異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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迷宮都市ヘカテクライオ、秘めたる記憶と誘う手編

12.記憶に潜む異形の影

 
 
   ◆



「う~ん、中々に美味しいね! マズいワインでもぐびぐびのどを通っちゃうなぁ」
「キュー!」
「クゥ~」
「ハムッ ハフハフッ、ハフッ!!」

 一匹物凄い勢いでハフハフしているが、もちろんペコリアである。
 ネットスラング並みの勢いでイカの肉詰めにハッスルしているのは正直面白かったが、笑うとペコリアが怒るので治めるとして……ブラックの野郎、さっきまで青い顔をしてたってのに、もうワインを一本開けてやがる。

 いやまあこの世界の一般的ワインって酸っぱかったりするらしいし、アルコールの濃度もそんなに高くないんだろうけど……それにしたって飲み過ぎではないか。
 大丈夫だろうかと心配になるが、もうブラックの顔は血色も良く、ほんのりとあかがおになっていた。……心配してそんしたかもしれない。

 まあ、つらくてご飯が食べられないよりはマシだろう。
 にしたって、酒は飲み過ぎなような気がするけど……おいコラ二本目のびんを逆さにしてトントンしてるんじゃねえ。

 三本目は流石さすがにやめろと言おうとしたが、まあ普段から飲んでるし今更いまさらか。
 俺はあきらめて、自分のぶんの料理を頬張ほおばった。

「ん~、イカに肉をめるなんて初めて聞いたけど、なかなかイケるなぁ」

 ハーブがイカと肉の臭みを両方消して、にんにくっぽい何か……確かオービルと言ったか……の匂いをほどよく抑えている。
 それでいて、肉の旨味うまみは閉じこめられていて、イカと肉に少し辛めのトマトソースが絡むのが抜群にうまい。こんなのマズいと言う方が無茶な味だな。
 しかも、イカのほどよい柔らかさと弾力が良いアクセントだ。イカ自体も味が深くて、噛めば噛むほど旨味がにじみ、肉に絡まって得も言われぬ味を生んでいる。

 魚介類のダシってなんでこんなに美味いんだろうな……。
 肉も美味いけど、海の幸も本当にいいものだ。

 それに、ガツンと来るメインの後味をさっぱりさせる貝の潮汁うしおじるも美味しかった。
 味噌も何もない塩だけのシンプルな味なのに、貝の風味が素晴らしい。
 シンプルだからこそ、濃い味の主食にぴったりだった。そして貝の実が美味い。

 なんか久しぶりに海の物を食べた気がするなぁ。
 海の上を移動したりはしたけど、その中でも魚介類ってあつかわなかったし……。

 魚とかも食べたくなってきたが……やっぱりそうなると白米と醤油しょうゆが恋しい。
 うう、この世界にも多分存在すると思うんだけど、どこにあるんだろうなぁ。

「にしても……その言い伝え? だっけか、ずいぶんと妙な言い伝えだねえ」
「んが?」

 考えながら食べている途中で、ワインをぜるように武骨な素焼きのカップを軽く回すブラックが呟く。
 咀嚼そしゃくしつつ「何が?」と目で問うと、相手は言葉を続けた。

「いやさ、基本的に“注意喚起”の言い伝えって対象を限定しないか……そもそもが、子供に向けたもののほうが多いんだよね。ほら、子供に言い聞かせるでしょ? 『夜キチンと寝ないと、恐ろしい物がやってくる』とかね。……なのに、この街は珍しい事に“恋人”を頭言葉にした言い伝えだなんて……」
「んぐ……。それは確かに……」

 ちゃんと噛んで飲み込んだ後、俺は同意するようにうなずく。
 潮汁うしおじるを軽くすすって“言い伝え”を反芻はんすうしてみるが、ブラックの言うように「恋人」と言う限定は妙な感じを覚えた。

 ……さすがに、恋人みんなが浮かれてるって事もないもんなぁ。
 子供はだいたいウロチョロするもんだから限定されても仕方ないが、大人も恋人も千差万別だし、お互いに注意すれば済む話なのだ。
 わざわざ子供達が屁理屈をこねやすい言い伝えを作る必要もない。

 うーん……やっぱり、元々は「恋人」ってのが重要な言い伝えだったのかな?

