異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

文字の大きさ
992 / 1,149
会遇古港エスクレプ、偉大な術師の夢と痕編

5.旧知の仲でも遠慮したい

 
 
「え……おおっ、ツカサ! と……なんだソイツ……?」

 こちらを振り向いてパァッと顔が明るくなったと思ったら、俺の横に居たリオルを視認した途端とたんに顔をいぶかしげに歪める。
 何故……と思ったけど、ロサードはリオルの事を知らないんだっけ?

 二人とも軽口を叩くタイプだから、てっきりシンパシーを感じるかと思ったらそうでもないみたいだ。まあ、二人とも軟派ナンパそうに見せてるけど中身は策士だもんな。
 ……そういえばトルベールも似た感じだけど、この世界ではナンパなヤツはの法則でもあるのか。いや無いか。俺の周りが特殊なだけか……。

「それはこっちの台詞なんですけどぉー? ねえねえツカサちゃん誰アイツ。あの横チョロみだれー?」
「なっ……人の髪型にケチつけんじゃねえ! なんだこの初対面失礼野郎は!」

 あああまた新たな火種ひだねが。
 陽キャって誰とでも仲良くなれるハズじゃないのか。アンタら二人とも人当たりのいい大人なお兄さんなのにどうしてこんな事に。

 とにかく割って入らないとと思い、俺はあわてて二人の間にふさがった。

「と、突然ごめんなロサード! あの、こっちはリオルって言って、俺やブラックを色々と手伝ってくれる仲間なんだ! リオル、こちらはリュビー財団の番頭ばんとうやく筆頭ひっとう・ロサードだ! えらい役職の人だけど気安くて良い人だぞ!」

 双方とも、お互い何者か理解してくれただろうか。
 リオルは警戒する必要のない相手だし、ロサードはデカい商会で地位の高い役職にいている信用あついお人なのだ。

 なので、まったく警戒する必要はないと必死に二人の顔を何度も見やると……先にロサードの方がフウと息を吐いて頭を掻いた。

「あ~……俺はてっきりまたブラックの旦那に愛想尽かしたら新たな間男まおとこが出てきたとばかり……。いやなんかスマンな」
「や、こっちこそ借金取りか何かだと思って警戒してスンマセンっす」
「…………」

 二人ともすぐに謝ってるけど、言葉が刺々とげとげしいのは何故なんだろうか……。
 い、いやもうこの話はやめて先に進もう。
 ともかく、今はロサードが何してるのか気になるな。

「えっと、あの、ロサード。どうして怒ってるんだ。この人は財団の従業員さん?」

 近付いて軽く挨拶あいさつをすると、垂れ目で三白眼のせたおじさんは頭に手をやって俺にペコペコと頭を下げてくる。
 う、うーん……服装的にも商人としては結構だらしない感じで、確かに何かやらかしそうな感じはするけど、素直に謝ってるし悪い人じゃないよな。ロサードだって、何も理由無くパワハラしてるんじゃないはずだ。

 つーか、言わば「全国の支部長を統括とうかつする存在」と同じ“番頭ばんとうやく筆頭ひっとう”という地位のロサードが、こんな場所で人を怒鳴り散らすなんて異常事態だろう。

 せっかく再会したんだし、何かこまっていることが有れば協力したい。

 そんなことを考えながら問いかけると、ロサードは困ったような微苦笑を浮かべて、頭をポリポリと掻いた。

「うーん……実は、チェンホ……ええと、東方の島国から取り寄せた薬草の数が足りなくてな。今更いまさら追加分を頼むわけにもいかんし、先方せんぽうは期日までにって言ってるしで、絶望的な状況になっちまったんだよ」

 東方の島国、前に聞いたことが有るぞ。
 確か、海を越えたはるか東方には、島が寄り集まった国がいくつかあるんだよな。
 ロサードが俺は知らないだろうと思い言い方を変えた「チェンホン」という国は、その内の中華っぽい国の一つだったと記憶している。

 もちろん、日本っぽいと推測される「ヒノワ」って国もその島国の一つだ。

 ――なので、かなり遠方からの届け物だってことは俺にも分かるのだが。

「それは……ヤバいな……。今から追加する手段は無いのか?」

 問いかけてみるが、ロサードは首を振る。

「ダメだ。……コイツは乾燥させたしなだから、高名な木の曜術師に頼んでもすでに気がとどこおった物を復活させて種を作る事は出来ないし、そもそもこっちと東洋では季節が全く違うからな。常春とこはるの気候じゃ育てようもねえんだ」
「アドニスに頼んでもダメなのか?」
「ダメだろうなぁ。そもそも、木の曜術は“生育促進”は出来ても、ソレ自体を増やすとか、自力でやしてたもつことは出来ないしな。……ツカサだって、曜術を使う時は、雑貨屋に売ってある雑草の種やそこらの草木を使うだろ? 例え、モトがあっても増やすことは出来ねんだよ。……それに、アイツに頼んだら何を頼まれるか分かったもんじゃねえしな……」

 それも聞いた事あるな……。
 普通の曜術師は、自分自身の曜気で植物を創造したり出来ないんだよな。そんで、成長させることはできても、その状態をたもつことはできないんだっけ。

