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会遇古港エスクレプ、偉大な術師の夢と痕編
17.好きにしたいけど好きも欲しい1
「ツカサくん~」
「っ……ああもうっ、はいはい! 分かったからこっち向くなっての、ちゃんと洗えないだろうがっ!」
チクショウこの無自覚タラシオヤジ!
毎度のことながらピンポイントで俺の心臓を攻撃して、なんも考えられないようにしてきやがって。これはもう俺がヘンなんじゃない、コイツのせいなんだ絶対に。
ブラックの野郎がこんなだから、繊細な俺が困ってるだけなんだ!
世の中には美形をハナにかける奴もいれば、こうやって全力でその顔を使い倒して周囲をメロメロにしちまう困ったオッサンもいるに違いない。
ていうか目の前に居るんだ。なので、このドキドキは俺が悪いんじゃないはず。
くそう……ブラックめ、俺のゆったりお風呂タイムを邪魔しただけでなく、不届きにもドキドキさせてくるとは……こんなヤツは早々に泡だらけにしてくれる。
「ねえねえツカサ君、今日はどんなこぶわっ」
ブラックは何か問いかけようとしていたようだが、俺は有無を言わさず髪にお湯をぶっかける。そうして何度か流したあと、髪に丁寧に泡を付けて手を入れた。
「あぁん」
「変な声出すなっ!!」
ったくもうからかってるのが分かるんだったらこのぶりっこオヤジめ。
語尾にハートマーク付けた声を出すんじゃないよと歯軋りしながら、俺はうねうねと緩くカーブする髪に泡を馴染ませるのに専念した。
……ムカつくけど、やっぱりこの時間は嫌いじゃない。
触れると柔らかいけど、意外としっかりしている赤くて鮮やかな髪。
だけどブラックは自分の格好に無頓着だから、こんなに綺麗な髪なのに絡まったり縺れたりしちゃうんだよな。
まったく勿体無いなぁ……なんて俺は思うんだけど、でも……正直な話、こうしてブラックの髪を扱うのは嫌いじゃない。というか、好き……かな。
俺自身、世話好きってワケじゃないんだけど、それでも不思議と面倒に思わないんだよ。クロウの髪もそうなんだけど、こんなふうに嬉しがって髪を洗って欲しいってねだったり、寝起きのぽやぽやした二人の髪をしてやるのは結構楽しい。
風呂に無理矢理入ってきたのはムカつくけど、洗髪に関しては「してやらない」という反骨精神など湧いてこなかった。
相変わらずブラックには言えない本音ではあるが、やっぱり俺ブラックの髪が好きなんだろうな……。
まあその、別に困る事でもないし良いんだけど。
……いや、困るかな……ただでさえ別のとこも心臓に悪いのに、髪も好きって……これじゃ俺がブラックのこと好きすぎるみたいじゃん……。
…………。
そりゃ、嫌いよりは好きの方がいいけどさあ。
でも、対等な関係ならもうちょっとこう、厳しく見る目を持った方が……。
「ふわぁ……ツカサ君の手って、ほんとに気持ちいい……愛を感じるからかな?」
「ばっ、ばか! 別にこんなの、丁寧に洗ってるからだろ!?」
変な事を言うんじゃない、間違ってアンタの髪の毛を引っ張っちゃうだろうが。
とはいえ何とか堪えて、俺は「黙ってろ」と言わんばかりに泡だらけの頭をわしゃわしゃ掻き回してやる。
目に泡が入るのはイヤなのか、それとも俺の言いたいことを理解したのか、相手は黙って洗われることにしたようだ。……ったく、最初からそうしてたらいいものを。
やっと安心して、俺は暫くブラックの髪を洗う事に集中した。
「ふぅ……。流すぞ」
「んー」
口を閉じて子供みたいな返答をするオッサンに、遠慮なくお湯をかける。
頭から泡を流すと、いつも以上にキラキラと光る赤い髪が見えてきた。
そうそう、この瞬間も好きなんだよな。
ブラックの髪って、洗ってやるとびっくりするぐらい光るんだ。
本人からすればどうでもいいことなんだろうけど……自分が洗ってやった髪が輝く瞬間っていうのは、なんだか満足感を感じるんだよな。
それに……その……濡れてキラキラしてる髪のブラックって……悔しいけど、何かグッてくるもんがあるし……。
「はぁ~、やっぱりツカサ君に洗髪してもらうと段違いに気持ちいいよぉ」
「そう思うなら毎日風呂に入って欲しいんだけどな?」
「ツカサ君が洗ってくれるなら入るぅ」
「俺はお前の洗髪係じゃねーっての!!」
どこまで甘えるんだ、と頭をペチンと叩くが、ダメージを受けていないブラックは俺の方に振り向いて嬉しそうにふにゃりと笑う。
「んも~、やだなぁツカサ君たらっ。僕達はアツアツの恋人だし婚約者なんだから、毎日一緒にお風呂に入るのが普通でしょ? それに僕だってツカサ君の髪……いや、もうツカサ君の全部をくまなく隅々まで洗ってあげたいと思ってるんだからねっ! 洗髪係だなんて思ってるワケないじゃないか~」
「何故かその発言に凄く嫌な予感を感じるんだが?」
もう一足先に風呂から上がろうかな。
思わずそう思ったと同時、ブラックが俺の行動を先読みしたかのように振り向き、急に立ち上がると俺を羽交い絞めにした。
「えへへ、つーかまえたっ」
「ちょっ……!? な、あ、アンタ何して……っ!」
やめろ、やめんかオイ!