「ま、なんでも良いけどさぁ……それより、僕としては今度は“恋人二人で”森の奥の小屋とやらに行きたいもんだけどねえ」
「ぐっ……そ、そりゃまあ、ブラックが一緒に行きたいならそうするけど……」

 急に話を方向転換されてイカがのどまりそうになったが、なんとかゴクリと飲み込んで答える。別にやましい所はないし、付いて来たって問題ない。
 誓って俺は潔白だと言い切ると、ブラックは不満げにくちとがらせた。

「むー……そうやって無邪気に言うから心配なんだけどなあ」
「いやだって、やましい所なんて無いし」
「は~、ツカサ君たらオスごころが分かって無いんだから……。まあいいよ、明日はくだんの不審者に会いに森に行ってみようじゃないの」

 ワインをぐーっとあおって、ブラックは息を吐く。
 その空気に、俺の横に並んでごはんを食べていたペコリア達が「くきゅー!」と、酒のニオイを嫌がって鼻を押さえた。おかしいな……天使がいる……?

 ロクは平気そうだなぁ……なんてちょっと残念に思いつつ、三匹のワンパクなおくちきながら、俺はブラックの宣言にはいはいとうなずいた。

「相手は恩人なんだからヘンに喧嘩腰になるなよ。そもそも、オスだとかまだ分からないんだからさ。美青年のメスかもしんないじゃん」

 そういえば俺はスイさんがオスかメスかもわかっていない。
 ……というか、この世界は性別や見た目じゃ判断できなさすぎて判別不能だ。

 まあ見分けられたって、普通の人はそんな不純な動機で助けないと思うが。
 しかしブラックは自分の事を棚に上げ、二股フォークを振りながら弁舌べんぜつぶる。

「いーや僕には分かる。ツカサ君にはオスしか寄ってこないよ。メスから見たらただのちんちくりんだもん。……あ、でも、子供好きなメスなら寄ってくるのかな」
「喧嘩売っとんのかお゛ぉ!? 明日はカッチカチの干し肉だけ喰わすぞ!!」

 誰がちんちくりんじゃ誰が。
 ふざけるなよとすごむが、ブラックはどこ吹く風だ。

 まったくしょうがない奴だと思いつつ、俺は全員の食事が終わったのを見やり、皿を片付けながら席を立った。

「ったくもう……お前そんなこと言うなら留守番してろよな」
「えっ、なに? ツカサ君どっか行くの。外に出たら危ないらしいよ」
「まだ食事してないヤツがいるだろーが。まだギリギリ日は暮れてないし、マーサじいちゃんとリオルに夕食を届けに行くんだよ。俺とロクとペコリアだけで行くから」
「ツカサ君の意地悪ぅっ! 僕も行くよ、ツカサ君一人じゃ危ないもん!」

 そう言いながらあわてて席を立つブラックに、俺は汚れた皿を押し付けた。
 何事かと目をぱちくりさせる相手に、にらみを利かせて低い声を出す。

「ついてくるなら皿を洗え」
「んもー、ツカサ君たらケチんぼなんだから……ごめんごめんて」
「謝ってねえ謝罪はいらねえ」

 コンチクショウめと腹を立てながら、俺はしっかりブラックにも後片付けを手伝わせて、一応許してやることにしたのだった。
 まあ、ブラックがうたぐぶかいのも俺をザコあつかいするのもいつもの事だしな。

 ……悲しいかな、俺が体力ザコなのは事実ではあるし。
 っていうか、この世界の人達が腕力強すぎるんだよ。

 細腕の美女ですら岩を持ち上げるこの世界がどうかしているんだ。なので、こっちの世界では俺がザコでも仕方がない。はず。
 だから、ブラックのイジりに関してはグウの音も出ないのだ。

 俺も筋トレっぽいことしたり、荷車を引いたり頑張ったんだがな……しかし、結局の所、俺の腕力も体力も全然きたえられなかったのだ。
 なんでだろうな本当に……この世界の俺はそれほどモヤシなんだろうか……。

