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第1章
第4話 赤の妖精と争戦の王国
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あの後ミラさんは、初っ端殴り飛ばしたのが俺だということに気付き、深々と土下座をしてひたすらに謝ってくれた。なので、まだ痛みは残るものの快く許すした。間違いなく、悪いのはファルネスさんだし。
申し訳なさそうに顔を上げたこの女性──ミラさんは、腰まで伸びた灼熱のように紅く艶やかな長髪を後ろで一本に束ねており、その瞳は、引き込まれそうなほどに澄んだ美しい緋眼である。言うまでもなく、最高に美しい妖精だ。
ファルネスさんの妖精剣として、行動を共にしているらしい。
見惚れてしまう容姿に、スラっとした体型、胸はまぁ目立つ程はない……というか、一見全くあるようには見えないが、神が二物も三物も与えた造形美の女性で、そのあまりの美しさに息をすることを忘れたユメルが隣で咳込んでいた。
ミラさんは、俺達の経緯を聞くと、「是非、あたしも同行させてほしい!」と言い、地べたに寝そべっていたファルネスさんを叩き起こしていた。
こうして、砂埃だらけの俺とファルネスさん、ユメル、そしてミラさんは、争闘都市イリグウェナの門をくぐったのであった。
*
「それにしても、本当に人で溢れかえってるな……」
城壁に囲まれていたため中の様子は全く窺えなかったが、さすが大型都市なだけあり、歩くとこ歩くとこに人や妖精がいて、街は活気に満ちていた。
「……そういえば、まだ君達の名前を聞いてなかったな」
ファルネスさんは俺とユメルの方を振り返って言う。
「俺は、リオ・ラミリアって言います!」
「僕は、ユメル・ログジェッダです!改めてよろしくお願いします!」
俺とユメルは、これから妖精騎士を目指す者として大先輩である二人に、改めて深くお辞儀をした。
ファルネスさんは何度も頷きながら、
「うんうん、リオ君にユメル君ね。良い名前だ!もう一度確認するけど、目的地はフィレニア学園で間違いないね?」
「はい!とりあえず、学園に行って手続きを済ませないと、寮に入れなくなってしまうので……」
俺は答えながらも、視線だけは流れゆく華やかな街並みを無意識で追っていた。
あちこちに出店が構えられていて、客を呼ぶために威勢の良い声で集客する店員や、買い物を楽しむ人々、鮮やかな衣服を身に纏ってる人だったり、華やかな衣装で踊っている妖精。
遊んでいる人、仕事をしている人などと、それぞれは様々だが、目に入るものは例外なく全てが初めてのものだった。
見るからに注意散漫だったのだろう、そんな俺の様子に気付いたミラさんは、優しく微笑みながら、
「ふふ、アタシも初めてこの街に来た時は本当に驚いたわ。魔族との戦争真っ只中なのに、こんなに人々が楽しそうなんだもの」
ミラさんは辺りを眺めながら、懐かしそうにそう呟く。
「え、あ、すみません……!話している最中に、周りをキョロキョロしちゃって……」
「ううん、大丈夫よ。誰だって初めてこの街を訪れた時は、そういう反応をするわ。確かに驚きの連続よね。外から見ただけじゃ、変なお城が立ってるだけで全然見えないし」
ミラさんはそう言うと、ここからでもよく見える、不気味さを覚えたあの城を指差した。
「あのちょっと変なお城が、この巨大な争闘都市イリグウェナの大名所にして、対魔本部ジェーラメントの最高決定機関有する、争戦の要──オブファウス城。あなた達が目指しているフィレニア学園は、あのオブファウス城の奥にあるから、迷った時はあのお城を目印に歩けば着くわ」
「なるほど!ミラさんこの街に詳しいんですね」
ユメルがそう言うと、ミラさんは鼻を鳴らして顔が綻ぶ。
すると、それを見たファルネスさんは、からかうようにニヤッと笑い、
