【壱】バケモノの供物

よんど

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ニノ巻

頁11

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成程。
あの時目の前に階段が現れたのは隠世に住むネオ様が現世に向かって橋を掛けたからだったんだ。階段を上っている最中に段々消えていったのも今の説明で合点がいく。「此処での暮らしは快適で良いですね」とのんびり答えると、彼は何を言っているんだと言いたげな顔で「それはお前が住み易い様に私が調整しているからだ」と告げた。


「此処では、お前は私無しでは生きられない世界だ」

「口説いているんですか」

「一定の空間から身を投げると、身体の方が先に耐えきれなくなって死に至る。供物以前にお前も人間だから、外はむやみやたらにウロウロしないでくれ」


……冗談を言ってスルーされるのは中々きついと知った。恥ずかしさを覚えながら渋々「分かりました」と頭を下げる。満足気に頷いた彼はくるりと身を翻すとそのまま何処かに姿を眩ましてしまった。取り残された僕は一息吐いて、一人になった彼の部屋で天井を見上げる。天井には龍とグチャグチャに塗り潰された「何か」が寄り添う様な絵が描かれていた。




「供物」として喰われるのが僕の人生の終止符だった為、予想外の形で生かされた僕は日々何もする事が無い。する事は主に彼のお世話係だ。彼が着物を着るのを手伝ったり、朝起こしに行ったり、ご飯を作ったりなど。最近は髪の結い方も教えて貰ったので僕が結う様にしている。


「毎日何もする事が無くて暇だなぁ…せめて何かやる事を与えてくれたら良いのだけれど…」


無駄に広過ぎる屋敷の中を歩き回りながら一人呟く。古びた屋敷の中は所々蜘蛛の巣が張られていて、よく見てみると廊下や部屋には埃が沢山だ。意識していない箇所に目を向けると、意外にも汚い部分が多々見受けられる。


「ねぇ、水の精霊。ネオ様は屋敷の掃除をしたりしない人なの?」


次の瞬間、冷たい冷気と共に精霊達が姿を現した。羽をパタパタとバタつかせながら『主様は無頓着なんだ』と答えてくれる。彼等の話によると、どうやらネオ様は自分の管理以外は基本どうでもよく、屋敷に初めて来た時からずっと手入れをしていないらしい。どうりで初めて来た時人が住んでいない様に見受けられた。


「……勝手に掃除したら怒るかな」

『いいんじゃない。もし怒られたとしても僕達がフォローしてあげるよ。主様をいじるのは楽しいしね』


クスクスと笑いながらパッと水滴を僅かに弾けさせて消える精霊。取り敢えず此処がもっと快適になる様に掃除とかしてみよう。うん、と一人小さくガッツポーズをつくった僕はそのままパタパタと屋敷の中を急いだ。
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