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七鳴鐘楼モンペルク、月蝕は混沌の影を呼び編
3.開けてはいけない扉が開く1
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生まれてこの方一度も変わった事が無い、古めかしいマンション。
数十年前のマンションにありがちな“各部屋のドアが並ぶ、道路に面した渡り廊下”は、防犯上とても良くない物になっているらしいが……建て直しでもしない限り、今更このデザインは変えられない。
その良く無さが災いして、こちらで言う “神隠し”から帰ってきて暫くは、この間取りのせいでロクに外も出られなかったけど……今となっては、それも過去の事だ。
もう道路で屯して警察を呼ばれる報道関係者も見当たらないし、入ってこようとする不審者も見当たらない。報道された時はあれほど騒がしくて、マンションの他の住人に母さん達が謝って回ったくらいだったんだけど……今は静けさを取り戻していた。
あの時は、本当に申し訳なかったよ。
……でもこのマンションに居る人はみんな昔馴染みの良い人達で、母さん達も普段から自治会とか町内会を欠かさない性格だったからか、協力してくれる人はいても、俺達に苦言を呈す人は居なかったんだよな。
今でも騒がしくしてごめんなさいと思うばかりだが、それでも……昔馴染みのおばちゃんとかおじさん、それに別の階の人達が俺達の騒ぎを知って「気にしないで」と言ってくれたことは、とても嬉しかった。
みんな、外に出るたび記者に俺の事を突かれて鬱陶しかっただろうに。
だから、大きな事件で俺の報道も掻き消された今、俺は本当に安堵しているんだが――――そんな事情を知ってか知らずか、俺の家のドアの前で騒いでいる悪友どもが二人いる。その騒ぎと言ったら、とんでもなかった。
「こっ、こ、ここ、こ、ここがっ、こ、ここが、がっ、がはっ、はぁっ、つ、つーちゃんのっ、つーちゃんのお、お、おうちっ、おおお、おぉ」
「野蕗うるさい。……いつも外から見てるが、お前の住んでるマンションがこんな古い建物とは思わんかったぞ。……マジでセキュリティはどうにかした方がいい。何年前のオートロックなんだよアレは。それに、監視カメラすら適当な場所に……」
…………お分かりいただけただろうか。
歩いてる時は大人しかったってのに、俺のマンションに到着してから、ヒロもシベもずっとこんな調子なのである。
ヒロ、なんでお前はそんな興奮してるんだ。あとお前時々急に声がデカくなるな。
シベ、なんでお前はそんな俺ん家のセキュリティを批評するんだ。評論家か。
とにかくうるさい。
そう。もう本当にうるさいのだ。
ヒロは母さんと会うのに緊張しているのか吃音が酷いどころの話じゃないし、シベもシベで俺ん家のセキュリティにめちゃくちゃ文句を垂れてるし……。
何故だ。なんで急にそんな感じになったんだお前らは。
っていうかヒロ、お前、婆ちゃんの家の田舎じゃ何度も家に泊まりに来てただろ。今更友達の家に興奮するのかお前は。
……いや、でも、久しぶりだしそういう事もあるのかな?
転校してきたんだし、前の学校の友達ともそうそう会えないだろうしなぁ……。
そう考えると、ヒロの引っ込み思案な性格じゃ無理もないかもしれないが。
…………でも、さすがに二人ともこう煩いと近所迷惑になってくるな。
さっさと中に入るしかないか。
「つ、つっ、つーちゃっ、つーちゃんっ、ぼ、ぼくっ」
「……あとなんだこの渡り廊下は、いつ帰宅したか丸見えじゃないか! ったく、お前はどうしてこんな所に住んでるんだ、今の状況じゃこんな……」
「もー、二人ともうるさいっ!! 近所迷惑、いいから上がれよもう!!」
鍵を開けて強引にデカブツ二人を押し込むと、俺はドアを閉める。
狭い玄関に男三人はちょっとキツい……とか思っていたら、台所の方から母さんがパタパタとスリッパを鳴らして近寄ってきた。
「まあまあ! ヒロ君に……そちらが奉祈師部君? あら~、初めまして! ツカサがいつもお世話になってます~!」
「な゛っ……も、もういーから!! 母さんはアッチ行っててよ!」
漫画みたいな不良なら「うるせえ、クソババア!」って罵倒するんだろうけど、さすがに恥ずかしくても親を罵倒する気にはなれない。
いやだって母さん怒ると不良ばりに怖いし、そもそも親を悪く言うなって婆ちゃんにゲンコツで躾けられてるからなぁ。でもこうしてたら母さんがつけあがるんだ。
「こらツカサ、お母さんを邪険にするんじゃないわよ! お友達にはちゃんと挨拶しておかなくちゃでしょ、アンタはヒロ君達にも沢山お世話になってるんだから! ったくもうホントごめんなさいねえ、いつも……」
ぐえええやめてくれ、そのよそ行きの声を出さないでくれ母さん頼むから。
トシのワリに若作りなのは母さんの勝手だが、ダチにいつもよりワントーン上の声で愛想よくされるのは子供からすると見たくない親ベスト5なんだよおおお!!
