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𝐓𝐫𝐮𝐞 𝐋𝐨𝐯𝐞 𝟏
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しおりを挟む制服に着替えた俺は、簡単な食事を摂りながらぼんやりと考える。
久遠当主が亡くなったのは一年前。
葬式が行われ、親族の一人として僕も参加したが、麗二の姿は見当たらなかった。もしかしたら、僕がΩだと彼から聞かされ、あちら側も避けていたのかもしれない。そう思うと、何だか余計切なくなるが。
「…っ、いけないいけない」
パチンと両頬を軽く叩いて気持ちを切り替える。今更、麗二と関わる事を許されない事を悔いても何も変わらない。αである麗二にとって、Ωの僕がどれだけ迷惑を掛ける存在か。
麗二は僕の運命だ。
そう思った瞬間から、僕がΩになるのは決まっていたのかもしれない。麗二にとっては違っていても、僕にとっては「運命」そのものだ。例え彼と会えずとも、同じ一つ屋根の下に居る事には変わりは無い。
(それだけで今日も頑張れる。)
よし、と喝を入れて勢いよく野菜を口に含んだタイミングで「琥珀様」と、ドアをノックする音が聞こえる。ハッとした僕は慌てて邪念を振り払い、「ただいま」と立ち上がり、扉を開ける。
「すみません、まだ朝食中でして……、……!」
扉の向こうにいた人物を見て発言を止める。立っていたのは、今迄屋敷に居て見た事の無かった男だった。メガネを掛けていて見るからに温厚そうなイケメンだった。そのまま一礼すると「お願いが」と続けた。
「お食事中にすみません。琥珀様に、今日の午後六時にこの屋敷の客室に来て頂きたいのです。その際、少し貴重なお時間を頂きたくて…」
「客室ですか」
僕なんかを客室にわざわざ呼ぶなんて、一体何の話をするつもりなのだろうか。内心怖気付きながら「分かりました。午後六時ですね」とその場でメモを取り、一礼して扉を閉める。普通に約束をしてしまったが、結局は誰だったのかを聞き忘れた事に後々気付いた。
「ん」
学校に着くなり、下駄箱で偶然出くわした友人に茶色の紙袋を手渡される。「これは?」と言いながらも受け取ると、男はニカッと笑いながら得意げに告げる。
「出来立てホヤホヤの手作りパン。余ったから特別に琥珀に差し入れ」
「わぁ、嬉しい。僕、智也の作るパン凄く好きなんだ」
そう言うと、彼は心底照れ臭そうに笑い返した。朝、早く起きて、久遠家の家事を済ませると、決まって僕は高校に向かう。中学生の頃だと、部活とかはやっていなかった為、家の方の手伝いは沢山出来たのだが、今は高校生、しかも二年生という事もあって、帰るのは少し遅く、朝と夜にしか手伝え無くなっている。
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