【弐】バケモノの供物

よんど

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ニノ巻

頁16

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「目立つから教室に来るのはちょっと…」
「…千紗の頼みなら」


僕の心情を察したのか立ち上がったレオは僕の手を引き、扉の方に向かって行く。周りはコソコソ話しながら僕達を見ている。きっと自分みたいな奴がレオと一緒にいる事が気に食わないのだろう。だって、あの時彼と出逢わなければこうして過ごす事も無かったのだから。




「そういえば…ずっと気になっていたんだけど」


僕とレオの訪れる秘密の場所と化した屋上にいつもみたいに足を踏み入れながら聞く。フェンスの方に先に向かった彼は此方を少しだけ振り返りながら「どうした」と首を傾げてくる。キラキラと真っ赤な瞳が光に反射して眩く光っている。


「化けるのって長時間も可能なの?」


ボーッと瞳の奥を見つめたまま聞くと、「可能だが流石に大変だな」と困った様に首元のネクタイを緩める彼。そのまま解くと、次の瞬間シュルル…と全身を風が覆い隠す様に舞い、豪華な着物を身に纏った彼の姿が再び現れた。お尻の辺りにはモフモフの狐の尻尾。そして頭部には先程まで無かった耳がぴょこんと生えている。


「ふぅ…こっちの姿が本体だ。普段はこの姿で、学校に居る時は術式で長時間化けれる様にしているが…この術式は契約をしていないと得られない貴重なモノだから身体の負担は少々掛かる…って、千紗?」





【レオside】

いくら千紗と一緒に居たいからといって人間に化けるのは簡単な事ではない。
だから私は過去に隠世で、人間の姿に長時間化ける事が可能になる特別な術式を伝授して貰った。あまり使われない貴重な術式である上、身体の「器」が時折悲鳴を上げて少々痛みが走る時もあるが特に問題は無い。ただ一番の問題点は、山神に与えられた業務をこなす以外でこうして千紗と頻繁に会っているという事。きっと山神は気付いているに違いないのだが、止める気配も無いので私はこの生活を続けるつもりだ。


(いつか怒られそうだが…)


人ならざる者と人間が行動を共にする例なんて今迄「あの人」以外に無い。結局、名も知る事が出来なかったあの人の行方は今も不明のまま…


「契約?身体に負担?そんな苦労をして迄僕の側に居てくれているの?」


別の事を考えていると、不安そうな面持ちを浮かべた千紗が此方を見据えて聞いてきた。優しい彼の事だ。きっと気を遣って私を突き放してしまうのだろう。何か言わなければと口を開いた矢先…次の瞬間胸元に千紗が抱きついてきた。すっぽりと埋まる様な小さな千紗。身長もだが、彼は男らしさがあまり無く、守ってあげたい儚さが… 


「じゃあ二人きりの時はやめて欲しい」
「えっ?」


しまった。
無意識に触れてしまいそうになっていた。

パッと空中で片方の手を泳がせたまま「やめるとは…」と疑問を示す。千紗の目が心配そうに私を見つめている。これは一体どういう表情だろう。
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