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麗憶高原イデラゴエリ、賢者が遺すは虚像の糸編
15.何でここに回答が?! 1
「な……なにそれ……」
「お前、仏教の仏様の種類ってわかるか」
なんじゃい藪から棒に。
でも、改めてそう言われてみると……あんまり思いつかないな。
アニメや漫画や小説で出てくる日本神話の神様ならほんの少しだけ知ってるけど、そう言われてみると仏様の事なんて全然わからん。
えーと……あ、そうだ。奈良の大仏とか牛久大仏とか、あと……婆ちゃんがなんかよく「薬師様」とか「文殊菩薩」とか言ってたな。
そういえば、お地蔵さまも菩薩さまなんだっけ?
とりあえず知ってる菩薩様を言うと、シベは片眉を上げて腕を組んだ。
「薬師は如来だ、バカめ。……まあともかく、お前はお婆様っ子だっけか。民間信仰に出てくる程度は知ってるみたいだな。そういう風に、仏教にもいろいろ神……というか仏が居るんだ。その中で、こういう特徴的なお姿をした方がいる」
「それがコーミョーシンゴンの仏様ってこと?」
「ああ。真言を司るのは、毘盧遮那仏こと大日如来で……あー……まあ、つまり……仏グループの中でも一二を争うほどの凄い仏様ってことだ」
びるしゃなぶつ……やばい、シベが簡単に言い換えてくれてるけど、もうとっかかりからよく解らなくなってきた。
とにかく最強レベルの仏様ってことだよな。
「そんで、その凄い仏様がコーミョーシンゴンなのか?」
「いや、光明真言は真言……つまり呪文みたいなものだ。この大日如来に対して、己に降りかかる全ての災いを払ってくれるようお願いする意味が込められている」
「呪文! なるほど……仏教では魔法の呪文を真言っていうんだな」
それなら分かりやすい。
アレだな、呪文の種類も陰陽師とかが使うようなヤツってことだな。
俺は和風ファンタジーも少し知ってるから分かるぞ。
「ハァー……詳しく言えば魔法とは異なるんだが……まあいい。ともかく、大日如来の姿を連想させる図形と、その下に『23』という数字があるなら、まず間違いなく真言を意味するものだと思っていい」
ちなみに姿はこれだ、とスマホで大日如来の掛け軸の絵を見せて貰ったが、確かに簡略化されているけどほとんど同じ姿だった。
そっか、これって仏様の姿を簡単にしたモノだったんだ。
そりゃブラックも分からないよなこんなの。
…………って、うん……?
なんで異世界に存在しない仏様の図柄……?
「あれぇ……?」
「真言は密教で使われるものだが、一般人が使用しても功徳がある……が、お前のように仏様をボンヤリとしか知らないヤツだと難しいかもな」
「えっ、効かないの? でもそんなこと言われても、普通教えて貰えないし……」
しかも今は仏様のプロフィールより異世界に何故そんなものがあったのかの方が気になって仕方ないし……いやいや待て、待つんだ俺。
まだシンゴンと決まったわけじゃないだろう。
シベがあまりにも自信満々に言うから「そうなの!?」とスンナリ納得しちゃいそうになってしまったが、別の可能性だってあるよな。
世界には全然関係ない言語なのに似てる言葉なんてごまんとあるし、今回の図形も偶然似てしまった可能性がある。色んな可能性を考えないとな。
でも、もし本当だったら……そのシンゴンを唱えろって事なのか……?
「ま、信心しろってこった。別に無宗教でも良いが、お前の場合オバケを信じるなら神も仏も存在してるって思った方が得だろ」
「いやオバケも信じたくないんですけどね!? っていうか俺別にオバケ怖くないし、神様に助けてとか言わないし!!」
なんの勘違いをしてるんだこのシベはと睨むが、相手は何が楽しいのかクックッと声を抑えて喉で笑うだけだ。チクショウ大人っぽい笑い方しやがって。
でも別に俺はホントにオバケなんて恐くな……こ、こわくないんだからな!
俺もう十七だし大人なんだからなマジで!!
「あーはいはい。……ってなワケで、まあソレは光明真言が答えだろう。おら、お前のスマホ貸してみろ。出してやるから」
「ぐうう……」
ぐうの音しか出ないが素直にスマホを渡すと、検索して言葉を出してくれた。
……なるほど……コウミョウシンゴンてこんな字を書くのか。で、光明真言の呪文は……あっ、なんかこれ妖怪の漫画で見たことあるやつじゃん!
アボキャベイロシャナウってやつだろ。
そういや婆ちゃん家の田舎で、お坊さんがこんなの言ってるの聞いたな。
なるほど、コレがもしかしたら鍵になるのかも知れないのか。
……でも光明真言が正解だとすると謎すぎるんだが。
うーん……もしかして、あそこって俺みたいな異世界人が居たのかな?
