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盛大な歓迎のその後に
38.来賓なんて皆ミツバチ
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食事を済ませた女性陣は、応接室で紅茶を飲みながら、話に花を咲かせていた。話題はもちろん、28になるまで誰もエスコートしなかったハイデル様の笑顔と、その笑顔の矛先にいる巫女の事。
「巫女は身体を捧げると言われているんだもの。
当然あの清純そうな巫女様も、ハイデル様に毎晩抱かれているんですわ。」
「おかげで水が豊富なんですもの、私達は応援するしかないですわね。」
「結局はお若い身体が良かったのかしら。」
「きっと虜になっているに違いありませんわ…!」
「私も10歳若かったら毎晩ハイデル様と…ふふふ。」
「10歳若返ったくらいで相手にされるなら、私だって巫女になりますわ。」
「あの過保護ぶりは、ハイデル様が巫女様を溺愛している証拠ですわね、なんて羨ましい…」
「巫女様は貴族から選ばれることが多いと聞いておりましたが、デビュー前ではどこの御令嬢かわかりませんわね…」
2~3人ずつのグループが、どこもかしこもハイデルと巫女の話でもちきりだ。
この話は皇后ソフィアにももちろんたくさん質問が飛んだが、「ハイデルがあまりにマリを隠しているせいで、私もお話しできていないの。皆さんの期待に応えることが出来なくて残念ですわ。」と謝ると、また恋をしたかのように甘い吐息を漏らす者だらけになった。
聡いソフィアには、義弟の策略が手に取るように分かった。義弟は政治や取引の面において素晴らしい策を立て、輝かしい功績を残している。昨年、飲料用の果実を外国から輸入するときも、すぐに言い値で買うのではなく、相手側が提示してきた金額を見極めることを、提案してきたと聞いた。
その後、彼は他の幾つかの土地に対して、これから取引先を決めようとしているから内々に金額を知りたいと相談し、少し割り引いた金額で取引する約束を取り付けた。そしてその約束を元に、本命産地には具体的な比較金額を提示し、金額が高すぎると交渉し、当初の価格から半分近く値を下げさせていたという。
そんな男が、今回の巫女のお披露目にただお披露目するというだけで参加しているわけがないと思った。きっと彼は今回の式典を使って、自分が巫女を絶対に手放すことにならないよう、たくさんの噂を流して外堀を埋めていくのだろう。遠い席の者には聞こえなかっただろうが、「ズューゼ」と呼んでいたのが確たる証拠だ。彼女が気付いた時には、もうどこにも逃げられない様に…あの男ならやりかねない。
自分が容姿端麗で市場価値が高いということを自覚していて、その見た目に合うよう、幼い頃から格好つけているのに、実は必死に動いている…というあの義弟が、ソフィアには面白くて仕方な買った。
恋愛は、そんな簡単に白黒つけられるモノじゃないのよ、と教えてあげたいが、あの格好付けた義弟が予想外の事態に慌てる姿を見たい気持ちもある。お披露目で会った素直そうな少女マリは、義弟の予想を良い意味で裏切ってくれそうだった。
優雅に泳ぐ白鳥も、水面下では足をばたつかせるとはよく言ったもので、ハイデルはまさに白鳥ね、と納得する。
結局この後、半刻ほどしてから晩餐会の会場へ戻るまで、女性陣の下世話な妄想トークが尽きることはなかった。
一方、晩餐会場でワインを嗜む男性陣の顔色は様々だ。
まだ婚約式をしていないし、今日こそはハイデル様に娘を紹介する話を!とか、次の舞踏会にはうちの娘と踊ってくれないか!とか、そういうお願いをここでしようと思って来ていたのに、蓋を開けてみればむしろ会場全体を染め上げるほどの2人の熱愛っぷりで、娘から期待されていた男性陣は皆、入り込む隙間なし、と、申し訳ない気持ちになっていた。
レオンとハイデルは、ほとんど使われていない暖炉に背中をもたれかけ、ワインを楽しみながら、先程の溺愛っぷりには大笑いしたぞ、と歓談していた。ハイデルが「私が惚れ込んでいるのですから、あのくらい当然です」と言い切ると、周りからはおぉ!という声と、あぁ…と言う声が混じって聞こえる。
思わずククッと笑った弟に、また何か企んでいるのかと聞くと、来賓なんて所詮、皆ミツバチのようなものですよ、と返された。巫女を溺愛している様子の弟にとっては、教皇までも、羽音がうるさいだけの外野でしかないらしい。
我が弟ながら、恐ろしい宰相である。
