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碧に溶かして 本編
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「ていうかお前、追い掛けられている身だって言ってなかった?」
階段を降りながらフードを被る俺の言葉にヨウは「だから俺も変装してる」と当然の事の様に返す。俺が不在の時にバイトでもして買ったのか、お洒落な服を着た彼は顔があまり見えない様に帽子を被っている。俺の方を見てニコッと笑ったヨウは「夕はいつも真っ黒だね」と楽しそうに言う。彼に言われた通り、俺は持っている服が少ない上に黒が殆どの為地味である。
「出掛ける機会なんて無いから必要無いんだよ」
「うーん、いつもの夕も好きだけどデートだしお洒落は大事だよね」
「え…」
そう言って連れて来られた場所は今迄一度も訪れた事の無い大きなアパレルショップであった。早速「無理無理」と店の前で小鹿状態でヨウにしがみついている情けない自分。ジャミングを掛けて貰っているとはいえ、こんなに沢山の人混みに紛れて買い物なんて緊張で死にそうだ。震える俺の背中を摩りながら優しく「夕」と耳元で囁く。
「大丈夫。周りは夕に気付いてないよ。堂々と歩いていたら大丈夫」
「うっ…」
弱気になりながらも、何とか店内へ入って行く俺とヨウ。恐る恐る店員を見据えると、彼の言った通り「何かお探しですか」と話し掛けてきた獣人の男は俺が人間だという事に気が付けないでいた。服を一緒に選んで貰ったりアドバイスを貰ったりなど普通の対応をして貰い、逆に困惑してしまいそうになる。
「……!夕、凄く似合ってるよ」
オススメだと言われた服を試着した俺に、そう言って褒めてくれるヨウ。店の人が勧めてくれるだけあってセンスのある着心地の良い服だった。こんな服は買った事が無い上に着た事も無いので少々違和感だが、周りに溶け込んで普通に買い物を出来ている自分の今の状況に内心感動していた。
「まさか買ってくれると迄は思わなかった」
店を出るなり、一声彼の背中に向かって告げる。振り返ったヨウはニコッと人の良い笑みを浮かべると、頭を軽く撫でながら「似合ってたから」と嬉しそうに言い、再び歩き出す。しかも今度は手を繋いでーー…
(……?!手を…!)
あっ…そうか。今は周りに気付かれていないんだった。
普段感じる視線が来ない事を改めて認識した俺は彼に繋がれた手をジッと見つめる。チラリとヨウを窺うと、彼は次の場所に行きたくて仕方がないといった感じでキラキラした目をして前を向いている。その横顔は犬の時と変わらない純粋なオッドアイで、俺は思わず吹き出す様に笑ってしまった。
その後のヨウとのデートは順調で、俺は最初に家から出るのを嫌がったのを後悔するくらい思い切り楽しんでしまった。いつの間に調べていたのか、人気のカフェやレストラン、そしてゲーセンやスポーツセンターなど様々な所に彼は連れて行ってくれた。そして、日が暮れる頃には、俺の中で緊張の糸が解け、楽な気持ちで彼との一日を振り返っていた。
階段を降りながらフードを被る俺の言葉にヨウは「だから俺も変装してる」と当然の事の様に返す。俺が不在の時にバイトでもして買ったのか、お洒落な服を着た彼は顔があまり見えない様に帽子を被っている。俺の方を見てニコッと笑ったヨウは「夕はいつも真っ黒だね」と楽しそうに言う。彼に言われた通り、俺は持っている服が少ない上に黒が殆どの為地味である。
「出掛ける機会なんて無いから必要無いんだよ」
「うーん、いつもの夕も好きだけどデートだしお洒落は大事だよね」
「え…」
そう言って連れて来られた場所は今迄一度も訪れた事の無い大きなアパレルショップであった。早速「無理無理」と店の前で小鹿状態でヨウにしがみついている情けない自分。ジャミングを掛けて貰っているとはいえ、こんなに沢山の人混みに紛れて買い物なんて緊張で死にそうだ。震える俺の背中を摩りながら優しく「夕」と耳元で囁く。
「大丈夫。周りは夕に気付いてないよ。堂々と歩いていたら大丈夫」
「うっ…」
弱気になりながらも、何とか店内へ入って行く俺とヨウ。恐る恐る店員を見据えると、彼の言った通り「何かお探しですか」と話し掛けてきた獣人の男は俺が人間だという事に気が付けないでいた。服を一緒に選んで貰ったりアドバイスを貰ったりなど普通の対応をして貰い、逆に困惑してしまいそうになる。
「……!夕、凄く似合ってるよ」
オススメだと言われた服を試着した俺に、そう言って褒めてくれるヨウ。店の人が勧めてくれるだけあってセンスのある着心地の良い服だった。こんな服は買った事が無い上に着た事も無いので少々違和感だが、周りに溶け込んで普通に買い物を出来ている自分の今の状況に内心感動していた。
「まさか買ってくれると迄は思わなかった」
店を出るなり、一声彼の背中に向かって告げる。振り返ったヨウはニコッと人の良い笑みを浮かべると、頭を軽く撫でながら「似合ってたから」と嬉しそうに言い、再び歩き出す。しかも今度は手を繋いでーー…
(……?!手を…!)
あっ…そうか。今は周りに気付かれていないんだった。
普段感じる視線が来ない事を改めて認識した俺は彼に繋がれた手をジッと見つめる。チラリとヨウを窺うと、彼は次の場所に行きたくて仕方がないといった感じでキラキラした目をして前を向いている。その横顔は犬の時と変わらない純粋なオッドアイで、俺は思わず吹き出す様に笑ってしまった。
その後のヨウとのデートは順調で、俺は最初に家から出るのを嫌がったのを後悔するくらい思い切り楽しんでしまった。いつの間に調べていたのか、人気のカフェやレストラン、そしてゲーセンやスポーツセンターなど様々な所に彼は連れて行ってくれた。そして、日が暮れる頃には、俺の中で緊張の糸が解け、楽な気持ちで彼との一日を振り返っていた。
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