エルフの王女と契約を交わした俺は、世界を美しく狂わせる

境ヒデり

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第1章

第9話 素っ頓狂!

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「長すぎ……本当に倒れるかと思った……」

 自身の頭部を抱えながら、苦悶の表情を浮かべるユメル。

「やっと終わったな……入学式……」

 同じような苦悶の声音でそれに続いた。

 何故今このようなていたらくになっているかというと、俺とユメルはついさっきまで、約百五十人程の妖精紋によって精選された生徒がすっぽりと収まってしまう程に広いホールで、由緒正しき学園の入学の儀を受けていた。別にそこまではなんの問題もないが、ある程度の人口密度の中、終わりの見えない——あの場では永遠とも感じ取れる時間をずっと立たされていたのだ。しかも、お世辞にも意味のある話とは言えない内容をしばしば言い方を変えて何度も何度も。

「レイジュード校長の話はすぐ終わったのに、名前忘れちゃったけどあの副校長の人の話、長すぎる……」
「校長は一度座らせてくれたのに、あの副校長わざわざ起立させてそのままでいろって言うし……しかも、身も蓋もない話を一時間半だよ!?僕の前で立ってた人貧血で倒れてたし!」

 疲れからくる怒りなのか、ユメルは声を大きくして愚痴を吐く。

「校長よりも副校長の方が話長いってどういうこと!?」
「ちょ、ユメル声がでかいって。気持ちは分かるけど、時計壊した前科あるしこれ以上目をつけられない方が……」
「まぁ、それは確かに……」

 ユメルは他の誰かに聞き耳を立てられていなかったか周りを見渡し確認したが、幸い周囲には人影がなく安堵の溜息をつく。

 そんなユメルの様子を見た俺は、ふと思い出したことを口にした。

「……そういえば、入学式で貰った物の中にクラス分けの紙あったけど、ユメルもう中身確認した?」
「あー、そういえばまだ見てなかった。リオもまだ?」
「俺もまだ!じゃあさ、せーので開こう」

 薄い緑で着色されているクラスが表記された封筒を、紙束の中から取り出す。

「クラスの数は……確か、今年は五クラスだったよね?」
「そうそう。だから俺とユメルが同じクラスになれる可能性は……結構低い」
「……じゃあ、いくよ?」
「いつでも」
「「せーの!」」

 合わせた掛け声と共に封筒の中に封入されていた紙を取り出す。

 そこに記載された数字を見てお互いに硬直するが、まだお互いがどのクラスかは判明していない。そんな俺とユメルの間に計らうずとも沈黙が流れる。

 その沈黙を破るように、紙を大きく開きクラスを照らし合わせようと一歩近付くユメル。

「リオ……ちなみに、僕は1の三だった……」

 どぎまぎとしながら俺の返事を待つその姿は、興味半分不安半分といった表情。

 間の悪い空白を置き、俺は重々しく自らの口を開いた。

「ユメル……俺は……」
「無駄に溜めてないで早く言ってよ……」
「1の…………三」
「てことは!」

 決まりの悪い表情から一転、ユメルの表情が満面の笑顔に変わる。

「同じクラスってことだ!いやぁ、良かったー!ユメルめっちゃ人見知りだから実は心配だったんだよ俺!」
「人の心配してる場合じゃないと思うんだけど?まぁ、僕がついてればリオがエルフと全く話せなくてなんにもできないまま卒業という、最悪の事態は防げると思うしね!僕がいれば!」
「冗談がお上手で!ユメルがいると周りのエルフが逃げて行っちゃいそうだよ!」
「はは!殴るよ!」

 まぁ、こんなお決まりの悪態をついているが、正直なところ、ユメルと同じクラスになることができて心の底から安堵しているのは確かかも。悔しいが、ユメルの言う通り初対面の群の中に一人ポツンと置かれてもマトモに会話をできる自信がないし、エルフなんてもってのほか

 閑散とした廊下で騒いでると、予鈴と思しき低く響き渡る鐘の音が鳴る。

 クラス分けが記載されていた紙に追記されている、教室の階と場所が記された箇所に目をやる。どうやら、俺達の教室は今いる二階から上がった三階のようだ。

「時間も時間だし、そろそろ教室に向かうか!」
「やばい……どうしよ。今更になって緊張してきた」


 声高々に言った俺とは対照的に、突然小声でボソッと呟くユメル。

 そして、一歩、また一歩と少しずつ後退あとずさりしていくが、ここまで来て引き下がるなどという選択肢は勿論のこと毛頭なく、ユメルの首根っこを力強く掴む。

「お前なぁ……さっきあれだけ啖呵切ったんだから、覚悟決めろって」
「ま、待って!一回水飲んで気持ち整えるだけだから!」
「変わんない変わんない!ほらほら、行くぞー!」

