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会遇古港エスクレプ、偉大な術師の夢と痕編
1.友達だから教えてやりたい
スマホ越しに聞こえてくるのは、何故か不安そうな声だ。
『おい……本当に大丈夫だろうな……』
その念押しも何度目だろうか。
だが、同じ問いかけが五回を越えてしまうと流石に俺も面倒臭くなってしまって、ついついヤケになったような声で返してしまった。
「だから大丈夫だってば! ヘタなとこには行かないし、ちゃんと人の多い所を通るし、帰りは母さんにちゃんと駅からのタクシー代貰ってるから!!」
『しかし……』
「もー、尾井川マジ心配性だって! いくらあの先輩達だって流石に駅前でインネンつけたりしないだろうし、近くには交番もあるから!」
『いや、俺が心配してるのはそっちだけじゃなくて……』
じゃあどっちだよ!
……とツッコミを入れるが、尾井川は言葉を濁してハッキリ答えてくれない。
まーたこの流れだ。
「ハァ……尾井川、お前いま部活の休憩中なんだろ? いつも感謝してるけど、今回ばかりは心配いらないって……。だから、部活に集中しろよ」
『ぐう……』
スマホから聞えてくる唸るような声を聞きながら、俺は外気とスマホの熱で汗ばんできた耳を冷やすために、もう片方の耳へとスマホを移動させた。
だが、そのわずかな間にも返答が帰ってきた感じはしない。
そろそろ尾井川も決断する時か……なんて思いつつ、俺は顔を上げた。
――――ここは、俺が住んでいる町の隣にある駅。
雑多な俺達の町とは違ってかなり都会的で、デパートや流行のモノが置いてある店なんかがある。つまり、魅力的な場所ってことだ。
まあ、俺としては古い商店街とか残ってる自分の町も好きだけど……デカイ駅とか遊ぶ場所が色々あるトコに行かないってのはムリな話だよな。
モールは有るけど、アレだって都会ってより田舎ぽい町にあるもんだし……。
ともかく、ここらは学生の俺達にとって、結構背伸びした遊び場なのである。
そんなトコの駅に一人立ち、私服姿で電話しているのは何故かと言うと……実は今から、ヒロと二人で遊びに行くからなのだ。
今日は授業も昼前に終わる日だし、テストだって終わったからな。
だから、折角だしって事で、ヒロと駅で待ち合わせたのである。
その待ち合わせの前に、俺は部活中の尾井川に電話をかけている……と、まあそういうワケで。
けど、帰りの時は納得してくれたくせに、なんで今頃心配するんだかな。
それに、心配してくれるのは嬉しいしありがたいけど、先輩達以外の何を心配しているのか全然話してくれないし……だんだん耳が汗ばんでくるし……。
だもんで、俺もそろそろキレて良いッスか状態だったのだ。
っていうかそろそろ待ち合わせの時間だし、会話を切り上げないと。
「ともかく……今日はお前の“お守り”だってちゃんと持ってきてるし、いざって時はブザー鳴らして騒ぐから……。お前は部活に集中しろって。な?」
『うーん……じゃあ、何かされたらマジで拒否するんだぞ。それが例え野蕗であっても絶対に逃げたり拒否するんだぞ!?』
「ナニソレ……」
ヒロがそんな事するわけ無いじゃん。アイツは友達だぞ。
……でも、尾井川は「そのくらい他人を常に警戒して、危機感を持て」と言いたいんだろうな。そこまで心配してくれるんだから、鬱陶しがるのも申し訳ない。
俺は溜息を飲み込むと、尾井川を安心させるべくオトナな声を向けた。
「ともかく、俺は大丈夫……なんたって、俺はこの駅周辺を知り尽くしているオトコだからな……! 尾井川も安心して部活に励めよ……」
『そんな風にアホな事しか考えつかねーから心配なんだよお前はよ』
「アホってお前なー!! ともかく大丈夫だからっ! じゃーな!」
『あっ、おい、ちゃんとGPSは入れとけよ!』
尾井川の言葉を聞くか聞かないかで、電話を終了させる。
結局ムキーッとなって切ってしまったが、まあ口喧嘩はいつもの事なのだ。尾井川を安心させるためにも、とりあえずお守りが壊れてないか確認しよう。
そう思って、自分の位置がちゃんと表示されてるかアプリで確認する。
