【壱】バケモノの供物

よんど

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三ノ巻

頁20

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何で僕は泣いてーー……

まさか、今更人扱いされなかっただけでこんなにも悲しい気持ちになっているのか。今迄「供物」として育てられてきて感情なんて面倒なモノは遠い昔に消えて無くなった筈なのに。溢れる涙を拭い、無心で本を片付けていく。堪えようと必死になればなる程、涙は止まってくれなかった。


____________
______


『ーー……む』


ふと、とある龍神は小さな異変に気付いた。
現世でのんびり過ごしていた彼は瞬時に人間の姿へ化けると、キョロキョロと辺りを見渡し、隠世に続く山をジーッと見据えた。向こうからとてつもない「気」を感じる。そして、アイツに何か起こったのだろうか、と小さく察した。


「あの人間に教えてやるべきかねぇ」


一息吐くと、赤髪を靡かせながら歩き出す龍神。
赤く燃え上がる炎を身に纏いながら思い切りその場から飛び上がり、再び龍の姿に戻る。彼は予感していた。このまま「供物」と龍神が共に身を過ごせば危険だと。

___________
____


「……」


絶対に入るなと言われた彼の部屋に入ったのは、初めて契約を交わしたあの日だ。僕はあの日以降彼の部屋には入っていない。寝室は毎日入るが、その隣の彼の部屋には、怒られたくなくて一歩も近付かない様にしていた。でも…


(今は入らないといけない気がする…)


ギュッと胸の辺りで手を握り締めながら、恐る恐る「ネオ」と声を上げる。先程怒っていたせいもあるのか、扉の向こうからは返事は無い。ゴクリと生唾を飲み、襖に手を掛ける。ギィ…と鈍い音を立てながら足を忍ばせる。中に入ると、其処は暗黒の世界だった。足が床に着いているのかすら分からない。


「ネオ」


名前を呼ぶ。 
ズズズ…と何かが地面を這う音しか聞こえてくる。ドクン、と強く鼓動が鳴るのを覚えながら、千鳥足で音の鳴る方へ近付いていく。恐怖というものを感じたのは初めてだ。全身から冷や汗が出て止まらない。


『……ぅ』

「……!ネオ?其処に居るんですか」


呻く様なネオの声が微かに聞こえ、勢いよく問い掛ける。しかし、彼は僕の言葉に耳を傾けるどころか呻き続けるだけである。姿、形は認識出来ないまま、ゆっくりと彼の居る場所に向かう。


「ネオ、ですか」


暗闇の中、僕はソレを見た。
その箇所だけ淡い黒を放っている様に思えた。彼の身体、顔は背後の闇に溶けてしまう様に黒く、全身から冷気、そして同時に邪悪な気配を身に纏っていた。乱れた着物を着るソレは、神秘的なオーラを漂わせる普段の龍神の姿とは程遠いモノだった。
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