異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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幻実混処ユーダイモ、かつて祈りを唱えし者編

6.お前がお前ならそれでいい1

 
 
「やっと目が覚めたかよ……! このすっとこどっこい!」

 とんでもないことをしやがってこの。
 いくらなんでもい、今のはセクハラなんだからな。
 親しき仲にも礼儀ありなんだからな!?

 助けに来たっつっても、こんなことまでやるつもりはなかったわい。
 そんなムカムカを思い知らせるために、罵倒ばとうともに相手のほおを軽く引っ張ろうと指でつまむと……ほっぺが、にゅいっと妙な伸びを見せた。

「うわあっ!?」
「ん……ツカサ君、なんかした……?」
「いいいいいやおまえほっぺっ、ほっぺだけニュッて伸びてる!!」

 そう、俺が軽く引っ張ろうとしただけなのに、ブラックのほおばしたあめみたいに急に一部分だけ伸びてしまったのだ。
 思わず驚いてしまったが、しかしブラック自身はなにも感じていないようだ。

 俺の言葉にほおを触って、ようやく異変に気が付いたようだった。

「あれ……うん……? 僕のほおってこんなだっけ?」
「んなワケねーだろ! ……というかそれ、押し戻して戻るモンなの……?」

 そう言うと、ブラックは伸びた自分のほおてのひらで押して戻す。
 ……ってちょっと待て。

「お、お前……それが手なら、俺の胸に張り付いてるコレは何なんだよ……」

 先ほどまで俺の乳を吸いまくっていたモノは、手が変化した物体だったはずだ。
 なのに……ブラックは、今あらたに肩から手を生やして、ほおをひっこめたのである。

 ……ソレが手なら、俺の胸に張り付いたままのコレは何なんだよ。
 っていうか、いくらなんでもそれはヒトとして出来ちゃいけないことでは!?

 自分でヘンだと思って下さいよと指摘すると、影のままのブラックは自分の体を今一度かえりみて、ようやく状況を理解したのか「うわぁ」と変な声をらした。

「……あー……僕、もしかして何かヒトじゃなくなってる?」
「気付くの遅いな!!」

 ついツッコミを入れてしまったが、まあこの状況では仕方ない。
 ブラックもまだ混乱しているみたいなので、俺は今までの事を説明してやった。

「なるほど……ということは、僕は今、魂の状態なんだね」
「たぶん……。お前の魂の光は見えないけど、その影が疑似的な体になって、魂を守ってるんじゃないかな」

 リオルとマーサ爺ちゃんに借りた“魔族の眼”を発動させてみても、今のブラックの影からはその光が感じられない。
 でも、俺はコイツをブラックではないと思えないし、ブラック自身も俺の事を認識して自分の事を思い出した。……ということは、俺のカンは当たってるって事だ。

 …………というか、よりにもよって俺、しかも俺の胸に、あんなスケベな事をする奴が他に居ると思いたくない。

 まあうたがうってんなら他に質問をすればいいだけだろうけど、俺からの説明を聞いている時のブラックは、今まで見ていた姿となんら変わりは無かった。
 姿が真っ黒で、ちょっと青年っぽくてもやっぱりブラックはブラックなのだ。

 ……その事にホッとしてる自分も少し恥ずかしいが、ともかくうたがう気はない。

 だから、魂の光が見えないのは、この影っぽい体が守っているからだろうと思ったのである。現実の世界で見た、あの奇妙な影みたいに。
 ブラックも俺の考えに賛同してくれたようで、今より細いあごに手をやってうなる。

「うーむ……確かに、その可能性の方が高いかもね……。僕は今まで意識が曖昧あいまいで、自分が何者かすら思い出せなかったから、断定はできないけど……そうだね。もし、この影“は”僕が創り出したものだとしたら……」
「ん?」

 ブラックが新たに生やしたままの片腕の拳をぎゅっとにぎり、何やらりきみだす。
 どうしたのかと思っていたら――――

「ギャーッ!? おおおお前っ胸が割れわれわ」
「曜術師だからかな? この影の体も、想像次第で意外と何とかなるもんだねぇ……で、コレが僕の魂ってヤツなのかな?」
「言ってる場合かー!!」

 お、お前なーっ! 胸の真ん中がパカーって縦に開いて何で平然としてるんだ!
 幾ら自分がやった事でも人間離れしすぎててヒくだろ!?

 し、しかも心臓のある部分がなんか光ってるしっ、球体があるしいい!

「ツカサ君、その“魔族の眼”で見てみてよ、コレ本当に僕の魂の色?」
「えっ、えっ!? ちょ、ちょっとまて……えーと……」

 あまりのエグい光景に驚いてしまったが、ブラックの冷静さにつられて俺も“魔族の眼”を使って魂を観察してみる。
 ……やっぱり、ブラックの体に残っていた色と一緒だ。

 紫をまとった、不可思議に輝く黒の光。
 魔族の特別な目じゃないと見えなかったって事は、これは間違いなく魂だ。

 でも……なんで光って見えるんだろう?

