異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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麗憶高原イデラゴエリ、賢者が遺すは虚像の糸編

  食えないやつら2

 
 
「まあ、私もそこまで詳しい話を聞いたわけではないんだがね。しかし、国主卿こくしゅきょうが言うには、どうやら君達は“厄介やっかいな事”に巻き込まれているらしいではないか。そんな君達の助けになると聞いたので、私はこの役目を買って出たのだよ」

 確かに……今の俺達には【アルスノートリア】という厄介やっかいな敵がいる。
 だけど、どうしてそれがあの遺跡と関係があるんだろう。

 いや、関係あるかどうかはともかく関連性はあるかも知れないって思ったから依頼を出したって事なのかもしれないな。
 あの遺跡に何があるかなんてローレンスさんでもわからなかっただろうし、こんな風になるのも予想していなかったに違いない。

 でも、なにか【黒曜の使者】についての手掛かりが有るかも知れない……とか思ってくれたから、依頼をするようにアーラットさんに命じたんだろう。

 …………しかしすっごい回りくどいな。
 なんで初めからそう言ってくれなかったんだろう。

 そこんところがよく解らなくて顔をしかめる俺に、アーラットさんは肩を軽くすくめた。

「ああでも、言っておくが私は国主卿こくしゅきょうに命じられた範囲の事だけしか知らないから、何か思う所があるのなら直接説明していただくほうがいいだろう」
「そこまで織り込み済みってことか?」

 もうすでに敬語など忘れているブラックが、ガラ悪く低い声で返す。
 しかしアーラットさんは気にしていないようで、涼しい顔をして「やれやれ」と言わんばかりの“てのひらを軽く天に上げるようなポーズ”を取った。

「私程度ていどでは、国主卿こくしゅきょうのお考えは読み取れまいよ。……頼まれたことも、そう難しい事ではないからね。私が最初に言ったように、遺跡を好きに使わせることと……何か遺跡が崩壊するような事があっても、不問にすること。それに、もし自分に謁見する事を申し出てきた時は即座に報告する事……くらいかな」
「結局何も詳しい事は話して貰っていないってことか?」
「そうとも言えるかな」
「……それで、あんな虚偽きょぎの依頼を……冒険者ギルドなら罰則ものだぞ」

 そうなのか……いや、まあ確かに、ウソばっかりの依頼書なんて冒険者が不利益をこうむるし、ギルド側としても迷惑千万だろうしな。そういう規則があって当然か。
 ブラックの言い方からすると、例え貴族からの依頼であっても、虚偽きょぎの内容ならば冒険者ギルドでは受けることが出来ないみたいだ。
 だから、わざわざ特別な頼みとして、シアンさん経由で依頼してきたんだろう。

 ……けど、なんでそんな事をする必要があったんだ……?
 俺達に何か調査させたいモノが有るなら、直球でそう言えばよかったじゃん。

 なんで「依頼」なんてやりかたをしたんだろう。
 そんな俺の疑問をアーラットさんは見抜いたのか、こちらが問いかける前にサラッと答えてくれた。

「ウソをついたのは……そうだね、これは私の推測すいそくでしかないけど……君達に取り次いで下さった水麗候すいれいこうおもんぱかってのことじゃないかな」
「シアンさんを……?」
「風の噂で聞いた話によると、水麗候すいれいこうは今ご心労で静養なさっておられるのだろう? 君達の厄介事に関わるかいなかという曖昧あいまいな状態のモノを、教えたくなかったのではないかな。国主卿こくしゅきょう水麗候すいれいこうと同じ【世界協定】の裁定員さいていいんであらせられるし、古くからのご友人でおられるからな」

 なるほど……。
 推測すいそくでしかないけど、大部分はそういう理由のような気もしてきた。

 だって、今のシアンさんは……行方不明になっていた自分の息子が、とある大事件に関わっていた事が分かって、凄くショックを受けてたもんな。
 今でもその事件の後処理やら何やらで大変だろうに、息子が犯罪の片棒をかついでたなんて知っちゃったし、本当につらいと思う。

 そこに、【黒曜の使者】に関する未確定な新情報なんて舞い込んで来たら、色んな事を考えすぎちゃってシアンさんが倒れちゃうよ。
 シアンさんは俺達とは違って繊細で美しいお婆ちゃんなのだ。
 いやまあ術とかの話になると俺は全然かなわないんだろうけど、でもその優しい心はきっと傷つきやすいはず……俺達が守護まもらないと……!

