別に弱くはない

ぷんすけ

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1章 シーム村

#7 森での魔物治療

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「やばい、血が」
 片膝を付くビリー。

 魔物の方もボロボロだが、倒れる気配はなかった。
「死んだな……おれ」
「はぁはぁ、はぁ……!?ビリー!」
 ビリーが向かった森の方から騒がしかった為来てみれば。

 血だらけのビリーと猫形の魔物、ビリーの後ろにはまたボロボロの子猫が倒れていた。
 ビリビはすぐに理解してしまった。

 また、ビリビも少し貧血気味でゆっくりと足を運ぶ。
 少しは魔力が回復した為、精神も安定している。

「グルラララァァァ!!!」
 魔物が後ろから襲い掛かりビリビの右肩に噛み付く。

「イヅッ!」
 それでもビリビは足を止めない。

 魔物の牙が更に食い込む。
「あ゛あ゛ぁぁぁぁ!!!」

 ビリビは魔物の顔を右手で掴み魔物を引きずる。
「ゔぅっ!!っあぁ~」
 決して魔物に力で勝てている訳では無いだろう。
 ましてやこっちは貧血気味だ。
 それだけ魔物は弱っているのだ。

 ビリーの元へ。
 そして今にも倒れそうなビリーを左手で押し退け、倒す。

 ビリーを通り越し子猫の場所で足を止めしゃがみこむ。
 子猫の心臓が止まっていない事を確認し回復魔法を使う。

 本来ビリビは魔力量の関係上相手に対して回復魔法ヒールを使う事はできない。
 しかし今のビリビは魔物に噛まれている。
 魔物には常に魔力が流れていて体液や血液は魔力そのものと言っても過言では無い。
 ビリビの体内に魔物の唾液、血液が入りビリビはその魔力を自分の魔力の代わりにして回復魔法を使う。
 子猫の傷口に触れる事で子猫とも直接魔力を繋げる。

 俺が子供を治そうとしているのが分かったのか魔物が噛み付くのを辞めようとするのを俺は手を離さない。
「んっ!!、ごめ……んねっ、まだ魔力を貸してね」

 ビリビ自身の魔力量が少ない為ビリビは初級回復魔法のヒールしか使えなかった。
 まだ、時間が掛かる。
 だが、ビリビの出血も酷いものだった。

 魔物の親猫が一度離そうとした牙を緩めたせいでビリビの出血は止まらない状態でいつ倒れてもおかしくなかった。

 ビリビは弱い回復魔法しか使えなかったが、その代わり親の魔物にも魔法を使っていた。
 ビリビの治療は1時間以上続いた。

 ビリビの意識も2人の魔物を直しきると失い倒れてしまった。
 ビリーもまた、いつの間にか意識を失っていた。





 意識を失ってから何時間たっただろうか?
 やがて意識を覚ますと目の前には様々な果物が置いてあり子猫がビリビの右肩を舐めていた。

「あ、はぁ……はぁ……あ、りが……と」
 親猫が果物をビリビの口元の方まで持って行く。
「あんむ、あむ、あむ」
 どの果物も水分が多く少しだが魔力が回復する効果がある物だらけだ。
 元々自分の魔力を使っていなかった事と元々の魔力量が少ない為すぐに魔力が回復する。

 倒れたままだがビリビは自分の身体に回復魔法を使い果物を食べ魔力を回復。それをひたすら繰り返し最低限の傷口だけは塞ぐ。

「もう無理!お腹いっぱい。ありがとう。2人共」
 魔物達が持って来てくれた果物は魔力が回復しやすい物ばかりだが、魔力を消費すれば食べた物が消化される訳では無い。
 応急処置である程度の傷が治った。
 ビリーを連れて帰る事を考えて魔力をある程度残した状態にしとく。
 身体を起こしビリーが倒れてるのを確認する。
 いつの間にか気を失っていたみたいだ、
「2人共ごめんなさい。弟がごめんなさい」

 言葉が通じるはずも無いのに頭を下げ謝る。
 頭を地面に擦り付け謝る。
 言葉よりも態度で、少しでも謝罪が伝わる様に。
 せっかく自分の身体の傷を治したのに次は頭から血が流れる。

「私達を2人と言ってくれるのだな」
「え?」
 顔を上げると親の魔物が優しいそうな声で人間と同じ言葉を喋る。
 体?匹?頭?羽?尾?

「に、2魔物……ですか?」 
「そんな単位無いだろう」

「2人間!」
「数え方なんてどうでも良い。
 ただ私達を助けてくれてありがとう」

「だから、悪いのはこっちで!」
「私達魔物にはそれぞれ決められた縄張りがある。この子はそれを破って縄張りを離れた」
 親猫が言うには子猫は村の方に近付き過ぎた為にビリーに遭遇してしまったのだと言う。
 そもそもビリーが森に入ったからこうなった訳で……。

「ん~~~」
「だからありがとう」

 正直俺は村の外も魔物の事も何も知らない。
 大人は皆、口を揃えて魔物は危険で危ない生き物だと言う。
 危険と危ないの違いが分からないけど同じ事2回言ってるんじゃ?と言われる度思って来た。

「人間の言葉を喋れるんですね」
「フフッ私は昔、この森の外で暮らしていた。その時に言葉を覚えたんだ」

「もしかしてその声は魔法で出してるんですか?」
 ビリビよりもずっと大きなそれも猫形の魔物の太い喉からこんなにも綺麗な声が出るとは思えなかった。
 俺の知らない魔法。

「そうだなこの声は多分私が人間の姿ならこんな声をしているのだろう」
「綺麗な声ですね」

「ありがとう」
 この声が魔法だからなのかは分からないがとても心地良い声だ。
 この魔物は大人が言う様な魔物では無いのかもしれない。

「この子も使えるんですか?」
「この子はまだ魔法が上手く使えない」

 常に魔力が身体を流れている魔物でも魔法はすぐに使える物では無いらしい。
 やがて長話をしている事に傷付き帰る事に。
「なら私が2人を送って行こう」
 ………。

「縄張りがあるんじゃ?」
「この森にさほど強い魔物は居ない。危害を加えるつもりは無いから問題も無い」

「それでも大丈夫です。コイツは俺が運ぶので」
 倒れているビリーに目を向ける。
 出血は酷いが大丈夫だろう。
 命が危なくても今の俺に治す事はできないし、するつもりも無い。
 自業自得だ。

「ただ道案内だけしてもらえると嬉しいです」
「ああ」
 その日、俺は初めて魔物に会い魔物を知り魔物を好きになった。
 けどこの魔物だけかもしれない。
 この魔物だけじゃ無いかもしれない。
 それでもこの親子にはもう会わないだろう。

 ビリーがした事を無かったかの様に振る舞う事はできない。
 俺たちは仲良くできるかもしれない。
 だが、魔物と人間は仲良くなれないだろう。

 人間は魔物を狩る。
 それが一番魔法使いとして強くなるには近道だからだ。
 人間は魔物の敵だからだ。

 だから最初で最後に沢山の話をした。
 子猫には気に入られた気がしたが思い過ごしでは無いと信じ良い思い出として残そう。そう心で言い聞かせた。

 村の前まで送ってもらい今一度頭を下げる。
「ありがとうございました」
 その言葉は送ってもらった事も含め、これ以上ビリーに何もしないでくれた事にお礼を言った。

 俺は2人と別れビリーを背負い家へ帰った。

 全体から血が出ているビリーと右肩の服がボロボロで頭から血を流している俺を見て案の定お母さんは凄く心配したが何も言わなかったし俺も何も言わなかった。
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