異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

文字の大きさ
1,010 / 1,149
会遇古港エスクレプ、偉大な術師の夢と痕編

17.好きにしたいけど好きも欲しい1

 
 
「ツカサくん~」
「っ……ああもうっ、はいはい! 分かったからこっち向くなっての、ちゃんと洗えないだろうがっ!」

 チクショウこの無自覚タラシオヤジ!
 毎度のことながらピンポイントで俺の心臓を攻撃して、なんも考えられないようにしてきやがって。これはもう俺がヘンなんじゃない、コイツのせいなんだ絶対に。

 ブラックの野郎がこんなだから、繊細な俺が困ってるだけなんだ!

 世の中には美形をハナにかける奴もいれば、こうやって全力でその顔を使い倒して周囲をメロメロにしちまうこまったオッサンもいるに違いない。
 ていうか目の前に居るんだ。なので、このドキドキは俺が悪いんじゃないはず。

 くそう……ブラックめ、俺のゆったりお風呂タイムを邪魔しただけでなく、不届きにもドキドキさせてくるとは……こんなヤツは早々に泡だらけにしてくれる。

「ねえねえツカサ君、今日はどんなこぶわっ」

 ブラックは何か問いかけようとしていたようだが、俺は有無を言わさず髪にお湯をぶっかける。そうして何度か流したあと、髪に丁寧ていねいに泡を付けて手を入れた。

「あぁん」
「変な声出すなっ!!」

 ったくもうからかってるのが分かるんだったらこのぶりっこオヤジめ。

 語尾にハートマーク付けた声を出すんじゃないよと歯軋はぎしりしながら、俺はうねうねとゆるくカーブする髪に泡を馴染ませるのに専念した。
 ……ムカつくけど、やっぱりこの時間は嫌いじゃない。

 触れるとやわらかいけど、意外としっかりしている赤くて鮮やかな髪。
 だけどブラックは自分の格好に無頓着だから、こんなに綺麗な髪なのにからまったりもつれたりしちゃうんだよな。

 まったく勿体もったいいなぁ……なんて俺は思うんだけど、でも……正直な話、こうしてブラックの髪をあつかうのは嫌いじゃない。というか、好き……かな。

 俺自身、世話好きってワケじゃないんだけど、それでも不思議と面倒に思わないんだよ。クロウの髪もそうなんだけど、こんなふうに嬉しがって髪を洗って欲しいってねだったり、寝起きのぽやぽやした二人の髪をしてやるのは結構楽しい。

 風呂に無理矢理入ってきたのはムカつくけど、洗髪に関しては「してやらない」という反骨精神など湧いてこなかった。

 相変わらずブラックには言えない本音ではあるが、やっぱり俺ブラックの髪が好きなんだろうな……。

 まあその、別にこまる事でもないし良いんだけど。
 ……いや、こまるかな……ただでさえ別のとこも心臓に悪いのに、髪も好きって……これじゃ俺がブラックのこと好きすぎるみたいじゃん……。

 …………。
 そりゃ、嫌いよりは好きの方がいいけどさあ。
 でも、対等な関係ならもうちょっとこう、きびしく見る目を持った方が……。

「ふわぁ……ツカサ君の手って、ほんとに気持ちいい……愛を感じるからかな?」
「ばっ、ばか! 別にこんなの、丁寧ていねいに洗ってるからだろ!?」

 変な事を言うんじゃない、間違ってアンタの髪の毛を引っ張っちゃうだろうが。

 とはいえ何とかこらえて、俺は「黙ってろ」と言わんばかりに泡だらけの頭をわしゃわしゃ掻き回してやる。
 目に泡が入るのはイヤなのか、それとも俺の言いたいことを理解したのか、相手は黙って洗われることにしたようだ。……ったく、最初からそうしてたらいいものを。
 やっと安心して、俺はしばらくブラックの髪を洗う事に集中した。

「ふぅ……。流すぞ」
「んー」

 くちを閉じて子供みたいな返答をするオッサンに、遠慮なくお湯をかける。
 頭から泡を流すと、いつも以上にキラキラと光る赤い髪が見えてきた。

 そうそう、この瞬間も好きなんだよな。
 ブラックの髪って、洗ってやるとびっくりするぐらい光るんだ。
 本人からすればどうでもいいことなんだろうけど……自分が洗ってやった髪が輝く瞬間っていうのは、なんだか満足感を感じるんだよな。

