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会遇古港エスクレプ、偉大な術師の夢と痕編
5.旧知の仲でも遠慮したい
「え……おおっ、ツカサ! と……なんだソイツ……?」
こちらを振り向いてパァッと顔が明るくなったと思ったら、俺の横に居たリオルを視認した途端に顔を訝しげに歪める。
何故……と思ったけど、ロサードはリオルの事を知らないんだっけ?
二人とも軽口を叩くタイプだから、てっきりシンパシーを感じるかと思ったらそうでもないみたいだ。まあ、二人とも軟派そうに見せてるけど中身は策士だもんな。
……そういえばトルベールも似た感じだけど、この世界ではナンパなヤツはやり手の法則でもあるのか。いや無いか。俺の周りが特殊なだけか……。
「それはこっちの台詞なんですけどぉー? ねえねえツカサちゃん誰アイツ。あの横チョロ三つ編みだれー?」
「なっ……人の髪型にケチつけんじゃねえ! なんだこの初対面失礼野郎は!」
あああまた新たな火種が。
陽キャって誰とでも仲良くなれるハズじゃないのか。アンタら二人とも人当たりのいい大人なお兄さんなのにどうしてこんな事に。
とにかく割って入らないとと思い、俺は慌てて二人の間に立ち塞がった。
「と、突然ごめんなロサード! あの、こっちはリオルって言って、俺やブラックを色々と手伝ってくれる仲間なんだ! リオル、こちらはリュビー財団の番頭役筆頭・ロサードだ! 偉い役職の人だけど気安くて良い人だぞ!」
双方とも、お互い何者か理解してくれただろうか。
リオルは警戒する必要のない相手だし、ロサードはデカい商会で地位の高い役職に就いている信用厚いお人なのだ。
なので、まったく警戒する必要はないと必死に二人の顔を何度も見やると……先にロサードの方がフウと息を吐いて頭を掻いた。
「あ~……俺はてっきりまたブラックの旦那に愛想尽かしたら新たな間男が出てきたとばかり……。いやなんかスマンな」
「や、こっちこそ借金取りか何かだと思って警戒してスンマセンっす」
「…………」
二人ともすぐに謝ってるけど、言葉が刺々しいのは何故なんだろうか……。
い、いやもうこの話はやめて先に進もう。
ともかく、今はロサードが何してるのか気になるな。
「えっと、あの、ロサード。どうして怒ってるんだ。この人は財団の従業員さん?」
近付いて軽く挨拶をすると、垂れ目で三白眼の痩せたおじさんは頭に手をやって俺にペコペコと頭を下げてくる。
う、うーん……服装的にも商人としては結構だらしない感じで、確かに何かやらかしそうな感じはするけど、素直に謝ってるし悪い人じゃないよな。ロサードだって、何も理由無くパワハラしてるんじゃないはずだ。
つーか、言わば「全国の支部長を統括する存在」と同じ“番頭役筆頭”という地位のロサードが、こんな場所で人を怒鳴り散らすなんて異常事態だろう。
せっかく再会したんだし、何か困っていることが有れば協力したい。
そんなことを考えながら問いかけると、ロサードは困ったような微苦笑を浮かべて、頭をポリポリと掻いた。
「うーん……実は、チェンホ……ええと、東方の島国から取り寄せた薬草の数が足りなくてな。今更追加分を頼むわけにもいかんし、先方は期日までにって言ってるしで、絶望的な状況になっちまったんだよ」
東方の島国、前に聞いたことが有るぞ。
確か、海を越えた遥か東方には、島が寄り集まった国が幾つかあるんだよな。
ロサードが俺は知らないだろうと思い言い方を変えた「チェンホン」という国は、その内の中華っぽい国の一つだったと記憶している。
もちろん、日本っぽいと推測される「ヒノワ」って国もその島国の一つだ。
――なので、かなり遠方からの届け物だってことは俺にも分かるのだが。
「それは……ヤバいな……。今から追加する手段は無いのか?」
問いかけてみるが、ロサードは首を振る。
