異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

文字の大きさ
965 / 1,149
幻実混処ユーダイモ、かつて祈りを唱えし者編

9.幸福の魔女の物語1

 
 
「好きなところに……座って、下さい……」

 チアさんはふらりと立ち上がり、棚から何やら取り出そうとする。
 ……お茶をれてくれるつもりなのだろうか?

 こんな状況でつかわなくても……と気の毒になったが、普段の行動を行うことで気持ちを落ち着かせようとしているのかも知れない。
 そう思った俺はえて何も言わず、ペコリア達を抱え上げてお尻からマットの上に座らせた。マーサ爺ちゃんもだけど、今日は本当に無茶ばかりさせて申し訳ない。

 俺達もすすめられた椅子に座ると、チアさんがお茶を出してくれるのを待った。

 少しして、彼女は人数分のカップを運んでくる。
 と言っても五分も経っておらず、いつの間にかヤカンがお湯がいた事を知らせる湯気を立てており、お茶をれた音も気が付かなかった。

 ……定期的に触手が打ち付ける騒音が、外から聞こえてくるからかな……。

 こんな時にお茶なんて悠長なことをしている場合なのかという気もするが、こうなったからには今更いまさら何かを言う権利は俺には無い。
 まあ、チアさんが落ち着いてくれることがまず第一だ。

 そんなことを思いつつ、俺はお礼を言ってカップに口を付けた。

「…………?」

 あれ。なんか……最初に飲んだ時のお茶の味と違うな……?

 アレはどくだみともマテ茶ともがたい独特な野草の味だったんだけど、今飲んだお茶は、俺からすればどくだみ茶みたいな風味が有るけど飲みやすい、ほんのり葉の甘さを感じるような美味しいお茶だった。

 あのエグい感じは何だったんだろう。
 そんなことを考えていると、いた椅子に座ったチアさんが俺達を見渡す。

 ……よく見ると、チアさんの瞳は不思議な色だ。
 緑色の瞳の中に、金のつぶを散らしたような光がある。

 金色の瞳と言えば、アドニスやライクネスのイヤミ王がすぐに思い浮かぶが、何かのちからが強い人は金色の瞳になったりとかするんだろうか?

 でも、確か最初に見た時のチアさんの瞳は赤色だったような気がするんだが……うーん、俺の見間違いだったのかな。

 考えていると、ブラックが思っても見ないことをくちに出した。

「僕が最初に飲まされたお茶と味が違うな」

 えっ……もしかして、ブラックも同じお茶を飲んでたのか?
 思わず横に座る若めの影の顔を見やると、視界のはしでチアさんが無表情ながら申し訳なさそうに軽くうつむいた。

「……それは……多分……“あっちの私”が、貴方達を取り込みやすくするために……を、含ませたお茶を……出したんだと思います……」
「取り込みやすく? どういうことだ」
「…………たぶん……ちからを失ったから……。私は“幸福を与える魔女”……天のきざはしの先にいらっしゃる神様に頂いた名の通り、人々に幸福を与えることでちからたくわえ……この森を害するものを、排除してきました」

 流暢りゅうちょうになった声に、視線を戻す。
 すると、チアさんは顔を上げて俺達をジッと見つめた。

「排除、か。まるで森の管理者みたいに言うな」
「そのように、とって頂いて……構いません……。私は、森を守るために……魔族のかたと、契約をして魔女になりましたから……」
「魔族と!?」

 確かに「そういう方法があったらしい」というような話をチラッと聞いた気がするが、本物の魔女に出会うとは思わなかったので、思わず驚いてしまった。
 魔族、というと……この森の南部に今も隠れ住んでいるだろう、ヴァリアンナさんが思い浮かぶ。あのような美女と、何らかの方法で契約したのか。

 俺がマーサ爺ちゃんやリオルと契約した時みたいな感じなのかな?