 それに……その……濡れてキラキラしてる髪のブラックって……くやしいけど、何かグッてくるもんがあるし……。

「はぁ~、やっぱりツカサ君に洗髪してもらうと段違いに気持ちいいよぉ」
「そう思うなら毎日風呂に入って欲しいんだけどな?」
「ツカサ君が洗ってくれるなら入るぅ」
「俺はお前の洗髪係じゃねーっての!!」

 どこまで甘えるんだ、と頭をペチンと叩くが、ダメージを受けていないブラックは俺の方に振り向いて嬉しそうにふにゃりと笑う。

「んも~、やだなぁツカサ君たらっ。僕達はアツアツの恋人だし婚約者なんだから、毎日一緒にお風呂に入るのが普通でしょ? それに僕だってツカサ君の髪……いや、もうツカサ君の全部をくまなく隅々すみずみまで洗ってあげたいと思ってるんだからねっ! 洗髪係だなんて思ってるワケないじゃないか~」
「何故かその発言に凄く嫌な予感を感じるんだが?」

 もう一足先に風呂から上がろうかな。
 思わずそう思ったと同時、ブラックが俺の行動を先読みしたかのように振り向き、急に立ち上がると俺を羽交はがめにした。

「えへへ、つーかまえたっ」
「ちょっ……!? な、あ、アンタ何して……っ!」

 やめろ、やめんかオイ!
 今お互い素っ裸なんだぞ!? それなのにこ、こんな密着……っ!

 ううう、な、なんか、肌が吸い付いてるような気がする。
 しかも真正面から抱き締められたから、お、大人の象徴の毛の感触が……っ。

「体も洗った事だしさ、二人でお風呂に入ろうよ」
「ふっ、風呂!? いや、どう考えてもあのバスタブには二人で入れないだろ!?」

 特にアンタみたいな図体がデカい奴となると、どう入っても絶対に俺の肩身がせまくなっちまうだろうが。ていうかそもそも入れない可能性の方が高いのでは。
 どうやって入るんだよと抗議するが、ブラックは上機嫌でニコニコしたままバスタブの方へ歩いて行く。

「大丈夫大丈夫、僕とツカサ君にうってつけの入り方があるんだから」
「うってつけの入り方?!」

 何をするのか分からないが、何だか猛烈に嫌な予感がしてきたぞ。
 だが、それを受けて俺が逃げ出す前に、ブラックはバスタブに入り――なんと、俺の体をくるりと反転させて背中からかこむような姿勢に変えると、そのまま湯船の中に腰を下ろしてしまったではないか。

「よいしょっと」

 ブラックの体積分あふれたお湯に体が浮くが、そんな俺の体をしっかり抱き留めて、たくましくて太い腕がたがいの肌を密着させる。
 だが、それだけじゃなくて。
 ……ぶ、ブラックの体に押し付けられた俺は……その……ケツの辺りに、ブラックの足の感触……と、ともかく、大変な場所に座らされてしまったのだ。

「こ……この体勢だめだって……!」
「何がダメなの、いつもの格好じゃないか。それに、今は二人っきりなんだから恥ずかしくないでしょ? これならツカサ君も足を伸ばしてお風呂に入れるし、良いコトくめの格好じゃない」
「俺には悪いコトくめにしか思えないんだが!?」

 このポーズのどこが何に良いというんだ。
 衣服を着て座ってるならまだしも、俺はアンタの肌をケツで感じてるんだぞ。それに背中にだってその、と、とにかく、色々感覚があるってのに。

 なのに、こんな格好でリラックスなんて出来たもんじゃないだろ。

 むしろ……いつ、ケツの下で眠ってるヤバいのが起き出さないか心配なのに。

「あ~。ツカサ君ったらまたやらしいこと考えてたでしょ~? まったく、いっつも僕の事を気にしちゃうくらい大好きなんだから……」
「やらしい事なんて考えてないってば……!」
「そのわりにお尻がモジモジしてるけどぉ~?」
「やっ……! あっ、ば、ばか、足動かすなって……!」」

 太腿ふとももの部分を、まるで俺の尻肉を押し上げるみたいに動かされる。
 思ってもみなかったその行動に思わず変な声が出てしまったが、背後のブラックは何が嬉しいのか、デレデレした笑い声をらしながら、さらに続ける。

「ツカサ君が恥ずかしさで真っ赤になるような事を考えるから、僕も期待してこんな風に動いちゃうんだよ……? そういうコトして欲しいのかなって……」
「ち、違うっ、して欲しいんじゃなくてやめろって言いたいだけだって……」
「やめて欲しいのに、肩まで悩ましげに動かしてもじもじしちゃうんだ? へぇ~」
「っ……」

 だ、だからこれは、何かヘンなせいで……!

