【完結】貧乏公爵(令嬢)マルゲリータの失踪

カズモリ

文字の大きさ
10 / 63
ダルマータ国

9. 道標 1

しおりを挟む
 リルルはクリスタの許可を得てから、地図を火で炙ることにした。
 エメラルド邸で見えたパルクルトの地図はなんとなく海底火山があるのか、くらいだったがこちらは海底火山に特化した地図となっており、より鮮明だった。

 わかりやすい。

 そしてクリスタの連れてきた精霊痕をとり、深夜まで待ってから、クリスタの屋敷を出る。

「こんな深夜に出ると、見えにくいな」
「誰のせいでこうなったと思ってるの?」

 エドワードは髪の毛を隠すように帽子を目深に被り「悪かったな」と小声で呟く。

「港は夜でも人通りが多いので、大きな船の影に隠れて海底火山まで行きましょう」
「夜中に出る方が怪しまれないか?」

 クリスタは首にぶら下げている紐を引き出し、身分証をエドワードとリルルへ見せる。

「私の本職は東部の役人なので、海の点検、船の点検と言えば、さほど問題ないですよ」
「役人だったのか……」
「はい。エドワード様が来るまで、そちらの仕事をしていましたから、下調べはバッチリですよ。なんたっていつくるかわからないのに、ぼーっと待っててはなんにも進みませんから」

 そう言って、クリスタはドヤ顔を見せる。
 どうやら、エドワードの言葉を根に持っているらしい。

「エドも身分証作ったら?」
「すぐには無理だ」

 リルルは「ふーん」と興味なさそうな返事をする。

 それなら、聞くな、とエドワードは思ったが、あえて口にしない。

 そうこうしているうちに、港に着いたので、クリスタはなるべく人を避けるように道の端を歩き、エドワードとリルルもクリスタの後ろを歩く。

 堤防から見える波は穏やかで、至って平穏そのものだった。

 クリスタは港のはじに停泊してある比較的小ぶりな船に乗るので、エドワードとリルルもクリスタの後を追い、船に乗り込む。

 3人が乗り込むと、船がたぷん、と左右に揺れ、リルルが尻もちをつき、ドレスの裾が捲れ上がった。

 そんなことなど誰も気にせず、クリスタはそそくさと操縦席へと向かい、エドワードは帽子を脱ごうとしていた。

「おい、待て」
 船の後方の港の防波堤から声をかけられ、エドワードとリルルは振り返った。

 屈強な体をした男がそこにいた。
 灯りを持って近づいてくる。

「なんだ? 銀髪?」

 訝しむ男の声に、まずい、とエドワードの本能が察知し、咄嗟に髪を隠し、灯りが照らされないようにする。

 リルルは、派手にスカートを捲し上げる。
「そこの方、起こしてくださる?」

 男は咄嗟に持っていた灯りを地面に置き、頬を赤らめ、リルルの手を取る。

「ありがとうございます」
 リルルは態と色っぽく、声をだし、色白の下肢を男に見せびらかす。

「あ、どうも。こんばんは」

 男が鼻の下を伸ばしていると、操縦席からクリスタが現れた。
「実は海底火山付近の真珠を密猟する輩が居るとかで、今、東部の役所から夜間にそう言う船が出ないか、見てこいと指令がありまして」

 クリスタの見せた身分証を見て、男は伸びた鼻を元に戻す。
 なんともわかりやすい。

「夜更けに船を出して申し訳ないです」
「ご心配おかけしました」

 リルルの付け足した笑顔と言葉に男はまた鼻の下を伸ばす。

「は、お気をつけて」

 男は深々と頭を下げて、船から離れた。

 夜更けで顔が良く見えないため、エドワードがつけた痣が見えていないらしい。
 今回はそれが功を奏したが、リルルの美貌はおそろしいほどだ。

(探索が得意なのではなく、もはや違う能力があるとしか思えん)

 エドワードは、嫌そうに顔をしかめるリルルを見る。
「顔を出せばすぐ外だ。吐いてきてもいいぞ」

 リルルはジトリとエドワードを見て、不満を現した。

 エドワードとしてはただ、親切心なだけだが、リルルにとっては違ったらしい。

 クリスタは再度、操縦席へ戻ると、慣れた手つきで船を港から出港させる。見事なまでの手捌きだ。

 おそらく、ここにくる前もしくはきてからも何度も船を出しているのだろう。

(信じるにたるかは、わからない。だが、私に手出しはできないだろう。それならば、マルゲリータの言う通り信じてみよう)

 月明かりに照らされて、エドワードの銀髪は神秘的に輝いた。

「さて、ここらへんかあ」

 リルルは腕を高く上げて、背筋を伸ばすと、水面を触る。

「海の探索ってやったことがないんだけれど、まあ、探るのは足跡だし」

「手助けしますよ」

 そう言って、クリスタは水面に向けて手をかざすと、リルルが探索しようとしている箇所だけ水量を減らす。

「とんでもない能力を隠し持っているのだな」
「あなたが? よく言いますね」

 エドワードの感嘆をクリスタは嘲笑うように、ふっと、鼻で笑った。
「とはいえ、それほど時をかせげもしないから、なる早で、見つけて欲しいところですが」

 リルルは眉間に皺を寄せる。すると、海底火山の東側の裾野に精霊痕を見つけたらしい。

「あった」

 リルルの言葉にエドワードが反応する。
「でかした。ニーブ、行け」

 その時、波が激しく揺れ、船尾が波に持っていかれる。
クリスタの力が途切れたのか、クリスタは床に転がった。やはり、かなり無理をしていたらしい。

 額には汗がびっしりついている。


 エドワードの言葉に呼応するかのように、エドワードの胸部から白色の光の粒が飛び出し、高速で水中に入っていく。

「エド様、開けます。少し、船が動くかもしれません」

 その言葉を合図に、ニーブが精霊痕に触れると、火山が動き出し、火山が割れるように左右に広がり、その断面からは彩り豊かな宝石が顔をのぞかせる。

「宝石の謎はこう言うことか」

 エドワードは波の揺れを最小限にするべく、ほんの少しだけ、船体を宙に浮かせる。

 エメラルド家の書庫でも、本棚を動かす際、行ったが、エドワードには浮遊させる能力があり、それは、このダルマータ国でも稀有な存在である。

 クリスタは「やはり、規格外」と思わず呟く。

 リルルはクリスタの発言が気にはなったが、ニーブが動かした火山の割れ目の先にある足跡を追っていく。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

【コミカライズ決定】愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
【コミカライズ決定の情報が解禁されました】 ※レーベル名、漫画家様はのちほどお知らせいたします。 ※配信後は引き下げとなりますので、ご注意くださいませ。 愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

処理中です...