あと俺をナチュラルに下げるのやめて! 息子サゲ反対!
顔から火が出そうになりつつ、とにかく母さんを台所へ追いやろうと大柄な二人の間を縫って強引に前に出るが、そんな俺を気にせずシベは柔らかな声を出す。
「ああいえ、僕も潜祇君には良くして貰ってますから……。それに、困った時はお互い様というでしょう。お母様もお気になさらないでください」
「…………」
誰、この、よそゆきのイケメン。こわい。
なんかキラキラしてるんだけど。俺やクーちゃんに向けるゴミムシを見るような表情じゃないぞこれ、少女漫画のイケメン面だ。誰このイケメン……。
「つ、つーちゃん……すごいかお、し、してるよ……」
「ハッ……と、とにかく上がって。母さんもう良いから! ほら二人ともこっち! 俺の部屋に早く行ってってば!」
先に上がって文句を言う母さんを居間に押し込んだ後、俺はヒロとシベの制服の袖を掴んで強引に部屋に放り込んだ。
あまりにもエグい悪友の姿に金剛力士像みたいな顔をしてしまったが、今俺がやるべき事は母さんの牽制だ。
頼むから部屋に来ないでくれ飲み物は俺が持っていくから、と捲し立てると、母さんは「やれやれ」と言うような顔をしながら俺に緑茶の缶を差し出した。
「今ウチにある最高級のお茶はコレしかないのよ。まったく……あんな育ちの良さそうでイケメンな子を連れてくるなら、そう言っておきなさいよね!」
「ダチの前で言えるかよそんなこと!」
玉露入りだとかなんとか書かれている缶をポンと開け、お茶を三人分用意する。
が、母さんは何故か外に出る用意をし始めた。
「ツカサ、お母さんお茶請けのケーキと紅茶買ってくるから、帰って来るまでヒロ君と奉祈師部君をキチンとお持て成ししなさいよ!」
「ハァ!? 今から!?」
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「う、うん……二人とも部活とかあるから……」
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「ツカサ、聞いてる? もしお腹すいたら冷蔵庫のプリン開けていいからね」
「う、うん! いってらっしゃい」
いかん、また考え込んでしまった。
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……いつも口煩い母さんだけど、まあ……その……俺の友達の事を大事に思って、ケーキまで買ってきてくれるのは、嬉しいと思う。
親に顔を突っ込まれるのは恥ずかしいけど、俺の友達を全員歓迎してくれるつもりなのは、暗に俺のことも肯定してくれてるようなもんだからな。
尾井川もクーちゃんもヒロもシベも、俺にとっては大事な友達だ。
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…………そういうとこは、感謝してるんだ。
ブラック達と出会ってから、なんだか余計に周りの人の温かさって言うのを感じると言うか……へへ、まあそれは俺が大人になったってことなのかな。
人の優しさを素直に受け止められるほど俺は大人になっ、うわっちゃ熱っ、あっつ! お湯入れ過ぎて溢れたあっちい!!
「お、お湯入れてる途中で考え事するもんじゃねえな……」
慌てて水で冷やしたが、赤くなっただけのようだ。
ホッとして、俺は改めて三人分のお茶を揃えると、あまり合わないような気もするが市販のプリンを適当にお盆に乗っけて部屋に持って来た。
「うーい、お茶持って来たぞー。とりあえずまあゆっくりしてってくれよ」
そう言いながら部屋のドアを開けると、奇妙な様子が目に入った。
なんと、シベもヒロも借りて来た猫のように正座して肩を縮こまらせ、部屋の真ん中から一度も動いていないようにカチンカチンになっていたのだ。
……いや、そうは言っても、シベは庶民の部屋と言う物が理解できないのか、忙しなく目を動かして「なんだアレ」と眉根を寄せていたし、ヒロも何故か顔を真っ赤にしつつ見開いた目をギョロギョロと高速で動かしていたので、どちらもある意味元気ではあったのだが。
「うっ、ぁ、お、お茶か。すまん……というか、お前のお母様はどうした」
「もうその呼び方やめてマジで鳥肌立つから……。母さんは二人のためにケーキを買ってくるって出てったよ。だから、スマンけどもう少し待ってて」
勉強机の脇から折り畳みのテーブルを出して二人の真ん中に無理矢理立たせると、俺はそこにお盆を乗っける。
すると、落ち着きを求めるようにシベがお茶に手を付けた。
「ほら、ヒロも。プリンあるぞ?」
「ふひぇっ。あっ、ぁ、つ、つーちゃんのプリン……っ?」
「市販のプッチンするヤツだけどな。ホイお皿。んで……何かして遊ぶ? といっても、ゲームくらいしかないんだけど」
