異世界日帰り漫遊記!

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幻実混処ユーダイモ、かつて祈りを唱えし者編

21.突撃訪問は事故の元

 
 
   ◆



 チアさんにお礼を言って再び【ヘカテクライオ】に戻ってきた俺達は、早速ファムさん達が居る場所に向かい、例のお守りとおふだふたつ渡しておいた。
 王都までは一週間もかからないけど、一応用心のためだ。

 ファムさんは、不思議なお守り袋にキョトンとしていたものの……こころよくお守りを受け取ってくれると、早速呪符を発動させて兵士達とともに王都へ進んで行った。
 ……その物分ものわかりが良過ぎる仕草はちょっと心配だが……ま、まあ、何も詮索せんさくせずに使ってくれたんだから、よしとしよう。

 ともかく。
 これで、ひとまず【アルスノートリア】にファムさんの居場所がすぐバレることは無いだろう。毒の事を話せば、きっと騎士団クラスが護衛についてくれるだろうし、俺達はファムさんが『謎のモンスター』の死体を検分けんぶんし終わるまで待てばいい。

 たぶん、こちらの用事が済むまでには検分けんぶんも済んでいるだろう。

 それにしても、藍鉄あいてつで追いつける距離にいて良かった……なんてことを思いつつ、俺達は今、再び街へ戻ろうときびすを返して街の方へと進んでいた。

「ね~ツカサ君~、コイツはさっさとトランクルに返して、宿に戻ろうよ~。折角せっかく諸々もろもろがひと段落ついたんだしさ~」

 ぴったりくっついた背後からそんな文句を言いながら、ブラックは藍鉄あいてつをパカパカ歩かせる。もうこの乗馬スタイルにも慣れたが、いまだにこの距離感はがたい。
 というか、多少離れてても良いだろうに、何故こうくっつこうとするのか。

 考える間にも、帰路と会話は進んで行く。

「旦那ぁ、そりゃないッスよぉ……俺だって活躍したんですから……。てか、どーせアレでしょ、帰ったらツカサちゃんと性交しようとか考えてるんでしょ」
「ギクーッそんなこと考えてるわけないだろ!! これだから若くて性欲旺盛おうせいな魔族はヤになるよ! あーヤダヤダ!!」
「お前今ギクー言うたやろギクーって」

 思わずエセ関西弁でツッコミを入れてしまったが、もう今日はしないといった発言をすっかり忘れているようだなこのオッサンは。
 この野郎、自分に都合のいい約束は覚えてるくせして。

「ツカサちゃんどうします?」
「よしリオル、頑張って貰ったし宿に帰ったら俺がお菓子作ってやるよ」
「わぁーい、ツカサちゃん最高ー!」
「ツカサ君の意地悪ー!!」

 うるさい、お前の眼には邪悪なたくらみを感じるんだよ。背後だし見えてねえけど。
 こうなったら俺はリオルを利用してでも阻止そしさせて貰うからな。

「キュ~……」

 ほら、ロクショウもお前の性欲にあきれてるじゃないか。
 まったくもう……元気になったらすぐサカるんだからこのオッサンは……。

 ……まあでも、そっちの方がブラックらしくはある、けど……。

 ………………ご、ゴホン。
 ともかく、これで一先ひとまずは安心だろう。あとは俺達も出発の用意をするだけだ。

 ブラックが大人げなくいじけて黙ったのを確認すると、俺は雰囲気ふんいきを切り替えるべく、今後やるべき事についてのうながすことにした。

「ところで……これからの事なんだけど……お婆ちゃんの宿を出たら、そのまま北上して【エスクレプ】に行くって事で良いんだよな?」

 問いかけると、ブラックは分かりやすく不貞腐ふてくされたような声で答えた。

「そーだねぇ。ま、エーリス領まではそう遠くないし、街道には宿場もあるから……旅の用意しなきゃいけないってほどの旅でもないけどぉ」

 そっか、新しい街道は【エスクレプ】まで伸びてるんだな。
 なら、今回は一々いちいちモンスターを心配して旅をせずに済みそうだ。

 なんたって、街道にはモンスターけの曜具ようぐが等間隔に設置されているし、宿場も当然ながら街や村と同じく【障壁】を張る曜具を使ってるだろうからな。
 今回は、野宿の心配もしなくて良さそうだ。

