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麗憶高原イデラゴエリ、賢者が遺すは虚像の糸編
21.追い求めていたあの味を1
◆
「それで、今日は何のご飯を作ってくれるの~?」
の~、なんて、語尾をわざとらしく子供っぽい感じにするオッサンは、早速俺の顔を覗き込みながら「早く食べたいなぁ」と圧をかけてくる。
昨日はお魚サンドと肉のスープだけ……というのが、よっぽど不満だったらしい。
いや不満なワリにはえらく美味そうに食ってたけど、それでもやっぱり肉が喰いたかったという事なのだろう。
そういうワイルドな気持ちは俺にも分かるので、あえて何も言わないが……言い方がネットリしててゾワッとするんだってば。
なんでそうアンタはモブおじさん染みた物言いを平気でするんだよ。
語尾を変に強調するな。子供っぽくするんじゃない。
カワイコぶってもお前はオッサンなんだからな。
……いや、でも……過敏に反応するのも思う壺っていうか……なんかそれはそれで俺がヘンな繊細男みたいでイヤだな……。
ぐぬぬ……けどさ、これは仕方ないんだよ。だって、さっきの変なマッサージの事もあってか、何か変に熱が残っちゃってて……ブラックが何か変な感じの事を言うと、その熱が浮き上がって来るみたいで過剰反応しちゃうんだよ。
たぶん、普段触られない所を触られたせいで敏感になっちまってるんだ。
そのせいで、一々ブラックのすることが気になっちゃうようになったに違いない。
幾らなんでも、こんなに気になるのはおかしいし……きっとそうなんだよ。
中途半端に触られたからこんな……。
……やっぱり何か仕組まれたんだろうか……。
ついそんな事を考えてしまうが、深く考えるとドツボに嵌りそうな気がする。
い、いまはとにかくメシを作ろう。
「ねーねーツカサくーん、今日はお肉? ねえねえお肉?」
「あーハイハイお肉ですお肉ですよ! 丁度アンタが新たに貰って来たでっけえ肉があるしな! っていうか俺が帰ってこなかったら腐ってたぞお前!」
まだ朝方の涼しい高原だからなんとかなったけど、まさか遺跡の陰になる場所に布で巻かれたデカ肉塊が放置されてるとは思わないじゃないか。
こっちの世界には細菌がいないとはいえ、代わりに【魔素】ってモンがあるんだから、気を付けないといけないのは同じだというのにまったく。
俺が帰って来てなかったら勿体無い事になってたっての。
「ちょっとくらい腐ったって大丈夫だよ。そんなこと言ってたら旅なんてできないよ?」
「お前は大丈夫でも俺は繊細だから地獄の苦しみを味わう事になるんだよ」
異世界人は体力が異常すぎる。
この差は絶対に埋められないな……なんて思いつつ、俺は【リオート・リング】の中に急いで突っ込んだ肉を少し引きずり出し、一応表面を削ぐと使う分だけ切り出した。
俺の高校の机ほどの大きさの肉塊だけど、それでもかなりの重さと密度だ。
明らかにヒポカムの肉ではない脂身が見えたが、ブラックによるとこれはこの高原――イデラゴエリで育てられている【ナクラビボア】の亜種【オデオンボア】の最高級塊肉だという。なんでも高級レストランじゃないと食べられないのだそうだ。
【ナクラビボア】って確か……皮が冒険者の服に最適なモンスターで、人族が畜産出来るタイプの大人しいヤツなんだっけ。
お肉もゴシキ温泉郷で食べた記憶があるけど、かなり美味かった記憶がある。
味は牛と豚の中間……とはいえ、品質にはピンキリがあるようで、硬派に豚肉の味しかしない時もあったような思い出がある。
まあどっちにしろ美味しいお肉だ。
その亜種で最高級品ってことは……オイお前なに高級品を野原に投げてんだよ!
「うーん、多すぎず少なすぎずの脂身が綺麗だねえ」
「そう思うんならもうちょっと高級品を大事にして貰えませんかねえ!」
「だって」
「ちょっと腐っても大丈夫はナシ!!」
おう俺もお前の心が読めるようになったぞこんにゃろめ。
頼むから今度はもうちょっと衛生的な場所に安置してくれと睨むと、ブラックは言葉をぶんどられたのが効いたのか、チェーッとでも言いたげに口を尖らせると、仕方なくとでも言いたげにこっくり頷いていた。
こ、この……いや、落ち着け俺。大人になるんだ俺。
ブラックのクズっぷりに細かくツッコんでたら身が持たないぞホント。
密かに深呼吸して、体を更に発火させる怒りを抑え込むと、俺は先程キャンプ地に戻ってきた時にかき集めた材料を広げた。
蝋燭草の花粉がたっぷりついた若い雄しべ数本と若い地下茎に、俺の可愛い柘榴ちゃんが定期的に届けてくれる至高のハチミツ。それに、先ほどの【オデオンボア】の肉と、幸運な事に育てている人が居て分けて貰っていた【バロメッツ】の植物性お乳。
あとは少々の調味料と野草のハーブと野菜で、準備は完璧だ。
まず「土台」を作ろうと思い、俺はブラックに遠慮なく命令を下した。
「じゃあブラック、お前にはバターを作って貰う」
「……ちょっと待ってツカサ君、バターって確か……作るの物凄く面倒臭かったんじゃなかったっけ……」
露骨に嫌そうな顔をするブラックに、俺は大きな陶器製の瓶をずいっと差し出す。
中には牛乳ならぬバロ乳、そして【カンラン】というオリーブオイルに似た実の油が入っていて、コレを振るとバターが出来上がるのだ。
もちろんオイルを入れるのは異世界のバロ乳に必要だからで、そもそも俺の世界でも市販の牛乳じゃバターは出来ないらしいけど……ここって異世界だからな。
前に作ってみて実際に出来たので、まあ原理がどうというのは考えないでおこう。
ともかく、このバター液を振り続ければ確実にバターは出来上がるのである。
そう。振り続ければ。
「物凄く面倒臭いし二十分……半刻くらい振りまくる必要があるけど、体力おばけのお前なら出来るよな!」
「ンキュー。キュムッ、ムモ」
ほら、削ぎ落した生肉を食べて処理してくれてるロクもこう言ってるぞ!
