兄妹の話。

少女××

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【起】私の兄。

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兄はとにかく私を溺愛している。

少し本を買いに出かけようものなら
どこにいくのか何時に帰るのか、
何を買うのかお金は足りるか、
果てには荷物持ちについてくるとか言う。

基本的に一人で出かけるのが好きな私は
友達とかと出かけない。

「一人じゃ危ないよ。」

これが兄の口癖で、いつも気づいたら
一緒に出かけることになっている。

口達者なせいで兄に勝てたことはない。
まったく、、仕方ないので一緒に行く。

「デートだね?」

と言って私の手を取り、
嬉しそうに指を絡める兄を見て、
こういう仕草が女にモテるだろうなぁと思った。

実際めちゃくちゃモテる。

それはまぁおいておいて。
正直恐れ多過ぎて隣は歩きたくない。

斜め後ろくらいを歩きたい。

さりげなく手を離そうとすれば咎めるように
ぎゅっと握られて長い指でするりと甲を
撫でられた。
トドメとばかりに顔を覗き込まれて
「ダーメ。」と無音で口を動かし
にこっと微笑まれてしまえば何も言えまい。

その悪戯っ子みたいな無邪気な笑顔!!

くっそ、顔がいい。
私の兄は顔がいい。
何度でも言う、顔がいい、、!!!

これはいくら兄の顔になれている私でも
赤面してしまいそうだ。

道ゆく人も兄の笑顔を見て数人が屍と化している。

そうだろうな。

兄はかっこいいのに可愛くてしっかりしているのに
どこか抜けていてそこが可愛いけど
頼りにもなるし紳士的で甘やかで、
ほわほわしてるかと思えば深い考えがあって
頭がいいけれどそれを鼻にかけず謙遜できる
スーパーハイスペック男子なのだから。 

自慢や惚気などではなく客観的事実なので。

身内だからと厳しい評価をしてコレなのだから
はたから見ればおそらく兄は神の領域なのだろう。
うん、そうに違いない。

「何考えてるの?」

兄がこちらを見てニコニコしている。
うん、可愛いな。

「別に。なんの本買おうかと思って。」

兄がいかにハイスペックなのかを道ゆく屍に
教えていたなんて口が裂けても言えない。

「なんだ、俺のことだと思ったのに。」

目を細めて口角を上げる兄のエロいこと。
なんだこいつ小悪魔かよ。
神で小悪魔とか最強かな??

「は?なんで?」

兄のこととか常に考えてますけど?
なんで今更改めて問われたの?

「いや、違うな、、。
俺のことだったらいいのに、って思って。」

はい可愛いーー。
見ましたかあのキメ顔。
今世の中の人間全てが兄を崇拝したよね。

私ももちろんその一人ですけど。

「何それ。」

最高か。
いや最高なのは知ってたわ。
今更口にすることじゃなかったな。

キメ顔にキメ台詞を言った兄の顔が
完璧すぎて目を細めたら
睨んでるみたいになっちゃった。

兄に比べると平々凡々、中の下くらいの顔面の私は
まぁとにかく冴えない。
んー、、地味顔?良くも悪くもない、みたいな。

つまり、神と見紛う程に美しい兄に。

「今日も可愛いな、俺の妹は。」

と、言われるなんてあり得ないのだ。

「何言ってるの?」

まったく、冗談が好きだな兄は。
そんなところもとても可愛い。

「冗談ばかり言ってないで
キビキビ歩いてくれる?」

後ろから女がジリジリ寄ってきてる。
これは危険信号だ。
早く兄を避難させねば!

「まったく、、
別についてこなくて良かったんだから
帰ってもいいよ?」

家に帰ってお家でぬくぬくするがいい!!

「そんな悲しいこと、言わないで欲しい。
俺とのデート、そんな嫌?」

完璧良好暴力的顔面偏差値を前にして
普遍的平々凡々妹、圧倒的完全敗北!!

少し伏せられた目と濡れた瞳。
悲しげな表情と伺うような視線。
可愛いがすぎる。
そんなんもう地面に這いつくばって平伏レベルで
降参に決まってる。

「ふん、好きにして。」

あーー、もう兄の好きなことすればいいよ。
私がなんでもしてやらぁ!!

「よかった。」

ぐふう。はにかんだ兄、素敵。
かっこいいのに可愛いって反則がすぎる。

「早く行こ、本、売り切れちゃう。」

「そうだね。」

正直本なんてどうでもよくなってきているけど。

「妹といるだけで俺は幸せな気持ちになれるよ。」

「はぁ?」

私の方が幸せですが????
至高の兄と共にある私以上に
幸せな事とかあるわけないやん?