「な、なあブラック、魂って属性以外は普通に視認できるモンなの……?」
「まあ、見るだけなら誰にでも出来るんじゃないのかな。人が死んだ後に光って浮く大きな球体が出るって話は結構聞くし、人族はそれを“ヒトダマ”って呼ぶからねえ。その中で魂の色を的確に見る事が出来るのは魔族だけって事なんだろう」
「なるほど……」

 そう言われると確かに、俺の世界でも人魂ひとだまは霊感関係なく見えたりするもんな。
 こっちでも同じような感じなのは不思議だけど、今はまあ考えても仕方ない。
 ともかく、これで確定って事で良いんだよな。

 ……にしても、それならそれでこの影の体が気になって来るな。

「ブラック、その体がお前が作ったものだとしたら……あっちの方の襲ってきた影は何だと思う……? それに、この世界も……」

 今の影の体については、ブラック自身が創り出したものの可能性が高いだろう。
 何故なら自分である程度ていど自由に出来るみたいだし、最初の影みたいに頭がボーッとしたままってワケでもないみたいだしな。

 だけど、それであの“襲ってきた影”と、この空間の謎が解けたわけではない。
 マーサ爺ちゃん達の所に帰れるかどうかも謎だし……ヒントも何もない今の状態じゃ、俺の頭脳では全く何も思い浮かばないのだ。

 なので、ついブラックの頭脳に頼ってしまったんだが。

「うーん……そうだねぇ……周囲の雰囲気からして、ここは何らかの異空間なんじゃないかな。大地の気の気配も全くないし……なにか、みたいな違和感がある。たぶん、僕達は“襲ってきた影”の中にいるんだろうね」
「や、やっぱりここって幻の場所なのか……だから、森の色も変だしチアさんの変な石像が有ったんだな」

 そう言うと、ブラックは再び何かを考えるようにあごこぶしえた。

「石像か……。明らかに異質だし、もしかしたらその魔女ってヤツの石像に、何かの手がかりが有るかも知れない。ちょっと見に行ってみようか」

 そう言うなり、ブラックは座った岩の上からピョンと飛び降りる。
 だが俺はそれを見送ってしまった。

「ツカサ君どしたの」
「……あのな、お前俺の胸に影をひっつけたまま歩き回るつもりか? 森の中にビャッと広げてる影も収納できたんだから、コレも収納しろよ」

 コレコレ、と指を差して腕に絡んでシャツの中までもぐんだ影を示す。
 と、ブラックは影の顔の中で菫色すみれいろの瞳をぱちくりとしばたたかせた。

 ……明確な容貌はわからないが、それでも彫りの深さや高い鼻はハッキリ分かる。
 外国人風の濃い顔立ちだけど……やっぱり、あご幾分いくぶんか細いし……オッサンの時の顔とは少し違うような雰囲気ふんいきが有る。

 そんな顔で目を丸くしてるもんだから、やっぱりちょっとだけ可愛……いくない。可愛いとか思ってない。キュンとなんてしてないからな。

 ともかく、そ、そんな顔でキョトンとしたって許さねーぞ!
 早くこの胸にくっついてる影を取れっての!

「この体、結構伸びるみたいだしもういっそこのまま行かない? なんか僕もツカサ君の体温を常に感じてるみたいで凄く気持ちいいし」
「イイわけねーだろ! 犬につけるヒモみたいだろうが! そ、それに……」
「それに?」
「さ、さっきみたいなのは、もう……いや良いから、早く外せっ!」

 じゃないと怒るからな、とすごんで見せると、ブラックは急に笑い始めた。
 な、なんだよ急に……。

「ふっ、くくっ……ツカサ君たら、もう……ホント……」
「だからなに――――」
「どんな姿になっても、僕のことを愛してるんだね」
「――~~ッ!?」

 な゛っ……。
 あ……あぁ!?

 な、に……急に……っ!

「ふふっ……こんなヘンテコな世界でも、ツカサ君の顔が真っ赤になってるのは良く見えるよ。……バケモノみたいな姿なのに……それでも、ツカサ君はいつもみたいに、僕の事を真っ直ぐに見て……そんな風に、真っ赤になってくれる」
「そ、れは……べべ別に赤くなってなんか」

 否定しようとするけど、言葉が上手く出てこない。
 だ、だってブラックが、あっ……あ、あい……急に、変なこと言うから……!

 チクショウ、これは驚いて熱が一時的に上昇しただけで、別に……。
 そ、それに、そもそも嫌がるワケないじゃないか。

 アンタだってわかってるのに、なんで影になったくらいで怖がるんだよ。全くの別人に変化してたらそりゃ驚くけど……俺を覚えていてくれてるなら、怖がる理由なんて何もないじゃんか。まあ、おどされたらそりゃ怖くなるけどさ。

 でも、心がアンタならスライムだろうがなんだろうが、別に何とも思わないよ。
 俺はブラックのことを探しに来たんだからさ。
 …………って、なにその顔は。

 わりと大まかなところまで体が再現されてるせいで、笑ってるのが分かるぞ。
 何でそんな顔をするんだよとにらむと、ブラックは俺に近付いてきた。

「物凄く怖がりなくせに、ホントにもう……そんなだから、僕も無意識にツカサ君の乳首を吸っちゃうんだからねっ」
「ワケのわからん理由で俺の体をもてあそぶんじゃねえ!」
「まあまあ、ともかく石像の所まで行ってみようよ。ねっ」

 そう言いながら、ブラックは俺の手をつかむと強引に大岩の上から降ろす。
 まあ確かにその通りなんだけど、何がそんなに嬉しいんだか。

 ……ヤブヘビになりそうで、詳しい所はつっこめないけど……。

 だけど、ブラックが元気そうなら……良いんだろうか。
 実際、こんな姿になって一番あせってるのはブラックだろうしな。

 俺をからかうくらいには元気な方が良いのかも知れない。指を絡めて手をぎゅっとにぎってくるのも、まあ良いだろう。
 そう思ってすがままにされていると、またブラックは嬉しそうに笑った。

「な、なんだよ……」
「ふふっ……。僕、ツカサ君と恋人同士になれて本当に幸せだなぁ」
「~~~~……っ! も、もうどうでも良いから行くぞ!」

 ぐいっとブラックの手を引っ張るが、いつもと違って影は際限なく伸びてしまう。
 そんな腕をあせる事無く吸収しながら追いつき、ブラックは真っ黒な髪を揺らして、俺を嬉しそうにじっと見つめていた。











 
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