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盛大な歓迎のその後に
36.カタリナは見た
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普段、誰よりも傍でマリを見ているカタリナは、この部屋にいる二人の甘い空気を、直ぐに察した。
冷静沈着で腹黒いハイデル様がふにゃっとした笑顔で笑うのなんて、お仕えして以来見たことがなかったし、マリ様が白いチョーカーをお付けになられているから、耳まで赤らめているのもすぐにわかる。
ドレスが乱れていないのはきっとハイデル様の魔法だろうし、絶対にこの半刻の間に何かかがあったと確信した。マリにしか聞こえないような小さな声で「…おめでとうございます?」と伝えると、ふふっと女神のような笑顔を返される。
「…カタリナ、さっき頼んでおいた手袋はもってきているか。」
部屋の奥にいたハイデルの声が近くなり、ドアから顔を出していたマリ様の頭上に左腕を置いて、こちらをのぞき込んでいる。
……信じられない。女性とこんなに近くで触れ合っているハイデル様を、まさかこの自分が元気な間に見られるなんて。ハイデル様がこんな態度を取られるなんて、明らかに心身の距離が縮まっている。しかもそれがやっぱり、マリ様とだなんて!精一杯支えてよかった、私のセンサーは間違っていなかった、と心の中で歓喜し、飛び跳ね、喜びの涙を拭った。
「 はい、こちらに真新しいものをご用意してございます。
マリ様のレースの手袋も替えをご用意いたしましたので、よろしければお使いください。」
マリの後ろにいる娘が、シルバートレイに乗せた2揃いの手袋をそっと差し出す。
「助かる。」
そっと礼を言ってハイデルはマリから少し離れ、2,3歩後ろのほうで手袋を着けた。
「…あの、もしかしてサーシャさんですか…?」
カタリナから聞いていた容姿にそっくりな娘に、思わず話しかける。
「…ぁ、はい…っ!」
「わぁぁ、会えて嬉しいです、サーシャさん!
私、いつもあのお花がすごく嬉しくて、毎日の数少ない楽しみの一つなんです。
カタリナからだけじゃなく、私からちゃんとお礼を言わなくては、って思っていたのに、なかなか外へ出る勇気がなくて。
だから、こんなところでお会いできるなんてすごく嬉しいです!いつもありがとうございます。」
本当に嬉しかったマリは、手を胸元で組み、目を爛々と輝かせていた。まさか巫女様が、荷物持ちとして急遽配置された自分にも、声をかけてくるなんて。夢にも思ってなかったサーシャは、すごく焦った顔で、俯きながら、あ…、えと…と少し言い淀んだ。
「っ今度、畑…!!畑、見に、来てください!!じいちゃん…っ、花、植えてて…えと、お水!巫女様の、おかげだって!」と、一生懸命にマリへ言葉を伝えた彼女は、耳まで赤い。
「はい、是非。楽しみにしています!」
にっこりと笑ってスカートを摘み、お辞儀をすると、ペコペコとお辞儀をするサーシャの姿が見えた。
それでは、ご案内いたします。とカタリナが声をかければ、サーシャはドアの端へとより、マリとハイデルが広間へと歩いて行くのを、後ろから見守っていた。
ハイデルの部屋から晩餐会の広間までは少し距離があったが、部屋でほんのり火照らせていた頬を元に戻すにはちょうど良い距離感だった。
数階分の階段を降り、長い廊下を抜け、扉の開かれた大広間に入ると、中央に飾られた一際豪華な横テーブルと、そこから枝分かれするいくつものテーブルが目に入る。枝別れするように配置されたたくさんのテーブルには、もう多くの人が着席していたけれど、私達の到着が遅かったことを咎める人はいなかった。
ど真ん中の席に皇帝レオン様、その横に奥様のソフィ様の名前が書かれたプレートが飾れており、そしてその横がハイデル。この広い部屋の中で、私も自分の場所を探さなくてはいけないのかな、と彼の右腕から離れようとすると、ハイデルはそれを許さず、ガッチリと左手で固定してくる。
「ズューゼ。君は僕の隣だ。……隣は叔父だから少し退屈かもしれんが、話したくないことがあれば無理に話さなくて良い。」
ここはどう考えたって、婚約者もしくは妻しか座れない場所だというのに、話を聞けば、ハイデルはそれをなんとかねじ込むために、バルコニーを出てすぐ兄に直接直談判していたようだった。本来ならばマリの席は皇帝の向かい、教皇の隣で、巫女として宗教側の席が用意される。
しかし、左右に座るのが自分以外の男だということすら、ハイデルは許せなかったた。本来の席順のまま、この人たらしが他の男性に会って話せば、誰もが絶対に好意を抱くし、美しいデコルテは性的な目で見られてしまう。もし仮に皇帝と教皇が彼女を求めれば、彼らには自分と同じく彼女を抱く権利すらもある。
そんなことは、絶対に、絶っ対に、させたくなかった。