……ふむ、今日も正常なようだ。
先日は夜中に出歩いたのがこの履歴でバレて、翌朝登校するなり尾井川に朝一番でゲンコツを喰らったが、今日は夕方だから大丈夫だろう。
ヒロと遊んだあとは速攻で異世界に行こう。そんな事を思っていると。
「つっ、つーちゃん……!」
いつもの吃音癖がある声が、耳に届く。
呼びかけるにしては小さい声で、人の往来が激しい駅前では掻き消えてしまいそうだったが、俺はシッカリと聞き取ってロータリーの方を向いた。
すると、駐車場の方から手を振って大きな背丈の男が近寄ってくる。
あれは間違いなくヒロだ。俺も手を振って応えたが……――
「…………ヒロ、お前それ……私服……?」
「えっ……う、うん……お、おかしい、かな……」
近付いてきたヒロは、額の汗を拭いながら答える。
いや、おかしくは無いんだが……何と言うか、俺とは違いすぎる服装というか。
「お前、イイトコの坊ちゃんみたいな服なのは変わって無いんだな……。というか、昔より更にハイソな感じが増していると言うか……」
「えっ、え? はいそ?」
ヒロはよく解らないのか困った顔で焦っているが、そんな姿さえ大人に見える。
そう、今日相手が「遊ぶため」に着て来た私服は……なんと、薄水色のワイシャツとスラックスだったのである。……そして何か高そうな腕時計。
「えーと……ちなみにそのシャツ、お値段は……?」
「あ、ご、ごめん……い、家に、直接届く、から……値段、見た事、ないんだ」
…………オレ、コレ、シッテル。
これ絶対オーダーメイドとかだ。外商さんとかがヒロのサイズを完璧に把握してて、何も言わずとも最高級のシャツを持ってきてくれるヤツだ……。
……デカい家に住んでるなとは思っていたが、昔からなんだか金持ちそうだなとは思っていたが……私服を見ると、マジで隔たりを感じるな……。
昔は子供だったから、そんな事も気にならなかったけど……こんなイイトコの息子を俺が悪い道に唆して本当に良かったんだろうか。
「なんか、俺が友達でお前の母さんに申し訳ないなぁ……」
「えっ!? そ、そんっ、そんなことないよっ! ぼ、ぼ、ぼく、つーちゃんが、い、一番の友達だもん……っ」
「本当にお前は優しいなあ……」
性教育とか言ってお色気ゲームとか見せてるし、今日だって勉強させようと思っているというのに……でもまあ、長年の俺達の仲だ。
ヒロだって真剣に俺に付き合ってくれてるんだし、ここで止まるのも悪いよな。
俺は気を取り直して、とりあえず二人で目的地に向かう事にした。
「そ、それで……今日は、ど、どこで……遊ぶの……?」
どもりながらも、ヒロはいつもより楽しそうだ。
身長差があるせいで歩幅が違って歩きにくいだろうに、それでもヒロは俺のペースに合わせて歩いてくれる。そういう優しさを嬉しく思いつつ、俺は答えた。
「今日は、アミューズメント施設で遊ぼう!」
「あ、アミューズメント、しせつ?」
「そうそう。この駅にはさ、ラウンドクラブっていうデカい屋内施設があるんだよ。そこでは色々出来るんだぜ。ボウリングにカラオケにバドミントンとかゲームとか! あと、ソフトクリームや飲み物も無料だし、漫画読み放題パックもあるんだぜ!」
「ソフトクリームが無料……?」
不思議そうに首を傾げるが、もしや食べたことないのか。アレを。
いや、その前にヒロはボウリングやカラオケも知らなそうだ。
これは……教え甲斐があるけど、どうせなら、体を動かす遊びは尾井川達と五人で遊びたいな。その方がヒロも楽しいだろうし……。
「まあともかく、色々遊べる施設ってことだな。今日は、漫画読みに行こうぜ」
「う、うん……読み放題、だよね。ど、どれくらい漫画、あるの……?」
大きな交差点の信号を渡りつつ、ヒロが俺を軽く覗き込んで聞いてくる。
その問いに、施設の謳い文句を思い出しながら俺は答えた。
「えーと、確か一万冊以上って言ってたっけな?」
「いっ……!?」
おお、かなり驚いているようだ。
なんかちょっと気分が良いな。……ブラックも、俺にモノを教える時ってこんな風に少し気持ち良くなってるんだろうか?
