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1巻
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しおりを挟む穏やかだった旅に暗雲が立ちこめたのは、レリウ出発から四日目の午後だった。
昼食を取るために馬車を停め、護衛たちが火をおこし炊事を始めた時に、シュウが、前方右側の森の気配が変わったことに気付いた。
「ガイラスさん、サラ」
火の傍に座る二人にさりげなく近付き、シュウはその変化を告げた。
「囲まれています」
グレイズの馬車には今、王都で売るためにレリウで仕入れた特産品が満載されている。
その一部は途中の経由地で売却し、代わりの商品を詰め込んだりしているが、多くはレリウの特産品である乳製品や加工肉などの食料、他に皮、布類だ。
つまり魔獣から見れば、食欲をそそる香りを常に漂わせながら獲物たちが歩いていることになる。
だが、何日か前に起きた衝撃の要因である『人間』がそこにいることが、ここまで襲いかかれない理由だった。
そこでゴブリンは再び数に頼ることにした。
さらにオークという『知性』に勝る仲間を引き入れることにも成功した。魔法を使え、知恵も人間に引けをとらず、そして戦闘力は人間以上を誇る存在を。
オークは、ゴブリンが目をつけた獲物が、通常の倍にも当たる物資を積み込んで旅をしていることを見抜いていた。
おそらく、よほど警護に自信があるのだろう。
だが数日様子を窺っていたところ、人間の一行はわずか八人。
こちらには魔法が使えるオーク五匹。それぞれが魔法の他、弓や剣も使える。
これだけでもあの八人を蹂躙できるのでは、とオークは踏んだ。さらに、百匹を超えるゴブリンが集まっている。
この先ライダンを越えると、人間の軍隊が存在する。だがここならば、決着がつく前に人間たちの援軍が駆けつけることは無理だろう。
オークは襲撃を決意し、まずゴブリンに前後を塞ぐよう指示する。
そして、他の四匹のオークに作戦を与えた。
「囲まれてる。ゴブリンだな。えらい数だ」
ガイラスはそう言いながら、護衛の男たちに火を始末させ、グレイズを馬車に避難させる。
「さて、どう戦おうか」
シュウを見るガイラス。
「殲滅するしかありませんね」
シュウはため息交じりに答えた。
「馬車での突破は難しいでしょう。だからまず、行く手を塞いでいるゴブリンを殲滅して、馬車を進めながら後ろから来るゴブリンと戦い、ライダンに向かう」
「そうだな」
「ライダンには当てになる戦力はあるんですか?」
「異常に気付けば、百人近い兵は出せるだろう。だが、来るまでにかなり時間がかかる」
こちらの護衛のうち、二人には馬車の御者をしてもらわなければならない。
もう二人には前後で先走りのゴブリンの始末を任せるとして、左右に残すのは、サラとガイラスになるだろう。
とすると。
「ガイラスさんとサラは左右で馬車を守ってください。前後には一人ずつ。馬車はいつでも走り出せるよう、御者を付けて待機してください」
「よし」
「サラ、大丈夫?」
「もちろん。私もシュウ君と一緒に行かなくていいの?」
「僕の殲滅が遅れたら、後ろから来るゴブリンへの対応が間に合わない。だからお願い」
「……わかった」
「ガイラスさんは極力、馬車の周囲を離れないでください。前が片付いたら馬車に乗って」
「おう、頼む」
「じゃあ、行きましょうか」
シュウは腰に刀を差したまま、アイテムガジェットを開いて、一振りの長刀を取り出した。
その光景に、ガイラスは呆然とする。
「な、なんだそりゃ……」
シュウが取り出したのは、刃渡りだけで二メートルもある長刀、斬馬刀だ。見た目こそ美しい日本刀のそれだが、長い刃渡りに加え、柄の部分も一メートル近くある刀は、禍々しい銀光を放って、見るものに威圧感を与える。
抜いた鞘だけをアイテムガジェットに戻し、シュウは数歩前に進み、斬馬刀の峰を右肩に載せて担いだ。
ガイラスはサラに、唖然としたまま尋ねた。
「おい、今あれどっから出したんだ?」
サラはこの時、この世界にアイテムガジェットが普通に存在していると思っていた。そのため質問の意図がわからず、答える代わりに首を傾げてから、自分の持ち場に歩き出した。
「……なんだか、本当にすげえな」
ガイラスは理解することを諦め、自分の腰にある両手剣を鞘から引き抜いた。
シュウは、前方にゴブリンの大群――およそ五十匹――が集結するのを歩きながら待つ。
そして、完全に街道を塞ぐ形で包囲するゴブリンに向かって、一気に駆け出した。
足に履くウィングブーツが、人間離れした速度をシュウに与える。
ゴブリンたちが虚を突かれた瞬間。肩に載せていた斬馬刀を右下段に持ち替え、シュウは立ち止まる。
止まった慣性を一気に刀に乗せ、シュウは斬馬刀を横薙ぎに振り切った。
間合いに入ろうとした周囲のゴブリンが十数匹、その一閃で肉塊と化す。
左に振り切った斬馬刀を返し、シュウは左手の一群に向かって走った。
粗末な武器を手にしたゴブリンたちは、一瞬で激変した目の前の光景に驚愕した。浮き足だった左翼のゴブリン二十匹ほどを、シュウは斬馬刀で刈り取る。
右翼のゴブリンはすでに潰走を始めている。その瞬間、激しい殺気がシュウを襲った。
ズシャ!