だとしたら謎が解けるけど……なんでクイズが真言なのかナゾだし、そもそもの話、あんな何もないこじんまりとした遺跡に何を隠したんだろう。
っていうか、それだけの技術力を持っていた異世界人って……?
「おい、夜更かしすんなよ。そろそろ寝ろ」
「えっ。いやまだ11時じゃん。ちょっとくらい夜更かししてもいいだろ」
考えに耽っていたら、急に水を差されてしまった。
待て待て、まだフィーバータイムじゃん。11時に寝ろなんて早すぎるって。
そういう所も優等生なのかと顔を歪めるが、シベは俺の嫌そうな顔を見ても平然としていて、それどころか説教みたいなことを言い出す。
「俺はお前の両親からお前の事を頼まれてるんだ。頼まれた以上は、お前の衣食住を管理する責任があるんだよ。だからもう寝ろ」
「そういうワリに夕食カップ麺だったのに?」
「ぐっ……」
……おっと?
これはもう一押しでなにかイケそうですな?
どうやらカップ麺は新たなシベの弱点になったようだ。
シベには悪いが、俺が異世界に早く戻るためにも少し協力して貰おう。
明日までここに居る事になるだろうし、それなら出来るだけ早くブラックとロクの所に戻らないと。あんまり待たせたら、今度はブラックが心配しちゃうからな。
俺は素肌に触れている指輪の冷たさを感じつつ、シベに問いかけた。
「明日は俺もゴロゴロしたり散歩行ったり自由に過ごしてもいいよな? なっ? その代わりに、豪華なメシは皆とシベの別荘に来た時で良いから!」
「ぐっ……お前、いけしゃあしゃあとそんなことを……」
「……ダメ?」
両手を合わせて、その横からシベの顔を見上げる。
ちょっと子供っぽすぎるかとも思ったが、シベは「ぐうっ」と言わんばかりに慄いて、俺を変な顔で凝視していた。……あれ、ちょっと気持ち悪かったかな。
「お、お前……」
「なに?」
「…………もうちょい年相応の仕草をしろよ。高校生に見えんぞ」
「はぁー!? 俺どっからどうみても高校生ですけど!?」
「いやもうその言動とか顔とか身長とか性格が……はぁ、まあいい……。お前にも、少しは息抜きが必要だろうしな。だが、遠くへ行くなよ? いくらここが安全だからと言っても、あお……変質者はいるんだからな……!」
なんか言いかけてたけど、でもここはハイソな人も安全安心の金持ちセーフティービレッジだろ。なら庶民の俺だって安心なはずだ。
それに『金持ちケンカせず』ってことわざがあるしし、ここに居る人も俺が礼儀正しく挨拶をすれば、ニッコリ笑顔で受け止めてくれるだろう。なにより、変な人がいる場所をシベが隠れ家に選ぶはずもないしな!
「大丈夫大丈夫! お前の別荘に限ってそんなことないだろ!」
「…………っ。……ゴホン……ったく、お前ってやつは……」
シベが横を向いて口元を手で隠す。
なんだか照れているみたいだけど……何に照れたんだろう。警備の硬さ?
よくわからんけど、自分の事を褒められたと思ったみたいだ。
確かに意地を張らず褒めたけど、そこまで照れる事かね。シベもヒロみたいに変な所で照れるんだよなぁ。うーん、顔がイイやつの照れどころはわからん。
まあともかく、これで明日は朝一でブラック達の所に行けるかも!
そうとなったら早く寝て英気を養わないとな!
「へへー、じゃあ俺もう寝るな! おやすみっ」
「はいはい、おやすみ。腹出して寝るなよ」
俺の元気な就寝の挨拶に、シベは適当な返事でひらひらと手を振る。
このっ、俺が挨拶をしてるっつうのになんだその返しは!
親しき仲にも礼儀ありだぞ、と思ったけど、俺も大して礼儀良くしていない事に気が付いたので、何も言わずに俺は二階の客間に引っ込むことにした。
しかし、俺だけふかふかのベッドか……。ブラックとロクに申し訳ないな。
帰ったら何か、あの魚やガマの穂モドキで美味しいものを作れないだろうか。
……そうだ、今の俺にはスマホという文明の利器があるんだから、俺でも出来そうな料理を調べて覚えればいいじゃん!
