【壱】バケモノの供物

よんど

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ニノ巻

頁18

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考え込んでいると、察しのいい彼は「何で俺が分かったのか気付いてないみたいだな」と木から飛び降りた。目の前にブワッと風が舞ったと同時に火の粉が飛び散る。結界がある為先程みたいに身体に散ってはこないが少し怖い。たじろぐ僕に、男は次の瞬間トントンと自分の首を指で指しながら言う。 


「あんたには花模様があるだろ。さっき俺も言ったやつだ。それは隠していても『匂い』で直ぐバレるし、その症状が出るのは『供物』だけだと知っていたからな」

「匂い…?」


花模様がある供物は特別だ。
その事は前々から知っていた事実である。しかし、この男が言う「匂い」に関しては初耳だ。この模様から匂いが出ているなんて。自分で嗅いでみるが何の匂いもしない。スッと顔を上げ「どんな匂いなんですか」と聞く。男は考え込む素振りを見せた後、ニパーッと良い笑顔で答える。


「ありとあらゆるモノを狂わせる魅惑の''香''だ。花模様がある奴は最高に美味だと、過去にソイツを喰った奴が言っていたぞ。我慢していても堪える事の出来ない、いわゆる発情を促す匂いだと」

「?!」


魅惑の''香''……?!
突然の情報量の多さに混乱する僕を、結界越しに「知らされていなかったのか」と面白おかしそうに笑う男。デリカシーのない奴だ。しかし、この男が言う事が全て正しいのなら疑問が残る。それは、ネオが花模様のある僕に理性を保ち続けている事だ。


「……ネオはどうして僕を食べないんだろう」


ポツリと呟いた小さな一言を、赤髪の男は聞き逃さなかった。相変わらず愉しそうな面持ちで口笛を鳴らすと、そのまま現世の方に向かって歩き出す。「待って」と、まだ聞きたい事があった自分は慌てて彼を止めようと声を掛ける。僕の声に振り返った男は少しずつ龍の姿に変わりながらニコッと笑いながら言う。


「花模様に気付かない奴なんていない。妖怪ならうじゃうじゃあんたを襲うだろうし、ましてや龍神の大好物だ」

「ならどうして…」

「だから俺もさっき言っただろ。面白い事をしているって。目の前に最高級のご馳走があるのに喰わないなんて。一体どうしてあんたを側に置きたがるんだろうな」


不気味に笑うと、龍神の姿になった彼は一瞬で姿を消してしまった。あっ…とその場に残された僕の周りにいつもと変わらない優しい風が吹く。しかし色々聞いてしまった今、今迄通りネオを見るのが難しく感じられた。ネオは僕を喰らうタイミングを狙っているのだろうか。


(……目の前に最高級のご馳走)


やっぱり、僕はそうなんだ。
首に広がる花模様の痣に触れながら、ネオの居る部屋を見上げる。彼が何故僕を此処に置き、僕を喰らわずにいるのか。その答えをこれから探していこうと、僕は小さく心に決めた。

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