スプーンをお行儀悪く齧りつつプリンを皿に落とす俺に、シベはその様子をおっかなびっくりで見て真似しつつ、まだ困惑した様子を隠せないまま「あ、ああ」と頷く。
真向いのヒロも、手際よくプッチンしながら俺にコクコクと頭を振っていた。
「つ、つーちゃんなんのゲームするの? ば、バックギャモン、それとも……チェス? コントラクトブリッジとか……」
「おい、それどっちも二人用だしブリッジは四人用だろうが。つーかチェスとかコイツの部屋にあるかよ」
「待て待て二人とも何のことか全然分からん。チェス以外わからん。俺がやりたいのは普通のゲームだよ、テレビに繋ぐやつ!!」
チェスは聞いた事あるけど、他の二つは想像もできない。
ブリッジてなに。あやとりで橋でも作るつもりなのか。
つーか俺の家にチェスなんて紳士的なモンはありませんよと思いつつ、ゲーム機を棚から引っ張り出して見せると、ヒロは不思議そうな顔をしていた。
「つーちゃん……それ、なに?」
「あれ、ヒロこういうゲーム知らないんだっけ?」
シベは……確か、シベの家の会社ってゲームも作ってたから知ってるよな。
二人とも坊ちゃん育ちっぽいけど、そういうところで違いが出るのか。
目を丸くして二人を見比べる俺に同意するかのように、シベも純粋培養のヒロを変に疑うような目つきで見ながら頬を掻いた。
「この世の中にテレビゲームを知らんやつがまだいるとはな……とはいえお前のそのゲーム機は古すぎんか。何年前のだよそれ」
流石にシベは色々知っているようで、尾井川ほど詳しくは無いだろうが、俺の持っているゲームを指さして訝しげな顔をしている。
そう、俺が持ち出して来たゲームとは……今流行のゲーム機ではなく、それより何世代も前の、いわゆるレトロと呼ばれる類のゲーム機だったのだ。
でも別に、俺が好きで買ったわけじゃないぞ。
これを持っているのには理由があるのだ。
「いや、なんかさ、中学の時に尾井川が中古で安いしって勧めてきたんだよ。ちょっとエッチなゲーム出来るしソフト貸してくれるっていうから」
そう。俺がこの特徴的な四角い箱を持っているのにはワケがある。
中学の頃、まだパソコンを持っていなかった俺に、二次元エロの師匠である尾井川が「少しでもエロい物がみたかろう」と、えっちな絵が見られるゲームが何本か存在するゲーム機を勧めてくれたのだ。
その時の俺の狂喜乱舞っぷりといったらなかった。
だってさ、最新のゲーム機じゃダウンロードした時点で親にバレるんだぜ?
なのに、中古のゲームなら合法的且つこっそりとスケベな絵が見られるんだもの。そりゃ買うでしょ古いゲーム機!!
しかもソフトなら、該当シーンさえ親に見られなければいいのだ。ダウンロードとか必要のないゲームだから、親が不審に思う事も無い。
中古ソフトの貸し借りというのは、俺達にとって都合が良かったのだ。
まあ、その期待の「スケベな絵」も、今振り返ればお色気程度だったんだけど、でもスマホで探す直球の禁断の品とは違って、俺が合法的にみられる「ちょっと昔の過激な絵」は、それはそれで股間を程よく刺激してくれた。
中学生の時分ならなおのことだ。
なので、俺にとってこのゲーム機やソフトは古かろうが宝物なのである。
それに尾井川の友情が分かって良い話だろう。なあシベよ。
って、何でそんな苦虫を噛み潰したような顔をするんだ。
「お前らいつからエロオタこじらせてんだよ……」
「そういうシベも好きなくせして。なあヒロ! お前もきっと気に入ると思うんだけどな」
「えっ、えぇっ、そ、そ、そう……?」
ヒロにも同意をしてもらうべく顔を向けると、相手は困惑しつつも目を瞬かせる。
今一つピンと来てないみたいだが、やっぱりまだエロに耐性が無いみたいだな。
しかし俺はヒロにも「俺達エロオタが情熱を注いでいること」を教えるって約束したからな。今後の会話で仲間外れにしないためにも、少しは教えておいてやりたい。
せっかく家に遊びに来てくれたんだし、このチャンスを逃す手は無いよな。
そう思い、俺は「任せなさい」と言わんばかりに胸をドンと叩いた。
「よーし、いい機会だっ。今日は軽度のお色気から学んで行こうぜ! スケベな絵に免疫のないヒロでも、レトロゲーのお色気から入ればイケるはず!」
「はえっ!? お、お色気っ……!?」
「おい、遊ぶ趣旨が変わってんぞ。いいのか」
「良いの良いの! テレビに繋ぐからコード取ってー」
こういうのは思いついたが吉日なのだ。
母さんも三十分くらいは戻ってこないだろうし、ヒロの入門編に丁度いい。
俺は軽度のお色気があるゲームを選びつつ、久しぶりにプレイする思い出のレトロゲーにワクワクしながらテレビの電源を入れたのだった。
→
※オッサン出すとこまでいけなかった_| ̄|○
次か、次の次くらいに異世界いきます
次回は年相応に少々下品なのでお気を付け下さい。
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