寝る前に調べられそうだし、そうと決まったら早速ベッドの中でやってみよう。
そう決心して、俺は意気揚々と階段を上ったのだった。
――――次の日の朝。
俺は朝六時からシベにたたき起こされ、支度をした後に朝食……という名のカップラーメンを啜り、さっそく外に出る事にした。
もちろん頭の中には新しいレシピをしっかりと入れ込んだ。
俺が作ったことの無いタイプの料理で少し不安だが、作り方は簡単だしブラック達も喜んでくれるに違いない。あんまり自信は無いけど……でも、味見をすればいいんだもんな。俺だけフッカフカのベッドで寝ちゃったという罪悪感もあるし、そこは精一杯頑張らせていただこう。
そんなことを思いつつ、昨日と同じ道を歩き森の遊歩道へ進もうとした。のだが。
「やあ、ツカサ君」
「んえ?」
別荘から出て少し歩いたところで、誰かに声をかけられた。
反射的に振り返ると、ログハウス風の家の玄関に立っている、ほっそりした長身の男性が視界に入ってきた。あれは……青柳さん、だったかな。
なんだかシベが毛嫌いしているらしいけど、物腰柔らかな眼鏡のお兄さんだ。
どうしたんだろうと立ち止まると、相手はこちらに歩いてきた。
「おはよう。朝から元気だね」
相変わらず目には光が無くて真っ黒だけど、口には薄く微笑みを浮かべているのでそこまで怖いと言う感じはしない。
そもそもこういう感じの柔和なお兄さんと知り合った事が無いので何とも言えないのだが、ともかく悪い人ではないのは確かだろう。ただ、知り合いであるシベに対しては凄くからかうような人っぽいけど。
でも俺には今のところ紳士的だし、こっちも紳士として挨拶を返した方がいいよな。
シベは近付くなと言ってたけど、アイツの知り合いなら俺だって愛想よくしておいた方が良いと思うし、何よりこの人の家族は俺を無条件で入院させてくれたんだ。
マスコミから完全にガードしてくれたことも考えると、感謝の意味も込めて誠心誠意の対応をした方が良いだろう。青柳さんは自分のお蔭ではないと言ってたけど、シベと青柳さんが本当は仲良しだから、ってこともあるだろうしな。
お金持ち同士の交流ってのはわかんないけど、結局基本は人付き合いのはず。
だから、俺もシベの迷惑にならないように青柳さんには愛想よくせねば。
「いやー、こんなとこ滅多に来られないから、見て回りたくて……。もしや、青柳さんも散歩ですか?」
「ああいや、僕は君が見えたから声をかけただけなんだけどね。でも、そうだね……どうせなら、ちょっと付き合ってくれないかな?」
「……? 付き合う、ですか。どこに?」
しまった、気軽に声をかけすぎたな。
遊歩道を一緒に散歩しようとかだったらどうしよう。滝の裏に行くスキがないぞ。
いや、焦りは禁物だ。青柳さんの散歩に付き合っても遅くは無いぞ。この人を家まで送ってから、急いで引き返せば良いだけの話だ。
ここは慎重にいかないとな。
……とはいえ、どこに付き合えばいいんだろう。
目を瞬かせて青柳さんの顔を見上げると、相手は猫のように目を細めて笑う。
「あまり想像できないような、花が咲き乱れる光景……見てみたくない?」
「えっ……花、ですか?」
「うん。君みたいな子に見て欲しいんだ……。きっと、感動してくれると思ってさ」
そこまで言うほどの光景が、この別荘地にあるというのか。
正直、俺は早くブラック達の所に行きたいんだけど……でも、青柳さんとシベの仲を険悪にしたくないし……実をいうと、ちょっと気になる……。
ひまわり畑みたいなものがあるんだろうか?
それとも、花が咲く木々が溢れる場所がどこかにあるのかな?
どちらにせよ、満開の花が見られるってことだと思うんだけど……でも、青柳さんの言葉からすると、どうやらどちらも違うようだ。
なら、どういう花の群生地なのか。かなり気になる。
……うーん……少し遅くなるかもしれないけど……でも、青柳さんに会ったってシベに言えば、多少遅く帰ってもアリバイにはなるかな……?
ちょっと見て帰ってくれば、それほど時間もかからないだろう。
なにより想像しがたい光景ってのが気になりすぎる。
もしかしたらアッチの世界でも再現できるかもしれないし、そしたらみんなに見せる事が出来るよな。よしっ、そうと決まったらちょこっと覘いてこよう!
「じゃあ……ちょっとだけ、見せて貰っても良いですか」
あくまでも少しの時間で……という意思を見せつつ了承すると、青柳さんは嬉しそうに目を弧に歪めると、俺の前に出て歩き始めた。
「じゃあ行こうかツカサ君。ふふ……君がどんな顔をするのか、楽しみだよ」
「あ、あはは……」
……この人、なんかちょっとゾワッとする言い回しをするんだよな……。
まあでも、悪い人じゃないんだし、あんまりそんな見方しちゃだめだよな。
相手に失礼なことを思ったままでは、態度にも出てしまうだろう。
俺は今感じたゾワゾワを振り払いつつ、青柳さんの後を追いかけたのだった。
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