「えーと、ツカサちゃん達は何のために移動するの?」
「その港町【エスクレプ】にある“薬学院”て場所に、魔女の薬に関する資料が残って無いか調べに行くんだよ。もし何か残ってるなら、【翠華すいか】への対抗策にもなるし……もしかしたら、新しい事も分かるんじゃないかなって」

 当初の目的は、チアさんが作ってくれた「曜気くらましのお守り」の効力がどのくらいの物か、対抗出来るのかを知る事が出来るかも……という理由だったが――――

 よくよく考えたら、あの【翠華すいか】がブラックの魂をがした“夢遊びの薬”は、リオルが言うには魔女の薬の一種だ。
 ならば、魔女の事を研究していた人の資料に、その薬の記述があるか……もしくは対抗策があるんじゃないかと、そう思ったのである。

 しかも、チアさんの説明によると、魔女はそれぞれに「作れる薬」が違っており、薬ひとつとっても、同じ薬を作れるかどうかは魔女によるらしい。
 なので、ここから【翠華すいか】の正体を探れる可能性も有る。

 …………と俺達は考えたので、そこの所も調査したくて、【エスクレプ】にあるという薬学院に行こうとしているのだ。

 俺達は、いまだに敵の全貌ぜんぼうつかめていない。
 素性を知れた二人も、とっくに消えてしまった後だ。

 彼らの【アルスノートリア】の魔導書と記憶は俺の中に残っているが、それらを手に入れても、結局彼らの組織の事は何も分からなかったからな……。

 何にせよ、やっと見つけた手がかりなんだ。
 【翠華すいか】の正体を足掛あしがかりにして、奴ら全体の正体をつかめればいいんだが……。

 ――――と、考えながらリオルに説明すると、相手は気が抜けた返事をしながら、頭の後ろで腕を組んだ。

「へ~。まあ俺も魔女についてはあんまり知らないからなぁ……。なんせかなり昔の話だし、人族のメスとちぎるのって魔族としても色々大変だったらしくて、いつの間にかすたれちゃったらしいし……。ともかく、何か見つかるといーな」
「うん。……何か手がかりを見つけて、進展すればいいんだけど……」

 そうしたら、この「いつ襲われるか知れない」現状も、変わるかも知れない。

 ……ホントはシアンさんや【世界協定】にも協力して貰えれば良かったんだけど、今はそっとしておいてあげたいからな……。
 俺達で出来る事なら、俺達でやっておかないと。

 シアンさん、俺達が頑張りますから今は心を休めて下さいね……!

 そう男らしく決心をして、少しずつ近付いてくる【ヘカテクライオ】の街をジッと見つめていると、また背後から何か不穏ふおんな呟きが聞こえてきた。

「あ、そっか。宿場があるんだった。じゃあそっちで……」
「おいお前おい、またよこしまなたくらみを……」

 してるんじゃないだろうな、と、言おうとして振り返った。瞬間。
 ブラックの背後の空間がゆがんでるのが見えて、俺は思わず悲鳴を上げてしまった。

「ぎゃあぁあ!!」
「うるさっ、え、なに?」

 つられてブラックも少し驚いたみたいだったが、背後を見て「ゲッ」と声を出す。
 恐がっているんじゃなく、嫌がるような感じだ。
 ……昼間にオバケが出たと思って驚いてしまったが、ブラックがこんな声を出すって事は……――

