エルフの王女と契約を交わした俺は、世界を美しく狂わせる

境ヒデり

文字の大きさ
17 / 17
第1章

第16話 霊剣抜刀。復讐と安寧の力

しおりを挟む
 雲一つない快晴で、小鳥達のさえずりが上空を奏でるすぐ下には、俺とユメルが毎日交互に掃除をしている広場がある。そして、そこに並び立つ、ファルネスさんとミラさん、その二人を遠巻きから眺めている生徒達。

「よーし、皆んな集まったなー」

 散り散りに固まる生徒達を一瞥し、小刻みに頷くファルネスさん。

「今から見せるのは、普通のヒューマンとエルフが、妖精剣士シェダハとして魔術体系の融合を果たす——つまり、霊剣抜刀エティソールするやり方と、その能力の一端だ」

 話しながら、ファルネスさんが握っている、どこから持ってきたのか定かではない鉄製の剣を鞘から抜く。

「これは、ごくごく一般的な金属の剣。今からこれで、あの太い木に全力で斬りかかる。その後、霊剣抜刀エティソールした状態で木には触れずに一振りする。君達には、その比較を見てもらう」

 剣先で指した先には、幹が太く背丈も高い立派と賞賛に値する、植えられた一本の木が生えている。どうやら、ファルネスさんはあの木に向けて一太刀入れるらしい。

 俺は、現代最強と謳われる人間ヒューマンの剣捌きと踏み込みを、死んでも見逃すまいと目を見開くが、当のファルネスさんは斬りかかる構えのまま一向に動く素振りを見せない。

 それでも尚、目を見開いたままにしているが、次第に外界に晒された眼球が乾いてくるわけで。開かれたままの眼球を、無情な空気は何の罪悪感もなくさすってくる。普通に痛い。

 俺はこのままだと、静止したファルネスさんを眺めながら急に涙を流し始める変な奴、の烙印を押されかねないため、本当に一瞬——時間にしたら、一秒にも満たないまばたきをした。

 しかし、この一瞬が命取り。

 俺の視界が暗転しもう一度明かりを認識した時には、ファルネスさんが踏み込んだ地は削れ、木の幹が抉り取られていた。

 砕けた鉄剣を握ったファルネスさんは、「あ、壊しちゃった……どうしよ」とぼやいているが、この人が踏み込んだ際に生じた風によって前髪が崩れた生徒達は、そんなことには全く関心を示さず、ただただ呆然としている。

「あ、あの……先生は、今どこかのタイミングで妖精剣士シェダハの力を使いました……?」

 ぽかんと口を開けたユメルは、目の前で起こった現象に唖然としながらも、ファルネスさんに対し質問を投げかける。

 そんな誰もが思っているだろう質問に対し、笑いながら、まるでユメルがおかしなことを言っているかのようにファルネスさんは答えた。

「もちろん霊剣抜刀エティソールはしていないよ。ほら、証拠にミラはそこにいるだろう?」

 指さした先には、平然といつも通りの凛とした表情で立っているミラさんの姿が。

「これは、私の純粋な身体能力によるものだし、皆もその内この位には動けるようになるぞ。次に見せるのが、妖精剣士シェダハとしての能力さ」

 そう言うと、元々立っていたミラさんの横に戻りながら、砕けた鉄剣の持ち手を投げ捨てる。

「ミラ、いける?」
「……えぇ、待ちくたびれました。それと、剣壊したのと木に対して斬りかかったの、アタシ絶対に一緒に謝りに行きませんからね?」
「えー……そんな冷たいこと言うなって!」
「当たり前でしょう!資料を作成していたアタシを、急に掴んで外に連れてきたと思ったらこれですよ?あなたのせいで減給されたくありません!」

 ふんっと首を捻りそっぽを向くミラさんを、宥めようとするファルネスさん。

「まぁ、その面倒くさそうな事案は置いといて、待ちに待ったであろう霊剣抜刀エティソールの、その瞬間を見せるぞ!しっかりと脳裏に張り付けるように!」

 言い終わったと同時に、腕を肩の高さに上げ、手の平を目一杯に開くファルネスさん。そして、

霊剣抜刀エティソール

 ファルネスさんが、詠唱のような文言を唱えたその直後、ミラさんの体が白い発光を帯びだし、光の粉々となって空気中へと飛散する。

「神剣……ミラファルア」

 ぽつんとそう言った瞬間、ファルネスさんの周囲に、近寄る者を全て焼き払うかの如く灼熱の業火が渦を巻き、徐々に収縮していく業火の中立っている妖精剣士シェダハの手には、美しい一本の剣《つるぎ》が収まっていた。
 その剣には見たことのない紋様が刻まれており、紅く染まったその刀身は、先程現界した灼熱を脳裏に浮かび上がらせるのには充分すぎる紅い煌めきを放っている。