 考えながら、俺は出入り口の対面の壁にあるもう一つのドアを開き、大河へ伸びる小さな桟橋に出た。お皿などはここで洗ってお婆さんに返すのだ。
 水の曜術の【アクア】で清潔な水をおけに溜めつつ、石鹸のように泡が出るサボンの実で皿を洗いながら、俺は夕陽が落ちかけている空を見て溜息を吐いた。

「ツカサ君、こっちは洗い終わったよ」
「おっ。じゃあ俺がお皿もってくから」

 風も気持ちがいいし、本当なら見惚みとれるほどの風景なのだが、今は堪能たんのうする気分じゃないな。とにかく日が暮れないうちに夕食をデリバリーしてやるか。
 俺達は再びロッジに戻ると、用意していた包みをブラックに渡した。

「ん? これなに?」
「リオル達の夕食だよ。折角せっかくついて来てくれるんなら、保温係をやってくれ」
「保温係……えっ。もしかしてコレを僕が温めておけってこと?」

 ブラックは物凄く嫌そうに顔を歪めたが、そのくらいして貰わないと。
 そもそも、俺達がファムさんを助ける事が出来たのはリオルのおかげだし、今だって彼の容体が急変した場合に備えて見張ってくれてるんだから。

 彼が居なければ、あのモンスターの分析も難しいんだぞ、と俺がさとすと、ブラックは不満げにくちをへの字に曲げながらも「はぁい」と渋々従ってくれた。

 ……にしても本当オッサンの態度じゃねえな。どこいった中年の威厳。

 あきれながらも、俺達は治療院に出発することにした。

 ――夕陽が照らす【ヘカテクライオ】の街は、その迷路のような風景も相まってか、どこか現実感が無い幻想の世界のようにも思える。

 小道の空中を通る石橋や、そこから枝垂しだれる青々としたつた道端みちばたのテーブルなども俺からすれば非日常なものばかりで、まるで外国に迷い込んだみたいだった。
 いやまあ、異世界も外国っちゃあそうなんだが……夕陽がそう思わせるのかな。

 俺が見ている異世界とは違う、ちょっとオカルトチックで怖い異世界って言うか……なんか、そういう不思議な感じがするんだよ。

 夕方は逢魔おうまときとかがれどきと言って、の区別が曖昧になると言う時間でもある……とか尾井川が好きな漫画に書いてあったが、こういう街に居ると納得してしまうな。

「はぁ~……早く行って帰ってこようねツカサ君」
「お、おう」

 俺と違ってブラックは何も感じてないみたいで、包みを手に持って暖めながら情けない顔をする。完全に気が抜けてるなこりゃ。

 でも、今はちょっとうらやましい。
 幻想的な風景は好きだけど……やっぱり、怖いのはヤダもんな……。

 なんか、ブラックやロクやペコリア達とはぐれたら、一生この世界に戻って来られ無さそうに思ってしまうんだけど、ブラックはそんなの気にしないもんな。
 うーん……それが大人の風格ってヤツなんだろうか。
 それとも、曜術師だから精神的な強さが有るのかな。

 ……そうか……筋力も大事だけど、やっぱ精神力も必要だよな……。
 でも俺、オバケに関しては精神力をきたえられる気がしないよ……はぁ……。

 思わず内心溜息をついてしまうが、こんなこと誰かに言えるはずもない。
 自分の筋金入りなオバケ嫌いに嫌気がさしつつも、俺達は何事も無く目的地である治療院へと到着する事が出来たのだった。

 一応、受付で許可を得てファムさんの病室に向かう。
 夕方ともなると、やはり診察目的の患者さんはいなくなっていて、エントランスの待合席は面会に来たのであろう人達が休憩する場所になっている。

 そんなのんびりした様子を横目で見て安心感を覚えつつ、俺達は階段を上った。
 さて、ファムさんは病み上がりで無茶をしていないだろうか。

 そんなことを思っていると――――目的の階まで上がった所で、奥の方からワッと声が聞こえてくる。な、なんだこの大きな声は。

「えっ、なに、凄いうるさいんだけど」
「騒いでる……のかな? とりあえず行ってみよう」

 ブラックが顔をしかめるのを見ながら、声のした方……ファムさんの病室へ進む。
 と、廊下の突き当りにあるはずのファムさんの病室の入口には、何故か患者さんや看護師さん達が鈴なりになっていた。

 い、入口が見えん。
 何でそんなに群がっているんだろう……っていうか入れるかな。

 ちょっと不安になったが、俺達が近付くと何故か人が一斉いっせいに左右に引いた。
 なっ……ちょっ、ちょっと怖いんですけど!
 どうしたのみなさん!

