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5.覚醒
しおりを挟む「これは、彼特有の体質か……?」
疑問を持っても、きっと誰も答えてはくれないだろう。
そう思いつつ、私は明るい部屋に連れて行くと、彼を大きなベッドへ寝かせた。
座っていては体が疲れるだろう。彼がいつ部屋に戻って眠りについたのかは定かではないが……どのみち、血流が滞ってしまい危ない。
そんな風に思って彼の顔を見ようと視線を移すと、私はベッドのヘッドボードの上に四つの腕輪が置かれていることに気付いた。アームカバーのように手首を覆う形状をしているが……これはきっと、祖父が言っていた「豪華なアクセサリー」だろう。
白を基調として金の装飾を施された、綺麗な枷。
控えめに埋め込まれた宝石は、祖父の鮮やかだった髪色と似ている。
……ああ。
思えば、祖父は…………琥珀を埋め込んだシンプルな白いブレスレットを、最期の時までずっと……腕に嵌め続けていたな。
これが、祖父と少年にとっての、結婚指輪だったのだろう。
好き勝手にレイプして、この柔らかな体を蹂躙して、弄り回して、舐め回して何度も泣かせただろうに……それでも祖父と彼は、愛し合っていた。
醜い欲望を、本気の欲望を、気など使わずに……この、彼の柔らかい体に、精液を思う存分満足するまで吐き出した。
停止した時の年齢よりも幼く感じられる彼の、無垢な体に、何度も。
何度も祖父は、夫の愛と称してペニスを強引にぶちこんだのに。
…………だけど彼は、結局祖父を愛したのだ。
彼を「おまんこ」だと酷い言葉で表現し、何度レイプまがいのことをしても。それでも彼は、そんな欲望を丸出しにした最悪な男を愛して……。
「…………」
万が一のことを考えて、私は彼の手首と足首に枷を嵌め直した。
恐らく、祖父はかなり前からこの枷を外していたのだろう。だが、彼は健気なことに、自分を苦しめたこの枷を大事に扱っていたのだ。
これだけで……もう、疑う余地は無い。
と、まだしっかり顔を見てもいない相手の体が軽く動いた。
「ん……」
眠たそうな、声。鼻にかかった声は自分の息子の幼い頃より甘い。
思わず息を呑んで、今度こそ彼の顔をしっかり見やると――――彼は、私の視線に答えるように、ゆっくりと目を開いた。
「あ、れ……。――――……?」
祖父の、名前。
私ではない。彼は私を見て、彼を愛し続けた祖父の名前を、呼んだ。
「ぁ……あれ……あれ……? あ……もし、かして……お孫さん……?」
まだ眠気が抜けていないのか、彼の容姿以上に幼げな声に腹の奥が熱くなる。
だが彼はやっと意識がハッキリしだしたのか、ぐりぐりと顔をこすると、明るい顔をして、私を見上げた。
「わっ、来てくれたんだありがとう! ――が言ってた通りだ……! アイ……いや、あの人さ、もし自分が……先に、天国に行っても……後の事は、心配ないって。めちゃめちゃ有能なお孫さんが、俺の事を助けてくれるって言ってたんだ!」
無邪気に祖父の名前を出して、彼は花が咲くような笑顔を見せてくる。
何年も、何十年も祖父に監禁され恥ずかしい呼び名で男としての生を失い、遂には祖父の淫らな妻として堕ちたというのに。
だというのに、それでも彼は……祖父を愛し、心から信頼している。
心から。あんな、あんな淫らで羨ましいことを、何十年も、され続けても。
「……君が……――で、間違いないですか」
「うん。えっと今って……一日も経ってないんだ……。俺、葬式が終わった後くらいに気付いてくれるかなって思ってたから、それまでは眠り続けてたほうが無駄に電気を使わなくて済むあそこにいてさ……なんか、ごめんな。まだ辛いだろうに……」
つらい?
それを言うのなら、愛する人を喪った君の方がつらかったんじゃないのか。
……愛していたんだろう。
祖父を、愛していたんだろう?
そのあどけない幼げな顔で、琥珀色の瞳を宿す大きく丸い目で、祖父だけを見つめて愛して、最期の瞬間も看取ったんだろ?