反応したが避けきれず、痛みが脳髄まで駆け上がってきた。
「ぐっ」
とっさに右手で脇腹を触ると、服が裂け、皮膚にも一閃の切り傷が付いている。
「魔法使いがいるぞ!」
シュウは五十メートルほど後方の仲間に叫んだ。
「オークだ!」
前の馬車の御者をしている護衛が悲鳴を上げた。
「くそっ。最悪だ!」
魔法を使うオーク。それはもはや、商隊の護衛風情がどうにか出来る相手ではなかった。軍団の騎士や魔術師が一軍を編成して戦うべき相手である。
ガイラスは全滅を覚悟した。
「ガイラスさん、サラ! 馬車に乗って!」
シュウは斬馬刀をアイテムガシェットに放り込み馬車に駆け寄ると、そう指示を出した。
前後を守っていた護衛も馬車に乗せ、御者の二人に馬車を出すよう命じる。
「サラ、二台の馬車に《レジスト》かけれる?」
「大丈夫!」
「じゃあお願い!」
後ろの馬車の御者台にサラを乗せると、シュウは一人その場に残った。
背後から襲いかかろうと迫るゴブリンの一群を食い止めるため、再びアイテムガジェットから斬馬刀を取り出す。
オークたちは、目の前で展開される事態をあっけに取られて見守っていた。
だが、馬車が逃げ始めたことですぐに正気を取り戻す。
馬車を停めるなら、馬を殺すのが手っ取り早い。
前方で二手に分かれていた四匹のオークたちは、自分たちに向かってくる馬車の馬めがけ、《エア・ブレイド》や《ファイア・ランス》の呪文を唱えた。
前方から飛んでくる魔法を見て、ガイラスは、あと数秒で自分が死ぬことを覚悟した。
隣で御者をする護衛の男も同様に、あきらめに似たため息を漏らす。
だが――。
サラはすでに、《レジスト》を完成させていた。
目の前でそれらの攻撃魔法が、サラの作り上げた魔法障壁に当たって砕けるのをガイラスたちは見た。
自らの魔法が無効化され、四匹のオークは冷静さを失う。そして限界まで、さらなる攻撃魔法を紡ぎ出した。
馬車の周囲は、乱れ飛ぶ魔法とそれが砕ける残滓で、眩しいほどにきらめいた。
恐怖で馬たちがすくみ上がるが、サラはその中を淡々と歩いていく。
ついに四匹のオークの魔力が尽きた。
巻き上がる粉塵が晴れると、白銀の鎧を身にまとった美しい女が、自分たちに向かってゆっくりと歩いてくるのが見えた。
するとオークたちは現状など忘れ、サラを征服したいという純粋な欲求に囚われた。
――あの女を組み伏せ、征服し、陵辱し、所有したい。
光り輝く白銀のプレートメイル。手には魔力で金色に光り輝くロングボウ。
彼らが心の底から忌み嫌いつつ、しかし隷属させたいと心から欲する、あのエルフ族にどこか似た人間の女。
オークたちは腰の刀を抜くと、サラを捕獲しようと駆け出した。ほんの一瞬前の力量差など、もはや思考から欠落していた。
五十匹のゴブリンと一匹のオークは、戦鬼のように立っている少年に殺到した。
