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第1章
終章
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ある日の事。
シャウトの部屋から爆発音が聞こえてきた。
「何事!?」
驚く薫。
「薫様、落ち着いてください。シャウト様からのお部屋ですね……様子を見てきます」
「う、うん、気をつけて……!」
1人で行かせるのは危険だと思ったが、自分が一緒に行ったとしても足でまといになるだけだ。
このみに任せることにした。
「失礼します、シャウト様!ご無事ですか!?」
そこでこのみが見た光景は_
誰もいない、炎が燃え盛る部屋だけであった。
「魔王が逃げたぁ!?」
その様子をこのみから聞いて驚くマーリン。
「はい。私が着いてからは既にもぬけの殻でした。消火活動はすぐに何とかなりましたけど。」
「大事には至らなかったようだね。それにしても何故……」
「テーブルにこんなメモが置いてありました」
そこにはただ『飽きた』とだけ書かれていた。
「飽きたって……ただ窓の外を眺めているだけなら飽きるに決まってるだろうに……」
「はい。私もそう予想しましたが何か他に原因があったのでしょう。」
「けど魔王が野に解き放たれたのはマズイね。何をしでかすか_」
そう言いかけた刹那。
「うわっ、地震!?」
「マーリン様!手を!」
地割れがマーリン達を襲う。
このみは浮遊魔法でマーリンを救出する。
「ありがとうね、このみちゃん」
「いえいえ。それよりこの乱れは……」
「やっぱりあの子を1箇所に閉じ込めるのは無理だったみたいね~」
そう言って現れた人物。
この世界の神であるアンスリアだ。
「アンスリア様、何かご存知で?」
「シャウトが本格的に破壊活動を始めたのよ。今オドに直接魔力を送り込んでいるみたいね」
「そんなことしたらオドが魔力過多を起こして…………いや、シャウト様の狙いはそれですか!」
「ご名答よ。時間が無いわ。急いでシャウトを懲らしめに行きましょう」
「その話、ちょっと待った!」
待ったをかけたのは地震から逃れてきた薫だった。
「魔法も武器も通じない相手なら俺……じゃない、私の出番でしょう!」
「薫様!」
「薫ちゃん、正直君の命は保証出来ない。それでも構わないなら連れて行ってあげるよ」
「薫様、無茶ですよ!」
「そうだよ、薫はそんな事したらダメよ!」
日照も合流して薫を止めようとする。
「悪いが俺は仕事をしなきゃいけねぇんだよ」
素の口調になった薫。
「薫様、言葉使いが……!」
「あぁ。俺は元男なんだよ。」
「うそぉ!?」
地味にショックを受ける猫。
「で、だ。アンスリアに頼まれてこの世界を救う。それが俺の仕事だ」
「しかしいくら薫様とはいえマーリン様だけの護衛は心配です……!」
「俺達は戦いに行くんじゃねぇ。話し合いに行くんだ」
「薫様……。……わかりました。そこまで言うならこれ以上お引き留め致しません」
「このみさん?!」
「猫様。ここは薫様達にお任せしましょう」
「で、でも……」
「大丈夫だ。必ず帰ってくる」
「約束だからね!」
「あぁ!……マーリン、案内してくれ」
「うん、わかったよ」
そう言うとマーリンは何やら呪文を唱え始める。
「『ワープ』!」
そう唱えるとマーリンと薫は姿を消した。
「薫様、マーリン様……どうかご無事で……」
マーリンと薫がワープした先は荒れ果てた高原だった。
無数の岩が浮いており、こちらに飛んできそうなレベルだ。
「ここにシャウトが……」
「何しに来た、弱虫共」
そこには黒い髪に赤い目をした魔王……シャウトが浮いていた。
「シャウト!お前は何故世界を滅ぼそうとする!」
「世界を作り直すんだ。人間も動植物もない平和な世界をな。」