 ブラックとの“何か”を連想して暴れてたんじゃないんだ、ただ、ケツに生足の感触が伝わってくるのが恥ずかしくて、無茶な事をするなって思ってるだけなんだ。
 や、やらしい予想だって、アンタが毎回そういうコトをするから警戒して考えてるだけなのに、こっちが淫乱だから悪いみたいな言い方しやがってぇえ……っ。

「本当に、やめてほしい……?」
「当たり前だろ……!」
「じゃあ、しばらくこのまま、お風呂に入っていようよっ。そうすれば、僕も妙な真似はしないようにするからさ」
「ぐ……」

 またそんな、アンタにばっかり有利な約束を持ち出す。
 ……でも、ハイとうなずかないと絶対に話が進まないんだよな……。

 はぁ、仕方ない……しばらくこのままでいて、エッチな雰囲気ふんいきにならないように、色々な話をするようにしよう。
 そうすれば、さすがにブラックだって気にして変な動きはしないだろう。

「ほら……ツカサ君、僕に体を預けて、肩に頭を置いてごらん……?」
「ぐうう……」

 そんなに深く座ると、ブラックに拘束された時に起き上がる事すら出来ない。
 だけどもう、そんなの今更だ。

 …………不安要素はあるけど、ここは従うしかないか……。

 とにかく、普通に話をしよう。
 そうすればブラックだって無暗にスケベなことはしないはず。

 た……たぶん……。
 い、いや、きっと……そうである、はず……。












 
感想 1,277

あなたにおすすめの小説

おひめさまな俺、帝王に溺愛される

  *  ゆるゆ
BL
帝王陛下に捧げられることになった小国の王族レイには、大変な問題が──! ……男です。

ただのハイスペックなモブだと思ってた

はぴねこ
BL
 神乃遥翔(じんの はると)は自分のことをモブだと思っていた。  少年漫画ではいつだって、平凡に見えて何か一つに秀でている人物が主人公だったから。  その点、遥翔は眉目秀麗文武両道、家も財閥の超お金持ち。  一通りのことがなんでも簡単にできる自分は夢中になれるものもなくて、きっと漫画のモブみたいに輝く主人公を引き立てるモブのように生きるのだと、そう遥翔は思っていた。  けれど、そんな遥翔に勉強を教わりに来ている葛城星 (かつらぎ ほし)は言った。 「BL漫画の中では、神乃くんみたいな人がいつだって主人公なんだよ?」  そう言って、星が貸してくれた一冊のBL漫画が遥翔の人生を一変させた。  自分にも輝ける人生を歩むことができるのかもしれないと希望を持った遥翔は、そのことを教えてくれた星に恋をする。  だけど、恋をした途端、星には思い人がいることに気づいてしまって……  眉目秀麗文武両道で完璧だけど漫画脳な遥翔が、お人好しで気弱な星の心に少しずつ少しずつ近づこうと頑張るお話です。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!

由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。 しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。 そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。 「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」 やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった。しかしハルの血が特殊だと知ったダンピールはハルを連れ帰って? いっそ美味しい『血』(治癒)と『体液』(バフ)と『癒し』を与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科 空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する 高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体 それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった 至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する 意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク” 消える教師 山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー

助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!

夜刀神さつき
BL
医者である内藤 賢吾は、過労死した。しかし、死んだことに気がつかないまま異世界転生する。転生先で、急性虫垂炎のセドリック皇子を見つけた彼は、手術をしたくてたまらなくなる。「彼を解剖させてください」と告げ、周囲をドン引きさせる。その後、賢吾はセドリックを手術して助ける。命を助けられたセドリックは、賢吾に惹かれていく。賢吾は、セドリックの告白を断るが、セドリックは、諦めの悪いヤンデレ腹黒男だった。セドリックは、賢吾に助ける代わりに何でも言うことを聞くという約束をする。しかし、賢吾は約束を破り逃げ出し……。ほとんどコメディです。  ヤンデレ腹黒ドS皇子×頭のおかしい主人公

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。