ゴブリンもオークも「あれを倒せば後はどうにでもなる。見たところあの小僧だけがこの商隊の戦力なのだ」と直感していた。
ゴブリンたちが奴を組み伏せたら、丸ごと破砕してくれる――オークは魔法詠唱の準備をしつつ、その瞬間を待った。
五十匹のゴブリンは、無秩序にただ一点に、シュウに群がる。
だが、ただ一匹たりともシュウに触れることは敵わなかった。
シュウは右足を軸に、斬馬刀を横薙ぎにして数回、回転した。大技スキル《ランペイジ・ソード》だ。
その瞬間、残ったオークは《ファイア・ランス》と《エア・ブレイド》を、その中心に向かって、全力で交互に撃ち始めた。
周囲に積み重なるゴブリンの残骸は、それらの魔法でさらに粉砕され、一帯は血潮と肉片で赤黒く染まっていく。
サラは流れるように自然な所作で、右手側の二体のオークの頭を射抜いていた。
手にしたロングボウは炎の祝福を与えられたもので、射た矢が敵に当たると、《ファイア・ランス》と同等の効果を発揮する。
サラに射抜かれたオークの頭は爆砕し、頭を失った体はそのまま崩れ落ちた。
左手の二匹はその隙に一気に駆け出し、弓の間合いの内側に入り、両サイドからサラを捕らえにかかる。
サラは惜しげもなく弓を投げ捨て、腰のレイピアを引き抜き、迫るオークたちを呆気なく斬り伏せた。
――シュッ。
剣を振り血糊を払い、足下の弓を拾い上げると、サラは馬車へと踵を返した。
魔法を打ち終わった瞬間、オークは一瞬上空に黒い影を見た。それが、オークの知覚したこの世の最期の光景だった。
右手に刀を、左手に脇差を握ったシュウが、五メートル近い距離を一足で跳躍し、三メートルほど上空から一気にオークを斬り伏せる。
オークの放った火と風の魔法は、この二振りの刃に施されたそれぞれの祝福によって、すべてかき消されていたのだ。
ゴブリンの返り血を全身に浴び赤黒い姿となったシュウは、刀を払うと鞘に戻し、アイテムガジェットからタオルを取り出して、やっと顔に付いた肉片と血糊を拭き取ることが出来た。
逃げ出したほんのわずかなゴブリンを除き、九十匹以上の魔物の群れが、たった二人の人間によって壊滅した。
ライダンの街には王国兵の詰め所があった。
しっかりした城郭が街を囲む大型の都市で、門構えも鉄製の跳ね橋になっていて、当然、堀も備えられている。
人口も、レリウの数倍はありそうな雰囲気だった。
その詰め所で、シュウとサラたち一行は、オーク、ゴブリンとの戦闘の詳細を聞かれていた。
一行八人が口をそろえ、シュウとサラの二人で五匹のオークと百匹前後のゴブリンを倒したと報告したので、この街の駐留軍の隊長は、彼らを異常者だと思った。
常識で考えてあり得ない戦果だし、そもそも、そのような大群の目撃情報もなかった。
もしかしたらなんらかの幻術で、商隊から金でもせしめる類の詐欺だろうか?