「お兄は時々わけわかんないこと言うよね。
マジで思考回路疑うわ。」

「ふふふ、可愛い。」

一度しっかり医者に見せようかな。
本当に心配だ。

「大好きだよ。」

よし、医者は帰れ。
私はたとえ兄が何かしらを患っていても
それすら愛してみせる。

つまりこのままで良い。

「寝言は寝てから言って。」

まったく戯言も大概にして欲しい。
私の方が何億兆倍も兄のことが大好きだ。

寝言を言う兄も可愛いんだろうな。
いや、可愛いんだろうではなく可愛いんだわ。
だって寝言言わなくても可愛いわけだし。

「じゃあ、一緒に寝る?」

はい可愛い。既に可愛い。そしてかっこいい。
色気えぐい。素敵。

「寝坊助はおうちに帰っていいよ。」

むしろ今すぐ帰って一緒に寝よう。

「ふふ、寝坊助、、おうち、、、。
ふはっ、はははは、、可愛い。」

笑ってる。
絶対馬鹿にされてるけど
そんなことどうでもいいくらい顔がいいわ。

「もうっ、先行く。」

笑ってる兄に拗ねたふりをして歩き出した。

「待ってよ、ごめんて。
俺の妹が天使だなって思っただけなんだ。」

は?兄の方が天使、、いや待て。
兄は神で私はその眷属というか奴隷みたいなもんだから
神の遣い的な意味であながち間違いでもないな。

「もうそれでいいよ。」

むしろそれが正解かもしれん。


まぁこんなくだらんこと言いながら
本を買った。

「ねぇ、今日の用事は本を買うだけ?」

「そう。もう帰るよ。」

あんまり外にいると兄が神々しすぎて
天から迎えが来かねないしね。

「俺、寄りたいところあるんだけど
もう少しデート、継続しない?」

神よ、兄を迎えに来れるなら来てみろや返り討ちにしたるわ逝てまうぞオラァ!!

「はぁ、、どこ行くの?」

どこでもいいんだけどね!?
兄が行きたいところなら富士山でもエベレストでも天国でもついて行くけどね!?

「すぐ近くのカフェで期間限定の
キャラメルガレットが食べられるんだ。
一緒に行きたいって思ってた。
行こうよ、ね?」

はぁ、可愛いが上限突破。
行くに決まってるじゃん。
キャラメルと兄が好きな私がこの誘いを
断るわけない。

「ん、時間あるしいいよ。」

「やった。」

ちっちゃくガッツポーズした。
兄のそのゴール決めたサッカー少年みたいな仕草が
かわいすぎた。

ニコニコしながら繋ぎっぱなしの手を
もぎゅもぎゅしてくる。
まって、やめて、萌え死んじゃう。

兄はよほど嬉しいのか軽く踵を弾ませて
痛くない程度に手を引く。

「あっちだよ。行こう。」

待ちきれないみたいな表情、頂きました。
行先を示すように軽く握った手を持ち上げて
くいってするの、可愛すぎる。

危うくここに兄を祀った神殿を召喚するところだった。

「ちょ、そんな急ぐこと?」

はしゃぎすぎてて可愛いがすぎるから
ゆっくり行こう?
あんまり可愛いと誘拐とかありそうで
妹は心配ですよ。

「大事な妹との時間を
一分一秒でも無駄にしたくない。
だから気がいじゃった。
ごめんね。」

舌、、舌チロってするの、、
反省の色皆無なのに絶対に許される
魔法の仕草、、。

がぁ、かっこよ、かわわ、えっっっろ。

うわ、むり、尊い、しんど。

兄のせいでたった今語彙力が死んだ。

兄と美味しいガレットを食べて、
ふらふらと歩いていると兄が席を外した。

「絶対にここから動いたらダメだよ?
一人で歩くのは危ないからね?」

トイレに行くのかな?
とりあえず指定された椅子に座って兄を待つ。

「ねぇ貴女。」

目の前で仁王立ちした小綺麗な女。
こいつ知ってる。
兄ファンクラブ会員No.5563。
正直顔くらいしか取り柄がないし、
顔も兄と並ぶには物足りない。

直訳すると雑魚の部類。

んで、噂によると兄にガチ恋していて
少しでも兄の話をしている人を見ると
制裁なんかを行なっているらしい。

ファンクラブでも何かと問題になっている。

なぜ知ってるかって?

そりゃ、兄ファンクラブの設立者は私ですし?

会員No.0の裏会長である私が知らないわけない。

ちなみにファンクラブメンバーの顔は暗記してる。
私的に輪を乱す人間は兄に相応しくないもんね? 

「なにか?」

とりあえず素知らぬ顔をして返す。

「貴女、かの方の妹だからって
少し距離が近すぎよ。
身の程を弁えた方がいいわ。」

身の程を、ねぇ?

「私はあの方と共にある為に努力して
美しくいるの。
私ほどあの方を愛している人はいないわ。」

この女ほど、兄を愛してる人はいない??