「ミラが学生だった頃は、よく迷子になって泣き喚きながら私におぶられて帰ってたけどなぁ……」
「……チッ!余計なことは言わんで良い!」
「痛っ!」
眉間に皺を寄せたミラさんは、舌打ちしながら靴の形状で最も硬度のありそうな踵の部分でファルネスさんのつま先を踏みにじった。
「え!ファルネスさんとミラさんも、フィレニア学園出身なんですか?」
踏まれた箇所を撫で労わっているファルネスさんと、ツンとそっぽを向いているミラさんに、俺は純粋に気になった疑問を尋ねてみる。だが、その質問を答えようと口を開いたミラさんの表情が分かりやすく濁った。
「えぇ……まぁ。…………この学園に通わなければ、この男と出会うこともなかっただろうに……」
「へ、へぇ……」
突拍子もなく、ミラさんの口から非常に辛辣な、とても返しづらい返答がきてしまった……。
しかし、この発言にはさすがに思うところがあったのか、ファルネスさんは溜息をつきながら、
「はぁ。お前から、『あなたの剣にしてください!』って頼んできたんじゃん」
「そうね……あんな最悪な出会い方をしたにも関わらず、あなたを選んでしまったあの時のアタシを、ぶん殴ってやりたいわ……」
「お、お前……。まだあの時のこと引きづってんの……?」
あ……、これはまた言い合いが始まりそうな予感。
何だかんだでずっと一緒にいるわけだから、心底仲が悪いってわけじゃないんだろうけど。まぁ、喧嘩するほど仲が良いって院長先生が言ってたし、そういうことなのかな。
ただ、そんなに最悪な出会い方ってなると、逆に気になりはするけども。
「あの……お二人は、どんな出会い方をしたん────」
「全裸」
「……え?」
「この男が、全裸であたしに飛びついてきたの!!」
「…………ん?」
……全裸で飛びついた?しかも、出会った時──つまり、初対面で?
「さ、さすがに冗談ですよ……ね?」
苦笑いしながら、ファルネスさんへと視線を向ける。
「…………間違いでは、ない」
苦りを潰したような表情で顔を背けるファルネスさん。
……目の前にいるこの人は、本当に救ってくれたあの英雄張本人なのだろうか?
「いや待つんだ!それは誤解でだな!!ちょ、そんな軽蔑の視線を向けないでくれー!」
呆れた俺とユメルは、ジトーっとした視線を送り続け、ファルネスさんはたじろぎながら叫んだ。
「痛い!視線が痛い!私に精神的ダメージを与えるとは、妖精剣士の卵恐ろしい!」
✳︎
なんやかんやと話が盛り上がっている内に、ミラさんはある小さなお店の前で足を止めた。
「申し訳ないんだけど、少し寄り道しても良いかしら?」
ちょこんと前に出たミラさんは、細々としたお店の前で小首を傾げる。
「それは全然構わないですが、ここは……?」
「アタシとファルネスで、あなた達二人に迷惑をかけちゃったじゃない?だから、そのせめてもの償いというか……あなた達に贈り物をしようと思うの!」
「そんなわざわざ!大丈夫ですよ!」
「そうですよ!何にも感じてませんから!」
慌てた俺とユメルは、両手を横に振り遠慮の仕草を見せるが、ミラさんは一貫として意見を曲げる素振りを見せない。
「そう言ってくれるのは嬉しいんだけど、アタシが納得しないの!それに、ここは学生時代ずっと通ってた、思い出のお店だから。ぜひ、ここの商品をあなた達にプレゼントしたいのよ。ただのアタシのおせっかいだから……貰ってほしいわ」
「いや、でも……」
ミラさんはこう言ってくれるけど、やっぱりあの程度のことで物をもらうのはどうしても気が引けてしまう。
一向に俺とユメルが渋っていると、
「他人の厚意を有り難く受け取るのも、強い妖精剣士になるための秘訣だぞ!それに、こういうことに関しちゃ、あいつは頑固だからなぁ……」
ファルネスさんは、俺の肩に手を置きながらニコッと笑みを浮かべる。
大先輩二人にここまで言われて、断るなんてのは逆に失礼というものだろう!それに、超絶美人なミラさんからの贈り物なんて嬉しくないわけがないし!