「ツカサちゃん、ブラックの旦那! いやー、すんませんね。入って下さいよ」
「あっ……リオル……」

 病室のドアからひょっこり顔を出したのはリオルだ。
 そうか、リオルが俺達の気配に気づいて、みんなに指示してくれたのか。
 相変わらず元気そうで安心したが、この人だかりはどういう事なのだろう。

 それが聞きたくて、みんなで部屋に入ると、リオルは病室の前でたむろっていた人達に何やら言って解散させる。
 彼らはそれぞれに軽口を叩きながら、笑って去って行った。

 みんな、なにか興味をかれるものがあって見に来てたのかな?
 でも何を目当てにしてたんだろう。

「おい、お前一体何をしてたんだ」

 不機嫌そうなブラックの言葉に、病室の扉をめつつリオルは笑って答える。

「いやー、実はぁ……俺がちょ~っとファムさんの手伝いをしてたら、その手際てぎわが良過ぎましてねえ。可愛い子ちゃん達が集まっちゃったんですよ」

 頭を掻きつつ軽口を叩くリオルに、ファムさんが笑う。
 おっと、ご無事で良かっ……やだ、何かベッドの上にメチャクチャ実験用の器具が置いてある……テーブルにご飯を置く隙間がないや……。

「ふふふ、リオルさんは本当に凄いかたです。この若さで薬草のあつかいにけているし、私が欲しいと思った薬草をポケットからすぐに取り出して下さるんですから。それが手品みたいだって、みなさんが集まってしまったんですよ」
「いや~、俺はただ【セレーネ大森林】で個人的に集めておいた野草を、ちょろっと出しただけなんですけどねぇ~」

 そう言いながらリオルはヘラヘラ笑うが、これで女の子を落としておいて本気では無いんだからムカツクよなあ。いやまあ真面目だから断ってるってだけだし、そこはめるべき所なんだけども……。

 でもうらやにくらしい。くそう、イケメンってやつはこれだから。

「病人はそんなに娯楽が無いってのか。……文官殿、例のモノは他のヤツに見せてないだろうな」

 あきれながらも、謎のモンスターの一部について問うブラックに、ファムさんはすぐに笑みをしずめ「もちろん」とでも言うようにうなずく。

「ええ、そこはぬかりなく。……一応、周囲に毒をまき散らすたぐいかなと警戒しましたが、変質しても害をおよぼす毒を吐き出さない所からして、この死骸の一部はすでに活動を停止しているようですね。なので、見られても安心ではありますが……一応ということで、ソレ自体は見せないようにしています。……まあ、破片はこのように解析かいせき途中ですし、全てを見せるなというのは無茶なお話ですが」

 すらすらとよどみなく答えつつ、ファムさんはベッドの上のテーブルにあった小さなガラスの板を見せる。その中には、どす黒い紫色の何かがはさまれていた。
 あっ、これ俺も理科の実験で見たことあるぞ。ああいうガラス板にはさんで、顕微鏡けんびきょうで観察するんだよな。

 ……でも、この世界って顕微鏡けんびきょうなんてモンは無いよな。
 どうやって観察してるんだろう。そう思っていると、ファムさんは自分のメガネの上に何やら目の模様が描かれたふたを付けた。

 アドニスが頭に付けている、謎の三角形のおおいと同じ目の模様だ。
 確かあのサンバイザーみたいなヤツって……横にスライドさせて顔をおおうと、あの目の模様が動いて顕微鏡けんびきょう代わりになるんだっけ。
 そんで、防毒マスクとか色んな機能を持っている曜具ようぐだったような……。