「はい。……貴方達の、驚きようを見ると……外は、もう、そのような方法で曜術や“呪い”を使う人は……いないのですね……」
「少なくとも魔女なんて存在はいないな。もう滅びたと言われている」

 ブラックの包み隠す事も無い返しに、チアさんは視線を落とした。
 まるで、自分がどのような世界に居るのか理解して少し落ち込んでいるみたいだ。
 思わず声を掛けそうになってしまったが、中途半端ななぐさめは逆に失礼だと思い、俺は全ての話が終わるまで沈黙することにした。

「そう、ですか……。ずいぶん、長い間……私は、待ち続けていたのですね……」

 呟いて、チアさんは何故か俺を見ると少し気を持ち直し、再び姿勢を正した。
 落ち着くためにお茶を一口ひとくち飲む仕草しぐさは、やっぱり綺麗だ。

 くせひとつない艶やかで長い黒髪と、そのまだあどけない表情は、この世界では一番俺と同じ「日本人」に近い容姿のように見えてドキドキする。
 瞳の色は完全にこちらの世界の人なんだが、日本のお姫様みたいなんだよな。

 それもあって、なんだか彼女が記憶の中にある何かに重なるような気がしてくる。

 森の中のお姫様。
 ずっと森の中で待ち続けていたお姫様。

 ……実は最初から既知感きちかんがあったんだけど、なんだかうまく思い出せない。

 普段なら、そんなことないハズなんだけどな……。

「で、本来なら待ち続けるだけだったお前が、どうしてあの影の姿と普通のヒトの姿に分裂して、しかも片方が襲ってくる? ちからなんて、ただヒトを襲っただけじゃ手に入らないだろう。それとも、魔女ってのは伝承通り人を喰うのか?」
「……そういう、方法もあります……。私は、かてにする媒体が“人の幸福”でしたので、誓った物以外には、手を出さずに済みましたが……魔族とちぎった魔女は、他人の曜気を奪う術も……授けられます、から」

 魔族と契約すると、他人から曜気を奪える。
 大陸に魔女が存在していた時代には、そんな方法もあったのか。

 っていうか、魔族と契約するとそんな事できるんだ……しらなかった……。
 いや、多分マーサ爺ちゃん達も知らないんだよな。だって、今のチアさんの言葉に、爺ちゃんは目を丸くして絶句してるワケだし。

「む……昔の魔族は、とんでもないことをしとったんじゃの……」
「私は、優しい魔族と出会いました、から……」
「で、その方法で僕らをしぼって何がしたかったんだあの影は? そもそも、どうして分離なんて出来た?」

 ブラックもカップにくちを付ける。
 ……体かられたりしてないな。影と魂だけの体のはずなんだが、どこに飲み物は行ったんだろうか……。

 一瞬気を取られてしまったが、チアさんの吐息が聞こえて視線を戻す。
 すると、彼女は再び思いつめたようにうつむいていた。

「…………私が……魔女であることを拒否し、また、人を殺してでも……魔女であり続ける事を望んだから……」
「要領を得ないな」
「……きっかけは……私が、あの人に……クリス、に……出会ってから、でした」

 いつの間にか、家の外の騒音が止んでいる。

 静けさを取り戻した家の中で、チアさんは語り始めた。







 ――――今の人々には、最早もはや「かつて」と呼ばれるだろう時代。

 その頃、一人の少女が森で暮らしていた。
 ……名前は、うに記憶にない。

 彼女は小さな村に住む少女で、日々森の恵みを頂き幸せに暮らしていた。

 小さくてせまい範囲を行き来する人生だったが、おだやかな生き物だけが住む森のそばで生きることは確かな幸福だったのだ。

 だが、その生活は突如とつじょとして終わりを迎える事になる。

 る時――――邪悪なあたりに広がり、村と森をおおった。

 すると、次々に村人が狂い、理由もわからぬ暴力といさかいを始め……そこに凶暴化した森のモンスター達が押し寄せて来たのだ。

 おだやかなモンスターしか見かけない場所だった村は、もう見る影も無かった。
 炎と血の赤、人々の狂った笑い声、モンスター達の咆哮。
 かろうじて生き残った少女が見た光景は、この世の終わりのようだった。

 ……幸せな風景など、ひとかけらも残っていない。
 そんな恐ろしい風景から必死に逃げるように森へ駆けこんだ彼女は、必死に走って見つけた高い木のうろに入り、泣いた。その場所から動けず、村が燃える光景と、これほど遠くに居ても聞こえてくるような狂気の声を思い出し、ただただ泣いていた。

 もう、動けない。
 ここで死ぬのだろう。

 数日経過し、途切れ途切れの意識でそう考えていた頃。
 空から、褐色の肌と長い耳を持つ男がやってきた。

 いわく、彼は【魔族】という種族で、結託した“神”の名のもとに動いているという。

 その“神”が何なのか理解はできなかった。
 だが……彼に「生きたいか」とかれた時、否定はできなかったのだ。

 幸せを知っていた。確かに幸せだった記憶があった。
 だから、願いが叶うのなら……この森を、あの頃と同じおだやかな場所に。
 ただひたすら、そう願ってしまったのだ。

