礼講で酒池肉林なので、人族より欲望に素直な獣人達の事だ……恐らくは、俺があと一年待たねばならない、ピンクでVシネマな光景が広がっているのだろう。

 俺を席まで案内してくれたアンノーネさんがゲンナリして「ツカサさんは、この三日間外に出ない方がよろしいかと。……年頃のメスには教育上よろしくないので」とか言ってたので、確実にえっちはしてるだろう。道端でえっちしてるんだ獣人達は。
 そう考えるとデバガメしたかったが、それと引き換えにケンカや絡まれに遭遇するのは怖ろしいので、今日の所は勘弁かんべんしといたらぁ。

 なんつって新喜劇みたいなシメをしてしまったが、まあとにかく……特別席ですらもこの騒ぎなんだから、アンノーネさんが俺を心配して忠告したのもうなずける。
 王族の人達は酒で浮かれモードだし、事情聴取と今後について話すべく呼ばれていたビジ族の長と若者達数人は酒で泣き上戸になってるし、緑狼……“嵐天角狼らんてんかくろう族”の長は笑いっぱなしだし。
 しかも、三王さんおうまで居て、この状況をワハワハ笑っているのだ。

 この宴の中でシラフのまま……というか騒がずいつも通りの状態なのは、俺達三人とロクショウ、アンノーネさん、ジャルバさん、カウルノスとデハイアさんくらいだった。
 ……どうも獣人ってのは酒を飲めば飲むほど陽気になってしまうようだ。

 まあ、しんみりしているより良いけど……しかし、やっぱりルードルドーナは宴の席に居ないんだな。ドービエル爺ちゃんとマハさん達が席を外してて上座かみざが空席なのは、たぶんルードルドーナに話を聞いているかお仕置きしているのだろう。
 何をしているかは知らないけど、どうしてあんなことをしたのか聞いてるんだろうか。

 だとしたら、爺ちゃん達も大変だよな……。
 この世界じゃ弱肉強食がメインだから、世襲制なんて関係ないおかげで「息子が罪を犯した責任をとれ!」って話にはならないみたいだけど、それでも親としては色々と思う所があるだろう。

 親の気持ちってのは、子供の俺にとってはだ理解しきれない領域だけど、少なくとも酒を楽しめる気持ちにはならないに違いない。

 けど、戦勝者として宴をもよおすのも大事だし……ってことで、一応席は取っておいたんだろうな。……ちょっとズルい考え方かもしれないけど、ルードルドーナが【教導】の手助けをしてた事が“五候”以下の人達に伝わらずに済んで、本当に良かったなと思うよ。だって、そうなったらもう宴どころじゃないだろうし。

 それに……。

「つーかーさーくん! なに考えてるの?」
「わっ、ぶ、ブラック……いや、ちょっとな」

 右側から抱き着いてきた酒臭いブラックは、俺が気の抜けた返事を返すと、何かを察したようで「ふぅん」とあきれたような声を出す。

「まーた余計なコト考えてるでしょ……。そういうのは獣人どもに任せておきなって。僕らはもう帰るんだし、余計な事に首を突っ込まず大人しくしてようよぉ」
「うーん……でも、俺達当事者じゃん? いいのかなぁ」
「んもー、ツカサ君たら首突っ込みたがり屋さんなんだから。そんなに何かに突っ込みたいなら、あとで口に僕のペ」
「あー腹減ったなーメシメシ!!」

 宴の席が凍りつくようなことをサラッと言おうとするんじゃねえ!!
 なんでお前はそう自然体で下半身の一本満足を狙う事ばっかり言うのかな!?

 今度この席で下ネタを言ったら、この甘くモチョッとした緑の謎フルーツを口にんでやるからな。そう決心しつつ、細かく切り分けて貰った分厚いお肉をモグモグと口に運んでいると、左側からクロウが覗き込んできた。

「ム……まったく、お前は本当に人の心が分からんヤツだな。ツカサは優しいから、父上を心配してくれているのだ。事実、まだ色々な問題が残っているし、【教導】の手下である仮面の男達の行方も不明だ。今この時も、かわるがわる部下や根無し草の生き残り、そしてシーバも手を尽くしている。ツカサが心配するのは当然の事だろう。なあツカサ」
「お前本当よく喋るようになったな偽物か? それとも実家だからって調子にのってんのか? あ?」
「だーもーブラック喧嘩腰になるなってば!」

 まあ確かに、クロウがずっと喋ってるのは違和感があるだろうが、喋らなきゃならぬ事が多いからだろうし、たぶん人族の大陸に帰ったら元に戻るだろう。
 自信満々の熊さんにはなったけど、人はそう簡単には変われないもんな。