そう考えた隊長は、他の六人は早々に解放したにもかかわらず、シュウとサラだけは未だに詰め所から出ないよう禁足させていた。
小川で身を清めたものの、まだ入浴にありつけていないシュウは、昼飯を抜いていることもあって、夕飯時のこの時間までのらりくらりと留められていることに腹が立ってきていた。
シュウがそんな状態なので、つられてサラも不機嫌になっている。
そこに、状況を確認しに行った斥候の一人が、青ざめた顔で帰ってきた。
「オークの死骸は五匹……ゴブリンはあまりに多くて確認が出来ません。あたりはすさまじい状況で、早急に片付ける必要があると思います」
斥候の言葉を聞いてもまだ信じた様子を見せない隊長に向かって、シュウは立ち上がり告げた。
「ではこれで。用があるなら宿まで来てください」
多少強引に宿に移動したシュウは、食堂で夕飯の席に着くと、先ほどまでの険はどこへやら、実ににこやかな表情になっていた。
その様子をサラが微笑みながら見ている。ガイラスはやれやれと肩をすくめた。
サラの視線に気付いたシュウは、恥ずかしそうに笑い返しながら、おかわりした肉にかぶりついた。
「ずいぶん時間がかかってたが、何を聞かれてたんだよ」
「いや、なんにも。ただなんか足止めされてた感じかな」
ガイラスは心底不思議そうに言う。
「褒められこそしても、疑われるようなことは何もないのにな」
「まあ僕たちはどっかに所属してるとか、そういう後ろ盾もないですからね」
「そんなもんかね」とガイラスは相槌を打ったが、夕食はそんな感じでお開きになり、一同はそれぞれの部屋に下がった。
サラとシュウのベッドはついにダブルになった。
「どうせツインを取ってもサラがこっちに入ってくるなら、最初から広い方がいいでしょ」と聞くと、あっさりサラも同意したからだ。
確かにベッドは広くなったものの、初めはサイドでもじもじ寝ているくせに、朝が来るとシュウの背中にぴったりくっ付いているサラのせいで、結局シュウはぎりぎりベッドの端っこという有り様だった。
王都まで残り五日の旅程は、これまでと打って変わって楽なものだった。
道の手入れが行き届いているから馬車の揺れも少ないし、人通りも多く、魔物が出そうな藪や林などもない。同じ方向に向かう商隊も多いので、警護の人数も自然と多くなる。ここから先ではまず襲われることはない。
結局のところ、昨日魔物に襲われたのは、あれが奴らにとって最後のチャンスだったのだろう。
街道沿いには、昼食が取れるような規模の集落もあったりする。ライダンと次の街のちょうど中間あたりに、商隊目当てのかなり立派な食堂があった。
「この辺で昼食にしましょうか」
グレイズが声をかけると、一同はほっと気を緩めた。今日は美味しい昼飯にありつけそうだ。うまい飯は人の心を豊かにする――シュウの持論である。
食事を終え午後の旅路に出立したグレイズの商隊一行は、しばらくすると、軽装の騎乗兵に足止めされてしまった。
「レリウのグレイズ一行か?」
「はい、そうでございます」
「護衛のシュウとサラと申すものは?」
「僕たちですが……」
「お前らに警備隊長が話があると仰せだ。急ぎライダンまで戻るように」
それを聞いたシュウの顔が、みるみる冷たさを帯びていく。
「僕たちには用はありません。話があるなら次の街レイラズまで来るように、隊長さんとやらに伝えてください」
「貴様、逆らうのか?」
「逆らう?」
ギラリとした闘気がシュウの全身から溢れ出す。
その見えない何かに気圧されたかのように、騎乗兵の馬が怯えて数歩下がる。
「何を言っているのか僕にはさっぱりわかりませんね。こちらは商隊の警護で王都に向かっているわけです。呼び戻されれば商売になりません。それに、理由もわからずいちいち引き返すことは出来ません。お聞きしますが、なんの用ですか?」
「し……知るか! とにかく隊長がお呼びだ。おとなしく従った方が身のためだぞ」
「そんな馬鹿げた命令なんて聞けません。とにかく、あなたは戻って伝えてください。用があるならそちらから来いと」
「き……貴様っ」
騎乗兵は、思わず腰の剣に手を伸ばす。
「いいか、抜くなよ」
シュウは、腰の刀の鯉口を切って深く腰を落とし構えた。
「抜けばこっちも護身のために抜く。お前みたいな下っ端が国の威信を笠に着て何人かかってこようと、負ける気はしない。お前より昨日斬ったオークの方が、よほど歯ごたえがあったと思うぞ」