「はい、これが霊剣抜刀エティソールね。さっきまで、そこで喋ってたミラがこの剣に変わって俺は今、妖精剣士シェダハ。それっ」

 ファルネスさんは、腑抜けた声を出しながら、持っている紅い剣をその場で軽く振ってみせた。

 刹那、轟音が鳴り響く。最初は誰もが、どこが音の振動の発信地なのか理解できていなかった。
 立ち尽くしていると、男女どちらの声なのか、悲鳴にも似た「え……ッ!?」という叫声を、さっき抉られた太い木に向けた者が。

 そこに視線を向けると、綺麗に一閃され地面へと切り倒された無惨な木材の姿を確認でき、切り口には確かに鋭利な刃物の後が残されていた。

「こんな感じで、並の人間には出来ない芸当が可能になる。ちなみに、こんなのは序の序の技で、剣から魔力の斬撃を放っただけ。見て分かると思うけど、はっきり言って威力も殺傷能力も比べ物にならない」

 生徒達は唖然とするだけで、誰も言葉を発さない。まぁ当然だろう。これは、もはや驚きや畏怖の段階を通り過ぎているのだ。

「私が持てる全てを、この一年君達に教えよう。この学園に来る者は、妖精紋に選ばれたのはもちろん、魔族によって家族や大切な人を殺されたり、帰る場所を壊された者が大半だ。今見た通り、この力は魔族と対等以上に渡り合う術《すべ》を与えてくれる唯一無二の神秘」

 ほんの少し扇状的な表情をしたファルネスさんは、この場にいる全ての生徒と目を合わせていくように、それぞれの顔を、表情を、憎悪を眺めていく。

「この力と、最強の妖精剣士シェダハによる直々の指導を受けたかったら死ぬ気で契約ペアを交わせ。それが君達の、最初の復讐となるのだから」

 俺は話を聞きながら、口の中で血液特有の鉄の味を感じた。どうやら、知らずの内に奥歯を強く噛み過ぎていたらしい。

 もう二度と、大切な人が目の前で死んでいくのは見たくない。もう二度と、自分の無力さに後悔をしたくない。

 皆の重い意識を遮るかのように、授業の終わりを告げる低い鐘の音が鳴った。

「午前の授業はここまで。午後は、基礎体力を上げる結構キツいメニューがあるから、昼食はしっかりと摂るように!後、タイミング的に今だと思うから伝えておくけど……」

 心なしか俺の方に視線を向けたファルネスさんは淡々と続けた。

「フィルニア学園を含む全五校に、それぞれ入学した一年の中から五人、今年対魔本部ジェーラメントが総力を挙げて行う、『ローネア奪還戦争』に参加する権利が与えられるから、そのつもりで。まぁ、ここで戦果を出せば、卒業後すぐに、私や他の有名な妖精剣士シェダハと肩を並べて、第一線に駆り出されるだろうな。その選抜、半年後に実施するって話が出てるから、興味がある人は腕試しに目指してみるといい」

 それだけ言い終わると、踵を返し足早に校舎へと去っていくファルネスさん。

 他の生徒達も、最初こそ立ち止まって何かを考えてはいたが、すぐに散り散りとなる。

 そんな中、俺だけはその場を動くことはできなかった。

 さっきのファルネスさんの話、別に有名な妖精剣士シェダハと肩を並べるとか、戦果を出すとか
そこら辺ははっきり言ってどうでも良かった。

 ただ、何故どうして、あの街の名前が。俺の故郷の名前が出てくるのだろうか。

 ……ローネア、奪還。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

最強剣士が転生した世界は魔法しかない異世界でした! ~基礎魔法しか使えませんが魔法剣で成り上がります~

渡琉兎
ファンタジー
政権争いに巻き込まれた騎士団長で天才剣士のアルベルト・マリノワーナ。 彼はどこにも属していなかったが、敵に回ると厄介だという理由だけで毒を盛られて殺されてしまった。 剣の道を極める──志半ばで死んでしまったアルベルトを不憫に思った女神は、アルベルトの望む能力をそのままに転生する権利を与えた。 アルベルトが望んだ能力はもちろん、剣術の能力。 転生した先で剣の道を極めることを心に誓ったアルベルトだったが──転生先は魔法が発展した、魔法師だらけの異世界だった! 剣術が廃れた世界で、剣術で最強を目指すアルベルト──改め、アル・ノワールの成り上がり物語。 ※アルファポリス、カクヨム、小説家になろうにて同時掲載しています。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~

こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』 公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル! 書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。 旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください! ===あらすじ=== 異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。 しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。 だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに! 神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、 双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。 トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる! ※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい ※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております ※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
 ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

「餌代の無駄」と追放されたテイマー、家族(ペット)が装備に祝福を与えていた。辺境で美少女化する家族とスローライフ

天音ねる(旧:えんとっぷ)
ファンタジー
【祝:男性HOT18位】Sランクパーティ『紅蓮の剣』で、戦闘力のない「生産系テイマー」として雑用をこなす心優しい青年、レイン。 彼の育てる愛らしい魔物たちが、実はパーティの装備に【神の祝福】を与え、その強さの根源となっていることに誰も気づかず、仲間からは「餌代ばかりかかる寄生虫」と蔑まれていた。 「お前はもういらない」 ついに理不尽な追放宣告を受けるレイン。 だが、彼と魔物たちがパーティを去った瞬間、最強だったはずの勇者の聖剣はただの鉄クズに成り果てた。祝福を失った彼らは、格下のモンスターに惨敗を喫する。 ――彼らはまだ、自分たちが捨てたものが、どれほど偉大な宝だったのかを知らない。 一方、レインは愛する魔物たち(スライム、ゴブリン、コカトリス、マンドラゴラ)との穏やかな生活を求め、人里離れた辺境の地で新たな暮らしを始める。 生活のためにギルドへ持ち込んだ素材は、実は大陸の歴史を塗り替えるほどの「神話級」のアイテムばかりだった!? 彼の元にはエルフやドワーフが集い、静かな湖畔の廃屋は、いつしか世界が注目する「聖域」へと姿を変えていく。 そして、レインはまだ知らない。 夜な夜な、彼が寝静まった後、愛らしい魔物たちが【美少女】の姿となり、 「れーんは、きょーも優しかったの! だからぽるん、いーっぱいきらきらジェル、あげたんだよー!」 「わ、私、今日もちゃんと硬い石、置けました…! レイン様、これがあれば、きっともう危ない目に遭いませんよね…?」 と、彼を巡って秘密のお茶会を繰り広げていることを。 そして、彼が築く穏やかな理想郷が、やがて大国の巨大な陰謀に巻き込まれていく運命にあることを――。 理不尽に全てを奪われた心優しいテイマーが、健気な“家族”と共に、やがて世界を動かす主となる。 王道追放ざまぁ × 成り上がりスローライフ × 人外ハーモニー! HOT男性49位(2025年9月3日0時47分) →37位(2025年9月3日5時59分)→18位(2025年9月5日10時16分)

嫁に来た転生悪役令嬢「破滅します!」 俺「大丈夫だ、問題ない(ドラゴン殴りながら)」~ゲームの常識が通用しない辺境領主の無自覚成り上がり~

ちくでん
ファンタジー
「なぜあなたは、私のゲーム知識をことごとく上回ってしまうのですか!?」 魔物だらけの辺境で暮らす主人公ギリアムのもとに、公爵家令嬢ミューゼアが嫁として追放されてきた。実はこのお嫁さん、ゲーム世界に転生してきた転生悪役令嬢だったのです。 本来のゲームでは外道の悪役貴族だったはずのギリアム。ミューゼアは外道貴族に蹂躙される破滅エンドだったはずなのに、なぜかこの世界線では彼ギリアムは想定外に頑張り屋の好青年。彼はミューゼアのゲーム知識をことごとく超えて彼女を仰天させるイレギュラー、『ゲーム世界のルールブレイカー』でした。 ギリアムとミューゼアは、破滅回避のために力を合わせて領地開拓をしていきます。 スローライフ+悪役転生+領地開拓。これは、ゆったりと生活しながらもだんだんと世の中に(意図せず)影響力を発揮していってしまう二人の物語です。

処理中です...