だとしたら、そりゃ色々聞いてくれるヤツには教えたくなるよな。
まあ、俺はヒロほど可愛げは無いけどさ。
「その中でも面白い奴とか、お前の勉強になりそうなヤツを見繕ってやるよ。しかもジュースとアイス食べ放題だ! ついでにカラオケもつけるか?」
「か、カラオケ……?」
「それも知らないのか……よし分かったっ、カラオケ代は俺が奢ってやろう」
相手は金持ちだけど、でもお小遣いというモノは有るはずだ。
それに、ヒロの父親は、どうも「俺みたいな下々の友達と遊ぶこと」をあまり良く思ってないっぽい。
だから……もしかしたら、必要な分以外のお金を持ってない可能性があるのだ。
俺は、土下座したりすれば母さんに条件付きでお小遣いを貰えるけど、親が厳しいならそうう行動したって無理だったりするからな……。
金持ちだって、家庭の事情は様々だ。絶対に持ってるだろうとは思いたくない。
もし今日の遊びがバレたら、ヒロは怒られてしまうかもしれない。
でも、俺はヒロにだって、俺達と同じ「楽しい」を感じて欲しいんだ。
……そんな小さな幸せくらい、ヒロにも味わう権利はあるはずだろう。
俺に出来る事は、このくらいだし……だったら、奢るのが男ってヤツだよな。
気風が良い江戸の男は、人を喜ばせるのに身銭を切るものなのだ。ふふふ、武士は食わねど高楊枝ってヤツよ!
まあ俺は江戸の人間でもないし、ここは時代劇でもないがな!
「あ、で、でもつーちゃん、ぼく……」
「いーっていーって! お前には勉強も教えて貰ったんだし、お礼させてくれよ」
な、と笑って顔を見上げると、ヒロは照れたように口をもごもご動かしていたが……やがて、ぎこちなく口角を上げ、コクリと頷いてくれた。
奢ると言った俺に花を持たせてくれるのだ。ホントいい奴だよヒロは。
よーし、今日は俺が楽しい事の一部を教えてやるぞ!
そして俺の選んだほんのりお色気漫画で、今日こそ「萌え」ってヤツを理解して貰うのだ。そうすれば、俺の「萌えと二次エロ」の師匠である尾井川とだって、もっと打ち解けられるだろうからな。
ヒロも驚きはするけどエロ自体に拒否感は無いみたいだし、ゆっくり馴らしていけばスグ順応してくれるだろう。なんせ俺達は高校生だ。
少なくともオッサンよりは、妄想力がある! はず!
…………でも、そんな俺達よりブラックやクロウは過激なんだよなあ……。
アイツらマジで一体なんなんだ……。
もしブラック達がこの世界に来られたら、俺よりエロに詳しくなりそうで怖いわ。
つーか色々試されそうで怖い。アイツらがこっちのエロ事情とか知らなくて本当に良かった……俺も、今まで以上になるべく口を噤まないとな……。
「つ、つーちゃん?」
「あっ、と、ともかく……今日は楽しもうな、ヒロ!」
ブラック達の恐ろしい性欲を思い出して少し気が遠くなってしまったが、今はヒロを案内している途中だったのだ。慌てて気を取り直すと、俺は先に一歩踏み出した。
すると、ヒロも嬉しそうに笑って、俺についてくる。
……ホント、そうやって普通に笑えばイケメンなんだけどなぁ……。
そんなことを思いつつ、俺は「こっちだ」とヒロを誘導したのだった。
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