ハイデルの話を聞き続けた男性陣は気まずさを隠すためにワインを呷り続けた者だらけで、奥方達が広間へ帰ってきた頃には殆度がすっかりへべれけになっていた。
「巫女は身体を捧げると言われているんだもの。
当然あの清純そうな巫女様も、ハイデル様に毎晩抱かれているんですわ。」
「おかげで水が豊富なんですもの、私達は応援するしかないですわね。」
「結局はお若い身体が良かったのかしら。」
「きっと虜になっているに違いありませんわ…!」
「私も10歳若かったら毎晩ハイデル様と…ふふふ。」
「10歳若返ったくらいで相手にされるなら、私だって巫女になりますわ。」
「あの過保護ぶりは、ハイデル様が巫女様を溺愛している証拠ですわね、なんて羨ましい…」
「巫女様は貴族から選ばれることが多いと聞いておりましたが、デビュー前ではどこの御令嬢かわかりませんわね…」
2~3人ずつのグループが、どこもかしこもハイデルと巫女の話でもちきりだ。
この話は皇后ソフィアにももちろんたくさん質問が飛んだが、「ハイデルがあまりにマリを隠しているせいで、私もお話しできていないの。皆さんの期待に応えることが出来なくて残念ですわ。」と謝ると、また恋をしたかのように甘い吐息を漏らす者だらけになった。
聡いソフィアには、義弟の策略が手に取るように分かった。義弟は政治や取引の面において素晴らしい策を立て、輝かしい功績を残している。昨年、飲料用の果実を外国から輸入するときも、すぐに言い値で買うのではなく、相手側が提示してきた金額を見極めることを、提案してきたと聞いた。
その後、彼は他の幾つかの土地に対して、これから取引先を決めようとしているから内々に金額を知りたいと相談し、少し割り引いた金額で取引する約束を取り付けた。そしてその約束を元に、本命産地には具体的な比較金額を提示し、金額が高すぎると交渉し、当初の価格から半分近く値を下げさせていたという。
そんな男が、今回の巫女のお披露目にただお披露目するというだけで参加しているわけがないと思った。きっと彼は今回の式典を使って、自分が巫女を絶対に手放すことにならないよう、たくさんの噂を流して外堀を埋めていくのだろう。遠い席の者には聞こえなかっただろうが、「ズューゼ」と呼んでいたのが確たる証拠だ。彼女が気付いた時には、もうどこにも逃げられない様に…あの男ならやりかねない。
自分が容姿端麗で市場価値が高いということを自覚していて、その見た目に合うよう、幼い頃から格好つけているのに、実は必死に動いている…というあの義弟が、ソフィアには面白くて仕方な買った。
恋愛は、そんな簡単に白黒つけられるモノじゃないのよ、と教えてあげたいが、あの格好付けた義弟が予想外の事態に慌てる姿を見たい気持ちもある。お披露目で会った素直そうな少女マリは、義弟の予想を良い意味で裏切ってくれそうだった。
優雅に泳ぐ白鳥も、水面下では足をばたつかせるとはよく言ったもので、ハイデルはまさに白鳥ね、と納得する。
結局この後、半刻ほどしてから晩餐会の会場へ戻るまで、女性陣の下世話な妄想トークが尽きることはなかった。
一方、晩餐会場でワインを嗜む男性陣の顔色は様々だ。
まだ婚約式をしていないし、今日こそはハイデル様に娘を紹介する話を!とか、次の舞踏会にはうちの娘と踊ってくれないか!とか、そういうお願いをここでしようと思って来ていたのに、蓋を開けてみればむしろ会場全体を染め上げるほどの2人の熱愛っぷりで、娘から期待されていた男性陣は皆、入り込む隙間なし、と、申し訳ない気持ちになっていた。
レオンとハイデルは、ほとんど使われていない暖炉に背中をもたれかけ、ワインを楽しみながら、先程の溺愛っぷりには大笑いしたぞ、と歓談していた。ハイデルが「私が惚れ込んでいるのですから、あのくらい当然です」と言い切ると、周りからはおぉ!という声と、あぁ…と言う声が混じって聞こえる。
思わずククッと笑った弟に、また何か企んでいるのかと聞くと、来賓なんて所詮、皆ミツバチのようなものですよ、と返された。巫女を溺愛している様子の弟にとっては、教皇までも、羽音がうるさいだけの外野でしかないらしい。
我が弟ながら、恐ろしい宰相である。
ハイデルの話を聞き続けた男性陣は気まずさを隠すためにワインを呷り続けた者だらけで、奥方達が広間へ帰ってきた頃には殆度がすっかりへべれけになっていた。
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