異世界日帰り漫遊記!

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会遇古港エスクレプ、偉大な術師の夢と痕編

4.古の港町にようこそ1

 
 
「ブラック!」

 呼びかけると、相手はすぐに俺の方を向く。

 道の途中で俺を見上げて振り返ったのは、蝙蝠羽こうもりばねを背に付けて黒く艶やかな鱗を光らせる小さなヘビトカゲちゃんに、ピアスも腰チェーンも付けたチャラい格好をしている現代人のような魔族の妖精の男。
 それに、青毛の馬に似た凛々しくもキュートな一角獣のモンスター……に乗った、見間違えようもないくらいにたくましい体格で長身の……か……カレ……じゃなく、俺の仲間のブラック!!

 くそっ、一日しか会わなかったのに何でドキドキしてるんだ。
 思わず降りる事を躊躇ためらってしまったが、しかしブラックは当然とでも言うように俺を受け止めようと両腕を広げて見せる。

「ツカサくぅん!」

 う……ま、またそんな……人懐ひとなつこい顔で笑いやがって。
 陽の光に輝く赤い髪に、笑みに細められた菫色すみれいろの綺麗な瞳。それに、なにより――すっごく、嬉しそうな顔。こんな顔をされたら、待てとも言えない。
 それに、ブラックは完全に善意で俺を受け止めようとしてくれているのだ。

 俺がヘタな降り方をして怪我をしないようにって、いつも気遣きづかってくれるけど……今は正直、後ろめたくて顔がまっすぐ見られない。

 ブラックに色々されたからと言っても、俺がああなったのは俺のせいだし。敏感になってるのもブラックが原因だけど、だからと言って俺のだらしなさを人のせいには出来ないよ。
 この気持ちは、ブラック以外のヤツに節操なしに感じてしまったのと、大事なダチに変な事を思ってしまった自己嫌悪のせいなのだ。

 だからこそ、無邪気に俺を待っていたブラックを見て逃げたくなってしまったのだが……これ以上迷惑を掛けたくなくて、俺はえてブラックのふところに飛び込んだ。

「わぷっ」
さびしかったよぉ~! ん~ツカサ君ちゅっちゅ」
「ぎゃーっ!! やめろこんなとこでキスしようとすんなーッ!!」

 ちゅっちゅじゃねーよおバカ!!
 お前っ、藍鉄あいてつやロクだけじゃなくリオルもいるっていうのに天下の往来で!

 リオルもだが、誰かが見てたらどうすんだよ!

 離れろ、と手で顔を押しやろうとするが、ちくちくした無精髭ぶしょうひげほおは動かずくちだけがすぼまって俺に近付いてくる。
 っていうか、ちからが強ッ……だ、ダメだ押し切られ……っ。

「んんん一日ぶりのツカサんんんん」
「ぎああああああああ」
「ツカサちゃん、断末魔がモンスターに殺された時のソレすぎるんだけど」
「キュ~……」

 顔中に吸い付かれてぢに゛ぞう゛。
 頭の中にそんな感情が思い浮かんだが、それを自覚したのは吸い付かれまくった後だった。…………もうなんか色々と失った気がする……。

 ていうかこの、ありえないレベルのスキンシップがダメなんじゃないのか。
 き、キスをいっぱいするとか……こんなこと毎日されてたら、マジで感覚がバカになっちゃうってば……。

 だって、俺だって十七歳だぞ。オッサンより性欲強いはずなんだぞ。
 そんな事されたら体だって当然おかしくなる、わけで……。

 ああもうっ、でも結局それだと俺の性欲が悪いってことになんじゃねーか!
 やめだやめ、今はもう難しい事考えらんないっ!!
 それに考えてたらまたブラックにバレそうだし、この問題は一旦いったん置いておこう!

「ツカサ君がぐったりしちゃった」
「あの口付くちづけの嵐でぐったりしない方がおかしいと思いますよ旦那」
「ヒィン」

 ほらもーリオルと藍鉄あいてつあきれてるじゃないか。
 まったく、毎度毎度このオッサンは……。これ以上ハッスルするなよなとにらむと、相手は「えへへ」と嬉しそうに笑って、俺を背後から抱き締めた。

「と……ともかく、ロク、藍鉄あいてつ、リオル、ただいま。何も変わりは無かった?」

 挨拶あいさつに返してくれるロク達に問うと、やはり特に危険は無かったようで首を振る。
 ブラックも変な喧嘩はしなかったみたいで、どうやらおだやかな旅だったようだ。

 ホッ、良かった……。
 ブラックはリオルの事をあまり好きじゃないみたいだから、少し心配だったけど、やはり二人とも大人なだけあって、お互い距離を測っていたみたいだな。

 しかしどうして俺のいない所だと大人なんだかなぁ、この二人……。
 クロウはいつも大人としての冷静さがあったワケだし、どうせならいつもあんな風に……って、それはそれで何か違和感があるか……。