「シャウト、それは間違っているわ」
カツカツとヒールを鳴らしてやって来たのはアンスリアだ。
「どこがだ!この世界は余計なものばかりだ!アンスリアにもわかるだろう!人間共が勝手に成り上がっている!私達には不要な生き物の筈だ!」
「そこが間違ってるのよ。人間も動物も植物も、大切な命よ。貴女だって本当はわかっているんでしょう?」
「黙れ!!」
「シャウト……私の可愛い妹。こんなことはやめて、また薫さん達と暮らしましょう?」
「断る。私には不要だ」
「シャウト。お前は要するに構って欲しかったんだろ?ならこんな事は辞めて_」
「黙れ異世界人!お前に何がわかる!」
「俺だっていくつも世界を救って来たからわかる。そういう会社に所属してるからな」
「だからなんだと言うんだ!」
「お前みたいな構ってちゃんも何人も見てきた。一人ぼっちは寂しいもんな。その気持ち、わかるぜ」
「人間風情が知った口を聞くな!」
そう言うとシャウトは岩を薫に向かって飛ばす。
「『アイギス』」
アンスリアが盾を作って守ってくれた様だ。
「ありがとな、アンスリア!兎に角だ、俺は、俺達は前みたいに仲良く暮らしたいだけなんだよ!」
「そんなくだらない事を言うな!」
「シャウト。君だってこの世界に愛着とかないのかい?」
「あるわけないだろ!」
「えぇ……」
今まで黙って聞いていたマーリンが口を開く。
「もう話は終わりだ。そこの異世界人共々滅べ」
そう言うとシャウトは魔力をオドに直接送り込み、魔力過多を起こさせる。
地震が起き、地面に亀裂が走る。
「マズイ、ここは一旦引くべきだ!」
「でもまだ話し合いが終わってないだろ!」
「君は命が惜しくないのかい!?この場に残れば、いずれ必ず彼女に殺される!僕はそんなの御免だからね!」
「シャウト!いいか、良く聞け!俺達はお前と前みたいに暮らしたいだけだ!信じてくれ!」
「黙れ異世界人!信じられるか!」
「シャウトだって本当は_」
その続きを言おうとした刹那。
「……やった……やっと殺せた!」
高笑いをするクルシュであった。
「あっ、ぅ、ぐっ……」
背中を思い切りクナイで刺された痛みで思わず蹲る。
「……そこの異世界人はもう間もなく死ぬな」
シャウトは薫を一瞥するとそう告げた。
「シャウト……俺はお前が_」
そう続きを言いかけて薫の意識は途絶えた。
「薫!クルシュ、貴様!!」
マーリンがクルシュを睨む。
「私の依頼は終わりましたよ、アンスリア様」
「えぇ、ご苦労さま。報酬はちゃんと払うわよ」
「……どういう事?薫を呼んでおいて殺させたのはアンスリア様なの……?」
マーリンがクルシュとアンスリアを交互に見る。
「えぇ。さぁシャウト。邪魔者もいなくなったし、世界をリセットしましょう」
「ふざ、けるな……!」
「薫ちゃん、じっとしてて!」
マーリンが慌てて回復魔法をかける_
が、全く効いていない様だ。
「嘘、ヒールが効かない……?!」
「当たり前よ。クルシュのクナイにはシャウトの血液で作った猛毒入りなのだから。仮に効いていても毒が回る方が早いわ」
クスクスと笑うアンスリア。
「アンスリア様の気配を察知ー!!!!って何この大惨事!?」
「あら、ニコラエヴナ。随分遅い到着ね」
「アンスリア様……?これは一体……?」
「決まってるでしょう?世界をリセットするの。さっきのお芝居、見せてあげられなくて残念だったわぁ。」
相変わらずアンスリアはクスクスと笑っている。
「アンスリア様……」
「ニコラエヴナ。あなたには特別に生かしてあげるわ。」
「シャウト……!俺の、話を、聞け……!」
息も絶え絶えの中必死に口を動かす薫。
「まぁ。クルシュの毒でここまで生きれた人間はあなたが初めてよ。そもそも、魔王を倒してくれなんて嘘の依頼書を出したのは私だけれど。」
「嘘……だと……!?」
