【弐】バケモノの供物

よんど

文字の大きさ
上 下
36 / 63
四ノ巻

頁33

しおりを挟む
「阿呆か。そんな事分かってる上だ。それに種は無い。いくら濃いからといって一回で孕む程定着しない」
「はぁ…分かっていないな。相手とそういう事をする時は礼儀としてゴムを付けるんだよ。現に千紗の身体に負担掛かってるだろ」


…つまり何回かしたら子供が出来るって事なのだろうか。

現世とは別のもう一つの世界線…隠世。その世界だと、あり得ない事も普通の事としてみなされているんだ。それにしても、昨日の事を匂いだけで全て察されるのって凄く恥ずかしいものだ。「恥ずかしいから声小さくして」とレオの制服の袖を引っ張る。二人のイメージが別の意味で変わりそうな内容だ。


「ふん。千紗、お前は何でコレが良いんだよ。ていうか守り神のくせして一人の人間に執着するなんて上から叱られるぞ」
「執着じゃない。ちゃんと両思いだ」


レオの一言に胸の奥がじんわり熱くなり、幸せな気持ちでいっぱいになる。目を見開いた歩は「両思い…?」と僕とレオを見比べて空笑いをする。


「ハッ…まさか、以外にも出るとは。やっぱり現世に居て正解だ。面白くて仕方ない」
「…?いいからそろそろ何処かに行ってくれ」


よく分からない台詞を言う歩を鋭い視線と一言で一瞥するレオ。鼻を鳴らした歩は顔を顰めると、ひょいと僕の肩を抱き教室に向かって早歩きになる。


「行くのはあんただよ。俺と千紗はだからな」
「あっ、ちょっ、れ、レオまた後で!」


連れ去られる様にされるがままに腕を引かれた僕は慌ててその場に立ち尽くしたままのレオに向かって声を上げ、そのまま立ち去る。取り残されたレオは誰にも聞こえない様に口元を手で覆い隠すと小さく舌打ちをして呟いた。


「同級生として紛れば良かった」




____________
______

【レオside】

気に食わない。
あの男が自分の欲求を満たす為に「友達」を装って千紗といる事、千紗も相手の正体を分かっていながらあの男と行動を共にしている事も。周りから見ると、既に二人は仲の良い友人として認識されている。それもまた非常に気に食わな…いや、不愉快だった。


「お、立花君遂に子離れした感じ?」


休み時間、千紗の所にいつもの様に行かずに席に座ったままの私を見て揶揄う様に行った青年。以前声を掛けてきた奴だった。思えばあの時は女も一緒に居たが、今では全く見掛けない。以前強く言ったのが効いたのだろうか。


「そんなつもりは全く無い。少し考え事をしていただけだ」
「器用に物事をこなしてそうで悩みはきちんとあるんだ」
「どの目線だ。というかそもそもお前は誰なんだ」


自分の言葉に「席ずっと変わらないんだからそろそろ覚えてよ」と困った様に笑う青年。名は皐月といった。千紗以外の人間は興味が無いので名前を覚える迄ぱしなかったが、この男は何かと話し掛けてくるので一応聞いておいた。


「もー…礼央ってこんななのに何でモテるんだ」
「いつの間に名前呼びしているんだ、お前は」
「天城君に対する対応と真逆過ぎる」


拗ねた様に口を窄める皐月を見て思わず微笑を浮かべる。ジッと見つめてきた彼は「色っぽい笑い方をするんだな」と興味深そうに言う。男に言われるのはちょっと気色悪いな。全力で嫌な雰囲気を醸し出すと相手も察したらしい。「ごめんって」と直ぐに謝ってきた。
しおりを挟む

処理中です...