「しっかし、ホントに邪魔……いや、カミサマってのの力を借りて別世界に帰ってるとはねえ……ロクショウ先輩が教えてくれたとはいえ、まだ信じられないや」
「えっ、リオルってロクショウと会話できたの!?」

 しかもこの言い方だとかなりの正確さで意思疎通が出来ているみたいだ。
 そんなの……ダハの頃のロクショウとテレパシーを使っていても、出来たかどうか分からないのに。くっ……な、なんだかくやしい……ッ。

「キュキュー! キュッ、キュウーゥ」
「ああんロクぅ……」

 俺のくやしさを感じ取ったのか、ロクは「おしゃべりできなくても、いちばん大好きだよ!」と俺のほっぺにペタリと飛び付いて来て、オッサンのキスでヒリついた肌を冷たいヘビ肌で撫でてくれる。
 うう……ロク、お前は本当に優しくて良い子だなぁ……。

 一気にくやしさがしぼんでいく俺に、リオルは頭を掻きつつ言葉を続けた。

「えーと、俺も一応魔族なんでぇ……。ある程度ていど、頭がイイ……ああいや、上級? って言うのかな。そういうモンスターだと話が通じるんだよ。だから、藍鉄あいてつ先輩にも簡単な会話だけなら通じるぜ。ロクショウ先輩は準飛竜ザッハークだから特別ってカンジ」
「そうなんだ……。ってことは、魔族も獣人族みたいにモンスターの血を引いてるって事なのか?」

 そう問いかけると、何故かリオルは嫌そうな顔をした。
 えっなにその反応。

「ツカサちゃ~ん……それ、俺には良いけど他の魔族に言ったらボコられるぜ? 俺達は、魔素やモンスターを操れるってダケで、獣人族みてーなガチモンのモンスターとは違う存在なんだからさぁ」
「そ、そうなのか……アホなこと言ってごめん……」

 ……しかしなんか妙だな。
 普通、物語の中の魔族ってモンスターから進化したり、そもそもがそういう強力な種族のモンスターって感じの設定が普通だよな。
 まあ、モンスターと魔族は違うって物語もあるけど、それだとモンスターを操れるという部分がせないよな……。しかも、リオルの口調からはどこか獣人族に対しての見下みくだしが感じられる。

 本人はそんな気が無いだろうけど、こういうのは長年の情報の積み重ねなのだ。
 どうしたって、長く染みついた習慣はてしまうからな。

 以前、魔族は獣人族の大陸と国交を結んでいて、魔族が出入りしたりしているって話を聞いたんだが……種族間で言えば、それほど仲は良くないのかも知れない。

 ともかく、今後は気を付けよう。
 クロウの前で魔族に関する話も禁句だな。
 ……まあ、クロウの過去を話して貰った後だと、話そうとも思えないけど……。

 とかなんとか思っていると、不意にブラックが言葉をほうった。

「魔族のそういう所、やっぱりクソだよなぁ~。中身は神族と一緒だ。自分の種族が何よりも強いとうぬぼれてて、それを隠そうともしない」

 何だか、責めているような台詞だ。
 急にどうしたんだろうと思っていると、リオルが表情に薄くイラつきをにじませ、笑っているようでそうではない顔でブラックを見やった。

「……言うっすねえ、旦那も」

 あああ、また険悪なムードに……。
 立ち止まってたらさらに悪化しそうだ。俺はロクと藍鉄と頷きあうと、前を向いて道の先に見える街の門を指差した。

「さーっ、みんなそろったことだしさっさと行こうぜ!! なっ!」
「キューッ!」
「ヒヒィイン!」
「わっ!? ちょ、ちょっとツカサ君! 急に藍鉄あいてつ君を動かしたら危ないってば!」

 歩き出す藍鉄あいてつに、ブラックはあわてて手綱たづなにぎなおす。
 俺を抱えながらだと言うのにその動作はスマートで無駄が無い。
 な、なんでこう……こういう所はハズさないのかなあもう。

 だけど一々言うのもなんだか気にしてるようで恥ずかしくて、俺は気を散らすために何も考えないようにして再び前方を見た。

「街……だけど、門番とかいないね」

 高い壁を有する入口を見てみるが、門を守っているような者はいない。
 まあでも、門番がいない街なんてこれまでにも何度か見て来たからな。モンスターや盗賊に襲われる心配が無かったり、他の理由であえて警備兵を立たせていない場所もあるにはあるのだ。

 恐らく【エスクレプ】も同じなんだろうな。
 確か、このエーリス領で一二を争うほど古いとされていた街【アーゲイア】には、薬を売る店がたくさんあって、にぎわっていたように思うけど……あちらよりも安全な街と言うことなんだろうか。

 それとも、また何か違う防衛設備と化が有るのかな?
 なんにせよ新しい街はワクワクするな!

 そんな事を思いつつ、扉も無い石積みの門を潜ろうと近付いた俺は――ある事に気が付いて、目を丸くした。

「あれ……この街……塀が、二重になってるのか……?」












 
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