適材適所、働かざる者食うべからずだ。分かったら振る! シェイク!
「んーまあ、半刻程度ならいいけど……その代わり、僕のお肉分厚くしてね?」
「今回のはそういうんじゃないんだけど……まあ、肉は増量するよ」
ステーキのようなものを作るわけではないので、分厚くと言うワケにはいかないが、それでも「増量」という響きはブラックにとって魅力的だったようだ。すぐに嬉しそうな顔になり、シャカシャカと瓶を振り始めた。
……なんだかんだでブラックも食いしん坊だよな。
うん。まあ……頑張って作った料理をいつも美味しく食べてくれる所は、俺も素直に嬉しいし。幸せそうな顔で食べるのを見てるのは、なんというか……かわ……。
…………い、いや、かっ、可愛いとか思ってないんだからな!
「ぐ……お、俺もさっさと作り始めるか。えーと、まずは広げた清潔な布の上に、蝋燭草の花粉をパンパンパンと……」
花粉が舞うと危ないので、遺跡の角に移動して、慎重にいくつもの雄しべから花粉を採取する。とはいえ、巨大なおしべなので、五本も行かずにこんもりと黄色い山が出来上がった。これ全部が花粉なのだ。
粉みたいにさらさらしていて、言われなければ色つきの小麦粉だと思うほどだけど、この香りは間違いなく小麦粉ではない。
一旦、あぶれた花粉を外で叩き落とすと、俺は再び花粉を加工した。
といっても、別に難しいことはない。
調理器具セットのこし器で花粉の中のゴミを取り除き、石で組まれた簡易のかまどへ持っていく。そうして、たっぷりの花粉を小分けにしてほんの少しだけ軽く炒って水分を飛ばすと、バロ乳と少しのカンラン油、それに塩少々と水を加えて練り始めた。
ある程度のねばりが出てきたら、もう完成も目前だ。
適当にちぎって麺棒で平たく伸ばすと、俺は次の作業を開始した。
何かと言うと勿論……焼くのである!
基本はクレープと一緒だが、あそこまで薄くせずとも良い。
えーっと……なんか、トルティーヤってモノを作るのだ。
本当はトウモロコシの粉とかで作るらしいんだけど、小麦粉でも大丈夫って事らしいし、きっとガマの穂の粉でも大丈夫だろう。
ただ、俺の携帯お料理セットのフライパンは折り畳み式で四角いので、丸くできないことが残念だな。まあこれは仕方がない。
俺は手早くタネを乗せると、ふんわり黄色い生地の中央が膨らむまで焼き、両面に良い感じの焼き目を付けた。
なんか数十枚になってしまったけど、味見したらほんのり甘目で美味しかったし、残っても俺一人で食えそうだからまあいいか。
ともかく次はお肉……の前に、肝心要の調味料を作る。
ふっふっふ……これはネットで調べたヤツだもんね。
うまく行くかの確証はないが、作れるだけ作ってみたい。
まずは蜂蜜を混ぜ合わせたミンチ状の鶏肉をカンラン油で炒めて飴色にし、そこにほんの少しだけ炒って香りが強くなった蝋燭草の花粉を入れる。
そうして色が黒くなってきたら塩を入れつつ、キノコの乾物を戻したダシと……お酢は無かったので、リモナの実を使う。
あとは、ブラックが隠し持っていたワインを使おう。どうせ調子に乗って買って貰ったものなのだ、少し減っても文句は言わせないぞ。
そんで、これらをグツグツ煮込み、味を見ながら塩で整える。
すると……――
「…………カンペキ! ってワケじゃないけど……かなり近いかも!」
俺にしては良くできたのではないだろうか。
そう思いつつ、練り上がった極上の餡子のように色の濃い液体を濾していると、瓶を持ったブラックが近付いてきた。
「つ……ツカサ君それ、なに……? 泥……それとも発火油……?」
案の定の異世界人っぽい反応しやがって。
でもまあ黒い液体なんて初めて見たら、そりゃ誰だってびっくりするか。
だが、今回のコレは自信があるぞ……なにせ俺のうろ覚え知識じゃないからな!
「ふっふっふ……聞いて驚けよブラックくん。これはな……俺の世界の調味料を再現した……つもりの、限りなく近い味になった調味料なんだ!」
「調味料……これが……? なんて名前?」
まだ疑っているのか、ブラックは俺に訝しげな目を向ける。
だが、俺のこの愛のこもった言葉を聞けば納得してくれるだろう。
そう確信し、俺はブラックにその調味料の名前を告げた。
「この調味料の名前は……醤油だ!」
→
※お料理長くなっちゃった…
おいしい料理スキ…!
修正ルビ入れ完了しました!!
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