 ローレンスさんも、そう思ったから今回の事を隠したんだろうな。
 確かにそう言われると筋は通るけど……。

「そんなにかせるんなら、僕達の所に直接話をしに来たら良かったじゃないか。一国の王が密使を使えないなんてバカな話があるわけじゃなし」

 そうそう、ブラックの言うとおりだ。
 一瞬納得しかけたが、そういうのもあるよな。わざとシアンさんを経由させて、俺達にウソの依頼をしてきたことの意味が分からない。

 なんかもう何が目的なのか分からなくなってきたぞ。
 頭が熱暴走し始めたんですけど、俺もう帰って良いですかね……。

「そのへんは私に聞かれてもなんとも言えないな。全ては国主卿こくしゅきょうの胸の内だからねぇ……。しかしまあ、謁見えっけんかなうと思うよ。ただしこの国内ではないけど」
「は?」

 思わず無礼な返し方をしてしまったブラックに、相手は眉を上げて見せた。

国主卿こくしゅきょうは、拝謁はいえつを許され国王陛下のもと参向さんこうしておられる。つまり、ライクネスの国内にいらっしゃるのだ。今から追えば、間に合うかもしれないな」
「…………僕達に、急いで追え、と?」

 ああ、ブラックの声がまたもや滅茶苦茶めちゃくちゃ不機嫌になっている。
 まあでも無理はないか……こと冒険者稼業に対しては意外と真面目な態度でのぞむし、そもそもブラックはこうやっておちょくられるの大嫌いだからな。

 いやローレンスさんはおちょくるつもりは無いんだろうけど、結果的に全部ブラックの神経を逆撫でしまくってロックンロールかなでてるというか。
 そらそんな事されたらブラックもブチ切れ寸前になるよな。

 俺だってしびれた足をおどけて何度もツンツンされたらそらキレるし。

 でも、ブラックの怒り方って怒るっていうか、もう殺意だからなぁ……。
 俺にはコイツの感情が爆発しないように抑えることしかできない。どうかこれ以上の燃料がそそがれませんように、などと思いつつアーラットさんを見やると。

「ははは、さすがに徒歩や馬車では間に合わないよ。王都に到着してしまうと謁見えっけんも難しいだろうし……まあ、こちらで帰って来るのを待っていてもいいんじゃないかい」

 その間の面倒はこちらが見るよ、とアーラットさんは言うが……ブラックは、もはや信用ならないと思ったのか、俺の肩をつかんで立ち上がった。
 当然俺も勢いに押されて立ち上がってしまう。

「結構です。……ディオメデを所有しているので、今から向かいます。ある程度ていどの距離なら王都に到着する前までに拝謁はいえつできるでしょう。……で、いま国主卿こくしゅきょうはどちらにいらっしゃるんですか」

 最後の言葉は「で、す、か」と区切っていて、あからさまな怒気が見える。
 こらこらもうそれ以上は殴り合いにしかならないぞ。
 密かにデカい背中に手を回して「落ち着け」とさすってみるが、ブラックはこれ以上話を続けたくないのか、目を細めてアーラットさんをにらんだ。

 しかし相手も豪胆なもので、アハハと笑いながら紅茶を再びくちにする。

「そうだねえ、恐らくは……【交易都市ラクシズ】を過ぎて、王都に近い【モンペルク】の街じゃないかな。ここからだと、馬車なら五日以上かかるよ。やっぱり待っていた方が良いんじゃないかい。ディオメデでも追いつけるかわからないよ?」
「お気遣きづかいアリガトウゴザイマス。ではごきげんよう」
「ちょっ、ちょっとブラック! 出発するにしても借りたモン返さなきゃだろ!!」

 そう強引に俺を連れて行こうとするんじゃないと踏ん張りつつ言うが、アーラットさんはニコニコと笑って「後で回収するから気にしないで。返済も不要だよ」などと太っ腹な事を言って下さる。いや、いまはそうじゃ無くてですね。

「まあこちらもウソをついていた事だし、これで許してほしい。ああ、あと言い忘れてたコトがあるんだけど……」
「な、なんですか!」
「代々うちの家系には、とある話が伝わっているんだよね」
「…………」

 その言葉に、ブラックの勇み足が止まる。
 ジト目でアーラットさんを見たブラックに、相手はニコリと微笑んだ。

「出発するなら、多少の食糧を持っていくといい。ウチの馬肉は美味しいぞ? まあ、それらの“お詫びの品”を用意するしばしの間、昔話に付き合ってくれ」

 アーラットさんの家系……この土地の領主である一族が伝える昔話。
 それをこのタイミングで出してくるって事は……あの遺跡と、やっぱりなにか関係がある話だって事だよな。

「……やっぱりこの国の貴族は性格が悪いな」
「ははは、そう言われるのは悲しいなあ。切り札を隠している、と言ってくれたまえ」

 そうは言うけど、アーラットさんの顔は全然悲しそうではない。
 まあいつもラスターみたいに堂々と優雅にしている感じの人ではあるけど……その居住まいが、ブラックにとっては「信用ならない相手」に見えるのかな。

 なんだか俺もちょっとアーラットさんが油断ならないヒトに見えて来たぞ。

 思わずかまえてしまったが、そんな俺に相手は笑うと、再び席を勧めてきた。

「君達は恐らく、他の旅人と同じように『この国は長閑のどかだ』と思っているのかもしれないけど……案外、そういう国ほど過去は見果てぬほど暗いものだよ」

 国と言う物は、人の幸福と不幸を混ぜ合わせて成り立っている。
 そう呟いたアーラットさんの表情は、先程さきほどとは違いやけに真剣だった。









※ツカサ達は、まだセレストの正体を知りません

 
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