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𝐓𝐫𝐮𝐞 𝐋𝐨𝐯𝐞 𝟒

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「私の予想だと一週間以上は続くと思います。見る感じ、この屋敷は沢山人が居そうなので、どうか自分の部屋で安静にさせて下さい」

「…分かりました。私が責任を持って部屋迄お送りします。わざわざありがとう御座いました」


そう述べると、「行きましょう、琥珀様」と屋敷の方まで歩き始める彼。僕は意識が途切れる寸前まで、彼に凭れ掛かって歩き続けた。






「………」


目を開けると、自分の寝室にいた。天井を見据えて、それから音の鳴る方を見る。白雪さんは黙ってコップに水を注いでいた。「朝から怪しいなとは思っていたんです」と独り言の様に呟きながら、僕を見る。


「琥珀様、なんだかふわふわしていましたから。私があの時止めていれば、こんな事態には…」

「白雪さんのせいでは無いですよ。それより、暫く麗二のお世話係は…」


震える声でそう呟くと、彼は困った様に笑いながら「今は何も考えずに休んで下さい」と返って気を遣わせてしまう。大人しくベッドに潜り込み「一週間か…」と小さく唸る。白雪さんは無言で僕を見据えると、そのまま部屋を後にした。


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発情期は、暫く来なかった分が一気にぶり返してきたのか、今迄で一番と言ってもいい程辛かった。夜中、日中より強い興奮が襲ってきて普通に寝ずにはいられなくなった。


「く………苦し……っ」


興奮で押し寄せてくる欲を何とか抑えようとするが、その性には逆らえないのがΩの運命とでも言うのだろうか。着ていた寝巻きをゆっくりと剥ぎ、裸になった僕は誰も居ない事をいい事に下半身にそっと手を伸ばす。


(………コッチじゃイけない……)


熱い、苦しい、欲しい、辛い。色んな感情が脳内をぐるぐる駆け巡るのを感じながら、恐る恐る後ろの方に手を伸ばす。ようやく届いたソコに、意を決して指で触れてみる。


「……濡れてる」


指を僅かに挿れた途端、ナカが挿れて貰った歓喜で震えるのを覚えながら唇を噛み締める。こういうのを毎度行う度、自分はΩでしかいられないのだと思い知らされる。グチュッと卑猥な音を立てながら、声を出来るだけ漏らさない様に掻き回す。


「……っ、麗二……、……!」


ダメだ、彼の名前を呼んではいけない。
ハッとした僕は、アソコに指を突っ込んだままかぶりを振る。

もう何度目だろう。彼が僕にこの様な行為をしてくれる日なんて来る筈も無いのに、虚しくもこうして無意識に呼んでしまうのは。好きと、聞こえない様に心の中で何度も彼の名前を呼んでイってしまうのは。


(麗二………好き、好き……助け…て………っ!)


あっという間に達してしまった僕は、呆然と空になった頭のまま掌を眺める。白い濁液を見つめて、パタンとシーツの上に下ろす。一通り落ち着いた興奮から解き放たれる様に、そのまま項垂れる様に寝返りを打つ。目尻から、ツー…と一筋の涙が流れ落ちる。


どうせ実らない恋なのに。
そう思い知らされる程、恵まれた環境にいながらも生まれてこなければ良かったのに、なんて時々ふと思ってしまう。生まれ変わりたい。そうすれば普通に彼を好いていられた筈だと。そうすれば…こんなに苦しい思いをせずにはいられたのかもしれない。


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