シュウはなおも威圧する。緊迫した雰囲気のなか、騎乗兵の気が萎えたのを察し、シュウは構えを解いて、鯉口にハバキを収めた。
キンッという澄んだ金属音が、周囲の硬直した空気を緩ませる。
「いいだろう。せいぜいレイラズで首を洗って待っておれ!」
言い捨てると、騎乗兵は馬を返して走り去った。
「おいおい、いいのか?」
ガイラスは、今になって噴き出した冷や汗を拭いながらシュウに問いかけた。
「構いません。それより、なんか雲行きがおかしくなってきました。グレイズさん」
不安そうに馬車から顔を出したグレイズに、シュウは声をかける。
「はい」
「この先、僕たちが一緒にいることで、もしかしたら要らない面倒事に巻き込んでしまうかもしれません。もうあまり危険がなさそうですし、僕たちはここまでということにしませんか?」
「いいえ、とんでもない。わずか数日で二度も命を救われた身です。どうかお気になさらず」
意外にもグレイズは、シュウの申し出を断った。
「……いえ、やはりレイラズから別行動にしましょう。皆さんは、もめ事を恐れ私たちを解雇したと言えば、問題ないはずです」
シュウは一瞬考え、そう伝えた。
「僕たちは、レイラズであの連中を待ちます。もしよかったら、よい宿を教えてください」
「……まあ、とにかくレイラズまでは一緒に行こう」
ガイラスがそうまとめたことで、再び一同は進み出す。
周囲の商隊も、どうしていいかわからず立ちすくんでいたが、つられるように動き出した。
シュウとサラは、レイラズではあえて一行と別の宿を取った。なんらかのトラブルに巻き込まれた場合、同じ宿では彼らに飛び火する可能性があるためだ。
宿の前で別れる時、シュウとサラに、グレイズはそれぞれ金貨一枚を謝礼として差し出した。
シュウは要らないと伝えたが、「商人は貸しを作っても、借りは作りたくないものなのですよ」と笑い、グレイズは強引に二人の手に金貨を握らせた。
「とはいえ、今回のことでは、大きな借りを作ってしまいました」
「いいえ、グレイズさんたちのせいではありません。それより、わがままに巻き込んでしまってすみません」
「じゃあ俺たちは行くぜ。シュウ、サラ。もしなんかあったら、俺んとこに来てくれ。まあ戦闘じゃ全く力になれそうもないが、他のことならなんでも相談に乗るぜ」
ガイラスは笑いながらそう言ってくれた。
今まで大人数だった夕食も、二人きりになると途端に寂しくなる。
「サラ、ごめんね」
シュウは、ぼそっとサラに詫びた。
「ううん、久しぶりに二人っきりになれたし、いいの」
サラは気に病むシュウに笑いかける。
「私もなんか腹立ってたし、ね」
その時、馬の足音が外から聞こえてきた。やっと来たようだ。
「さあ、どんな騒ぎになるのかな?」
二人は食事の手を止めると、傍らにあらかじめ用意してあった得物を腰に佩いて、宿の正面から外に出た。
「シュウ殿とサラ殿とお見受けいたします。私は、ノイスバイン騎士団のアルノルと申します」
甲冑を着た偉丈夫が、形のよい礼をして声をかけた。
「僕はシュウです。こっちはサラ」
シュウも答えた。
「早速ですが、お二方には、こちらの手違いから大変ご不快な思いをさせたようで、ライダンの者らに代わり、私からお詫びを申し上げたく存じます」
アルノルは二人を前に頭を下げる。
意外な成り行きにちょっと戸惑いつつも、シュウは気を許さず、硬い口調で応えた。
「謝罪を受け入れましょう。アルノルさん」
「事情は、グレイズ殿からもお聞きいたしております。お仕事のうえでも大変なご迷惑をおかけしてしまいました。そちらについてもお詫びいたします」
「わかりました。ただすいません、お腹が空いてるんで、食べながらでいいですか?」
再び宿に戻り事情を説明すると、主は了承してくれた。
同じ席を求めたアルノルを迎え、一同は食事を再開した。
壁際に、アルノルの配下らしき若者と少女の騎士が直立不動で立っているのが気に触るが、気配からして今のところ害意はなさそうなので放っておく。
先ほど食いっぱぐれた肉料理が出てきて、シュウは途端に相好を崩す。
先ほどまで仏頂面だったシュウにつられてどこかしら緊張していたサラとアルノルも、それを見てふっと気を緩めた。
こんな表情をするシュウはとても幼く見える。もともと年齢より幼く感じるシュウだが、こういう時は、まるで十四、五歳くらいの少年に思えるほどだ。
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