「おい、一々いちいち汚い声を出すんじゃねえよ」

 ポッと空中の空間が円形に開いて、白い空間の中から人が顔を出す。
 それはまさしく……キュウマだった。

 ってことは、もうタイムリミットってことか……。

 まあそりゃブラックも嫌そうな声を出すよな。うん。

「な、なになにツカサちゃんコイツなに? 新たな間男まおとこ?」
「おいツカサ、このクソ魔族に説明してないのか」
「あっ……そう言えば……」

 リオルは俺の事をあまり把握はあくしてないんだっけ。でもヘタに説明しても、ブラックのようなヤツじゃないと、理解が難しいからなぁ……俺とかキュウマのことって。
 しかし今「間男まおとこ」とか盛大に勘違いされてるし、誤解はいておかないとな……。

「あのな、リオル。コイツはキュウマって言って、間男まおとこじゃなくて」
「邪魔男だよ」

 アッ、ブラックこの野郎、また俺の言葉をさえぎって……。
 って何を言葉付け足して上手いこと言ったみたいになってんの。
 リオルが勘違いするだろやめなさい。

「ワオ、まーたそういうやからが増えたのか……。ツカサちゃんも罪なメスだねえ」

 ほら勘違いした……訂正しなければ、と思ってくちを開いたのだが、それより先にキュウマが身を乗り出して激しく抗議してきた。

「違うと言ってるだろ!! 話をややこしくすんなクソオヤジ!!」
「ああ゛!? 数百年生きてる中身クソジジ眼鏡が何言ってんだ!?」
「だーもーやめろって!!」

 なんでそうアンタらは悪口合戦になるかなもう!!
 キュウマもかなりくちが悪いので、ブラックと喧嘩けんかしたらもう大惨事だいさんじだ。

 こりゃもうさっさと帰った方が良いな……。

「なんかよくわかんないけど、これ俺も加勢した方が良いヤツ?」

 にらみあいを続けるキュウマとブラックを見ながら、のほほんとリオルが問う。
 俺とロクと藍鉄あいてつは渋い顔を居ながら一緒に首を振った。

「しないでくれ……キュウマは……えーと……とりあえず、俺が実家に帰る手伝いをしてくれてる人なんだよ」
「キュー。キュキュッ、キュキュー」
「ブルルッブルッ」

 俺の説明に、何やら付け加えるようにロクショウが鳴いて藍鉄あいてつも息をかす。
 すると、何やら伝わったのかリオルはナルホドとうなずいた。

「ほうほう……ツカサちゃんは、あの男に送り迎えして貰ってるってことね。なーんだ、間男まおとこじゃなかったのか。そんな感じしたんだけどなぁ……」
「んなワケあるか! キュウマはメスの女の子が好きだっての!」

 お嫁さんを七人もめとってたムカつくレベルの元・王道チート主人公なのに、どこをどうしたら俺みたいなのをく変人になるんだよ。
 冗談も休み休み言え、とリオルを叱っていると、背後の喧騒が途切れた。

 あっちはようやく喧嘩が終わったのだろうか。
 振り返ると、二人は息切れしていた。

 さすがに神様相手に剣を抜く気はないのか、ブラックも口喧嘩くちげんかでギリギリ我慢していたようだ。
 こういう所はバランス感覚あるのに、なんでこうくちが悪いんだか……。
 あきれつつ、俺は肩で息をしているキュウマに問いかけた。

「もう流石さすがにヤバかったか?」
「ああ。……つーかお前、毎度のことながら出てきた瞬間からこのオッサンとイチャついてんのやめろよな……。人にどんだけ精神攻撃しかけりゃ済むんだよ……」
「お前にダメージ負わせたくてこうしてるんじゃないんですけど!?」

