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七鳴鐘楼モンペルク、月蝕は混沌の影を呼び編
23.森の中での素材集め1
体毛について要らぬ思いを馳せてしまったが、今はとにかく材料集めだ。
俺は気を取り直すと、ロクショウの案内に従って更に森の奥へ入った。
常春の国であるライクネスは曜気や大地の気が潤沢で、どこにいっても草原や森が存在している。春の気候だからなのか、それとも生命を司る大地の気が満ち溢れているからなのか、ともかく常に若葉が茂っていた。
他の季節も好きだけど、やっぱこう……木漏れ日が心地いい、青々とした森の中に居ると、なんか気分が清々しくなるんだよなあ。
ぽかぽか陽気だし風も心地いいし、なにより気分がアガってくる。
ちょっと草原を駆け回りたい気分になってくるが、残念ながら今の俺達には使命が有るのだ。いや、もしかしたらやらなくていい事かも知れないんだが、でもあの街で異変が起こっているんだから何とかしなければなるまい。
そのためにも、ダハの尻尾を捕まえなきゃな……なんて思っていると、前方のロクが何かを発見したのか、俺達を振り返った。
どうやらダハを発見したのかな。
ロクを見返すと相手は頷き、それからペコリア達に向かってちょいちょいと小さなお手手を動かす。こっちに来てと言っているのだろうか。
それをペコリア達が察すると――――
ウサギの面目躍如とも言えるほどの後ろ脚の強いばねで素早く前方へ飛び出すと、その先にあった茂みの中へと二匹同時にダイブしたではないか。
「わっ!?」
思わず声が出てしまったが、その声を掻き消すかのように「ギュアアア」という獣の声とも叫び声ともつかない声が聞こえて……ペコリア達が、なにやらうねうねした物を口に咥えながら戻ってきた。
あっ……これ、もしかしてダハの尻尾……。
「ンクゥ! クゥー!」
「クゥックゥー」
「よ、よーしよし偉いぞ、えらいぞー! ありがとうな~!」
実に嬉しそうに、ぴちぴち動く新鮮で生々しい尻尾を咥えて離さないモコモコウサチャンズ。……か、可愛いけどやっぱりモンスターなんだなぁ……。
いやでも俺達のために獲物を取って来てくれたのは素直に嬉しい。
しこたま頭やお腹を撫でてその功績をたたえると、ロクもいっぱい撫でてから俺達は再び材料を森の中で広げた。
「これであとは……水、植物、オッサンの汁か」
「ヤな言い方だなぁ、汁って」
「よしブラック、足を出せ! すね毛の涙を取るぞ!」
「史上最もそそられない誘い文句だよツカサ君」
うっさい、これもお前が眠らないためだろうが。
俺だって自分で言ってて意味わからんわ、なんだよオッサンのすね毛を引き抜いて涙を採取するって。どんな薬の材料だ。
しかし、俺の世界の魔女の薬だってヘンな物を入れまくってるワケだし、だったら悪戯好きの妖精の薬だってそんなモンかもしれないからな。
凄くふざけた材料ではあるが、真面目に作ってみよう。
「とにかく採取だ採取! すね毛を出せ!」
「もうちょっとやらしい誘い方がいいんだけどなあ」
「どうやってすね毛にやらしさを見出せばいいんだよ」
それもそうか、とブラックは渋々そこら辺の大きい石に座ってブーツを脱いだ。
緩慢な動作でズボンの裾を上げるのを横目で見ながら、俺はその間に小さな瓶をバッグから取り出した。……何ミリリットル必要なのかは分からないけど、たぶん一粒程度でいいはずだ。
振り返ると、ブラックは既に準備を完了していた。
「…………いつ見ても不思議だなぁ。髪や眉毛は赤いのに、すね毛は黒いの」
「そう言えばそうだねえ。下になるほど色素が濃くなるとかそんな感じなのかな? ……っていうか、ツカサ君たらいつも僕のすね毛を見ちゃってるの~? ふ、ふへへ、ツカサ君たら意外とムッツリさんなんだからぁ」