笑わせる。

ちょうどファンクラブとしても
動かなきゃいけなかったところだけど
いい機会かも。

少しお灸を据えておこうか。

「会員No.5563、平方愛理ひらかたあいりさん。」

「は?」

「兄を愛してると言いましたね。」

「え、ええそうよ。」

桜咲さくらざき高校三年二組出席番号28番。「え、」窓際から二列目前から四列目の席で兄とは隣のクラスという程度の関係。家族関係は両親に加え、姉と兄がいて甘やかされて育ったようで、、。携帯のアドレスは「え、なに!?」×××.×××@×××で「なんで!?!?」電話番号は○○○-○○○○。住所は△△市□□区◇◇※-※-※「いやっ、、」趣味は手芸で編み物が得意、二年前に手袋を編んで好きな人にあげた時に重いと言われてから「え、ちょ、なんで知って、」誰にも言ったことがないとか、健気ですね。ほかにも「ちょっとまてって!!!!」、、、なんですか?」

「なんでんなこと知ってんのよ!?」

「兄を愛してるんですよね?」

「え、えぇ。」

「兄を愛してるなら、
兄を慕う人の個人情報くらい
知っていて当然ですよね?」

「なんで!?」

「だって、私は兄を愛してますから。」

「は?」

「私は家族として兄を愛しているので、
私の家族である兄に少しでも関わりのある人の
名前や情報を覚えておくのは当然だし
兄に害が及そうなことなら知っておくべきだし
そのことで兄が悲しみそうなら排除しておくのも
当たり前のことですよね?」

「な、何言ってるの、、?」

「え、まさかそんな当たり前のことも
してないんですか?
兄のことをのに?」

「は、、え、、?」

「貴女の存在が兄にとって害になるのなら
私は躊躇いません。
これが私の愛です。
それで、貴女は私よりも兄を愛しているのですよね?
だって、と
豪語したのですから。」

「ひぃ。」

あ、後ずさった、完全に逃げ腰だ。
なんだその程度か。

「はぁ、、。
その程度だったんですね、残念です。」

「ぃぎゃっ、、、。」

私のため息に反応して悲鳴を上げられるのは
少し傷つくなぁ。

「今後、私的な制裁をやめるなら、
此度の件、見逃しますよ、先輩?」

「ご、ごめ、ごめんなさい、、。」

「よく謝れましたね。
さぁもう消えてください。
私はここを一歩も動けないので。」

あ、脱兎の如くとはこのことか。
逃げ足はやっ。

兄はまだ戻らないなぁ。
心配だ、でも動くなって言われたし。
兄が誘拐とかされてたらどうしよう。
、、あり得る話なのが怖い。

「待たせてごめんね。」

「遅かったね。」

トイレ混んでたの?それとも腹痛かな?

「ん、はいこれ。」

何これ?ブレスレット、、?
シンプルなシルバーのチェーンが重なって
シャラっと鳴るアクセサリー。

ネックレスにしては短いよな、、?

「これね、アンクレット。
さっき見かけて、妹に似合うと思ったんだ。」

はい笑顔。かわいいの暴力。好き。

「へぇ、ありがとう。」

家宝にしよう。まずは部屋に祭壇を、、。

数年前に作ってあるからそこに祀ろう。
兄からもらったプレゼントは
もれなく祭壇に飾ってある。
そして毎日拝んでる。
おかげで私は毎日幸せです、ありがとう兄。

「つけてみて欲しいな?」

「今?」

「今。」

「じゃあ帰ろう。」

「なんで?」

うぅ、しゅんとした顔の兄かわよいですわ。

「足につけるの、ここじゃ恥ずかしい。」

「今すぐ帰ろう。
俺がつけてあげるからね。」

甘ぁく微笑んで私の頬に手を添える兄。
フェロモン出すぎて襲われかねない。

兄はそのままするっと
顔の横にあった髪を耳にかけて
首元にあったネックレスをちゃりっと
人差し指に絡めた。

「これ、みたいに。」

兄にもらったネックレスはこちらもシンプルで
どの服装でも邪魔しないデザイン。
だけどしっかり存在を主張するように
小ぶりなチャームがついている。
私のお気に入りだ。

いや、兄からもらったものは全てお気に入りだけども。

かっこよすぎて色気がえぐくて、
兄に触れられた耳元が熱い。

「自分でできる。早く帰ろう。」

「くくっ、、そうだね、帰ろう。」

多分耳が真っ赤なんだろうな。
兄に笑われた。

でも兄が素敵すぎるのはまぁ世界の常識だし
私が赤面するのも仕方なくないかな?

家に帰って、結局兄に言いくるめられて
アンクレットを左足につけてもらった。

宝物に触れるみたいに
足を持ち上げる兄に背徳感が増す。

「よく、似合ってる、、俺の妹、、。
俺の、最愛、、。」

左足を持ち上げ、爪先に軽く唇が触れた。
焦がれるみたいな視線が私を見る。

可愛いばっかりの兄の視線が急に雄々しく煌めいて。

そこからのことは、正直よく覚えてない。
兄の視線の熱に浮かされて夢現だったと思う。

確か、、
せっかくだからと言った兄に乗せられて
結局一緒に寝た。
口達者な兄には勝てない妹なのです。

「一緒に寝る?って、言ったでしょ。
ほら、おいで。」

なんて手を広げられて、断れる人いる?
私は無理。

余談だが、
兄は寝言はいってなかったけど
寝顔は安定の可愛さで、
起きた瞬間はイケナイ気分になる程エロかった。


お気づきの通り、
私は兄を溺愛、いや、盲愛している。
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