 だから、俺も普通の曜術師をよそおために、なるべく自然の植物を使ったり、雑草の種を使ったりしているのだ。

 【緑樹りょくじゅのグリモア】であるアドニスも、植物を無限に生成する事は出来てもそれらをたもつことは出来ないんだっけ。
 だから、術をはなった後の植物は全部消えちゃってたような記憶がある。

 植物を創造出来て、つ若々しいままたもっていられるのは、神か【黒曜の使者】のようなチート能力者だけがせるワザなのだ。
 ……まあ、そんなこと大っぴらには言えないんだけども。

 ともかく……そんな理由があるうえに、ここは育てるのにてきしてない土地となると、そらもうどうしようもないよな。
 これが手も足も出ないってヤツか。

 っていうか、お互いに親友だと認め合っているロサードですら、アドニスに弱みを見せるような頼みはしたがらないのか。キミそれよっぽどやぞ。

「じゃあ……もう手立てはないってこと……?」

 見上げる俺に、ロサードは腕を組んでうなる。

「これは調査対象の薬草で、こっちの大陸じゃ流通してないんだよ。ここの街の【薬学院】てのは、色んな薬の研究をしてるからな。俺達ですら初めて手に入れた薬草で、全然在庫がないんだ」
「それは……マジでヤバいな……」
「ああ、ヤバい。【薬学院】は小さい施設だが、その規模とは比べ物にならんくらい財団にとっては“超”の付くお得意様だ。しかしその分、取引にはきびしい。これで契約が切れたら大損害じゃ済まねえ」
「ヒェ……」

 どこからも補填ほてんする方法が無いとなると、一気に追い詰められた感じがする。
 こういうのって、信用問題ってのに関わるんだよな?

 だとしたら、うっかり屋のおじさんが怒られるだけじゃ済まないかも知れない。
 最悪の場合……支部の筆頭ひっとうの首が飛んだり、ロサードまで罰を受けるかも……。

 …………だったら、俺の力で何とか出来ないだろうか。

「とか何とか考えて、また余計な事に首を突っ込む気じゃないよねツカサ君」
「ギャッ!?」

 背後から、俺が考えていた通りのことをセリフにした低い声が聞こえてくる。
 そのあまりの唐突さに思わず驚いて飛び上がると、俺の肩を何かがおさえた。こっ、このデカい手はブラックだ。
 振り返ると、やっぱりそこには不服そうな顔のオッサンが居た。い、いつの間に宿を出て来たんだ。まったく気が付かなかったぞ。

「ぶぶぶブラックっ、また俺の心の声を読んだな!?」
「読んだなって、そりゃわかるよ。ツカサ君がかりやすぎるの! ……ともかく、僕らが介入かいにゅうするような事じゃ無いでしょ? それより早く冒険者ギルドにでも行って、目的を果たせる依頼か手段が有るか探そうよ。こんなしょうもない騒動関わったってしょうがないしさあ」
「ブラックの旦那、相変わらず辛辣しんらつっすね……」

 ブラックやめろ、ロサードがちょっと涙目になってるじゃないか。これは本当にこまっている顔だぞ。ちょっとくらい話をしたって良いじゃないか。

「ブラック、もうちょっと人に優しくなろうぜ……?」
「ツカサ君がご褒美ほうびくれるなら優しくするよっ」
「優しさに報酬を求めるのやめてもらえませんかね!?」
「ま、まあまあ旦那だんながた……こっちの件は別にして……この街に何か用ですか?」

 ブラックの大人とも思えぬ発言に少々ヒきつつも、ロサードはにこやかに問う。
 ヤな事を言われても笑顔でいるなんて、さすがは管理職だなロサード……父さんの会社に社会見学に行った時を思い出すぜ……。

 何となくあの頃のたまれない気持ちを思い出しつつ、俺は素直に答えた。

「実は俺達は【薬学院】に用があって……。どうにか話を聞けないか、ギルドに相談に行こうとしてたんだ」
「あっ、ツカサ君ダメだよ! そんなこと言ったら……っ」

 え、なんかマズかったか。
 でも別に隠す事じゃ無いじゃないか。

 ロサードだって、気にするような事じゃ無いだろう。
 そう思って、相手の顔を見やると。

「つ……ツカサ、薬学院のヤツに話を聞きたいのか? だったら俺達なら直接偉い奴に話を通せるぜ!? だ、だからその代わりに……その……頼みがあるんだが」
「それみたことか」
「ツカサちゃん、迂闊うかつすぎぃ」
「キュ~」
「ヒィン」

 う……い、一斉いっせいあきれられた……。
 でも、いくら商売人のロサードだって、この状況で俺達に恩を着せるようなマネはしないんじゃないのか。今はそれどころじゃないはずだし。
 そもそも、木の曜術師でも何も出来ないって話なんだから、俺達に何かを要求するわけでもないと思うし……み、みんなロサードの事をきびしくぎだろ!?