 微力な抵抗を見せるユメルを、はたから見ると半ば無理矢理連行した状態で、俺は少々荒い傾斜を見せる階段を昇って行った。



 ✳︎



 景観の良い開放的な教室は光が反射して少し眩いほど綺麗にされており、下から上へと上がっていく段々状に配置された長机には生徒一人一人の教材が置いてある。

 一つの教室に生徒は大体三十名程在籍しており、人間ヒューマンの男女、妖精エルフの男女といった具合で混同で編成されている。

 そして、並べられた机の対面に位置する所にでかでかと、横幅の広い黒板が取り付けられていて、盤には座席表が書かれていた。

「えーっと、俺の座席は……」

 座席表の順列を指でなぞっていく。

 下から一、二、三、四番目の、左から三番目か。

「僕は、リオの二つ前だ!」
「ユメルの位置寝てたらすぐバレちゃうな」
「寝ないから!リオこそ少し後ろだからって、油断して寝てたら僕がチクる!」
「わざわざ後ろ向いてこないで授業に集中しろよ……」

 俺はユメルの発言に苦笑いを浮かべながら踵を返し、自身の座席へと向かう。その間、教室内の既に着席を済ませている、同胞になるであろう者達を眺め、まるで全く別の異国にきたかのような感覚に襲われた。

 人間《ヒューマン》としか関わってこなかった俺にとって、同じ空間に妖精エルフが多数いるだけでも緊張というか妙な違和感があるのに、美男美女だらけで一人一人が輝いている。

 というか、妖精エルフだけじゃなく人間ヒューマンの方も美男美女が異様に多い気が……。

 周囲に目配せしながら座席に座ろうとすると、丁度そのタイミングであの低く鈍い音色で本鈴が再度鳴り響き、立ち歩いたりお喋りしていた者は自分の席に、本を出し読書に勤しんでいた者は持っている本をしまった。

 そして、教室全体が静寂の雰囲気を取り戻し、学園初日——つまり、妖精剣士シェダハになるための始まりの一日目という共通認識が、この空間内に漂い空気をピリつかせる。静まり返った教室では、呼吸ですら他人に聞こえてしまいそうで死ぬほど息苦しい。

 しかし、そんな空気を一瞬で打ち破るかの如く、左右に開閉する引き戸をダンッという音を立てながら忙《せわ》しなく開け、踏み込むように教室に入ってくる青髪の整えられた髭を生やした男が一人。

「やぁやぁ諸君、初めまして」

 その男の姿をみなが認識した途端に室内にヒソヒソと騒めきが起こる。ある生徒は、彼を鬼神と——ある生徒は、伝説の妖精騎士シェダハだと。

 無論、俺はその容貌、声音に覚えがあるものの、あまりの突然さに一瞬思考が停止した。

「今日からこのクラスを担当する、ファルネス・ディロアだ!それでこっちが、私の妖精剣ヴィンデーラの……」
「ミラ・エランスズです。よろしくお願い致します」

 この二人が学園の教師になることはあの一件の時知ったが、まさか俺とユメルの担任になるとはこれっぽっちも予想していなかった。

 俺の脳内が、停止していた分の時間を取り戻すかのように急速に動き出す。

「えええぇぇぇぇ!!!」

 俺は頓狂な声で叫び、机に思い切り手をつき立ち上がる。

「ファルネスさん!?」

 叫び声に気付きこっちを向いたファルネスさんは、笑顔で手を振っている。

「おぉリオ君!このクラスだったんだね!」
「ちょっとファルネス!今は教師と生徒なのだから少しは節度を保って……!コ、コホン!リオ・ラミリア君、周囲の生徒の迷惑にもなるので、急に叫ぶのは控えましょうね?」
「あ……す、すみません」

 興奮を宥められた俺は周囲の視線が集まってしまっていることに気が付き、居た堪れなさを感じながらそっと座席に座り直す。

 その様子を見たファルネスさんは、仕切り直すようにパチンと軽く手を叩いた。

「あーえっと、まぁ私とミラの自己紹介は後でするにして、このクラスの担任である私に、異例の超凄い生徒が任されたんだ。まず、その生徒の紹介からさせてくれ。では、入って来て頂いて大丈夫ですよー!」

 ファルネスさんは扉の方に向かって声をかけた。違和感を感じる敬語で呼ばれたその生徒は、先程とは打って変わって優しくゆっくりと扉を開く。

「皆さん初めまして。私は、シエラ・アレサンドル・イザベルです。以後、お見知り置きを」

 そして、そこから上品な立ち振る舞いで教室へと入ってくる、金色こんじきの髪を魔性になびかせた妖精エルフ。特徴的な純白の花びらの髪飾りをつけた碧眼の美女。

「か、神様!?」

 そんな彼女を視覚で捉えた瞬間、さっきミラさんから注意を受けたことなど頭の中から吹っ飛び、もう一度机に手をつき立ち上がりながら思い切り叫んでしまった。
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