「ダメだ。……コイツは乾燥させた品だから、高名な木の曜術師に頼んでも既に気が滞った物を復活させて種を作る事は出来ないし、そもそもこっちと東洋では季節が全く違うからな。常春の気候じゃ育てようもねえんだ」
「アドニスに頼んでもダメなのか?」
「ダメだろうなぁ。そもそも、木の曜術は“生育促進”は出来ても、ソレ自体を増やすとか、自力で生やして保つことは出来ないしな。……ツカサだって、曜術を使う時は、雑貨屋に売ってある雑草の種やそこらの草木を使うだろ? 例え、モトがあっても増やすことは出来ねんだよ。……それに、アイツに頼んだら何を頼まれるか分かったもんじゃねえしな……」
それも聞いた事あるな……。
普通の曜術師は、自分自身の曜気で植物を創造したり出来ないんだよな。そんで、成長させることはできても、その状態を保つことはできないんだっけ。
だから、俺も普通の曜術師を装う為に、なるべく自然の植物を使ったり、雑草の種を使ったりしているのだ。
【緑樹のグリモア】であるアドニスも、植物を無限に生成する事は出来てもそれらを保つことは出来ないんだっけ。
だから、術を放った後の植物は全部消えちゃってたような記憶がある。
植物を創造出来て、且つ若々しいまま保っていられるのは、神か【黒曜の使者】のようなチート能力者だけが成せるワザなのだ。
……まあ、そんなこと大っぴらには言えないんだけども。
ともかく……そんな理由があるうえに、ここは育てるのに適してない土地となると、そらもうどうしようもないよな。
これが手も足も出ないってヤツか。
っていうか、お互いに親友だと認め合っているロサードですら、アドニスに弱みを見せるような頼みはしたがらないのか。キミそれよっぽどやぞ。
「じゃあ……もう手立てはないってこと……?」
見上げる俺に、ロサードは腕を組んで唸る。
「これは調査対象の薬草で、こっちの大陸じゃ流通してないんだよ。ここの街の【薬学院】てのは、色んな薬の研究をしてるからな。俺達ですら初めて手に入れた薬草で、全然在庫がないんだ」
「それは……マジでヤバいな……」
「ああ、ヤバい。【薬学院】は小さい施設だが、その規模とは比べ物にならんくらい財団にとっては“超”の付くお得意様だ。しかしその分、取引には厳しい。これで契約が切れたら大損害じゃ済まねえ」
「ヒェ……」
どこからも補填する方法が無いとなると、一気に追い詰められた感じがする。
こういうのって、信用問題ってのに関わるんだよな?
だとしたら、うっかり屋のおじさんが怒られるだけじゃ済まないかも知れない。
最悪の場合……支部の筆頭の首が飛んだり、ロサードまで罰を受けるかも……。
…………だったら、俺の力で何とか出来ないだろうか。
「とか何とか考えて、また余計な事に首を突っ込む気じゃないよねツカサ君」
「ギャッ!?」
背後から、俺が考えていた通りのことをセリフにした低い声が聞こえてくる。
そのあまりの唐突さに思わず驚いて飛び上がると、俺の肩を何かが抑えた。こっ、このデカい手はブラックだ。
振り返ると、やっぱりそこには不服そうな顔のオッサンが居た。い、いつの間に宿を出て来たんだ。まったく気が付かなかったぞ。
「ぶぶぶブラックっ、また俺の心の声を読んだな!?」
「読んだなって、そりゃ解るよ。ツカサ君が分かり易過ぎるの! ……ともかく、僕らが介入するような事じゃ無いでしょ? それより早く冒険者ギルドにでも行って、目的を果たせる依頼か手段が有るか探そうよ。こんなしょうもない騒動関わったってしょうがないしさあ」
「ブラックの旦那、相変わらず辛辣っすね……」
ブラックやめろ、ロサードがちょっと涙目になってるじゃないか。これは本当に困っている顔だぞ。ちょっとくらい話をしたって良いじゃないか。
「ブラック、もうちょっと人に優しくなろうぜ……?」
「ツカサ君がご褒美くれるなら優しくするよっ」
「優しさに報酬を求めるのやめてもらえませんかね!?」