「えぇ。本当はもっと異世界人を呼んで諸共滅ぼそうと思ったのだけれど……来たのがあなた1人で残念だったわ」
「……騙し、てた、のか……」
「えぇ。けど謝りはしないわよ。そのうちお仲間さんも来るでしょうし、あなたは毒で死ぬ。どうあっても終わりしかないのよ」
クスクスと笑うアンスリア。
「いいか……アンスリア……シャウト……!お前達がしようと……しているのは時空管理法に違反する……!討伐の対象になるんだぞ……!」
「それがどうかしたの?私とシャウトが組めばどんな奴らも木っ端微塵の塵芥。何をしても無駄よ」
「……無駄、なんかじゃ……ねぇ!少なくとも……俺は2人が……好きだ……!だから……ここで死ぬ訳にはいかねぇ……!」
重い身体に鞭打って立ち上がる薫。
顔は真っ青で毒が回っているのがわかるだろう。
「あら、大人しく寝てれば良いのに」
「お前達……本当はこの世界が好きなんだろ……?だからこんなことするんだよな……?」
「えぇ。今の世界も好きよ。でも人間が増えすぎちゃったしリセットしましょうって話になったのよ」
「そんな……神の身勝手で……滅ぼされちゃたまったもんじゃねぇ……!術式……展開……!『クローズド』!」
薫が唯一使える魔法、クローズド。
対象を一定の間自身の結界内に閉じ込める魔法だ。
「いいか、良く聞け駄女神共……!俺達はお前達に簡単に滅ぼしさせねぇ……!生き延びて、足掻いて、もがいて……そうやって神の雷から逃げ延びて見せるんだよ……!」
息も絶え絶えで必死に話す薫。
「…………。」
アンスリアとシャウトは黙ったまま。
お互い頷くと。
「そこまで言われたなら仕方ない。」
「えぇ、えぇ。この人間が死んだらリセットしましょう?」
「……は?」
つまり、説得に成功したらしい。
「薫。あなたの口車に乗ってあげる。その代わり、私達を退屈させないでね?」
笑顔でそう言うアンスリア。
「アンスリア様……」
「勿論……」
そう言うと薫は意識を失った。
「薫ちゃん!」
今まで見ているだけだったマーリンが口を開き、薫の元へやってくる。
「彼女、死にかけじゃないか!早く解毒剤を!」
「わかってるわよ。はい、解毒剤」
アンスリアはマーリンに解毒剤を渡す。
それを無理やり薫に飲ませる。
段々と顔の青さが無くなっていく。
「良かった……!」
「ん……俺は……生きてる……のか……?」
「あぁもう!心配したんだぜ?」
マーリンが泣き腫らした顔で告げる。
「とりあえず薫ちゃんがいる間は手を出さないでおいてあげるわ。最も、もう終わってるようなものだけどね。」
「どういうことだい?」
「彼の仕事はこの世界を救う事。それは今果たされたわ。であれば、元の世界に返すのが常識でしょう?」
「……せめて、皆に別れを言わせてくれないか」
「それくらいは構わないわよ」
「ありがとう」
「それじゃ、僕達は先に失礼するよ」
そう言うとマーリンは薫を連れてアリスティア邸へとワープした。
「薫様!」
「薫!」
「薫ちゃん!」
皆心配そうに駆け寄ってきた。
事の顛末を話すと、皆驚いた表情をしていた。
当然の反応だ。
「じゃ、俺は仕事が終わったから帰るよ」
「薫ちゃん……」
「悪いな、猫。今まで騙してて」
「気にしてないよ!でも薫ちゃんが帰っちゃうのが嫌で……!」
「私も同意です。薫様はもう少しこの世界にいても良いのでは?」
「そうだよ!また色んなお話聞きたいし!」
猫、このみ、アリスティアが口々に告げる。
「悪いが他にもやることがあるんでね。俺は帰るよ。……手紙くらいくれたら来てやるさ」
そう言って薫は自分の名刺を取り出すとニコラエヴナに渡す。
「なるほど……私達にも読める文字で書かれていますね」
「また遊びに来てよね!」
「勿論だ!猫、今度戻ってきたらデートでもしようぜ!」
名残惜しいが別れの時が近付いて来ている。