「じゃあ……ありがたく、ご厚意に甘えさせて頂きます!」
「はいっ!よろしい!」
こうして鼻歌交じりに軽やかな足取りで店に入って行ったミラさんだったが、そこからしばらくは店から出てくることはなく、外で待っていた男三人は、女の人の買い物の長さを犇々と痛感させられたのであった。
申し訳なさそうに顔を上げたこの女性──ミラさんは、腰まで伸びた灼熱のように紅く艶やかな長髪を後ろで一本に束ねており、その瞳は、引き込まれそうなほどに澄んだ美しい緋眼である。言うまでもなく、最高に美しい妖精だ。
ファルネスさんの妖精剣として、行動を共にしているらしい。
見惚れてしまう容姿に、スラっとした体型、胸はまぁ目立つ程はない……というか、一見全くあるようには見えないが、神が二物も三物も与えた造形美の女性で、そのあまりの美しさに息をすることを忘れたユメルが隣で咳込んでいた。
ミラさんは、俺達の経緯を聞くと、「是非、あたしも同行させてほしい!」と言い、地べたに寝そべっていたファルネスさんを叩き起こしていた。
こうして、砂埃だらけの俺とファルネスさん、ユメル、そしてミラさんは、争闘都市イリグウェナの門をくぐったのであった。
*
「それにしても、本当に人で溢れかえってるな……」
城壁に囲まれていたため中の様子は全く窺えなかったが、さすが大型都市なだけあり、歩くとこ歩くとこに人や妖精がいて、街は活気に満ちていた。
「……そういえば、まだ君達の名前を聞いてなかったな」
ファルネスさんは俺とユメルの方を振り返って言う。
「俺は、リオ・ラミリアって言います!」
「僕は、ユメル・ログジェッダです!改めてよろしくお願いします!」
俺とユメルは、これから妖精騎士を目指す者として大先輩である二人に、改めて深くお辞儀をした。
ファルネスさんは何度も頷きながら、
「うんうん、リオ君にユメル君ね。良い名前だ!もう一度確認するけど、目的地はフィレニア学園で間違いないね?」
「はい!とりあえず、学園に行って手続きを済ませないと、寮に入れなくなってしまうので……」
俺は答えながらも、視線だけは流れゆく華やかな街並みを無意識で追っていた。
あちこちに出店が構えられていて、客を呼ぶために威勢の良い声で集客する店員や、買い物を楽しむ人々、鮮やかな衣服を身に纏ってる人だったり、華やかな衣装で踊っている妖精。
遊んでいる人、仕事をしている人などと、それぞれは様々だが、目に入るものは例外なく全てが初めてのものだった。
見るからに注意散漫だったのだろう、そんな俺の様子に気付いたミラさんは、優しく微笑みながら、
「ふふ、アタシも初めてこの街に来た時は本当に驚いたわ。魔族との戦争真っ只中なのに、こんなに人々が楽しそうなんだもの」
ミラさんは辺りを眺めながら、懐かしそうにそう呟く。
「え、あ、すみません……!話している最中に、周りをキョロキョロしちゃって……」
「ううん、大丈夫よ。誰だって初めてこの街を訪れた時は、そういう反応をするわ。確かに驚きの連続よね。外から見ただけじゃ、変なお城が立ってるだけで全然見えないし」
ミラさんはそう言うと、ここからでもよく見える、不気味さを覚えたあの城を指差した。
「あのちょっと変なお城が、この巨大な争闘都市イリグウェナの大名所にして、対魔本部ジェーラメントの最高決定機関有する、争戦の要──オブファウス城。あなた達が目指しているフィレニア学園は、あのオブファウス城の奥にあるから、迷った時はあのお城を目印に歩けば着くわ」
「なるほど!ミラさんこの街に詳しいんですね」
ユメルがそう言うと、ミラさんは鼻を鳴らして顔が綻ぶ。
すると、それを見たファルネスさんは、からかうようにニヤッと笑い、
「ミラが学生だった頃は、よく迷子になって泣き喚きながら私におぶられて帰ってたけどなぁ……」
「……チッ!余計なことは言わんで良い!」
「痛っ!」
眉間に皺を寄せたミラさんは、舌打ちしながら靴の形状で最も硬度のありそうな踵の部分でファルネスさんのつま先を踏みにじった。
「え!ファルネスさんとミラさんも、フィレニア学園出身なんですか?」