「ま、まあまあ旦那方……こっちの件は別にして……この街に何か用ですか?」
ブラックの大人とも思えぬ発言に少々ヒきつつも、ロサードはにこやかに問う。
ヤな事を言われても笑顔でいるなんて、さすがは管理職だなロサード……父さんの会社に社会見学に行った時を思い出すぜ……。
何となくあの頃の居た堪れない気持ちを思い出しつつ、俺は素直に答えた。
「実は俺達は【薬学院】に用があって……。どうにか話を聞けないか、ギルドに相談に行こうとしてたんだ」
「あっ、ツカサ君ダメだよ! そんなこと言ったら……っ」
え、なんかマズかったか。
でも別に隠す事じゃ無いじゃないか。
ロサードだって、気にするような事じゃ無いだろう。
そう思って、相手の顔を見やると。
「つ……ツカサ、薬学院のヤツに話を聞きたいのか? だったら俺達なら直接偉い奴に話を通せるぜ!? だ、だからその代わりに……その……頼みがあるんだが」
「それみたことか」
「ツカサちゃん、迂闊すぎぃ」
「キュ~」
「ヒィン」
う……い、一斉に呆れられた……。
でも、いくら商売人のロサードだって、この状況で俺達に恩を着せるようなマネはしないんじゃないのか。今はそれどころじゃないはずだし。
そもそも、木の曜術師でも何も出来ないって話なんだから、俺達に何かを要求するわけでもないと思うし……み、みんなロサードの事を厳しく見過ぎだろ!?
まさか、俺に今の困った案件を頼むわけが無い。はず。
そう思ってロサードの顔を再度見上げると。
「ちょ、ちょ~っと……その、最大限、いや最上級の便宜を図るんでぇ……あの……俺達の為に、生贄になってくれない……?」
「え……」
「いや、流石のアイツも、ツカサが協力するなら薬草を分けてくれるかなって……」
アイツって、まさか。
もしかしなくても、さっき「何を頼まれるか分かったもんじゃない」って言ってた相手に、俺を生贄にして取り引きを持ちかけるつもりじゃ……。
「おっ、おいロサード!?」
「頼むツカサッ!! アイツなら持ってるハズなんだよこの薬草を!! だからっ、俺達を助けると思ってぇええ!」
「たっ、頼みます坊ちゃん、でないと家族と路頭に迷っちまうんですう!」
「えええぇえ……」
両手を合わせて地面に膝をつき頼んでくるとんでもない大人二人に、俺は返答する事も出来ずにただただ慄いてしまう。
いや、おい、直球でイケニエって。
確かに【薬学院】には入れるけど、アドニスへの捧げものっておい!
「ツカサく~ん、だから言ったでしょ~……?」
「うう……なんでこうアンタらは恥ずかしげもなく恥を捨てられるんだよお……」
大人って、もうちょっと「恥を忍んで……」みたいな感じじゃなかったっけ……。
少なくとも俺は、俺のような高校生相手に膝をついて頼み込む大人なんて見た事も聞いた事も無いぞ。どんだけプライド捨てたんだよ。
でも、こんな事をするぐらい切羽詰まってるんだと思うと……拒否する方が悪い気がしてきてしまう。相手の首が飛びかねない事を考えると、尚更。
「僕知らないからねー?」
「ぐうう……」
さっきからブラックが「それみたことか」と言葉の槍でグサグサ刺してくる。
が、全ては俺が口を滑らせたのが原因なのだ。
それに、助けたからには「最上級の便宜を図ってくれる」と言うのだから、遠回しに【薬学院】に接触するよりも遥かに簡単に施設に入れるだろう。
だったら、もう、答えなんて一つしかない。
「わ……分かったよ……」
「ありがとうっ、本当ありがとなツカサ!! 早速アイツに連絡するぜ!」
「ありがとうございますありがとうございますっ、貴方様は女神さまですぅう」
飛び上がって喜ぶロサードと、涙と鼻水を垂らしながら俺を拝むおっちゃん。
……そんな狂喜乱舞の光景を見ながら、俺達は一斉に溜息を吐いたのだった。
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