薫の身体がふわりと浮く。
皆泣きそうになりながらも薫を見送る。
薫の身体が上がり、空へと飛んでいく光景を世界の誰もが目撃していた。
「薫ちゃん……元気でね!」
アリスティアがそう告げる。
顔は涙でぐしゃぐしゃだが。
こうして1つ仕事をこなした薫。
気が付くと事務所で机に突っ伏していた。
「……仕事、終わっちまったな……」
「よっ、明美。おつかれさん」
同僚がコーヒーを奢ってくれた。
「にしても性転換してたのか、明美……」
「仕方ねぇだろ!まさかアンスリアが1枚噛んでたとは思わなかったが……」
コーヒーを飲みながらそう告げる薫。
気が付けば身体も男性に戻っていた。
「皆、上手くやってるといいな」
「時々なら見に行ってもいいんじゃないか?」
そう同僚に言われると、そうしようか、なんて考えている。
こうして世界は1つ救われた。
薫には大量の成功報酬が支払われることになった。
出世ルート間違いなしだ。
薫はこれからも様々な世界で活躍するであろう。
クスリ、とアンスリアの笑い声が聞こえた気がする薫なのであった。
シャウトの部屋から爆発音が聞こえてきた。
「何事!?」
驚く薫。
「薫様、落ち着いてください。シャウト様からのお部屋ですね……様子を見てきます」
「う、うん、気をつけて……!」
1人で行かせるのは危険だと思ったが、自分が一緒に行ったとしても足でまといになるだけだ。
このみに任せることにした。
「失礼します、シャウト様!ご無事ですか!?」
そこでこのみが見た光景は_
誰もいない、炎が燃え盛る部屋だけであった。
「魔王が逃げたぁ!?」
その様子をこのみから聞いて驚くマーリン。
「はい。私が着いてからは既にもぬけの殻でした。消火活動はすぐに何とかなりましたけど。」
「大事には至らなかったようだね。それにしても何故……」
「テーブルにこんなメモが置いてありました」
そこにはただ『飽きた』とだけ書かれていた。
「飽きたって……ただ窓の外を眺めているだけなら飽きるに決まってるだろうに……」
「はい。私もそう予想しましたが何か他に原因があったのでしょう。」
「けど魔王が野に解き放たれたのはマズイね。何をしでかすか_」
そう言いかけた刹那。
「うわっ、地震!?」
「マーリン様!手を!」
地割れがマーリン達を襲う。
このみは浮遊魔法でマーリンを救出する。
「ありがとうね、このみちゃん」
「いえいえ。それよりこの乱れは……」
「やっぱりあの子を1箇所に閉じ込めるのは無理だったみたいね~」
そう言って現れた人物。
この世界の神であるアンスリアだ。
「アンスリア様、何かご存知で?」
「シャウトが本格的に破壊活動を始めたのよ。今オドに直接魔力を送り込んでいるみたいね」
「そんなことしたらオドが魔力過多を起こして…………いや、シャウト様の狙いはそれですか!」
「ご名答よ。時間が無いわ。急いでシャウトを懲らしめに行きましょう」
「その話、ちょっと待った!」
待ったをかけたのは地震から逃れてきた薫だった。
「魔法も武器も通じない相手なら俺……じゃない、私の出番でしょう!」
「薫様!」
「薫ちゃん、正直君の命は保証出来ない。それでも構わないなら連れて行ってあげるよ」
「薫様、無茶ですよ!」
「そうだよ、薫はそんな事したらダメよ!」
日照も合流して薫を止めようとする。
「悪いが俺は仕事をしなきゃいけねぇんだよ」
素の口調になった薫。
「薫様、言葉使いが……!」
「あぁ。俺は元男なんだよ。」
「うそぉ!?」
地味にショックを受ける猫。
「で、だ。アンスリアに頼まれてこの世界を救う。それが俺の仕事だ」
「しかしいくら薫様とはいえマーリン様だけの護衛は心配です……!」
「俺達は戦いに行くんじゃねぇ。話し合いに行くんだ」
「薫様……。……わかりました。そこまで言うならこれ以上お引き留め致しません」