踏まれた箇所を撫で労わっているファルネスさんと、ツンとそっぽを向いているミラさんに、俺は純粋に気になった疑問を尋ねてみる。だが、その質問を答えようと口を開いたミラさんの表情が分かりやすく濁った。
「えぇ……まぁ。…………この学園に通わなければ、この男と出会うこともなかっただろうに……」
「へ、へぇ……」
突拍子もなく、ミラさんの口から非常に辛辣な、とても返しづらい返答がきてしまった……。
しかし、この発言にはさすがに思うところがあったのか、ファルネスさんは溜息をつきながら、
「はぁ。お前から、『あなたの剣にしてください!』って頼んできたんじゃん」
「そうね……あんな最悪な出会い方をしたにも関わらず、あなたを選んでしまったあの時のアタシを、ぶん殴ってやりたいわ……」
「お、お前……。まだあの時のこと引きづってんの……?」
あ……、これはまた言い合いが始まりそうな予感。
何だかんだでずっと一緒にいるわけだから、心底仲が悪いってわけじゃないんだろうけど。まぁ、喧嘩するほど仲が良いって院長先生が言ってたし、そういうことなのかな。
ただ、そんなに最悪な出会い方ってなると、逆に気になりはするけども。
「あの……お二人は、どんな出会い方をしたん────」
「全裸」
「……え?」
「この男が、全裸であたしに飛びついてきたの!!」
「…………ん?」
……全裸で飛びついた?しかも、出会った時──つまり、初対面で?
「さ、さすがに冗談ですよ……ね?」
苦笑いしながら、ファルネスさんへと視線を向ける。
「…………間違いでは、ない」
苦りを潰したような表情で顔を背けるファルネスさん。
……目の前にいるこの人は、本当に救ってくれたあの英雄張本人なのだろうか?
「いや待つんだ!それは誤解でだな!!ちょ、そんな軽蔑の視線を向けないでくれー!」
呆れた俺とユメルは、ジトーっとした視線を送り続け、ファルネスさんはたじろぎながら叫んだ。
「痛い!視線が痛い!私に精神的ダメージを与えるとは、妖精剣士の卵恐ろしい!」
✳︎
なんやかんやと話が盛り上がっている内に、ミラさんはある小さなお店の前で足を止めた。
「申し訳ないんだけど、少し寄り道しても良いかしら?」
ちょこんと前に出たミラさんは、細々としたお店の前で小首を傾げる。
「それは全然構わないですが、ここは……?」
「アタシとファルネスで、あなた達二人に迷惑をかけちゃったじゃない?だから、そのせめてもの償いというか……あなた達に贈り物をしようと思うの!」
「そんなわざわざ!大丈夫ですよ!」
「そうですよ!何にも感じてませんから!」
慌てた俺とユメルは、両手を横に振り遠慮の仕草を見せるが、ミラさんは一貫として意見を曲げる素振りを見せない。
「そう言ってくれるのは嬉しいんだけど、アタシが納得しないの!それに、ここは学生時代ずっと通ってた、思い出のお店だから。ぜひ、ここの商品をあなた達にプレゼントしたいのよ。ただのアタシのおせっかいだから……貰ってほしいわ」
「いや、でも……」
ミラさんはこう言ってくれるけど、やっぱりあの程度のことで物をもらうのはどうしても気が引けてしまう。
一向に俺とユメルが渋っていると、
「他人の厚意を有り難く受け取るのも、強い妖精剣士になるための秘訣だぞ!それに、こういうことに関しちゃ、あいつは頑固だからなぁ……」
ファルネスさんは、俺の肩に手を置きながらニコッと笑みを浮かべる。
大先輩二人にここまで言われて、断るなんてのは逆に失礼というものだろう!それに、超絶美人なミラさんからの贈り物なんて嬉しくないわけがないし!
「じゃあ……ありがたく、ご厚意に甘えさせて頂きます!」
「はいっ!よろしい!」
こうして鼻歌交じりに軽やかな足取りで店に入って行ったミラさんだったが、そこからしばらくは店から出てくることはなく、外で待っていた男三人は、女の人の買い物の長さを犇々と痛感させられたのであった。
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