 現に、喋りはするけど相変わらずクロウは無表情だし、表情も周囲に散らす雰囲気で感じるタイプに戻っちゃってるし。魔王モードを見てたらホント対照的だよ。うん。
 俺の前では最初からわりと表情が緩くなってたから、徐々にその無表情も他の人に緩んでいくのかな。そうなったら、ブラックも少しは喧嘩腰をやめてくれるだろう。

 ……とはいえ、まだまだそんな状態ではないので、ブラックは実に不満げで。

 きらびやかな金属の酒杯で酒を一気にあおると、息を吐いてジロリとクロウをにらんだ。

「まあ確かに、色々とちない所は有る。正直、今の状況すら『勝った』とは言い切れないし脅威が去ったともいえない。……相手が【アルスノートリア】を持っていたという事は、奴らの仕業である可能性もある。とはいえ、何故かアイツらは一人一人でしか動いていないから……ここでは、もう悪さはしないと思うけど……」

 だが、そんな考えすらもあの【菫望きんもう】が何か仕掛けてるんじゃないかと思えて、自分達が勝ったことすら実感できない。ブラックはそう思っているんだろう。
 確かに……今まで【アルスノートリア】は、色んな所で被害をまき散らしてきた。その迷惑な奴らが、こんな大がかりな事をしたヤツをそう簡単に下がらせるだろうか。

 【礪國れいこく】だったアクティーは、自分の仲間である【皓珠こうじゅ】をいたんでくれたけど……あの【菫望きんもう】は、他人の心の弱さを操って罪を犯させるような男だ。きっと、仲間意識など毛ほども持ってないに違いない。
 だとすれば、アクティーの死すらあいつは利用する可能性がある。

 …………でも、こんな風に考えるのもつらい。

 ブラックは頭が良くて、俺なんかが考えもつかない予測を今も何百通り考えているに違いない。その全ては、俺達を危険から守るためなのだ。
 それはありがたいと思うし、素直に尊敬もしている。

 だけど、そんな風に考えてばかりだとブラックが疲れてしまわないだろうか。
 おかげで宴もそんなに楽しめてないみたいだし、その……いつもなら、お酒を飲むブラックって、今みたいなしぶい顔じゃなくて……楽しそうだし、あと…………ちょ……ちょっと、格好いいかも……っていうか……。
 ………………。

 ち、違う違う、いまのナシ!!

 別に飲んでるゴツい手とか喉仏のどぼとけとか顔が格好いいなあとか思ってないから!!
 大体そういう時にブラックを見ちゃうのって俺だってこの世界では大人なんだから酒も飲んでみたいとか思ってるだけだしブラックのことがすすすすきいや気になっちゃうから見てるワケじゃないしいい!!

 ……ハァ、はぁ、はぁっ。
 と、ともかく、いつもみたいに楽しんでないんだってば!

 だから……その……そういう場合じゃなくて。
 ともかく、こんな状況で宴を楽しめないってのは、ちょっと問題だ。

 それに……ヨグトさんから聞いた話の事もある。

 朝っぱらから中座するのもマナーが悪いんじゃないかと思ったし、出来る事ならば二人やあの人達には、夕方まで宴を楽しんでいてほしかったんだけど……。
 ブラック達が安心できないんなら、もうさっさと伝えるしかない。

「……ん? どしたのツカサ君」
「なにかあったのか、ツカサ」

 覚悟を決めると、二人はすぐに俺の変化に気付いて問いかけてくる。
 その察しの良さにちょっと恥ずかしさを感じつつ、俺は二人に「ちょいちょい」と手を小さく動かして内緒話をすることを宣言し、場所を変えて話したい事があると伝えた。

 その言葉に、ブラックとクロウは不思議そうな赤ら顔をしていたが、それでも酒豪の二人はいまだほろ酔いにも達していなかったのか、分かったと頷き立ち上がった。

「おや、どこかへ?」

 俺達が離席したことに気が付いたのか、まだ素面のままのアンノーネさんがこちらに近付いてくる。ブラックは露骨に嫌な顔をしたが、そんなオッサンの横っ腹をヒジで小突きながら、俺はちょっと困ったような笑みを浮かべアンノーネさんにささやいた。

「いや、実は俺、酒の匂いが強い空気がダメで……。あとから戻るので、ちょっと客間に引っ込みます。二刻ぐらいしたら呼びに来てくれませんか?」
「ほう……酒のにおいに……。しかし、二刻あとですか?」

 二時間ほどしたら、アンノーネさんが呼びに来てくれ。
 なんて言葉におかしさを覚えたのか、相手は不思議そうにゾウの大きな耳をパタンと動かす。う゛、ちょっと苦しい言い訳だったかな……。

 そう思っていたら、ブラックがムッとした顔で俺の方に腕を回してきた。

「気が利かない眼鏡象だなったく。ツカサ君もハッキリ言えばいいんだよ~! お酒のオカゲで盛り上がっちゃったから、ちょっと部屋に戻ります~って!」
「な゛っ……!? ちょっ、あ、アンタなんてことをっ」
「ムッ、そうだな。戦も終わったし、致し方なかろう」
「クロウも補強する発言やめろォ!!」

 オイオイオイなに言ってくれちゃってんのアンタらはー!!
 俺は話がしたいって言っただけなのになにそれ、何が盛り上がったって!?