今お互い素っ裸なんだぞ!? それなのにこ、こんな密着……っ!
ううう、な、なんか、肌が吸い付いてるような気がする。
しかも真正面から抱き締められたから、お、大人の象徴の毛の感触が……っ。
「体も洗った事だしさ、二人でお風呂に入ろうよ」
「ふっ、風呂!? いや、どう考えてもあのバスタブには二人で入れないだろ!?」
特にアンタみたいな図体がデカい奴となると、どう入っても絶対に俺の肩身が狭くなっちまうだろうが。ていうかそもそも入れない可能性の方が高いのでは。
どうやって入るんだよと抗議するが、ブラックは上機嫌でニコニコしたままバスタブの方へ歩いて行く。
「大丈夫大丈夫、僕とツカサ君にうってつけの入り方があるんだから」
「うってつけの入り方?!」
何をするのか分からないが、何だか猛烈に嫌な予感がしてきたぞ。
だが、それを受けて俺が逃げ出す前に、ブラックはバスタブに入り――なんと、俺の体をくるりと反転させて背中から囲い込むような姿勢に変えると、そのまま湯船の中に腰を下ろしてしまったではないか。
「よいしょっと」
ブラックの体積分溢れたお湯に体が浮くが、そんな俺の体をしっかり抱き留めて、逞しくて太い腕が互いの肌を密着させる。
だが、それだけじゃなくて。
……ぶ、ブラックの体に押し付けられた俺は……その……ケツの辺りに、ブラックの足の感触……と、ともかく、大変な場所に座らされてしまったのだ。
「こ……この体勢だめだって……!」
「何がダメなの、いつもの格好じゃないか。それに、今は二人っきりなんだから恥ずかしくないでしょ? これならツカサ君も足を伸ばしてお風呂に入れるし、良いコト尽くめの格好じゃない」
「俺には悪いコト尽くめにしか思えないんだが!?」
このポーズのどこが何に良いというんだ。
衣服を着て座ってるならまだしも、俺はアンタの肌をケツで感じてるんだぞ。それに背中にだってその、と、とにかく、色々感覚があるってのに。
なのに、こんな格好でリラックスなんて出来たもんじゃないだろ。
むしろ……いつ、ケツの下で眠ってるヤバいのが起き出さないか心配なのに。
「あ~。ツカサ君ったらまたやらしいこと考えてたでしょ~? まったく、いっつも僕の事を気にしちゃうくらい大好きなんだから……」
「やらしい事なんて考えてないってば……!」
「そのわりにお尻がモジモジしてるけどぉ~?」
「やっ……! あっ、ば、ばか、足動かすなって……!」」
太腿の部分を、まるで俺の尻肉を押し上げるみたいに動かされる。
思ってもみなかったその行動に思わず変な声が出てしまったが、背後のブラックは何が嬉しいのか、デレデレした笑い声を漏らしながら、更に続ける。
「ツカサ君が恥ずかしさで真っ赤になるような事を考えるから、僕も期待してこんな風に動いちゃうんだよ……? そういうコトして欲しいのかなって……」
「ち、違うっ、して欲しいんじゃなくてやめろって言いたいだけだって……」
「やめて欲しいのに、肩まで悩ましげに動かしてもじもじしちゃうんだ? へぇ~」
「っ……」
だ、だからこれは、何かヘンなせいで……!
ブラックとの“何か”を連想して暴れてたんじゃないんだ、ただ、ケツに生足の感触が伝わってくるのが恥ずかしくて、無茶な事をするなって思ってるだけなんだ。
や、やらしい予想だって、アンタが毎回そういうコトをするから警戒して考えてるだけなのに、こっちが淫乱だから悪いみたいな言い方しやがってぇえ……っ。
「本当に、やめてほしい……?」
「当たり前だろ……!」
「じゃあ、暫くこのまま、お風呂に入っていようよっ。そうすれば、僕も妙な真似はしないようにするからさ」
「ぐ……」
またそんな、アンタにばっかり有利な約束を持ち出す。
……でも、ハイと頷かないと絶対に話が進まないんだよな……。
はぁ、仕方ない……しばらくこのままでいて、エッチな雰囲気にならないように、色々な話をするようにしよう。
そうすれば、さすがにブラックだって気にして変な動きはしないだろう。
「ほら……ツカサ君、僕に体を預けて、肩に頭を置いてごらん……?」
「ぐうう……」
そんなに深く座ると、ブラックに拘束された時に起き上がる事すら出来ない。
だけどもう、そんなの今更だ。
…………不安要素はあるけど、ここは従うしかないか……。
とにかく、普通に話をしよう。
そうすればブラックだって無暗にスケベなことはしないはず。
た……たぶん……。
い、いや、きっと……そうである、はず……。
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