祖父の老人ちんぽを毎日扱いて処理してあげたその柔らかい手で、精液を吸い取ってやったそのぷっくりとして男を誘う小さな口で、ちんぽや祖父の顔をぎゅっと挟んだだろうそのむっちりとした太腿で、ちんぽに開発されきった丸い尻とおまんこで、自分をそんな風に穢した男を、優しく抱いて。
おまんこ妻として、そう自分を堕として認めて、看取ったんだよな?
「……君の方がつらいのに、私の方を心配するのかい」
胸の中で、嫌な気分になる質問が渦巻いている。
その解毒できない言葉をなんとか耳に良いものとして吐き出すと、彼はすぐに悲しそうな、切なそうな風に目を細めて、俯いた。
「そう、だな。…………でも俺、アイツの最後の時間、貰っちゃったから……。本当は、貴方達や息子さん達と一緒に過ごすべきだったのに……俺は、アイツに甘えて……結局、奪うようなことをしちまったんだ。何かを言う資格なんてないよ」
祖父の事は「アンタ」と、「アイツ」と呼ぶのに、私は「貴方」なのか。
……いや、なにを考えているんだ私は。
なんだか私もおかしい。
内心戸惑っていると、彼は寂しそうな微笑みを浮かべながら続けた。
「……でも、来てくれて良かった。アイツさ、体が動かなくなって……俺の膝に頭を乗っけてさ、こんなこと言ってたんだ。
『自分が死んだら孫に連絡がいくから、あとの事は孫がなんとかしてくれる。僕の孫は、僕に似て有能で可愛いんだ。……僕では、君の呪いを解けなかったけど……孫のあの子ならきっと君の力になって、呪いを解いてくれる』
……なんて、そんなこと言ってさ……いつもみたいに、笑って……っ」
そう言いながら、彼はぽろぽろと涙をこぼす。
膝に乗せた拳は、その時の感触を思い出しているのか震えていた。きっと、祖父は最期に意識が途切れる瞬間まで、彼の膝に頭を預けていたのだろう。
そして、彼の熱と愛を感じながら……生涯を、終えた。
彼の心を奪ったまま、一人だけで行ってしまったのだ。
「祖父は、君の事を【真実の宝物】と書いていました。……家族としては複雑ですが、君は……祖父にとって、生涯で唯一の愛する相手だったんでしょうね」
「そんな……っ」
「いや、彼の本性を知っていたのは、君だけだったようですから」
「…………」
それを言うと、彼は黙ってしまう。
……彼も、祖父の異常性はきちんと認識していたのだろう。
だがそれでも、祖父を愛する道を選んだ。
ここまで「普通の人間」の感覚が残っている彼が、意地っ張りだと祖父が言うほどの彼が、反抗心を抱いたままであればここまで祖父を想うはずがない。
手記をすべて読んだ私には分かる。
彼は、何度祖父に酷い目に遭わされても、祖父の歪んだ愛情を受け止められるのは自分しかいないと悟って、受け入れたのだ。
諦めでもなんでもなく、「普通の人間」の皮を被るしかなかった男の本性を、その哀れなほどに一途だった執着を、愛として抱き締めた。
だから、彼は……老いた彼の傍に居続け、最期を看取り、祖父が今わの際に言った事を信じて――――地下室で、眠りについた。
異常な、あの男を。
かつて「最悪の男」であったはずの……私と同じ血が流れる、祖父を。
あれほど泣き叫んで拒否していた「最悪な男」を、信じて。
「それで……ってあれ……? 俺、いつのまにコレつけたんだろ……? あ、あの、申し訳ないんだけど……これ外すの手伝ってくんないか? 鍵は無いんだけどさ、俺一人じゃ外せないようになってるんだよ、この枷……いや、俺だけでも外せるけど、すっごい大変だし足が攣るから出来れば二人で……」
ああ。お爺さんが手放さなかったワケだ。変わったわけだ。
だってこんなの。
こんなにも、無償の愛を捧げてくれる存在なんて。
「……あの、お孫さん……?」
「…………ごめんね」
「え?」
彼の顔が、虚をつかれて幼さを見せる。
その純粋無垢な表情に、私は……自分でも驚くほど穏やかに、微笑んだ。
「君のこと、欲しくなっちゃった」
祖父のように私がそう言った時、
彼が見せた絶望に青く染まるあどけない顔を、私は一生忘れないだろう。
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