 ていうか、そう言うならお前も場所を考えて出てきてくれよ。
 ヒトが居ないから良いけど、こんな天下てんか往来おうらいに出てくる神様がいるかっての。

 もう神秘性もクソないなとゲンナリしたが、キュウマは俺よりもゲンナリしているらしく、早く帰れと言わんばかりに俺に「こっち来い」とジェスチャーしていた。

「ツカサくぅん……」
「甘えてもダメだっての……。待たせるのは申し訳ないけど、ちょっとだけ待っててよ。出来るだけ早くコッチに戻って来るから」
「うん……」

 あからさまにショボンとするブラックに、ちょっと胸がギュッとなってしまうが、ここは我慢だ。っていうか俺はときめいてない。
 ショボくれたオッサンを可愛いなんて絶対に思ってないからな。
 この「ギュ」は幻だ。幻のギュなのだ。

「キュキュー!」
「ブルルルルッ」
「おっ、そうそう! ツカサちゃんが留守の間、俺達が旦那のお守りしてるからさ、安心してよ! でも早く帰ってきてくれよなっ」
「おい誰がお守りだって?」

 だーもーまた突っかかる……。
 こりゃもう早く帰った方が良いなと思い、俺は藍鉄あいてつから降りっ……また頭から落馬をしそうになった。危ない。

 気を取り直して、不格好ながらもなんとか藍鉄あいてつから降りると、俺はキュウマが地面近くまで広げてくれた次元の穴に入った。

「ツカサ君早く帰ってきてよねっ! 帰って来なかったらお仕置きだからね!?」
「後でどうとでもなる宣言やめて!? 出来るだけ早く帰って来るってば!」
「ツカサちゃんいってらっしゃーい」
「キュ~!」
「ヒヒィン!」

 ねたブラックの横で、可愛いロクショウとリオルが手を振ってくれる。
 藍鉄あいてつも、俺に言ってらっしゃいのいななきだ。
 リオルは置いといて、二人ともホントに可愛くてたまらん……ううっ、ロクショウ達のためにも、早く帰って来るからな!

 手を振ってロクショウと藍鉄あいてつの可愛さにこたえていると、穴が閉じてしまった。

 ああ……もっとお別れの挨拶あいさつをしたかったのに……。

 残念に思うが、もう俺の視界には白い空間しか見えない。
 ここは、キュウマが暮らしている神の領域だ。
 もうジタバタしても仕方ないなとあきらめて、俺は背後に居るキュウマに振り返った。

「ったく……毎度毎度お前は本当に……」
「帰ってきて早々ぶつくさ言わないでくれよぉ……。手早く帰るから機嫌きげん直して」
「ハァ……」

 俺がすかさず下手に出ても、キュウマは余計よけい溜息ためいきをつくだけだ。
 今日はそこそこ機嫌きげんが悪いな……。

 でも、今回ばかりはいておかねばならない事があるのだ。
 忘れないうちに質問しておこうと思い、俺はいつものお茶の間コーナーにキュウマを呼んだ。人の家みたいなもんだが、勝手知ったる場所なので先に上がらせて貰う。

 まるでテレビのセットのように白い空間で浮いている場所に靴を脱いで上がると、あるじであるキュウマも不機嫌そうな顔ながらも上がってきた。
 そうして、いつの間にか新しく置かれていた座布団に座る。

「で、何の話だ。すぐに帰らんってことは、聞きたいことがあるんだろ」
「さっすがキュウマ、話が早い! じゃあ、早速だけど……キュウマは、魔女って人達の事とか……あと、虹の女神イスゼルって聞いた事がある……?」

 正座して、卓袱台ちゃぶだいの向こう側の相手に問いかけると――――
 キュウマは、何故か目を丸くした。

 …………え? なんだ、その反応……?

 どういうことか分からなくて俺も目をしばたたかせていると、キュウマは驚いた表情のまま、一つ二つまばたきをして……ななめ下へと視線を動かした。
 ……なんだか、目をらしたような考え込むような、微妙な動きだ。

 いまだに相手の態度を飲み込めず見つめていると、キュウマは腕を組んだ。

「…………魔女……イスゼル……」

 反復する単語を呟く声は、何故かいつもより低くて重い。
 どんな気持ちで発したのだろう。

 分からないまま、俺はただキュウマが答えてくれるのを待った。











 
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