「はぁ!? なんですね毛見ただけで!?」
そりゃ目に入るんだから見るでしょうよ、それにオッサンのすね毛なんて現実じゃ父さんか悪友か画面の向こうでしか見たことないんだし。
銭湯だってほとんど行かないんだから、その……いつも一緒に居るヤツの足が目に入るのは普通って言うか……いや、アンタがどこもかしこも毛モジャすぎるから逆に気になって来るんだよ。外国人っぽい人ってやっぱみんな毛根逞しいんだろうか。
と、とにかく別にムッツリとかじゃないんだからな。
俺のは純粋に毛がすげえってだけの好奇心なんだから。
そこんとこを勘違いするんじゃないぞと睨むが、ブラックは何が嬉しいのか俺の顔を見てもニヤニヤとご満悦になっているだけだ。
なんだよもう、何か居心地悪いなあ……。
「もう良いから早く涙を採取するぞ! ほら瓶持って目の下に当ててろ!」
「でも僕涙とか出るかなぁ。ツカサ君のせいで今すっごく幸せだし」
「はぁ……?」
どういう意味だよそれは。
ブラックの足の前に座って顔を見上げると、相手は口角をだらしなく緩めた。
「ふふふ、だってツカサ君は僕の隅々まで見てくれてるってことでしょ? 顔とか、目の色とか髪の色だけじゃなくて、僕の色んな所を見てキュンキュンしてくれてるんでしょ? そんなのもう……へへ……」
「べっ、別にキュンとかしてませんけど!? 何をカン違っ……わあ!! バカッ、人が座ってる目の前で勃起すんな!!」
「だってツカサ君が可愛いこと言うから……」
「すね毛の話題で勃起するやつがあるか!!」
っていうかピュアなロクとペコリア達の前でへんな姿を見せるんじゃねえ。
マントで隠してろと怒りつつ、俺はブラックのすね毛を一つ摘まんだ。
「一本引き抜いたくらいで涙なんて出るかなあ」
「や、やってみないと分かんないじゃん。行くぞ、ちゃんと瓶当ててろよ」
「はぁーい」
よし、じゃあ……いっせーのーでっ。
――ブチッ。と、音が鳴ったような気がする。
ブラックの顔を見るが、やっぱり涙らしきものは出ていなかった。
「ねえツカサ君、僕思うんだけど……体液なら、すね毛じゃなくていいんじゃない? というか、そもそもの話、痛みで出てくる涙が重要なんでしょ?」
「うん、まあ確かに……でもすね毛って本当に関係ないの?」
体育座りをしながら問いかけると、ブラックはうーんと腕を組んだ。
「無いと思うよ。部位で涙の成分が変わるなんて事ないだろうし。たぶん、ああいうのは不意の痛みから来る感情の成分が濃い涙が欲しいんだと思う」
「じゃあ小汚いオッサンって所も意味ないってことか」
「あっ、いやいやそこは別に良いと思うよ。嫌われがちな中年の体液とかそういうのが必要なんだと思うし……」
「自分で嫌われがちって言うのか……」
それはちょっと悲しい気がするが、まあアンタが言うならそうなのだろう。
中年男と一般人女性じゃ何か体液も違いそうだし。そりゃまあ涙を舐めると言うのなら、俺もオッサンよりは女の人の方がいいしな……。
じゃあブラックから貰う方が効率は良いか。
「だからさツカサ君、他の方法で僕に涙を出させてみない?」
「え……やっぱり鼻毛を抜くのか……?」
「ツカサ君が僕の鼻に指を突っ込んでくれるならそれでもいいけど」
「よくねえよ急にイヤんなってきたわ」
流石に親しき仲にも礼儀ありだろ。
鼻の穴に指を突っ込むなんて、ガキの頃でもないとダチにすらやらんぞ。
本当に毎回とんでもない事を言いだすなと思っていると、ブラックは急に足を広げ大股を俺に見せつけて来た。なに、やめてくださらないそれ。
「僕、基本的に痛みで泣く事なんてないからさ……どうせなら、汗にしない?」
「…………ひとっ走り行ってくるってこと?」
「そうじゃなくてぇ……僕のことをさ、焦らしてみない?」
焦らす。