「このみさん?!」
「猫様。ここは薫様達にお任せしましょう」
「で、でも……」
「大丈夫だ。必ず帰ってくる」
「約束だからね!」
「あぁ!……マーリン、案内してくれ」
「うん、わかったよ」
そう言うとマーリンは何やら呪文を唱え始める。
「『ワープ』!」
そう唱えるとマーリンと薫は姿を消した。
「薫様、マーリン様……どうかご無事で……」
マーリンと薫がワープした先は荒れ果てた高原だった。
無数の岩が浮いており、こちらに飛んできそうなレベルだ。
「ここにシャウトが……」
「何しに来た、弱虫共」
そこには黒い髪に赤い目をした魔王……シャウトが浮いていた。
「シャウト!お前は何故世界を滅ぼそうとする!」
「世界を作り直すんだ。人間も動植物もない平和な世界をな。」
「シャウト、それは間違っているわ」
カツカツとヒールを鳴らしてやって来たのはアンスリアだ。
「どこがだ!この世界は余計なものばかりだ!アンスリアにもわかるだろう!人間共が勝手に成り上がっている!私達には不要な生き物の筈だ!」
「そこが間違ってるのよ。人間も動物も植物も、大切な命よ。貴女だって本当はわかっているんでしょう?」
「黙れ!!」
「シャウト……私の可愛い妹。こんなことはやめて、また薫さん達と暮らしましょう?」
「断る。私には不要だ」
「シャウト。お前は要するに構って欲しかったんだろ?ならこんな事は辞めて_」
「黙れ異世界人!お前に何がわかる!」
「俺だっていくつも世界を救って来たからわかる。そういう会社に所属してるからな」
「だからなんだと言うんだ!」
「お前みたいな構ってちゃんも何人も見てきた。一人ぼっちは寂しいもんな。その気持ち、わかるぜ」
「人間風情が知った口を聞くな!」
そう言うとシャウトは岩を薫に向かって飛ばす。
「『アイギス』」
アンスリアが盾を作って守ってくれた様だ。
「ありがとな、アンスリア!兎に角だ、俺は、俺達は前みたいに仲良く暮らしたいだけなんだよ!」
「そんなくだらない事を言うな!」
「シャウト。君だってこの世界に愛着とかないのかい?」
「あるわけないだろ!」
「えぇ……」
今まで黙って聞いていたマーリンが口を開く。
「もう話は終わりだ。そこの異世界人共々滅べ」
そう言うとシャウトは魔力をオドに直接送り込み、魔力過多を起こさせる。
地震が起き、地面に亀裂が走る。
「マズイ、ここは一旦引くべきだ!」
「でもまだ話し合いが終わってないだろ!」
「君は命が惜しくないのかい!?この場に残れば、いずれ必ず彼女に殺される!僕はそんなの御免だからね!」
「シャウト!いいか、良く聞け!俺達はお前と前みたいに暮らしたいだけだ!信じてくれ!」
「黙れ異世界人!信じられるか!」
「シャウトだって本当は_」
その続きを言おうとした刹那。
「……やった……やっと殺せた!」
高笑いをするクルシュであった。
「あっ、ぅ、ぐっ……」
背中を思い切りクナイで刺された痛みで思わず蹲る。
「……そこの異世界人はもう間もなく死ぬな」
シャウトは薫を一瞥するとそう告げた。
「シャウト……俺はお前が_」
そう続きを言いかけて薫の意識は途絶えた。
「薫!クルシュ、貴様!!」
マーリンがクルシュを睨む。
「私の依頼は終わりましたよ、アンスリア様」
「えぇ、ご苦労さま。報酬はちゃんと払うわよ」
「……どういう事?薫を呼んでおいて殺させたのはアンスリア様なの……?」
マーリンがクルシュとアンスリアを交互に見る。
「えぇ。さぁシャウト。邪魔者もいなくなったし、世界をリセットしましょう」
「ふざ、けるな……!」
「薫ちゃん、じっとしてて!」
マーリンが慌てて回復魔法をかける_
が、全く効いていない様だ。
「嘘、ヒールが効かない……?!」
「当たり前よ。クルシュのクナイにはシャウトの血液で作った猛毒入りなのだから。仮に効いていても毒が回る方が早いわ」