 ……魔族は、彼女のそんなつたない願いを聞き届けてくれた。

 こうして少女は魔族とちぎりをわし、この森を守る【魔女】となったのだ。

 人々の幸福を対価にちからを得て森と暮らす、稀有けうな黒髪を持った魔女に。

 ――――そして、数十年経っただろうか。

 人の絶えた村に再びみつく人々が現れ、また集落が村としての形を成した時、森にむ魔女……新たに“フェリーチア”という名を貰ったかつての少女は、再び人族と出会う事になった。

 フェリーチアは、人々の幸福からもたらされる感情を分けて貰い力を増す魔女。
 村人の願いを叶え、生活を助ける事で感謝と幸福を得ることで、さらに彼らの幸福を増やすフェリーチアは、彼らから【幸福の魔女】という二つ名を頂いた。

 その力は、最早もはや狂うモンスターをも屈服させる。
 かつての村で見たような災禍から逃れてくる人々を受け入れる村は、やがて街へと変貌し、彼らはその街を森にむ【幸福の魔女】が治める幸福な街――――

 【ユーダイモ】と名付けた。

 豊かでうれうことなく、誰もがおだやかに安心して暮らせる場所。
 満ち足りたその場所は、フェリーチアの記憶に沈む凄惨な過去を払拭ふっしょくしてくれた。


 ……そんな、ある日。


 フェリーチアのもとに、ある一人の少女が現れた。


「…………彼女の名前は……クリス……。女の子なのに、男の人と同じように女性を愛する気持ちを持つ、不思議な……男勝りの少女でした……」











 
感想 1,277

あなたにおすすめの小説

おひめさまな俺、帝王に溺愛される

  *  ゆるゆ
BL
帝王陛下に捧げられることになった小国の王族レイには、大変な問題が──! ……男です。

ただのハイスペックなモブだと思ってた

はぴねこ
BL
 神乃遥翔(じんの はると)は自分のことをモブだと思っていた。  少年漫画ではいつだって、平凡に見えて何か一つに秀でている人物が主人公だったから。  その点、遥翔は眉目秀麗文武両道、家も財閥の超お金持ち。  一通りのことがなんでも簡単にできる自分は夢中になれるものもなくて、きっと漫画のモブみたいに輝く主人公を引き立てるモブのように生きるのだと、そう遥翔は思っていた。  けれど、そんな遥翔に勉強を教わりに来ている葛城星 (かつらぎ ほし)は言った。 「BL漫画の中では、神乃くんみたいな人がいつだって主人公なんだよ?」  そう言って、星が貸してくれた一冊のBL漫画が遥翔の人生を一変させた。  自分にも輝ける人生を歩むことができるのかもしれないと希望を持った遥翔は、そのことを教えてくれた星に恋をする。  だけど、恋をした途端、星には思い人がいることに気づいてしまって……  眉目秀麗文武両道で完璧だけど漫画脳な遥翔が、お人好しで気弱な星の心に少しずつ少しずつ近づこうと頑張るお話です。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!

由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。 しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。 そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。 「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」 やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった。しかしハルの血が特殊だと知ったダンピールはハルを連れ帰って? いっそ美味しい『血』(治癒)と『体液』(バフ)と『癒し』を与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科 空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する 高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体 それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった 至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する 意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク” 消える教師 山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー

助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!

夜刀神さつき
BL
医者である内藤 賢吾は、過労死した。しかし、死んだことに気がつかないまま異世界転生する。転生先で、急性虫垂炎のセドリック皇子を見つけた彼は、手術をしたくてたまらなくなる。「彼を解剖させてください」と告げ、周囲をドン引きさせる。その後、賢吾はセドリックを手術して助ける。命を助けられたセドリックは、賢吾に惹かれていく。賢吾は、セドリックの告白を断るが、セドリックは、諦めの悪いヤンデレ腹黒男だった。セドリックは、賢吾に助ける代わりに何でも言うことを聞くという約束をする。しかし、賢吾は約束を破り逃げ出し……。ほとんどコメディです。  ヤンデレ腹黒ドS皇子×頭のおかしい主人公

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。