 だとすると、ファムさんが眼鏡に装着したソレは顕微鏡けんびきょうみたいな物って事だよな。
 持ち運び可能な顕微鏡けんびきょうって、それ俺の世界より凄いのでは。

「あの……ファムさん、詳しく見て何か分かりましたか?」

 問いかけると、彼はフムと息を漏らしてガラス板の中の肉片を見つめた。

「そうですね……このびんの中の死骸だけでは断定できないのですが……。試薬や【顕体鏡けんたいきょう】で調べて見た結果、少し奇妙な事が分かりました」
「奇妙なこと……?」

 問い返してしまったが、ファムさんは怒りもせずにその穏やかな美貌で頷く。
 そして、眼鏡のふた……【顕体鏡けんたいきょう】を外すと、真剣な表情で答えた。

「この死骸は、体内の気の循環がメチャクチャになってるんですよ。試薬で“魔素”がきん繊維せんいを活性化させる形跡を可視化したのですが……ほら、このように一部の肉だけを見ても、樹脈じゅみゃくがバラバラですし急に太くなったり細くなったりしているのです」

 そう言いながらファムさんが見せてくるのは、先程さきほどのガラス板の肉片よりも大きく切り取った物をポケットティッシュ程度ていどの大きさのガラスに閉じこめたものだ。

 板の中の肉片を見てみると、そこにはまるで白い絵の具で木のみきを描いたように線が広がっていた。

「この、葉脈や木の枝のように広がる、幾筋いくすじも分かれた白い線が……我々学士がくしの用語で“樹脈じゅみゃく”と言います。これは、医術・生体学と植物学の用語を分けるためですが……それはともかく。ちからを伝達するこの“樹脈じゅみゃく”の大きさが、おかしいと思いませんか」

 普通ならば、その言葉の通りに「大樹と同じ」広がり方をしているという。
 ファムさんにうながされて確かめてみると……確かに、その樹脈じゅみゃくとやらは奇妙な事になってしまっていた。

 太いみきから細いえだへ変化するはずの脈が途中途中で細くなっていたり、反対にえだの部分であるはずの所が不自然に大きくなっている。
 そしてそれらは……まるで、間違った場所に当てはめられたスライドパズルの一片のように、規則的に間違った大きさになっていた。

 …………これって……。

「なるほど、これはおかしいな。……まるで、僕達が切り捨てる前に輪切りにして、無理矢理くっつけて治したみたいじゃないか」

 ブラックが確信めいたことを言う。
 ファムさんはその言葉に同意するように眼鏡を直して、息を吐いた。

「私もそう思います。ですが……本来であれば、こんなふうにして肉体が動くわけが無いんですよ。噛み合わない歯車では曜具ようぐが動かないのと同じように」
「じゃあ……えっと……」
「不可解、としか言いようがありませんね。……やはり、全体像をてみなくては私も把握はあくできません。明日ここを出立して、王都に戻りたいと思います」

 この病室では調べられることが少なすぎます、と呟くファムさんは、真剣な表情でガラス板に封じられた正体不明の物体を見つめている。

「…………」

 専門家の人がこうまで言うって事は……相当おかしいモンスターって事だよな。
 “樹脈じゅみゃく”がバラバラ……っていうと……正直、キメラみたいな物じゃないんだろうかと考えてしまうけど、そうするとあまり思い出したくない事を思い出してしまう。

 ――――獣人大陸で見た、あの……おぞましい、死体をわせた操り人形。

 【教導】という恐ろしい人族の男が面白半分に殺して、面白半分に体をわざと奇妙な形になるようつなわせた可哀相な遺体達を。

 …………もしかして。

 そう考えてしまうが、確証はない。
 この世界にはボスモンスターがゲームのように湧いてくる場所もあるのだ。
 なら、突然変異のおぞましいバケモノが生まれる可能性も無くはない。

 だから……いや、俺は無理矢理、違う方へ考えようとしているのかも知れない。

 あの男が、また多くの命をもてあそんだと思いたくなくて。

「…………ツカサ君。とりあえず……持って来たもの、渡そうか」
「あ、ああ……そうだな……」

 律儀に夕食の包みを温めてくれていたブラックが、俺の肩をポンと叩く。
 ファムさんは知らない事だろうから、ここで暗い顔をしていても仕方ない。

 とにかく今は、リオル達をねぎらおう。
 そう思い、俺は嫌な予感を振り切るように殊更ことさら明るく振る舞ったのだった。













 
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