クスクスと笑うアンスリア。
「アンスリア様の気配を察知ー!!!!って何この大惨事!?」
「あら、ニコラエヴナ。随分遅い到着ね」
「アンスリア様……?これは一体……?」
「決まってるでしょう?世界をリセットするの。さっきのお芝居、見せてあげられなくて残念だったわぁ。」
相変わらずアンスリアはクスクスと笑っている。
「アンスリア様……」
「ニコラエヴナ。あなたには特別に生かしてあげるわ。」
「シャウト……!俺の、話を、聞け……!」
息も絶え絶えの中必死に口を動かす薫。
「まぁ。クルシュの毒でここまで生きれた人間はあなたが初めてよ。そもそも、魔王を倒してくれなんて嘘の依頼書を出したのは私だけれど。」
「嘘……だと……!?」
「えぇ。本当はもっと異世界人を呼んで諸共滅ぼそうと思ったのだけれど……来たのがあなた1人で残念だったわ」
「……騙し、てた、のか……」
「えぇ。けど謝りはしないわよ。そのうちお仲間さんも来るでしょうし、あなたは毒で死ぬ。どうあっても終わりしかないのよ」
クスクスと笑うアンスリア。
「いいか……アンスリア……シャウト……!お前達がしようと……しているのは時空管理法に違反する……!討伐の対象になるんだぞ……!」
「それがどうかしたの?私とシャウトが組めばどんな奴らも木っ端微塵の塵芥。何をしても無駄よ」
「……無駄、なんかじゃ……ねぇ!少なくとも……俺は2人が……好きだ……!だから……ここで死ぬ訳にはいかねぇ……!」
重い身体に鞭打って立ち上がる薫。
顔は真っ青で毒が回っているのがわかるだろう。
「あら、大人しく寝てれば良いのに」
「お前達……本当はこの世界が好きなんだろ……?だからこんなことするんだよな……?」
「えぇ。今の世界も好きよ。でも人間が増えすぎちゃったしリセットしましょうって話になったのよ」
「そんな……神の身勝手で……滅ぼされちゃたまったもんじゃねぇ……!術式……展開……!『クローズド』!」
薫が唯一使える魔法、クローズド。
対象を一定の間自身の結界内に閉じ込める魔法だ。
「いいか、良く聞け駄女神共……!俺達はお前達に簡単に滅ぼしさせねぇ……!生き延びて、足掻いて、もがいて……そうやって神の雷から逃げ延びて見せるんだよ……!」
息も絶え絶えで必死に話す薫。
「…………。」
アンスリアとシャウトは黙ったまま。
お互い頷くと。
「そこまで言われたなら仕方ない。」
「えぇ、えぇ。この人間が死んだらリセットしましょう?」
「……は?」
つまり、説得に成功したらしい。
「薫。あなたの口車に乗ってあげる。その代わり、私達を退屈させないでね?」
笑顔でそう言うアンスリア。
「アンスリア様……」
「勿論……」
そう言うと薫は意識を失った。
「薫ちゃん!」
今まで見ているだけだったマーリンが口を開き、薫の元へやってくる。
「彼女、死にかけじゃないか!早く解毒剤を!」
「わかってるわよ。はい、解毒剤」
アンスリアはマーリンに解毒剤を渡す。
それを無理やり薫に飲ませる。
段々と顔の青さが無くなっていく。
「良かった……!」
「ん……俺は……生きてる……のか……?」
「あぁもう!心配したんだぜ?」
マーリンが泣き腫らした顔で告げる。
「とりあえず薫ちゃんがいる間は手を出さないでおいてあげるわ。最も、もう終わってるようなものだけどね。」
「どういうことだい?」
「彼の仕事はこの世界を救う事。それは今果たされたわ。であれば、元の世界に返すのが常識でしょう?」
「……せめて、皆に別れを言わせてくれないか」
「それくらいは構わないわよ」
「ありがとう」
「それじゃ、僕達は先に失礼するよ」
そう言うとマーリンは薫を連れてアリスティア邸へとワープした。
「薫様!」
「薫!」
「薫ちゃん!」
皆心配そうに駆け寄ってきた。