……にわかに嫌な予感がしてきたな。
ここは深く突っ込まずに流した方が良いだろう。
「よし、じゃあひとっ走り行ってこいよ! 気合いを入れて汗を掻けば、すね毛の涙と同じ効果が得られるかも知れないし!」
「ツカサくーん? そういうコト言うってことは、分かってるよねー?」
「な、なにを……」
言いたいんだ、と、俺が言い継ごうとしたと同時。
ブラックは俺の体を強引に持ち上げて、低い声を耳に吹きかけて来た。
「……後で椅子に座れなくなるのと、いま口が疲れるの、どっちがいい?」
椅子に座れなくなるのと、口が疲れるの。
頭の中でブラックの言葉を反芻し、数秒考えて――――
俺は、ようやくそれが「どういう意味か」を把握し顔の熱を暴発させた。
「お、お前まさかこんなとこで……!」
思わず息を吹きかけられた耳を抑えてしまうが、ブラックは再びいやらしい笑みを浮かべて、俺の顔をじっと見つめてくる。
「体液、欲しいでしょ? ……他の男にねだるなんて許さないからね?」
「…………」
そういえばコイツはそういうヤツだった。
元はと言えばアンタの為に薬を作ってるっていうのに、何をこんな居丈高に要求を飲まそうとしてるんだこのオッサンは。いやでもブラックに起きてて貰わないと困るのは俺だし……今は何でも試さなきゃって感じだし……。
どの道、ブラックから貰うしか方法がない。
……でもまあ、どっちもオッサンの体液なんだから重複したって平気なはず……。
失敗したらしたで、ブラックも「じゃあ仕方ないか」と思って、他のオッサンからすね毛をむしる許可をくれるかもしれないし。
それに恥ずかしがってたら、余計にブラックに付け入る隙を与えてしまう。
…………まあその……ロクちゃん達にはちょっと離れた所で遊んでてもらい、草の陰とかで隠れてやるんなら……なんとか、耐えられる、かも……。
ここまで街から離れていたら、そうそう誰も来ないだろうし。
それに、ここで拒否したら確実にケツが大変なことになるみたいだし。
だったらもう、覚悟を決めてやるしかない。
…………。
いやこんなことに覚悟決めるとか、どう考えてもバカみたいなんだけどな!?
「ど、どうするのツカサ君……ふひ、ひひ、僕はどっちでもいいよぉ……」
「うぐ……ぅ、わ、分かったから……。でも、その……かっ、隠れた所でだからな!? あと、一回だけだからな!!」
覚悟を決めたと言いつつも情けなく声が引きつってしまうが、そんな俺がおかしいのか、ブラックは歯を見せて笑い、俺の頬を満足げに撫でる。
ぐううやめろ、肌の温度感が違うのが分かっちまうだろ!!
「えへ……ツカサ君ってば本当可愛いなぁ……顔を真っ赤にして上目遣いだなんて、そんな風に誘ったら僕も我慢できなくなっちゃうよ?」
「誘ってねーって!! ああもうっ、さっさとすませろよっ!」」
手を振り払って立ち上がる俺に、ブラックもゆっくり腰を上げる。
が、その腰はわざと見せつけるように、ズボンの合わせ目を押し上げていた。
…………で……でか……。
……いやいやいや見るなってば、初っ端から緊張してどうするんだよ。
っていうか、何度もやってるだろこんなの。
ふぇ……フェラ、なんて、もう……覚えてないくらい、やったのに……。
うう……でも、やっぱり、人のモノを扱うのって慣れないんだよ。自分のモノと全然違うし、それに……こんなことするくらいの関係なんだって見せつけられると、な……なんというか……言い表せない感情が……。
「じゃあツカサ君、準備しよっか……ね?」
「…………」
ブラックのこういう所が、また辛い。
なんでこう、やらしい感じの声でわざとらしく囁いてくるんだろう。
そんなことするから、俺まで変な感じになっちまうのに。
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