 まさか、俺に今のこまった案件を頼むわけが無い。はず。
 そう思ってロサードの顔を再度見上げると。

「ちょ、ちょ~っと……その、最大限、いや最上級の便宜べんぎはかるんでぇ……あの……俺達のために、生贄いけにえになってくれない……?」
「え……」
「いや、流石さすがのアイツも、ツカサが協力するなら薬草を分けてくれるかなって……」

 アイツって、まさか。
 もしかしなくても、さっき「何を頼まれるか分かったもんじゃない」って言ってた相手に、俺を生贄いけにえにして取り引きを持ちかけるつもりじゃ……。

「おっ、おいロサード!?」
「頼むツカサッ!! アイツなら持ってるハズなんだよこの薬草を!! だからっ、俺達を助けると思ってぇええ!」
「たっ、頼みます坊ちゃん、でないと家族と路頭に迷っちまうんですう!」
「えええぇえ……」

 両手を合わせて地面にひざをつき頼んでくるとんでもない大人二人に、俺は返答する事も出来ずにただただおののいてしまう。
 いや、おい、直球でイケニエって。
 確かに【薬学院】には入れるけど、アドニスへのささげものっておい!

「ツカサく~ん、だから言ったでしょ~……?」
「うう……なんでこうアンタらは恥ずかしげもなくはじを捨てられるんだよお……」

 大人って、もうちょっと「はじしのんで……」みたいな感じじゃなかったっけ……。
 少なくとも俺は、俺のような高校生相手にひざをついて頼み込む大人なんて見た事も聞いた事も無いぞ。どんだけプライド捨てたんだよ。

 でも、こんな事をするぐらい切羽せっぱまってるんだと思うと……拒否する方が悪い気がしてきてしまう。相手の首が飛びかねない事を考えると、尚更なおさら

「僕知らないからねー?」
「ぐうう……」

 さっきからブラックが「それみたことか」と言葉の槍でグサグサ刺してくる。
 が、全ては俺がくちすべらせたのが原因なのだ。
 それに、助けたからには「最上級の便宜べんぎはかってくれる」と言うのだから、遠回しに【薬学院】に接触するよりもはるかに簡単に施設に入れるだろう。

 だったら、もう、答えなんて一つしかない。

「わ……分かったよ……」
「ありがとうっ、本当ありがとなツカサ!! 早速アイツに連絡するぜ!」
「ありがとうございますありがとうございますっ、貴方様は女神さまですぅう」

 飛び上がって喜ぶロサードと、涙と鼻水をらしながら俺をおがむおっちゃん。
 ……そんな狂喜乱舞の光景を見ながら、俺達は一斉いっせいに溜息を吐いたのだった。










 
感想 1,277

あなたにおすすめの小説

おひめさまな俺、帝王に溺愛される

  *  ゆるゆ
BL
帝王陛下に捧げられることになった小国の王族レイには、大変な問題が──! ……男です。

ただのハイスペックなモブだと思ってた

はぴねこ
BL
 神乃遥翔(じんの はると)は自分のことをモブだと思っていた。  少年漫画ではいつだって、平凡に見えて何か一つに秀でている人物が主人公だったから。  その点、遥翔は眉目秀麗文武両道、家も財閥の超お金持ち。  一通りのことがなんでも簡単にできる自分は夢中になれるものもなくて、きっと漫画のモブみたいに輝く主人公を引き立てるモブのように生きるのだと、そう遥翔は思っていた。  けれど、そんな遥翔に勉強を教わりに来ている葛城星 (かつらぎ ほし)は言った。 「BL漫画の中では、神乃くんみたいな人がいつだって主人公なんだよ?」  そう言って、星が貸してくれた一冊のBL漫画が遥翔の人生を一変させた。  自分にも輝ける人生を歩むことができるのかもしれないと希望を持った遥翔は、そのことを教えてくれた星に恋をする。  だけど、恋をした途端、星には思い人がいることに気づいてしまって……  眉目秀麗文武両道で完璧だけど漫画脳な遥翔が、お人好しで気弱な星の心に少しずつ少しずつ近づこうと頑張るお話です。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!

由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。 しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。 そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。 「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」 やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった。しかしハルの血が特殊だと知ったダンピールはハルを連れ帰って? いっそ美味しい『血』(治癒)と『体液』(バフ)と『癒し』を与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科 空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する 高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体 それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった 至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する 意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク” 消える教師 山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー

助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!

夜刀神さつき
BL
医者である内藤 賢吾は、過労死した。しかし、死んだことに気がつかないまま異世界転生する。転生先で、急性虫垂炎のセドリック皇子を見つけた彼は、手術をしたくてたまらなくなる。「彼を解剖させてください」と告げ、周囲をドン引きさせる。その後、賢吾はセドリックを手術して助ける。命を助けられたセドリックは、賢吾に惹かれていく。賢吾は、セドリックの告白を断るが、セドリックは、諦めの悪いヤンデレ腹黒男だった。セドリックは、賢吾に助ける代わりに何でも言うことを聞くという約束をする。しかし、賢吾は約束を破り逃げ出し……。ほとんどコメディです。  ヤンデレ腹黒ドS皇子×頭のおかしい主人公

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。