事の顛末を話すと、皆驚いた表情をしていた。
当然の反応だ。
「じゃ、俺は仕事が終わったから帰るよ」
「薫ちゃん……」
「悪いな、猫。今まで騙してて」
「気にしてないよ!でも薫ちゃんが帰っちゃうのが嫌で……!」
「私も同意です。薫様はもう少しこの世界にいても良いのでは?」
「そうだよ!また色んなお話聞きたいし!」
猫、このみ、アリスティアが口々に告げる。
「悪いが他にもやることがあるんでね。俺は帰るよ。……手紙くらいくれたら来てやるさ」
そう言って薫は自分の名刺を取り出すとニコラエヴナに渡す。
「なるほど……私達にも読める文字で書かれていますね」
「また遊びに来てよね!」
「勿論だ!猫、今度戻ってきたらデートでもしようぜ!」
名残惜しいが別れの時が近付いて来ている。
薫の身体がふわりと浮く。
皆泣きそうになりながらも薫を見送る。
薫の身体が上がり、空へと飛んでいく光景を世界の誰もが目撃していた。
「薫ちゃん……元気でね!」
アリスティアがそう告げる。
顔は涙でぐしゃぐしゃだが。
こうして1つ仕事をこなした薫。
気が付くと事務所で机に突っ伏していた。
「……仕事、終わっちまったな……」
「よっ、明美。おつかれさん」
同僚がコーヒーを奢ってくれた。
「にしても性転換してたのか、明美……」
「仕方ねぇだろ!まさかアンスリアが1枚噛んでたとは思わなかったが……」
コーヒーを飲みながらそう告げる薫。
気が付けば身体も男性に戻っていた。
「皆、上手くやってるといいな」
「時々なら見に行ってもいいんじゃないか?」
そう同僚に言われると、そうしようか、なんて考えている。
こうして世界は1つ救われた。
薫には大量の成功報酬が支払われることになった。
出世ルート間違いなしだ。
薫はこれからも様々な世界で活躍するであろう。
クスリ、とアンスリアの笑い声が聞こえた気がする薫なのであった。
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セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
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【第一部完結】転生99回目のエルフと転生1回目の少女は、のんびり暮らしたい!
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【第一部完結!】
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さらには――
猫だと思って連れ帰ったら王女だった少女まで加わり、
丸太小屋はいつの間にか“大所帯”に!?
一方その裏で、
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なぜか神々と魔王と魔神教に囲まれていくエルフ。
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そう呟きながらも、
大切な家族を守るためなら――
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これは、
最強だけど戦いたくないエルフと、
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癒しと激闘の異世界スローライフファンタジー。
◽️第二部はこちらから
https://www.alphapolis.co.jp/novel/664600893/865028992
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