 なんちゅうことを真面目なアンノーネさんに伝えてるんだと俺は思わず全身が恥ずかしさで熱爆発してしまったが、しかし相手もやはり獣人だったのか、それとも俺が慌てたのに納得したのか、すんなり「なるほど」と納得してくれた。

「それなら仕方ありませんね。……しかし、ツカサさんはメスとしてまだ未成熟でしょう。くれぐれも酒に任せた無理をしないでくださいよ。メイガナーダ候や海征神牛かいせいしんぎゅう王陛下が、ツカサさんと話したがっているんですから」

 ぐっ、あ、あの年齢不詳黒牛チャラ男とクロウの伯父さんがか……。
 絶対これはロクなことにならない……で、出来るだけ近づかないようにしよう。

「あ、それとアンノーネさん、ロクのことお願いしますね」
「ええ。……と言っても、尊竜様に逆らう輩はおりませんので安心してください」

 本当はロクも連れて行きたかったんだけど、今のエグい言い訳でロクを呼ぶのは少々問題があるので、泣く泣く待っていてもらう事にしたのだ。
 とはいえ、ロクも宴ポリスが何だか気に入っているみたいで、二つ返事だったのだけど……うう、何だかロクを取られたみたいで、ちょっとさびしい……。

「ほらほら、そうなったら善は急げだよっ! さあさあ行こうね~ツカサ君っ」
「ウム。美味い酒も良いが美味いツカサの体液も重要だからな」
「言っとくけど、絶対やんねえからな。今は絶対しねえからな!?」

 そんな話をしに行くんじゃないのは二人も分かってるだろうけど、信用できん。
 っていうか、今はえっちなことしてる場合じゃないのだ。今度はホントにホントなんだからな。こんな状況でヤッてる場合じゃないんだって。

 二人を睨みながらその意志を示すが、オッサンどもは何を考えているのか、俺の顔を見てニヤニヤとスケベな笑みを浮かべるばかりだ。
 ええいくそ、こんな時ばっかり表情豊かになるなよアンタらは!

「うんうん、分かってるよぉ」
「いやらしい話ではないのだな。うむ」

 …………絶対分かって無い……。

 とはいえ、連れて行かないわけにも行かない。
 俺は溜息を吐くと、不穏なピンクの空気を纏うオッサン二人を引き連れて、自分達に割り当てられている客間に再び戻ったのだった。




 ――――そうして、数時間後。


 俺はブラック達と話した後、ドッと疲れてしまって再びベッドに寝転んでいた。

 えっちな事はしなかったが結局ちょっとスケベな事はされてしまい、そのせいで体は元気だが精神が疲れると言う、非常に面倒臭い事態になってしまったのだ。

 ……何をしたかは恥ずかしいので思い出したくない。

 ともかく疲れてしまった俺は、再びベッドで横になってしまった。
 またベッドに逆戻りしてしまったけど、あのまま戻っていたら酒で上機嫌になったチャラ牛王とデハイアさんに突かれるだろうし、そもそも宴に俺が出て居なくて皆楽しそうだったので問題は無いだろう。

 まあ、ブラックが後から迎えに来ると言っていたし……ちょっと仮眠しよう。

 そう考えて俺はベッドの上でゴロンと部屋側の方を向いて目を閉じた。
 外はちょうど日が傾いていて、全てが影の中に入った状態だったけど、顔を傾けて窓から外を見れば夕陽の日差しが見えて、まぶしい事に変わりは無い。

 今日は、みんな宴のためフル稼働しているせいか、まだ廊下の明かりなどもともっていないが、チラチラ眩しい光が見えるのと眠れなくなっちゃうからな。
 さて、ブラックが来る前に少し精神力を回復しておこう……なんて思いつつ、俺は目を閉じて眠気が来るのを待っていたのだが――――

 そんな俺の耳に、かすかな布擦ぬのずれの音が聞こえた。

「…………」

 吐息といきも、足音も聞こえない。
 だけどほんのわずか、長い布を引きずったような音が耳に届いたのだ。

 けれど俺は、その音に気付かないふりをした。
 すると。

「…………お前さえ、いなければ……――――」

 うらみを凝縮したかのような、怒りに満ちた低い低い男の声。

 聞き覚えのあるその声がしたと同時、腕が一気に振り上げられるような布擦れの音が聞こえてきたと思った次の瞬間。

 俺の背中めがけて、何かが振り下ろされるような音がした。












 
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