そんな自分の手の中で咲く花を誰にも取られたくない、見せたくない、という弟の珍しいわがままがあまりに可愛く、結局兄は「婚約者候補としてなら…」と、許してしまった故の、席順だった。
冷静沈着で腹黒いハイデル様がふにゃっとした笑顔で笑うのなんて、お仕えして以来見たことがなかったし、マリ様が白いチョーカーをお付けになられているから、耳まで赤らめているのもすぐにわかる。
ドレスが乱れていないのはきっとハイデル様の魔法だろうし、絶対にこの半刻の間に何かかがあったと確信した。マリにしか聞こえないような小さな声で「…おめでとうございます?」と伝えると、ふふっと女神のような笑顔を返される。
「…カタリナ、さっき頼んでおいた手袋はもってきているか。」
部屋の奥にいたハイデルの声が近くなり、ドアから顔を出していたマリ様の頭上に左腕を置いて、こちらをのぞき込んでいる。
……信じられない。女性とこんなに近くで触れ合っているハイデル様を、まさかこの自分が元気な間に見られるなんて。ハイデル様がこんな態度を取られるなんて、明らかに心身の距離が縮まっている。しかもそれがやっぱり、マリ様とだなんて!精一杯支えてよかった、私のセンサーは間違っていなかった、と心の中で歓喜し、飛び跳ね、喜びの涙を拭った。
「 はい、こちらに真新しいものをご用意してございます。
マリ様のレースの手袋も替えをご用意いたしましたので、よろしければお使いください。」
マリの後ろにいる娘が、シルバートレイに乗せた2揃いの手袋をそっと差し出す。
「助かる。」
そっと礼を言ってハイデルはマリから少し離れ、2,3歩後ろのほうで手袋を着けた。
「…あの、もしかしてサーシャさんですか…?」
カタリナから聞いていた容姿にそっくりな娘に、思わず話しかける。
「…ぁ、はい…っ!」
「わぁぁ、会えて嬉しいです、サーシャさん!
私、いつもあのお花がすごく嬉しくて、毎日の数少ない楽しみの一つなんです。
カタリナからだけじゃなく、私からちゃんとお礼を言わなくては、って思っていたのに、なかなか外へ出る勇気がなくて。
だから、こんなところでお会いできるなんてすごく嬉しいです!いつもありがとうございます。」
本当に嬉しかったマリは、手を胸元で組み、目を爛々と輝かせていた。まさか巫女様が、荷物持ちとして急遽配置された自分にも、声をかけてくるなんて。夢にも思ってなかったサーシャは、すごく焦った顔で、俯きながら、あ…、えと…と少し言い淀んだ。
「っ今度、畑…!!畑、見に、来てください!!じいちゃん…っ、花、植えてて…えと、お水!巫女様の、おかげだって!」と、一生懸命にマリへ言葉を伝えた彼女は、耳まで赤い。
「はい、是非。楽しみにしています!」
にっこりと笑ってスカートを摘み、お辞儀をすると、ペコペコとお辞儀をするサーシャの姿が見えた。
それでは、ご案内いたします。とカタリナが声をかければ、サーシャはドアの端へとより、マリとハイデルが広間へと歩いて行くのを、後ろから見守っていた。
ハイデルの部屋から晩餐会の広間までは少し距離があったが、部屋でほんのり火照らせていた頬を元に戻すにはちょうど良い距離感だった。
数階分の階段を降り、長い廊下を抜け、扉の開かれた大広間に入ると、中央に飾られた一際豪華な横テーブルと、そこから枝分かれするいくつものテーブルが目に入る。枝別れするように配置されたたくさんのテーブルには、もう多くの人が着席していたけれど、私達の到着が遅かったことを咎める人はいなかった。
ど真ん中の席に皇帝レオン様、その横に奥様のソフィ様の名前が書かれたプレートが飾れており、そしてその横がハイデル。この広い部屋の中で、私も自分の場所を探さなくてはいけないのかな、と彼の右腕から離れようとすると、ハイデルはそれを許さず、ガッチリと左手で固定してくる。
「ズューゼ。君は僕の隣だ。……隣は叔父だから少し退屈かもしれんが、話したくないことがあれば無理に話さなくて良い。」
ここはどう考えたって、婚約者もしくは妻しか座れない場所だというのに、話を聞けば、ハイデルはそれをなんとかねじ込むために、バルコニーを出てすぐ兄に直接直談判していたようだった。本来ならばマリの席は皇帝の向かい、教皇の隣で、巫女として宗教側の席が用意される。
しかし、左右に座るのが自分以外の男だということすら、ハイデルは許せなかったた。本来の席順のまま、この人たらしが他の男性に会って話せば、誰もが絶対に好意を抱くし、美しいデコルテは性的な目で見られてしまう。もし仮に皇帝と教皇が彼女を求めれば、彼らには自分と同じく彼女を抱く権利すらもある。
そんなことは、絶対に、絶っ対に、させたくなかった。
そんな自分の手の中で咲く花を誰にも取られたくない、見せたくない、という弟の珍しいわがままがあまりに可愛く、結局兄は「婚約者候補としてなら…」と、許してしまった故の、席順だった。
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